世界の果てのこどもたち

著者 :
  • 講談社
4.14
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本棚登録 : 1214
感想 : 198
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062195393

作品紹介・あらすじ

戦時中、高知県から親に連れられて満洲にやってきた珠子。言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になってしまう。美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。
あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。
『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者が、二十年以上も暖めてきた、新たな代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 太平洋戦争の最中、「世界の果て」満洲で知り合った幼馴染の女性3人の人生を描く。
    国家と戦争に翻弄された人生。過酷で悲惨な状況を子どもの視点で描く。

    在日朝鮮人、中国残留孤児、戦争孤児と、戦後、3人の境遇はそれぞれで、辛い描写に言葉を失う。

    でも、3人には変わらない友情がある。40年後の3人再会に救われる思いがする。辛い記憶を乗り越える温かいものがそこにはあるからだ。


    戦争はあまりにも残酷だ。何があっても起こしてはならない、と改めて思う。

    そして、人は人がいて生かされる。人への思いは決して戦争に負けない。

  • 戦時中の満州で出会った3人の少女たちが主人公のこの物語。それぞれが激動の運命に翻弄されながらもしっかりとその後の人生を歩んだ。時を超えて彼女達を再会させるきっかけとなったのは一つのおむすびだった・・・。

    綿密で丁寧な取材を重ねたことが良く分かる。中脇さんは子供を描くのが非常にうまい作家さんであるけれど、また今回は戦争を描いたという点で完全な新境地に踏み込んだと思う。作者の意気込みがひしひしと伝わってきた。

    私の両親はこの少女達と同世代でいわゆる戦前生まれではあるけれど、辛い戦争体験は全く聞いたことがない。戦争とは国家で引き起こされるものではあるけれど、戦争体験となると非常に個人的なものということだろうか。
    だからこそ、戦後70年となった今、私達は個人的な体験として戦争を振り返る必要があるのだと思う。いかに多くの人々が、国家の意志の元に犠牲になったのか知るべきだ。

    中国残留孤児となった珠子、在日朝鮮人として生きる美子、そして空襲で全てを失った茉莉。
    どんなに辛くても自分の運命を嘆くことなくしっかりと受け止めて前を向いて歩んでいく彼女達の姿に心打たれる。

    彼女達と同じように、いやもっともっと辛い戦争体験を持つ人は沢山いる。
    個人個人の戦争体験が今何を語りかけるのか。あの戦争は何だったのか。この本が改めて考えさせる良いきっかけになった。
    どこぞの議員に「戦争に行きたくない」がどんなに利己的だと非難されようと、「戦争に行きたくない」、「戦争反対」を言い続けていきたい。

  • 昭和18年の戦時中、高知の山間の貧村から開拓民として
    移住する親に連れられて満州にやって来た珠子。
    故郷の村と同じ最果ての地で、珠子達の新しい生活が始まった。
    生活に馴染んでいく中、珠子は朝鮮人の美子と友達になる。
    ある日、裕福な貿易商の娘・茉莉が横浜から訪れ
    3人で遠くのお寺へ行くという冒険をする。
    大雨で川が洪水し、3人だけでお寺で一晩を過ごすという
    忘れ難い一夜を過ごし、友情で結ばれる。
    しかし、日本の戦局の悪化によって3人は別々の人生を歩むことになった…。


    三人はそれぞれ別々の場所で終戦を迎える。
    横浜で空襲に遭い肉親を全て失い茉莉だけがどうにか生き残る。
    朝鮮・満州を経て日本に渡る美子。
    美子は日本で在日として生きていく。
    満州で終戦を迎えた珠子。
    中国人達やソ連に襲われながら、日本に引き揚げる為
    逃走し続ける。開拓民の家族達。
    映画やドラマやドキュメンタリー番組等で知っているつもりだった…。
    しかし、本当に過酷・悲惨・酷い…どんな言葉でも言い表せないその姿。
    読むのが辛かった。苦しかった。投げ出したかった。
    でも、知らなきゃいけない…読まなきゃいけない…。
    その思いで涙を流しながら読み進めていきました。
    珠子は収容所で難民と暮らしていたある日突然
    人さらいにあい中国人夫婦に売られ、中国残留孤児として
    中国人夫婦に育てられる。

    出自も境遇も育った環境も置かれた状況も違う
    三人の少女の視点で戦争が淡々と語られる。
    三人の少女の生き様から戦争を色んな面から描き出している。
    何となく知っていると思ってた戦争だけど、知らない事が多かった。

    戦争の悲惨さを伝える物語です。
    しかし、それ以上に少女達の生き様が輝いていました。
    与えられた環境の中で、どうやって精一杯生きるのか。
    これは、今を生きる私達にも通じるテーマだと思った。
    平和な時代に生まれ、暮らしている事に感謝し、
    戦争は二度と繰り返してはいけないという思いを強く抱きました。

    二度と戦争はしない!と誓ったはずなのに70年経った今、
    日本は再び戦争をする国へと進んで行きそうな岐路にある…。
    今だから、多くの人に読んでもらいたい作品でした。

  • 戦時中の満州で一晩、ともに冒険をした3人の少女たちのその後の人生を描いた作品。
    テーマとしては
    『羊は安らかに草をはむ』
    と同じように思います。
    3人の人物を追いかけた分、ソフトで色々な視点からテーマに向き合えましたが、
    話の深さで『羊は~』のほうが秀作に思いました。

  • 1944年の夏。3人の女の子が満州で出会う。3人は、大人たちに内緒で、小さな冒険に出かける。しかし、突然のハプニングに見舞われ、心細い一夜をともに過ごすことになる。
    その夜が、終生、忘れられぬ夜になるとは知らずに。

    1人は珠子。高知の貧村から、満州移民団として家族とともにやってきた。一家は少しでも楽な暮らしができることを夢見ている。
    1人は茉莉。横浜の裕福な貿易商の家に生まれた。父親に連れられ訪れた。満州はほんのひとときの旅先。すぐに横浜に戻ることになっている。
    1人は美子(ミジャ)。朝鮮中部の出身だが、父は暮らしの厳しさから故郷を出て、満州で日本人の開拓団村で職を得たのち、家族を呼び寄せた。

    満州で暮らす珠子と美子はすでに友達である。そこにやってきた、戦時には場違いなほどの洒落た服装の茉莉との出会いは、さほど親しみに満ちたものではなかった。だが、子供の常で、一緒の時間を過ごすうち、互いの垣根が取り払われていく。

    茉莉はお金持ちでわがままに育ったお嬢様らしく、いささか鼻持ちならないところがある。しかし、物怖じをしない闊達さがまた、愛されているものならではの魅力である。
    しっかり者の美子は、子供ながらにこれまでもさんざん苦労をしているだけに、思いやりの心を持っている。
    珠子は臆病なところもあるが、素直で優しく、周りを見つめる澄んだ目を持つ。

    子供時代の短いきらめく時をともに過ごした3人は、この後、苛酷な人生を送ることになる。

    日本に戻った茉莉は、横浜で空襲に遭い、すべてを失う。
    美子は時勢に追われて日本に渡り、在日として苦難の日々を送る。
    珠子は敗戦とともに満州の村を離れ、流浪の果てに、母から引き離されて人買いに売られてしまう。

    戦時、困難は特に、弱きものに多く降りかかった。
    戦災孤児。引揚者。残留孤児。抑留者。
    膨大な文献にあたったのだろう本作は、開拓団、在日社会、養護施設をつぶさに描きつつ、常に視点を弱きものに置く。
    まるで、一番語られるべき物語はここにあったと言うかのように。
    多くの心に残るエピソードがあり、読む人それぞれに強い印象を残すだろう。

    一番、勝ち気であるように見える茉莉が、3人の中で一番の奈落を抱えている。
    戦時中、そして終戦時に、周囲の人の絶望的な冷たさに気づく茉莉は、しかし、同時にそれが自分の中にもあることに気づいてしまうのだ。
    そして、戦時の高揚に自分も無縁ではなかったこと。自分の手が実は、引き金につながっていたこと。
    その暗い絶望の淵は、実はラストまで埋められてはいない。
    それはいつか克服できるものか、それともやはりできぬものか。
    投げかけられた問いが重く残る。

    3人は苦難の末に、再会を果たし、この先も生きていくことを誓う。
    本作では、過去のさまざまな出来事の記憶が丁寧に繰り返し拾われる。これはおそらく、この著者の持つ1つの特性なのだろうと思う。
    過去を抱え、記憶を道連れに、その先への一歩を。
    読みながら、何とはなしに、ずっと昔に読んだスタインベックの『エデンの東』の一節を思い出していた。
    「汝、--することあるべし」。
    今は克服できないかもしれない。けれどいつか、克服する「可能性」があるはずだ。いつかを求め、人は旅する。
    すべての問題が「今」解けなくても。己の黒さも、世界の冷酷さも、解決はできなくても。つらくても、苦しくても。
    くちびるに歌を持ち、心に太陽を持ち、希望を捨てず、一歩一歩進む。
    これはそんな物語なのかもしれないと思う。


    *満州については、もう少し追いたいと思っています。川端康成『美しい旅』(川端康成全集〈第20巻〉小説 (1981年))に関する、個人的な思い入れからの流れです。戦争の「渦中にある」とはどういうことか、断続的に考えています。

    関連書
    ・『浮浪児1945‐: 戦争が生んだ子供たち』
    ・『近代文学の傷痕―旧植民地文学論』

  • 4.16/1165
    『戦時中、高知から家族と満洲にやってきた珠子。そこで彼女は、朝鮮人の美子と横浜から来た茉莉に出会う。三人は立場を越えた友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になり、美子は日本で差別を受け、茉莉は空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者の、新たな代表作。』
    (「講談社」サイトより▽)
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000189281

    冒頭
    『真っ白だった。
    珠子はその白さをおぼえている。
    見渡す限り、白いすすきの穂が揺れていた。
    珠子が吐いた息も白かった。』


    『世界の果てのこどもたち』
    著者:中脇 初枝(なかわき はつえ)
    出版社 ‏: ‎講談社
    単行本 ‏: ‎386ページ

  • 私のレビューにいいねをして頂いた方の本棚から、五つ星が付いている本を一冊読むようにしている。
    自分では手に取らなかったような本を読むことが出来る。
    そして読んでよかったと思える本に出会うこともある、この本のように。
    高知の貧農から国策で両親と満州開拓団(作物は良く採れ、食事には満足できるくらい)として渡った珠子。
    同じく貧しさからの脱却を目指し満州に行った在日朝鮮人(差別が酷く様々な苦労)の娘美子。
    横浜の貿易商の娘で、裕福(おやつにミルクと砂糖をたっぷりかけた苺を食べるくらい。時局が悪化している中、入学式に綺麗なワンピースを着て行き、非国民と陰口をたたかれる)な家庭の茉莉。
    珠子は中国残留孤児、美子は在日朝鮮人、茉莉は戦争孤児となり、それぞれ大変な苦労をしつつ、懸命に生きていく。
    3人は子供時分に満州で会い、ちょっとした冒険を行い、おにぎりを分け合うが、その思い出により彼女達は再び友人となれる。
    戦中・戦後・中国残留孤児など大変よく調べられ、リアル(横浜大空襲とか、戦後の様子など祖母に聞いた話と一緒)に描かれた小説であり、戦争を知らない多くの日本人に読んでもらいたい本である。

  • 戦中・戦後のドラマを見たり、本を読んだりして「なんて辛く、苦しい生活なんだ(T-T)」なんて言っていると、必ず「その当時は皆そうやったんやで、そんな事思わへん( ̄^ ̄)」と戦中・戦後をガッツリ生きてきた婆が言う(--;)それはそうかも…(^^;)だけど、生まれも育ちも違う三人の女の子が戦中に満州で出会い、終戦後にそれぞれ過酷ななか生き抜き、再会する話は心にズシッとくるよ(>_<)おむすびで結ばれた絆(--、)

  • #読了。初読み作家。
    戦時中、満洲へ移住した珠子、朝鮮人の美子、横浜の裕福な家庭で育った茉莉。3人の少女は満州で出会う。しかしながら敗戦後、珠子は親と離ればなれになり残留孤児となり、美子は両親と日本へ渡り「在日」となり、茉莉は親を亡くし祖母と暮らすことに。時を経て、日本で3人は再会するが。。。
    人の醜さを嫌というほど感じながらも、人に優しくされたことを大切に生きている3人。戦争による犠牲は単に戦った者たちだけでなく、生き残った人々の心にずっと根付くことを考えさせられるが、同時に人の強さにも感銘を覚えた。

  • 第二時世界大戦を軸に、その壮絶な戦乱激動の時代を生き抜いた3人の少女たちの物語。
    まわりの大人にされるがまま生きるしかなかった彼女たちの、余りにも過酷な運命には言葉がみつかりません。
    これが、たった70年前に、本当にこの世界で起こっていたことなのかと。
    歴史の素養が皆無な自分に恥ずかしくなりました。
    今日の食糧も、明日の寝床も分からないような日々。
    売り飛ばされ残留孤児となったことも、空襲で親兄弟を失ったことも、在日となり帰る故郷がなくなったことも、少女たちが背負うには重すぎる。
    『置かれた場所で、精一杯がんばるしかない』という希望ともとれる決意には、読者の私が救われる思いでした。

    そして、珠子、美子、茉莉を支え続けたのは、自分たちを本当に大切にしてくれる人たちの存在とその優しさ。
    誰かから享けた優しさがあれば、それをおぼえていれば、また誰かに贈ることができる。
    想像も絶する時代をそうやって生き抜いてきた、彼女たちの揺るがない強さは、深く深く心に残りました。

    これはフィクションじゃない。
    何年経とうと未だ解決しない問題もある現代、今の自分を省み、見失ってはならないものを大切にしていきたいと思えました。読んでよかった。
    こんなに重く惨い内容を、決して光を絶やさずに読ませ切る中脇初枝さんの筆力に改めて感動です。

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著者プロフィール

徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作、昔話を再話し語る。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。

「2023年 『世界の女の子の昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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