ミドリのミ

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062189781

作品紹介・あらすじ

重田ミドリは小学4年生。住み慣れたN市を離れることになってしまった。それは父・広に新しいパートナーが出来たからだ。そのパートナーとはカメラマンの平野源三という男。キャリアウーマンの母から離れて、父と源三の家に転がり混んだミドリ。転校した学校でもなかなかうまくなじめない。

父・広もミドリのこと、そして妻のこと、源三のこと――。様々なことで心を砕いている。離婚話はどうなるのだろう。そしてミドリにとって一番いいことは?

妻・貴美子も、ミドリと広が出て行き、仕事に邁進する日々を送る。離婚話は自分が拒否しているからもちろん進むはずもない。広の新しい恋人が男だという事実も受け入れられない。

”ふつう”だと思っていたことが、崩れていく。
でも毎日生きていかなくてはならない。
何が自分にとって幸せなのか、何が相手にとって幸せなのか。
それぞれが考える幸せの形。そして家族の形。

感想・レビュー・書評

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  • 吉川トリコさんのファミリー群像劇。
    小4のミドリは、父の広と、その新しいパートナー 源三の3人で新たな生活を始めることになる。
    狭い地域、学校というコミュニティのなかで、物心ついた時から性のマイノリティに苦しんできた源三、同じように狭い環境で父やパートナーを噂のネタにいじめられるミドリ、新たな恋に目覚めるも妻との別れ話に踏ん切りがつけられない広、仕事一筋でやってきて娘との距離感に戸惑う貴美子、幼い頃から源三に片想いし続ける花世。
    それぞれが悩みや葛藤とたたかいながら、互いを想い、支え合う、愛に満ち溢れた温かい作品。

    貴美子が、平野写真館に訪れたときに気づいた、"なにかをしにここに来たんじゃない。あの場所に、もう一度来たかっただけなのだと。悲しいことや怖いことなんて絶対に起こりそうもない陽だまりのようなあの場所に。血のつながりも、紙切れの一枚さえも存在しない理想郷に君臨する、彼は王様だった。"
    というこの感情は、読んでいて私も感じた。住んでいる本人たちは、周囲から偏見の目で見られ、楽しいことばかりじゃない筈だし、外から見て安易にこう思うのは都合が良すぎると自分でも思うが、源三と広の織りなすほのぼのとした雰囲気と二人からミドリに注がれる惜しみない愛がこちらにまで伝わってきて、温かい気持ちにさせられる。

    また、源三が東京で付き合っていた男に傷つけられた場面の"このままじゃだめだ。俺がかわいそうすぎる。じんじん痺れた頭で源三はそう思った。俺が俺を大事にしてやらないでだれがするんだよ。"の言葉と、
    新宿2丁目ゲイバーのじゅんママの
    「でも、あんたたちはいつかはここから去るでしょう?」「あたしは一人で死んでいくわ」の言葉は、胸に刺さった。
    ノンケの私には彼らが負ってきた傷、悲しみ、諦め、覚悟、そう言った感情を本当の意味で理解することはきっとできないし、ただの綺麗事になってしまうかも知れないけれど、絶望の淵から立ち上がる彼らの姿は美しくて、読んでいて涙が出そうになった。

    吉川トリコさんの小説、ローリングの途中ですが、個人的には読みやすい上に胸に刺さるものが多く、かなりおすすめです。気になった方はぜひ。

  • 誰しも無意識にでも何らかの無神経の元で差別を抱えて生きている。そしてそれを自覚して苦しい思いをしている。
    ミドリはクラスメイトの心ない言葉でそれに気付くし、父と源三の姿を見て動揺する自分をどうしていいかもわからなくなる。
    母のようにがんじがらめに生きたくない、母のようには娘に接しないと決めたのに、母のような暴力的な正論で夫やミドリに接してしまう喜美子。
    自分の周りにいる好きな人に対する偏見には敏感なのに、それ以外はいくら傷つけてもいいと思っている自分を自覚して嫌悪している花世。
    相手を傷つけないように配慮すること自体が差別だと自覚している新井。
    みんな自分のもつ差別と、自分に対して持たれる偏見を抱えながらどうにか生きている。
    世界中の誰もが自分だけがかわいそうなつもりで、等しく悲しい孤独な夜を過ごしている。
    それに気付くことができたんだからとミドリを中心にみんなで一緒にいることのできる未来を願ってしまう。
    それは花世が救われた血のつながりや戸籍に繋がりを超えた優しい空間。
    一緒に常にいる必要はない。
    世界はここだけじゃなくて、差別や偏見を含めて、そんな心ない言葉を誰に言われたとしても、それに君が傷ついたとしても、君と一緒にいたいという最大級のエゴ。
    源三からミドリへの愛情をラストに猛烈に感じた。
    実際は差別や偏見を自らも感じてはいるものの、そうは感じさせずに流されるがまま無神経に生きているように見えるから広にみんな惹かれるのかもしれない。
    そんな無気力な広が源三にだけは猛烈に惹かれて縋るのが魅力的で好きだった。

  • 重田ミドリ・小学3年生
    住み慣れたN市を離れて、父親・広の新しい恋人
    カメラマンの平野源三の家で暮らす事に…。
    新しい学校にはなかなか馴染めない
    でも、新しいお家での暮らしは楽しかった。
    キャリアウーマンの母・貴美子とは月に一度会っている。
    貴美子は広の新しい恋人が男性だという事が受け入れられない。
    ミドリが4年生になると、学校や保護者の間で広と源三の事が
    噂となり、苛められるようになる…。


    読み始めは、表紙のイラストやタイトルから、少しへんって言われる
    女の子ミドリちゃんの物語かと思っていたが…。
    父の広と源三の漫才の様な掛け合い…。
    二人の関係は何…?
    広と貴美子の別居の理由は何…?
    えーーっ。広と源三が恋人でそれが別居の理由だったの…。

    軽妙で軽やかに描かれていたが、性マイノリティーという
    とっても重いテーマを扱った物語でした。

    完璧主義で母親の役割を演じているような貴美子は好きになれなかったけど、
    そんな彼女の育った家庭環境を思うと、彼女も犠牲者だったのかなぁ。
    父親の余りにも空気の読めなさや、失言の数々もイラッとしちゃった。
    源三の強さや素敵さは、辛い過去を乗り越えたからこそなんですね。

    後半は重かったなぁ。
    源三の過去や性マイノリティーの人々の生き辛さ
    ミドリが広と源三のキスシーンを目撃してしまい
    とっても傷付く所は、切なかった…。
    大人達はそれぞれに心を砕きミドリちゃんの事に思いを馳せていますが、
    思春期の子供が普通から普通じゃない境遇に置かれ、
    普通じゃない人を排除しようとする世の中や心の狭い人々
    どんなに心を砕いても傷付けてしまう。

    ラストは苛めを受けているミドリを貴美子に預けていて、
    それでも、広と源三にはミドリが大切で愛おしくて迎えに行く…。
    明るく希望に満ちた終わり方をしていますが、
    ミドリの気持ちは本当はどうなんだろう…。
    ミドリの笑って過ごせる居場所が出来ると良いなぁ。

  • 出版社からの内容紹介で小学校のミドリが主人公の
    一風変わったYA小説なのかな、面白そうと手に取ったら、
    連作短編小説で、子ども向けではなかった。
    少なくともほのぼのからは程遠い。
    好きじゃないなー。面白くないわけではないけれど。
    最近この手の作風が増えている気がして、好きでない。

    父と母が離婚することになった理由は
    父に新しい恋人ができたから。
    その父の新しい恋人はカメラマンの男で、
    母もまさかの新恋人が男でゲイなことに混乱し
    ミドリは奇妙な父方カップルと転校し新しい環境の中で暮らすことになる。
    とくに嫌って思ったのはセックスのこと。
    避けては通れないことではあるかもしれないけれど
    自分がミドリだったら。。。と思うとぞっとした。
    自分の父親が女の人と性交するのも嫌なのに
    それがおっさん同士で、なおべたべたとねっとり水飴のような絡みだとしたら、
    それを同性愛とかゲイとかホモとかそんなの悪口程度にしか感じない子供が
    目撃してしまったら。。。おぞましいわぁ。

  • ストーリーやキャラクターはもちろんのことだけど、端々の表現がとても好みでザクザク刺さってきた。
    初読だったけど、他の作品もぜひ読んでみたい作家さんでした。

  • 「普通」じゃない家族。
    そんな家族のそれぞれの孤独や葛藤や幸せを取りあげた物語り。
    つらい時は寄り添って、嬉しい時は共に笑い合う。
    そんな家族を目指す温かく優しい人たち。

    「こんな夜を、だれもが過ごしているのかもしれないと貴美子は思った。自分だけがかわいそうなつもりになっていたけれど、世界中のだれもが等しく、こんな夜を過ごしている。そう思うことには、なにかをたちどころに解決してるわけじゃないけれど、今夜の孤独をほんの少しでも慰めてくれるだろう」。(165ページ)

  • ミドリは小3で、父と父の恋人の源三と3人で暮らすことになった。

    慣れない転校先の小学校には意地悪な子がいて、
    ピアノのレッスンも受けられないけれど

    能天気な父と、カメラマンで軽口ばかりだけど信頼できる源三と、
    時々家にやってくる花世との生活は、あたたかくて、大好きだった。

    楽観主義の父と完璧主義の母の埋まらない溝、
    ゲイであることによって生きづらさを抱えていた源三
    そんな源三のことが好きだった花世
    離婚予定の両親に挟まれるミドリ

    みんなの事情と考えが色々で、生きるって大変。
    もっと自由に生きることができればいいのに、世間の目が厳しい。

    幸せになってほしいなあ。みんな、って思った。
    久々に面白い本読んだなあ。

  • 小学生って残酷だよね。
    一応、今は性の多様性を受け入れようという建前で世の中動いてるけど、子供の本質は時代に応じてそう簡単に変わるわけではないから。
    親のことを罵られたり、笑われたりするのはつらいよ…
    ミドリが内履きの中で足の指をギュッとしたという描写が、ミドリの怒りやら恥ずかしさやらいろんな感情が伝わってきて悲しくなった。

    特に、この本の舞台は田舎なのだ。
    田舎は、「普通」から外れることに対する拒否反応が強いし、噂もすぐ広まる。
    都会なら、少しは違ったのかもしれないけど。

    大人には大人の事情というか、その人が歩んできた歴史があるんだろうけど。
    それに子ども巻き込んだら、やはりかわいそうだよ…と思いました。
    ミドリがどちらの選択をしても、近い将来、ミドリが後悔したり、悲しんだり、自分を責めたりすることが目に見えてるよね。
    ミドリ、強くあれ。

  • ミドリかえってくるかなぁ

  • こういう家族モノによわい・・・

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著者プロフィール

1977年生まれ。2004年「ねむりひめ」で<女による女のためのR-18文学賞>第三回大賞および読者賞を受賞、同作収録の『しゃぼん』でデビュー。著書に『グッモーエビアン!』『戦場のガールズライフ』『ミドリのミ』『ずっと名古屋』『マリー・アントワネットの日記 Rose』『女優の娘』『夢で逢えたら』『あわのまにまに』など多数。2022年『余命一年、男をかう』で第28回島清恋愛文学賞を受賞。エッセイ『おんなのじかん』所収「流産あるあるすごく言いたい」で第1回PEPジャーナリズム大賞2021オピニオン部門受賞。

「2023年 『コンビニエンス・ラブ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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