お父さんと伊藤さん

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062187589

作品紹介・あらすじ

名立たる選考委員たちがダントツで支持した“家族小説”
第8回小説現代長編新人賞受賞作!

石田衣良氏「台詞の上手さは出色」
伊集院静氏「安心して読める文章力を備えていた」
角田光代氏「思わず家とは何かを考えさせられた」
杉本章子氏「これほど登場人物の体温を感じた作品はなかった」
花村萬月氏「テンポよく読めたし、とても安定」

「この家に住む」
父が望んだのは、娘と彼氏の狭い同棲部屋。
すれ違って生きてきた“父”と“娘”に心通じ合える日はくるのか?

34歳の彩は「伊藤さん」という男性と暮している。彼はアルバイト生活をする54歳。夏のある日、彩のもとに兄から「お父さんを引き取ってくれないか」との連絡が。同棲中の彩は申し出を拒むが、74歳の父は身の回りの荷物を持って、部屋にやってきてしまった。「伊藤さん」の存在を知り驚く父。だが「この家に住む」と譲らない。その日から六畳と四畳半のボロアパートで3人のぎこちない共同生活が始まった。ところが父にはある重大な秘密が……。

感想・レビュー・書評

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  • すっごく久々に、よかった。あまり、手に取らないタイプの物語なのに、すごく好きだった。
    タイトルはイマイチだな、と思うけど。

  • 34歳の私と、一緒に暮らす恋人の伊藤さんは54歳。

    コンビニのバイトで知り合った伊藤さんとの静かな同居生活だったが、ある日兄夫婦と同居しているはずの父と一緒に暮らすことになった。

    偏屈で人の言うことを聞かない父との生活に苛立ち、
    20歳も年の離れた伊藤さんとの関係も父にとっては面白くないらしく、不満ばかりの日々だったが
    伊藤さんだけは飄々としていた。

    母が亡くなり、兄夫婦の勧めで彼らと一緒に暮らしていたけれど、兄嫁の精神的限界と、帰る場所を失った父の孤独。

    誰も住んでいないかつての故郷に一人で行ってしまった父を追い、兄と私、伊藤さんの力も借りて
    オトナになりきれない家族の修復劇。

    伊藤さん、ミステリアスで、一番オトナだ。

  •  主人公はアラサー女性の彩。彼女の目を通して「家族」というもののあり方を描いた作品。

         * * * * *

     ユニークな家族小説でした。

     「家族」の概念は誰でも持っていると思います。けれどその定義は難しい。
     同居する人間が家族なのか。ならば単身赴任の父親や進学等で下宿生活を送る子どもは家族枠から外れることになるのか。
     もちろん違います。それぞれの心の繋がりこそが、家族か否かを決するのではないでしょうか。

     最初、兄からの留守電を聴いた彩が、その深刻そうな声音から父親の死を思いました。それでいながら彩は、悲しみどころか何の感慨も感じてはいませんでした。
     この時点では彩と父親の間にはもう家族としての絆はないと言えます。

     ところが彩と伊藤さんの同棲世帯に父親が加わり奇妙な共同生活を送るうち、親子の繋がりが復活します。その過程が作者独特のまったりしたタッチで描かれていました。
     もちろん親子の結びつきに伊藤さんの果たした役割が大きかったのは言うまでもないことです。

     それにしても、伊藤さんは魅力的な人物でした。これはキャラ設定の妙と言えるでしょう。
     茫洋とした物腰なのに時折見せる鋭さや行動力。その人脈から考えても、給食のおじさんになるまでの経歴が気になって仕方ありません。

     伊藤さんとはいったい何者なのか。
     本編では明かされることはありませんでしたが、続編またはスピンオフで是非とも描いてほしいと思いました。

  • 34歳の彩は、54歳の伊藤さんと同棲している。そこへ、彩の父が同居することになり…。

    30代の彩が50代の伊藤さんと交際している理由について、彩側の言い訳的な言及がないのが良かった。そのことが、むしろこの本の空気感とマッチしているように感じた。
    20個も年上の男性と同棲する=父性を求めてるとか、甘えたいとか、女性側が精神的に不安定だとか、まあ色々と妄想を掻き立てられることもある。
    でも、この本読んでいると、彩も伊藤さんも立派な大人なわけで、大人同士が交際していることに勝手に妄想するのがすごく下衆だったなと感じた。
    伊藤さんには割り切りの良さや思い切りの良さがあって、そこがとても魅力的。
    読んでいけば、彩が伊藤さんに居心地の良さを感じていることが、言い訳的に説明されなくても伝わってくるんだよね。

    ふだんの彩をとりまく人は、のんびりとした空気でマイペース。
    そこに若干空気読めない父という異分子が投下されることで、彩のまわりが騒がしくなる様子が、コミカルで楽しかった。
    私が実際に彩の立場になったら、居留守使うなり黙って引っ越すなりして、父との同居を拒否してしまうだろう。。
    だから、同居する彩と伊藤さんは優しいと思います。

    父の秘密が判明した時は、衝撃だった。
    まさか…誰かを庇っているとか、事情があるんじゃないの?と思ってしまった…。
    火事の描写もショックだったけど、それがきっかけで昔の教え子と再会したり、まさに災い転じて福となす。
    訪ねてきた教え子は、阿佐ヶ谷姉妹の二人で脳内再生された。

  • 初めて読む作家さん。
    文体とかストーリーとか好き。

    最後謎が残っちゃったけど、、、。

    段ボール、、、

  • 読みやすい文章で一気読みしてしまった

    アラサー主人公と定年退職後のお父さん(元教師でお堅い)の距離感はあるあるなのでは 最初は3人の同居物語なのかなと思っていたらなかなかヘビーな展開に

    家族って遠慮がないから余計なこと言ったり、あれこれ深入りしたくないから知らないことがあったりして以外と難しい関係だけど他人の伊藤さんがいたからこそ2人は向き合えたのかな

    映画では伊藤さんをリリー・フランキーが演じていてぴったりだなー

  • 主人公の私と、年上の彼氏と、父親の奇妙な同居生活。
    憎めないキャラクターで楽しめた。

  • すごく面白かった!夢中で読んだし引き込まれるかんじだった。


    本屋のバイトで生計を立てている彩は、20歳年上の伊藤さんと同棲している。あるとき、兄から電話がかかって来て同居している父親を引き取ってほしいと打診があった。同棲してる人がいると断った彩だが、帰ってみるとなんと父親がいるではないか。そして、父は「しばらく世話になる」と言い、伊藤さんとの関係を聞いてくるのだった。偏屈な父親とは会えば喧嘩ばかりしていた彩は早く兄の家に帰ってくれないかと思っていたが…


    彩と同い年だからかなんとなく気持ちが分かってしまった。母ではなく父を兄妹のうちどっちが引き取るのか。父には「戻る場所」があっても「帰る家」はない。厄介になっていることは分かっている。そして、息子の嫁にも迷惑をかけていることもわかっているのだ。


    女の人はコミュニティを築くのがうまいと思う。もし、配偶者亡くなってもなんやかんやでお友達との交流があったりして「場所を選ぶ」ことが出来る。だけど、男の人は本能なのか分からないけど何をしていいのか分からずに街を彷徨って「場所を選び取っている」という。確かになぁ。そして、それを目のあたりにするとすごく辛いよなぁ。自分の親が行く場所なくて少ない選択肢の中から選んでるんだもん。もし、これが彩の母だったらたくさんある選択肢の中で、今日はこれ明日はこれって選ぶことが出来ていたんだろうなぁ。


    うちにも一人で暮らしている親がいるから身につまされる。そして、つい実親だから説得するつもりが責める口調になって交渉決裂になる。そんなときに、伊藤さんみたいな第三者がいると案外話はまとまったりするんだよね。
    だけど、伊藤さんがお父さんの申し出を断ったときは衝撃的だったけど。


    この小説はたぶん、しばらくして自分の中でろ過して、また「あー読みたいな」ってなるものだなぁ。


    2019.12.15 読了

  • 大好きの一言に尽きます!

  • 物語は、あたしこと彩の語りで進んでいきます。

    最初は彩34歳と伊藤さん54歳の同棲恋愛話に、彩の父74歳が首を突っ込んでくるパターンかな、と思っていました。

    が、読み進めるうちにこの話は「お父さん」の話なんだ、と気づきました。
    いい意味で裏切られました。

    伊藤さんはいい味は出していますが、準主役ではありません。完全に脇役です。

    お父さんの置かれている状況を想像すると、なんともいえない気持ちになります。でも、それぞれにもちゃんと理由があって、結果、お父さんの居場所がなくなってしまっているのです。

    お父さんの思いを最後に理解したのは、娘の彩でした。でも、それは読者には言葉ではっきりとは示されていません。
    すっきりしないと思う人もいると思います。

    でも、そもそも人の気持ちなんて、本当にはわかることはありません。
    お父さんのように本人ですら、本当の思いに気づかないこともあるくらいですから。

    物語の読み手もお父さんの思いを推測するくらいの曖昧さで、十分なのではないでしょうか。

    お父さんが万引きしていたのは、食器類でした。

    孫のお受験をやめさせたくて、無意識に万引きしていたのかな?とか、もう永遠に取り戻せない息子娘、妻、そして生まれ育った故郷との「時間」を取り戻したかったのか…

    私が思いついたのはこんな感じですが、みなさんはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

1969年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務の後、劇作家として活躍。2007年「ミチユキ→キサラギ」で第3回仙台劇のまち戯曲賞大賞、12年「春昼遊戯」で第4回泉鏡花記念金沢戯曲大賞優秀賞を受賞。13年に『お父さんと伊藤さん』で第8回小説現代長編新人賞を受賞し、小説家デビュー。著書に『おまめごとの島』『星球』がある。

「2017年 『PTAグランパ! 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中澤日菜子の作品

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