- Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062186308
作品紹介・あらすじ
ピエタのクラスに黒髪の転校生トランジがやって来た。「私の近くにいるとみんなろくな目に遭わない」というトランジの言葉を裏付けるように、学校で次々に殺人や事故が起きて……!?(「ピエタとトランジ」)
猿と鮭の死骸をくっつけて人魚を作る工場で、なぜか助六が作る商品には人魚としての自覚が足りない。人魚になりきれぬまま、「それ」は船に積まれ異国へと旅立ったが――(「アイデンティティ」)
14歳の夏、高熱を出した少女エイプリルは、後遺症で一日に一回嘘をつかなければ死んでしまう体になってしまった。美人のエイプリルを守るため、町の人々は様々な犠牲を払うが……(「エイプリル・フール」)
ブラックで残酷、不気味で怖いけれど、ファンタジックでキュートな10篇の作品たち。新しい才能が迸るポップ&ダークな短篇集です。
感想・レビュー・書評
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10話の短編集、全てで不協和音が鳴り響きます。なんとも言えない気持ち悪さですが、嫌いではなく。『ピエタとトランジ』の長編《完全版》を読んでみたくなりました。
水沢そらの装画がマッチしてます。表紙を外すとさらに怖い絵が出てきます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表紙の可愛い雰囲気とは違い、かなり不思議な話ばかりだった。芥川賞作家・藤野可織さん…私の勝手なイメージだけど、直木賞に比べて芥川賞に選ばれる作品は変わった話も多い印象。この作品を読んで、あ~芥川賞作家だなぁと納得。偏見っぽく思えたらすみません(^_^;)
藤野さんの頭の中には、こんな不思議な世界が渦巻いているんだろうなぁ。面白い、けど不思議。 -
いつか見た夢を集めたみたいな、不思議で不条理な短編集。
現実にありそうなシーンから途切れることなく非日常の怪奇が始まる『おはなしして子ちゃん』や『ホームパーティーはこれから』は、ちょっと他では味わえない独特の味がありますね。
心霊写真っていうありふれすぎたテーマを題材にしつつ新しい切り口の『今日の心霊』は、作中で起こってる現象よりむしろ読後に感じる「現実にあってもおかしくなさそう感」が怖い。
そして後に完全版が描かれた『ピエタとトランジ』……何このシスターフッド尊い!尊すぎる!!
これは完全版も読まないとですね。
『ある遅読症患者の手記』が一番好き。
本から花が咲く様子の美しさと、死んだ本のグロテスクな描写の落差がなんかすごく綺麗で。 -
ホラーだホラーだと言われるけれど、これはホラーではなくて、むしろ寓話なのではないだろうか。と、私は思うのです。
得体の知れない語り手と聞き手が入れ子的に睨み合う「おはなしして子ちゃん」にはじまり、
書き手に拒絶される読み手が同時に読み手を拒絶する書き手でもあるという「ある遅読症患者の手記」で終わる短編集。
どれも「語り手」が意識されているというか、その「視点」に意図や企みが込められている印象を受けた。
「語り手」と「聞き手」の関係性を浮かび上がらせるようなこの小説たちは、きっと著者にとって一つの区切りとするに相応しい作品なのだろうな、と、勝手に思ったりしてみた。
『爪と目』も『パトロネ』も『いやしい鳥』もそうだけど、藤野さんの書く小説はどれも、さて一体、これは誰が誰に向けて語る「おはなし」なのだろう、と、現れる一人称の姿形を思い描くのが何よりの楽しみだと思う。
「誰が何処から見ているのか」がよく分からないからこんなに気味が悪いのだろう。それは、ある意味ホラーだ。
カバーの下まで猟奇的だった。 -
これは、独特の世界観だ。不気味で不思議。
予想外の着地点。嫌いじゃないんだなぁ。 -
「おはなしして子ちゃん」「逃げろ!」が怖かった。「おはなしして子ちゃん」は怪談的怖さ。「逃げろ!」は新しい解釈、というか、整合性があるようでない論理が怖い。誰にでも起こりうることではないけれど誰にでも巻き込まれる可能性はあるんだなあ。
一番好きだったのは「美人は気合」。完全にイメージ先行的な作品に思えたんだけど、もぞもぞしている指がずーっと自分に付きまとってきそう。 -
読んでよかった。
リリカルで残酷で美しくて独特。すごい才能だと思う。
理科室のホルマリン漬け標本とか、真面目な子いじめとか、偽物の人魚のミイラとか、新婚の新居に無遠慮に上がり込む夫の友人とか、心霊写真とか、どっかで見たり聞いたり体験したことを、ここまで昇華させられるとは。ファンタジーでありながらリアル。
先日辻村深月の『鍵のない夢を見る』を読んだけど、あれはあくまで地に足がついた、(上手いけど)いかにもありそうな話だったが、これもネタ元は同じく普通に見聞きすることだが、描いてるものは全然違う。
一般受けするのは辻村だと思うが、私は断然こっちが好き。
もう一度読みたい。 -
じわコワな話から不思議な話まであり、さまざまなタイプが一冊にぎゅっと凝縮された短編集。
じつは私、ホラーは大の苦手なのだが、この方の書くお話はさらりと読め、じわじわと来る怖さもへっちゃら。
多分、随所にみせるおかしみのおかげなのだろう。
藤野ワールドを充分に堪能させて頂きました。 -
ご存知、芥川賞を獲りたての作家・藤野可織がもたらす芥川賞作家らしからぬ大衆的なホラー短編集である。
日常生活の中から拾ってきた、ちょっと興味深いことがらを、徹底した好奇心で突き詰めてみるとこんな身近な短いお話が沢山できあがるのかな。そんな印象の物語でいっぱいの、少し怖いような、でも見ないと気がすまないようなおもちゃ箱。10本の短編小説である。
押入れの暗がりに長くしまわれている、とても気になるけれど、見ようか見まいか、とっても迷いながら、それでもいつも気にかけている宝箱。そんな危険で緊張感のある一冊。怖いもの見たさで読んでしまうそれぞれの奇妙なお話。
表題作の『おはなしして子ちゃん』理科室の実験室にあるホルマリン浸けになった気持ちの悪いものに対する子供の感性などは、まだわかりやすい方か。
猿の上半身と鮭の下半身をそれぞれ干してくっつけて「人魚のミイラ」を作っていた日本の昔の仕事などもこんな風に語られると少し怖い『アイデンティティ』。
心霊写真が取れてしまう人の日常を喜劇的に描いた『今日の心霊』。毎日ひとつだけ嘘をつかないと死んでしまうという病気の『エイプリル・フール』。他、難解さを楽しむべきなのか、『ハイパーリアリズム点描画派の挑戦』などなど、他にない個性を売りにした一冊である。
日常生活に疲れた人に、少し脳みそだけでも脱線してみませんかとでも言いながら、お勧めしたい本である。
実は講談社のモニターでもらった仮装丁本(プルーフ本とか呼ぶらしい)で、ぼくは一ヶ月前に読んでしまっていたのだけど。