パノララ

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062192255

作品紹介・あらすじ

二八歳の「わたし」(田中真紀子)は、友人のイチローから誘われ、彼の家に間借りすることにした。その家は変な家で、コンクリート三階建て(本館)、黄色い木造二階建て、鉄骨ガレージの三棟が無理やり接合され、私の部屋はガレージのうえにある赤い小屋。イチロー父の将春は全裸で現れるし、母で女優のみすず、姉の文、妹の絵波と、家族も一癖ある人ばかり。そんなある日、イチローは、自分はおなじ一日が2回繰り返されることがたまにある、と私に打ち明けるのであった。

感想・レビュー・書評

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  • 友人のイチローに誘われて彼の実家の木村家に間借りすることになった田中真紀子。
    三棟をつなぎ合わせたようないびつな形のへんてこな構えの家。
    そこに住む家族は、全裸で人前に出る父 将春、将春に溺愛されながら家に寄り付かない女優の母 親 みすず、三人の子供たちイチロー、文、絵波はみんな父親が違うし、性格もバラバラなへんてこな家族。

    つねに相手の言動を気にし喜怒哀楽を表に出せない真紀子。過干渉の母親から逃げ続けながらも自分をここまで育ててくれた親をないがしろにして逃げているのだという罪悪感が張り付いている。

    真紀子の母親はなんとなく自分の母親と似ているところがあって、自分の記憶の底の思い出がいくつも呼び戻されて胸をしめつけられるようだった。
    木村家で育ったら違った自分になっていたんじゃないか。


    真紀子の母親と対局に描かれているのが、無頓着なみすず。
    『生んだし、育てたし、なにかを無理にやれともやるなとも言ったことはないし、これ以上何をすればいいの?』

    真紀子と絵波が通う映画サークルもまた木村家の対局として描かれている。
    異分子や期待に応えることが出来ない人は排除される気持ち悪さ。

    『何かを、批判することからはじめるのってだめなのよね。なにかの否定が根拠なものなんて、結局たいしたことないのよ』

    悪夢的な一日を何度も繰り返し抜け出せない真紀子は「ここから出たい。どんな明日でもかまわないから、とにかく次の時間に進みたい。」と願う。

    『わたしはなんでここにいるのだろう、と思う。ここで、ずっと中途半端な愛想笑いをして、その日その日の仕事をこなすのが精一杯で、いつまであの部屋に住み続けるんだろう。』と考えていた真紀子が物語最後には
    『ここで、やっていく。わたしはここで、明日もその次の日も。』と考えるようになる。

    血縁も複雑で雑多な言葉や考えや行動がにぎやかに交錯する木村家での時間が真紀子の心を優しく揺らし力を与えてくれたように、私の心も優しく揺さぶり一歩踏み出す勇気を与えてくれる。

  • つぎはぎだらけの木村家に間借りすることになった真紀子。
    その木村家の人々はちょっと風変わり。
    特殊な能力?を持った3兄弟(女男女)に、すぐ脱ぐ?奥さまだけを愛するお父さん、女子高生のような接し方をしてくる女優のお母さん。
    主人公の牧子も、両親との暮らしがトラウマとなり、自分の気持ちを伝えることを憚る性格。
    木村家の人たちと関わり、新しい出会いもあり、真紀子は両親と向き合い、少しだけ前に進むようになる。

    初読みの作家さん。
    出会えて良かった。
    すっごく好きでした。
    不思議な感じなのだけど、普通っぽくて、この何でもない感じが良かった。

    ちょっと前の、大好きだったドラマ『すいか』に似ていた?
    何となくですが。

  • 良かったな。この著者のSFというか、トンデモ設定の作品ははじめて読んだ。
    ムカつく女をきっちりムカつくように描いてるところと、絶対関西住めないな…と思うのは毎回同じ。

  • 不思議な小説。母が重いという話か?
    いつも仮想敵を必要としてるっていうか、あの映画はくだらない、あのやり方はダメだ、ってすぐ言うでしょ。なにかを批判することからはじめるのって、だめなのよね。今までいっしょに仕事してきた人たちを振り返っても、だいたいそう。なにかの否定が根拠なものなんて、結局たいしたことないのよ。…みすず
    誰かにわかってもらいたいって思うのは、仕方ねえ。さびしいからな。けど、さびしいだろ、お前の気持ちはわかるよ、って向こうから近づいてきたときは、ろくなことにならないんだ…将春

  • 180925*読了
    一見、平凡なアラサー女子の話なんだけど、知り合いの家に間借りすることになって、その家が風変わりなばっかりに、いろんなことに巻き込まれていく、という話。
    特にお父さん。こんな変わった人って現実にいるのかな?いたら危ないよなー。笑
    主人公の真紀子がパノラマ写真を撮ることが趣味のようになって、やたらとパノラマ写真を撮る。それが5歳児の言い間違いでパノララになる。でも、パノラマ写真に込められた意味があまり伝わってこなかったように思います。
    終盤で真紀子がイチローと同じように1日を繰り返しまくるのも、なぜ?という感じだし。
    少し超常現象が混じっているし、非現実的な部分もあるんだけれども、全体としては平凡な日常。平凡と非凡は紙一重なのかな。

  • 柴崎友香さんの小説を読むのは初めてでした。芥川賞作家の作品というと、純文学・難解というイメージで敬遠していましたが、本書はとても読みやすかったです。「パノララ」という言葉はその響きの通りパノラマから来ています。パノラマ写真の仕組みのようにつなぎ目が消えたりゆがんだり、そういうことが現実の生活の中にもあるんじゃないかと思える作品です。一見恵まれているような人達でも、それぞれが満たされないものや重いものを抱えて生きている様子が描かれていて、自分と重ね合わせてしまう箇所もありました。著者の他の作品も読んでみたいと思います。

  • 主人公,少し変わった作りの家に住み始めたと思ったら,そこの家族はそれぞれ変わっていた.言いたいことが言えない真紀子は,母とうまくいかず逃げるようにして東京に出てきたわけだが,イチロー一家と接触するうちに少しずつ変わっていく.そういうところがとてもうまく書かれていた,そのうえ何だかわからない繰り返す時間というかパラレルワールドに突入して最後はハラハラドキドキ一気読みだった.

  • 東京。家。家族。映画。女優。時間。
    益田ミリさんの『今日の人生』にて。
    増築をくり返す家。
    不思議な話だった。何かを変えられたような、何も変わらなかったような。絶望のような救いのような。

  • 長いけどぐいぐい読めた。
    装丁は単行本のほうが好き。

  • 疎外感ね

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著者プロフィール

柴崎 友香(しばさき・ともか):1973年大阪生まれ。2000年に第一作『きょうのできごと』を上梓(2004年に映画化)。2007年に『その街の今は』で藝術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、2010年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞(2018年に映画化)、2014年『春の庭』で芥川賞を受賞。他の小説作品に『続きと始まり』『待ち遠しい』『千の扉』『パノララ』『わたしがいなかった街で』『ビリジアン』『虹色と幸運』、エッセイに『大阪』(岸政彦との共著)『よう知らんけど日記』など著書多数。

「2024年 『百年と一日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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