トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業

著者 :
  • 講談社
4.12
  • (119)
  • (144)
  • (52)
  • (9)
  • (3)
本棚登録 : 944
感想 : 110
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062196079

作品紹介・あらすじ

創業家VS.左遷サラリーマン!
日本の救世主は、ハズレ社員だった。気鋭の経済記者が覆面作家となって挑む日本最大のタブー「27兆円企業」に迫る!
「失われた20年を、高度成長期並みに駆け、世界一となったあのトヨトミ自動車が潰れるときは、日本が終わるとき。日本経済最後の砦・巨大自動車企業の真実を伝えたいから、私は、ノンフィクションではなく、小説を書きました」(梶山三郎)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1.著者;正体不明の覆面作家。本書「トヨトミの野望」でデビュー。新聞社のフリージャーナリストが書いたと言われているが、実際は複数の現役記者が情報提供し、某作家に書かせたらしいという噂もあり謎。梶山三郎というペンネームは、梶山季之(週刊誌記者出身で出世作は「黒の試走車」)と城山三郎(自動車関係の書籍は「勇者は語らず」)に肖ったと思わらる。
    2.本書;企業小説。著者曰く「失われた20年を、高度成長期の様に駆け抜けた巨大自動車企業は日本経済最後の砦だ。私は、その真実を伝える為に、ノンフィクションでなく、小説を書いた」。この企業はトヨタ自動車と思われ、創業家と左遷サラリーマン社長の対立が書かれている。エピソードが所々に書かれ、興味が尽きません。実話だと言う人、どこまで真実かと言う人、両方がいます。真実は闇の中。先ずはフィクションとして楽しむ本でしょう。十四章構成(第一章;ふたりの使用人~)。
    3.私の個別感想(心に残った文章を3点に絞り込み、私見を合わせて記述);
    (1)第二章【社内事情】より、(武田社長)「豊臣家は創業家だから尊重するが、人事は公平。このグローバルの時代、血縁に頼っていては衰退するばかり。実力ある者を正しく評価し、しかるべき地位に登用」「私が社長に就任する以上、お公家集団のぬるま湯は許しません。社員諸君は何も変えない事が最も悪いと気付いてほしい。現状維持はイコール堕落です」
    ●感想⇒①「血縁に頼っていては衰退するばかり」について。日本の企業は約256万社。同族経営は、その内約96%。大企業では、トヨタの他にもパナソニック・サントリー等、名だたる会社が同族経営です。同族経営にも、メリット(意思決定の速さ等)とデメリット(私物化の懸念等)があります。一方で、本田宗一郎氏は会社に親族を入れる事を頑なに拒んだそうです。要は創業者の考えで、会社の命運が決まるという事でしょうか。本書のトヨトミは、デメリットが際立ったと思いますが、経営の評価は同族だけでなく広い観点で判断すべきと考えます。②「社員諸君は何も変えない事が最も悪い」について。これは私もよく言われました。企業を取り巻く環境は、グローバル化によって、目まぐるしく変化しています。仕事をマニュアルに沿った作業ではなく、常に創意工夫するのです。個人の仕事のやりがいと成長の為にも知恵を絞り、考え続け事が重要ですね。
    (2)第六章【ハイブリッド】より、(山崎;衆議院議員)『「会社には朝一番に行って掃除をしろ」「電話は真っ先に取れ」「お客様の荷物を持ってタクシーに乗せ、見えなくなるまでしっかり見送れ」いたずらにアメリカナイズされる事無く、日本人らしく謙虚に誠実に振舞え、という事だ』
    ●感想⇒会社に入った頃、「お客様が見えなくなるまで見送れ・・・」を始め、研修で教えて貰ったというよりも、先輩がそれらを自然体で実行しており、私も見様見真似で覚えました。企業の強みは、テキスト等で書いたものを覚えるという事ではなく、先輩が後輩にビジネスマンとしての礼節をやって見せ、後輩は自分の後輩にそれを教えるというサイクルが上手く回っている文化だと思います。上司からも言われました。『部下には差がある。例えば、出張で新幹線の切符を頼んだ時に、並のスタッフは「満席で切符が取れませんでした」。気の利くスタッフは「満席だったので他の時間と他の交通手段を調べておきました」と。こういう所で企業力の差が出るんだ』と。現在は仕事改革で労働時間の効率化が叫ばれています。気配り時間まで効率化して、仕事の質を落としてははいけないと思います。
    (3)第八章【萌芽】より、(武田社長)「経営者の堕落が酷い。会社の利益と自分の名声しか考えず、従業員の幸せや企業の社会的責任に無関心な輩が多すぎます。国民と国全体の利益を考えないトップは経営者と呼ぶに値しません。単なる経営屋です。恥知らずの経営屋がバブル経済の膨張と崩壊を招き、日本をこんな惨めな国家にしてしまった」
    ●感想⇒マスコミで話題のB社経営者の発言を聞いて、今時こんなにレベルの経営者がいるんだと呆れました。破綻した山一證券の社長の言葉を思い出しました。「これだけは言いたいのは…私ら(経営陣)が悪いんであって、社員は悪くありませんから! どうか社員のみなさんに応援をしてやってください、お願いします!」。B社のトップは、社員のやった不祥事を「信じられない」とか「訴える」とか当事者意識は皆無です。B社にも心ある善良な社員が大勢いると思います。社員の働き甲斐を醸成し、ユーザーを大切にする企業(社会的責任)に再生して欲しいものです。
    4.まとめ;左遷サラリーマンだった武田社長は、トヨトミを売上高27兆円という世界企業にした立役者。しかし、持ち株会社構想などにより、創業家に疎まれ、社長の座を失います。その社長に忠誠を尽くした人間はことごとく追放され、粛清人事となります。ブチ切れた創業家出身社長の容赦ないお手打ち人事は衝撃的とあります。トヨトミを世界企業に押し上げた功労者の社長ばかりか、取巻き連中まで粛清するとは、凡人には理解出来ません。人としての心(感謝)はあるのかと。経営の厳しさを痛感します。雑談です。日本の企業が世界一になる事は本当に良い事でしょうか。某経済学者が書いていました。「相手が倒れると、相手からの需要も止まり、新たに食い潰す相手を見つけない限り、自分自身、存続する事が不可能になる」と。一人勝ちの行く末は世界から孤立に繋がります。羨望の的ではなく、共存共栄の道を進むべきでしょう。本書の大企業の人間構造に踏み込んだ記述には興味津々ですが、著者の考えが見えないのが残念です。(以上)

  • ページを巡ると、目次の次におもな登場人物の紹介。人数が多い・・・ 話についていけるかちょっと不安になったが、杞憂だった。読みやすい文章で、人物の多さも全く気にならなかった。

    少し前に『未明の砦』を読んだ影響で、自動車メーカーの話を別の視点で見たいと思ったのがこの本を選んだきっかけ。読んでよかったと思う。
    ビジネスって戦争なんだなぁ。

    折しも、ニュースでトヨタグループが話題になっていた。いつもよりも興味が持てた。

  • 前から気になっていた小説。
    文庫も出ていますが、買う前に、図書館で借りてきました。

    誰がどう読んでもトヨタ自動車をモデルにした小説なんですが、
    トヨタの歴史などをネットで調べながら読むと、
    そのリアリティ度合いが半端ないことに驚かされます。
    ここまでトヨタのことを知り尽くしている著者って誰なの?と気になりますが、
    梶山三郎というのはペンネームで実際には記者の方のようです。
    本名が言えないくらい、トヨタの広告に対する影響力というのは絶大なのでしょう。。

    私はトヨタ内部のことはほとんど知りませんが、
    小説内はフィクションとノンフィクションが交じり合っているようで、
    小説内の話がすべて事実という訳ではなさそうです。
    さらに、小説内の武田社長(奥田社長がモデル)寄りのストリー展開で、
    ジュニア(章夫現社長)や豊田家に対しては、
    若干否定的な見方をしているようです。

    昔の章夫現社長がどんな人だったのかは良く知りませんが、
    昔はイマイチだったんですかね。
    今は立派な社長になっていらっしゃるようにも見えますが。

    これは続編(トヨトミの逆襲)も読むしかないです。

    ※トヨトミの逆襲
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4093865612#comment

    ちょっとネットを調べれば、
    登場人物の誰がどのモデルかが分かります。
    (合成モデルと言われている登場人物もいます。)

    武田剛平→奥田碩氏
    御子柴宏→張富士夫氏 
    豊臣統一→豊田章男氏
    豊臣新太郎→豊田章一郎氏
    豊臣芳夫→豊田達郎氏
    豊臣勝一郎→豊田喜一郎氏
    豊臣史郎→豊田英二氏
    豊臣太助→豊田佐吉氏
    九鬼辰三→古川晶章氏?
    九鬼辰彦→西川幸男氏?
    吉田拓也→齋藤明彦氏と内山田竹志の合成人物?
    斎藤貢→野口紘一郎氏宮原彰氏の合成人物?
    ドーン・シモンズ→ブーン・ピケンズ氏
    八田高雄→服部悦雄氏
    ホセ・エミリオ→リカルド・C・シルベリオ氏
    フェルナンド・マルノス→フィリピンのマルコス元大統領
    エメラルダ・マルノス→マルコス元大統領の夫人、イメルダ
    岡村泰弘→不明
    速水徹→成瀬弘氏
    山崎幸二→山本幸三氏
    メアリー・ブランド・フレッチャー→鉄の女、英国元首相のサッチャー氏
    トニー・ブレッド→トニー・ブレア元英国首相
    堤雅也→大高英昭氏と岩月伸郎氏の合成人物?
    中西徳蔵→浦西徳一氏
    ジョージ・ボッシュ→ブッシュ元米大統領
    佐橋龍之介→小泉純一郎元首相。
    タカコ・レイモンド→小林明香氏
    丹波進→渡辺捷昭氏
    明智隆二→木下光男氏

    参考
    https://biz-journal.jp/2016/11/post_17311.html

  • 「小説の形を借りたノンフィクション」と呼ばれ、現実のトヨタ自動車への圧倒的な取材力がこの小説にリアリティを生み出しており、その面白さの原動力となっているのは間違いない。
    そのことを踏まえた上で、敢えてただのフィクションの小説として判断してみたいと思う。そうしてみてもやはり文句なしに面白い。
    企業小説としてサラリーマンの悲哀や苦悩、トップのマネジメント論、権謀術数、社内政治などなど(この辺りは島耕作シリーズに通ずるものがある)盛り沢山。その上で描かれる2人の主人公=創業家以外からの初のサラリーマン社長武田剛三と創業家のプリンス豊臣統一の重厚な人間ドラマ。これらが小説として面白すぎるので、こんなことが本当に、現実にあったの⁇と半信半疑になってしまう。
    だとしたら裏事情が面白すぎる。特にアメリカでのロビィ活動の下りは特に著者の力の入れようがすごく感じられて面白かった。あの国との間でこんな駆け引きがあったのか…。
    安本記者と田野木記者のモデルは著者本人かな。

    自分は誰タイプだろう?と考えながら読むのも面白いかも。自分は御子柴タイプだと思った。大きなことをやるリーダーの器ではないけど、既に敷かれた路線はつつがなく進む。親近感が湧いて最後まで嫌いになれなかった。

  • <面>
     これぞエンターテインメント小説!
    皮きりの本書以降シリーズ化されていてしまい つい最近その第三作が出版された様子。
    僕は違ったルートからこの本が面白いぞ,と云う情報を得て,なんだなんだと少し探って みた。すると 最近のトヨタ自動車の事情を某新聞社の経済産業担当記者の立場から 面白おかしく,多大なる思い込み と 思い入れ と 嘘八百のフィクションを加えて書いたものらしかった。で,そこまで書くと何かと怖いので 身バレ防止の為に作者は覆面作家としたものらしい。なんとも意気地がねえこった。笑う。

     で,いやはやこりゃ面白い小説だね。この第一作が描かれたのが2016年なのだが描かれている時代はもっと前の年代から始まっている。もちろんモデルになっている自動車会社はトヨタ。愛知県「尾張地方」に本社がある『トヨトミ(豊臣)自動車』という設定なのだ。もちろん実際のトヨタ自動車は「三河」が事業基盤なのだが,それを同じ愛知県の尾張として豊臣としているのだ。あちこちに「尾張の田舎の」などという表現が出て来て,同尾張地方に住んでいる僕には そこもかなり面白い。笑う。

      普通の小説と少し変わった体を感じる所がある。例えば本文147ページに「肝胆相照らす(カンタンアイテラス)」という格言が振り仮名付き使われている。でも実はもっと前に振り仮名無しでいきなり出て来ている所がある。これらの読みづらい言葉はその小説の初出の場面で必ずフリガナを打ち 二回目登場以降は「もう最初教えたでしょ」と云わんばかりにフリガナは打たれない。まあ本作の場合は出版社サイドの推敲/校正がガザツなだけだろう と僕は思う。面白い小説なのに天下の講談社は軽く扱っているのが見て取れる。笑。

  • 最高の経済小説だ。架空の大企業の内部、暗闘をまるでドキュメンタリーのように抉り出している。

    一般人では伺い知ることの出来ない、大企業の裏側。広告の引き上げというブラフで都合の悪い報道は潰してしまうため、大企業に批判的な報道はなかなかお目にかかれない。

    そこを逆手に取り、覆面作家の経済小説として出したところに妙味がある。最高の経済小説だ。トヨタ自動車のWikipediaを見ながら、読み進めると面白さが倍増する。

  • 面白かった。虚偽も真実もないまぜてのストーリーの様子で、トヨ○のあのO社長、並び周りの人物の立ち位置も興味深く読めた。エピソードも、あーそんなことあったなーみたいにリアルでした。本当に小説⁈

  • 正直、筆力はチープだなと思う。特に女性の描写が安っぽくてリアリティが薄いし、激しめの語調を「ですっ」と小さい「つ」でまとめて表現するところ、また武田氏の肩を持ち過ぎているところ等々、少々浅い感じがあり、噂話をもとにある程度は想像でキャラ作りしたことが見え隠れする、筆力としてはなんだかなーって思う部分は多い。
    小説としては微妙かもしれないが、この本を書こうとした人たちの気概は素晴らしく、またクルマ産業に疎いいち社会人としては大変勉強になる内容であった。
    小説というかマンガみたいな感じですね。「4時間で分かるトヨタ」みたいな。
    勇気をもってこの本を世に出してくれた人たちに感謝です。

  • 豪快でいて、緻密な戦略家でもある武田社長のキャラクターに惹かれる。単純に小説として面白かった。小説としてストーリー展開や各キャラクターの設定が本当かも、と思えて、そこまで現実離れしていないのがよかった。会社員であれば、組織の中の立ち振舞いとして、共感できる部分も多いと思う。この男臭いストーリーを女性ならどう感じるか気になった。よくも悪くも、現実の大企業における女性社員の立ち位置もよく表しているのだろうと思う。会社の同僚に進めたくなる一冊。

  • 勧められてこちらを。
    実際に誰が誰に該当するのかというメモももらって読む。
    読み進めるうちにトヨトミの事が嫌いになりそうで…
    武田社長がやり手で凄くかっこよかった!

全110件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

経済記者、覆面作家

「2016年 『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梶山三郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
佐々木 圭一
リンダ グラット...
恩田 陸
國重 惇史
マシュー・サイド
劉 慈欣
アンデシュ・ハン...
三浦 しをん
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×