戦争画とニッポン

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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062195546

作品紹介・あらすじ

日本絵画史から抜け落ちた「戦争画」とは何か。会田誠と椹木野衣が真摯に考え、語り尽くした熱い記録。今、見るべき戦争画とは。

感想・レビュー・書評

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  • 『戦争画とニッポン』
    2023年12月6日読了

    美術評論家の椹木野衣とアーティストの会田誠の対談形式。
    専門用語やアーティストの簡単なプロフィールは、注釈が入るので美術や戦前~戦後の事象に詳しくない人でも理解しながら読み進めることができる。

    椹木氏も会田氏も60年代の生まれ。戦争を経験していないがその記憶が色濃く残る時代に生まれている。そういった彼らの戦争に関する記憶から対談はスタートする。


    戦争画と聞くと藤田嗣治の《アッツ島玉砕》など、作戦が実施された戦場をリアルに描いた悲惨な絵画というイメージがあった。しかし、多くの戦争画は休憩中の兵士や異国の風俗を描いており、「やさしい戦争画」ばかりといえる。
    そんな戦争画のなかで、藤田の作品は、悲惨さやむごたらしさ、やるせなさを含み、牧歌的な多くの戦争画とは真逆ともいえる。会田氏は「人間の宿痾としての戦争を描く、巨視的な視点を持ち合わせている」としている。


    また、日本人は「肉が足りない」というワードも興味深かった。
    戦争画に限らず当時の(もしかしたら「(現代を含む)日本の」なのかもしれない…)油彩画家に対しての批評であるわけだが、現役のアーティストである会田氏が皮膚感覚として述べているのが大変面白い。江戸後期の京都画壇の作品のように、上手であるがどこか華奢な作品という感じがする。


    最後、椹木氏と会田氏は一枚の絵を見に行く。清水登之が息子を描いた作品だ。
    海軍通信学校に通い海軍少尉として従軍した清水の息子。本書では「自分がいちばん大事にしていた息子を対米戦争に差し出す」と書かれる。もちろんその背景には、「自分の夢だった軍人になって、自分を差別した(しかし自分の個性を引き立たせてくれた)アメリカと戦ってくれ」というねじれた思いがあったわけだ。

    しかし、自身が送り出した息子は、対米戦争の中で戦死してしまう。失意にくれた清水は、息子の死からわずか半年後に「強度の精神疲労によって誘発された白血病」によって亡くなってしまう。そのわずか半年の間に、ひたすら息子像を描く。

    これらの息子像を特殊な絵としながらも、「傑作」と評価する椹木氏。
    上記の「記録画」とはまた異なる、当時のリアルな「戦争画」だと思った。

  • ふむ

  • 戦争
    美術

  • 【投票者イチオシ】美術に興味がない人にとっても戦争を再考するための面白い切り口になるかと思います。https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001133541/?lang=0

  • 【資料ID: 1117015270】 721.026-Sa 97
    http://opac.lib.saga-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB18994265

  • アジア太平洋戦争中、軍部が画家たちを動員して描かせた「戦争記録画」。戦後タブー視され、公開すら制限されてきたそれらの画の意味を、「戦後70年」、というよりも、すでに新たな戦前にあるかもしれない現在から考えようとする、椹木野衣と会田誠の対談集。もうちょっと突っ込んだ論考が読みたいような気もするとはいえ、豊富なカラー図版と作品解説、戦争画家たちの座談会採録も入って2000円というのは、かなりお買い得感ありです。
    美術史の「屋根裏」を開けてみると戦争画がとびだしてきた、という表現が最初の方にある。これは、「近代の超克」を掲げた戦争の記録画において、近代的具象油彩画が王道とされたからこそ、戦後は写実画よりも抽象画が好まれることになったという文脈で語られているのだが、たしかに「屋根裏」に押し込めてきたからこそ、戦争画が実際にどのように生産され消費されていたのか、実相は知られることのない一方で、ある種のファンタジーを生み続けてきたといえるだろう。日本における油彩画の歴史は、アジア太平洋戦争どころか帝国日本の成立そのものと関わってきたことを考えれば、美術と戦争、国家、ナショナリズムの関係は、深く追及される必要がある。
    会田誠が、戦争画のもつ「暗い叙情」にとりつかれてきたと言うように、巨大なカンバスに描かれた勇猛果敢に突撃する英雄たちのイメージは、その下に隠されている、破壊され歪められた肉体、ホモソーシャルな絆など、「エロ・グロ」に通じる暗い情動をも喚起し続けてきた。
    その情動は、たとえば特撮ものなどのイメージを通して戦争を知らない世代にも引き継がれ、会田の戦争画シリーズをインスパイアしているわけだけど、実は当時描かれたオリジナルの戦争画そのものが、想像にもとづく「偽装の戦争画」であったのかもしれないというのは、本書を読んで初めて気がつかされたことだ。
    動員された画家たちは、戦地を訪問したとはいえ、肉体が破壊される戦場そのものを見たわけではなかった。彼らが見たのは多くの場合、日本軍の占領地域や写真資料でしかなかったのだ。日本兵の死体をはじめ、厭戦気分を誘発しかねないイメージを徹底的に排除した戦争画は、絵を戦意高揚の手段にしようとした軍部の意図や、軍部と協力してでも自分の絵を描きたいと願った画家たちの意図とはまた違うところで、日本本土の観客たちが爆発のスペクタクルや異国のエキゾチックさ、あるいは「軍神」のイメージを消費するためのものだったのではないだろうか。本書に収録された、まるで絵本の挿絵みたいにのどかな戦争絵巻や、川端龍子の幻想的な日本画を見ていると、そんな気がしてくるのだ。
    そう考えれば、冒頭で会田が指摘しているように、戦争は必ずしも悲惨さを伴ってやってくるわけではない。終章でふたりが、いま現在における戦争画の意味として、「クール・ジャパン」やオリンピックを契機とした国家と美術家の関係を考えているのは、まさに正しい。そのときに立ち位置を問われるのは、美を生産する美術家だけではない。消費する私たちもまた、責任を逃れることはできないのだ。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784062195546

  •  最近、戦争画について興味があるので、この本も手に取りました。他の本と違うところは、会田誠という現役の画家との対談形式というところでしょうか。
    戦争画について語ってますが、どこか日本人論みたいな雰囲気もあります。
    また、今後東京オリンピックが開催されることによる、国策としての芸術、そして芸術家はどうそれに対応するかなど、「集団」と「個」のせめぎ合いといいますか、芸術家とは決して社会とは無縁でなく、否が応でも関わってしまう時がある。そして、太平洋戦争で「戦争画」に関わった芸術家がいて、現代でも別の形での「戦争画」があるのかもしれない、そんな気がしました。
    芸術とは何か?日本人の「芸術」とは何か。気さくな対談ではありますが、いろいろ考えさせられました。

  • 同じく椹木さんが関わっている重量級の戦争画本を読んだばかりなので物足りない感じはしましたが、戦争画って?という入門としては読みやすくよいと思ったのと、絵描きとしての会田さんのコメントもよかったと思います。

  • 「私、街宣車が来るとワクワクしちゃって〜軍歌が好きなんですよ」そんなふざけた右翼的発言も今やシャレにならない時代になってしまった。そんなモヤモヤした気持ちにしっくりと馴染む美術批評家と現代美術家の《戦争画》についての対談。
    ほんの十数年前までは「インテリといえば基本リベラル左翼。だからこそ《右翼》という言葉自体に批評的効果があった 」

    会田氏言うところの太平洋戦争の《暗い叙情》の魅力。それは戦争画DNAとして、花輪、丸尾、駕籠真太郎まで引き継がれているという。

    「日本人の戦争画はやっぱりやさしい。ふと詠む俳句のように『墜落した飛行機の残骸は哀れを誘うなぁ』みたいな淡彩画のほうが得意な感じもするのです」会田氏、巧いこと言うなぁ。

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著者プロフィール

会田誠(あいだ まこと)
1965年、新潟県生まれの現代美術家。東京芸術大学油画専攻卒業、東京芸術大学大学院美術研究科修了。美術史への深い造詣をもとに、生と死、エログロ、ロリコン、戦争、暴力など、社会通念や道徳に関わる現代的テーマに取り組み、問題提起的な作品を次々と発表している。展示や発言に関するトラブルもあるが、海外でも評価を受ける機会は増えており、日本を代表する現代芸術家の一人とされる。
著作・写真集も多い。代表作に『青春と変態』、『孤独な惑星』、『MONUMENT FOR NOTHING』など。

会田誠の作品

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