終わった人

著者 :
  • 講談社
3.70
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  • Amazon.co.jp ・本 (378ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062197359

作品紹介・あらすじ

定年って生前葬だな。
衝撃的なこの一文から本書は始まる。
大手銀行の出世コースから子会社に出向させられ、そのまま定年を迎えた主人公・田代壮介。仕事一筋だった彼は途方に暮れる。年下でまだ仕事をしている妻は旅行などにも乗り気ではない。図書館通いやジムで体を鍛えることは、いかにも年寄りじみていて抵抗がある。どんな仕事でもいいから働きたいと職探しをしてみると、高学歴や立派な職歴がかえって邪魔をしてうまくいかない。妻や娘は「恋でもしたら」などとけしかけるが、気になる女性がいたところで、そう思い通りになるものでもない。
これからどうする?
惑い、あがき続ける田代に安息の時は訪れるのか?
ある人物との出会いが、彼の運命の歯車を回す──。
シニア世代の今日的問題であり、現役世代にとっても将来避けられない普遍的テーマを描いた話題沸騰必至の問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 定年後時間を持て余し弱気になっていく自分の父の気持ちを理解する手助けになるのではと読んでみた。

    女性の作家さんだけど、この年代の男性の心理がリアルに描かれている。

    日々の先に目指すものや張り合いのない世界はやはりしんどいものだ。
    それを見つけるのはもがき続ける本人自身でしかなく、周りの言葉だけで軽くどうにかできる葛藤ではない。

    その前提に立ったうえで、父に私ができることは「終わった人」として遠目から見ることではなく、日々を葛藤して生きている「明日のある人」として見方を変えて応援し見守ることなのかもしれないと感じた。

  • 2022/12/29

    現役生活を「終わった人」

    わかるわかる、あの上司もこんなふうになってるんじゃないかと考えてしまった。
    そして卒婚いいな、と思ってしまった。

    人生長いのも考えものだな。

  • 63歳で定年退職したエリートサラリーマンのいわゆる老後の過ごし方。思っていた以上に紆余曲折、ドラマチックな展開で、予想していたような内容ではなかったけれど面白かった!私自身、もうすぐ50代で老後はどのようになるのか不安もあるので、こうした老後がテーマの小説をもっと読みたい。

  • ① この本を選んだ理由
     定年後というものがイメージできる年齢になり、この手の話が面白いと感じるようになったため。


    ②あらすじ 
     東大卒で、大手銀行に勤め、最終的に子会社ながらも役員で定年を迎えた田代の定年後のお話。仕事と夫婦に焦点があたっている作品に感じた。


    ③感想
     何度も、タイトルである、「終わった人」というキーワードがでてくる。人生において終わったという瞬間があるものなんだろうか…
    いろいろな人から頼りにされる、人の役に立つ、やりたいことをやって楽しむ、行きたいところに行って感動を得る、などなど、歳とともにできなくなっていくことが何度も出てきて、この先の人生を考えさせられた。
     恋愛というものを乗り越えた夫婦とは何なのか、ということも考えさせられる。「俺はなぜ、この女とずっと一緒にいるのだろう。」という心の声があって、そう思うことは、どの家庭でもあるだろう。昔と違い、夫婦共に働いているケースが多く、出会いの場面は歳をとってもあり、お互い干渉しない部分も時間と共に増えていく。そうすれば、尚のこと、そう思うこともあるだろう。
     昔の人は我慢して生きていたけど、我慢しなくていいというのが常識になると、仕事とか、結婚とか、大きく変化していくんだろうなと考えさせられる作品だと思った。3組に1組は離婚しているなんて、だいぶ前に耳にしたけど、この先はどうなっていくんだろうか…


    ④心に残ったこと
     「人は死ぬまで誇りを持って生きられる道を見つけるべき」という言葉は、心に残った。
     限りある人生の中で、何を持って進んでいくのか、という疑問に対して、一つの答えだと思った。
    また、結婚は「我慢して2人でいるか、別れるしかない」なんて、セリフもでてきて、なかなか面白かった。
     最後の方に「卒婚」という言葉がでてくる。この言葉を知らなかったが、そういうのもあるんだろうなと、考えさせられた。


    ⑤登場人物  
     
    田代壮介 63歳 専務取締役
    田代千草 57歳 妻
    道子 娘

    西本徹 同期

    青山敏彦 55歳

    二宮勇 大学同級生

    浜田久里 スクール受付

    美雪 妹

  • 私は壮さんより少し年上の67歳。会社勤めの友人は悠々自適な生活を送っているようだ。私は定年の無い仕事だが、どこかで自分で定年を作らないといけないと考えている。
    人は定年の無い仕事でいいねと言うがそうだろうか?
    事業承継や自分のそう長くは無い人生を考えるとやはりどこかで一線を引かないといけないと思う。
    壮さんのように会社の社長はもういいし、かと言って趣味や孫達の世界で生きて行こうも思わない。帰る故郷も無いし…。悩める前期高齢者の一人です。

  • 終わった人 2015

    大切なのは自分で決めることではないか
    2019年7月19日記述

    内館牧子氏による著作。
    2015年9月16日第1刷発行。
    本書は、釧路新聞、室蘭民報、東奥日報(夕刊)
    岩手日報、茨城新聞、上毛新聞、山陰中央新報、四国新聞に連載されたものに加筆しました。

    内館 牧子(うちだて まきこ、1948年9月10日 - )は、日本の脚本家、作家。
    東日本大震災復興構想会議委員。東京都教育委員会委員、
    ノースアジア大学客員教授。
    元横綱審議委員会委員。
    学位は造形学士(武蔵野美術大学)、修士 (宗教学)(東北大学)。

    秋田県秋田市生まれ。父親は岩手県盛岡市、母親は秋田市出身。
    日本冷蔵(ニチレイ)に勤めていた父の転勤で、四歳から新潟県、小学校3年からは東京都大田区で育った。
    幼い頃はいじめられっこであったが自身を助けてくれた男の子が大きな体を持っていたことから、体の大きな男の子は優しいのだという意識が刷り込まれたといい、これが大相撲に興味を持つきっかけとなったという。
    東京都立田園調布高等学校を経て、1970年(昭和45年)、
    武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒。
    その後は三菱重工業に入社して横浜製作所に勤務、
    同所硬式野球部でマネージャーも務めた。1987年脚本家デビュー。
    当初は岸牧子の筆名で活動。
    代表作に、NHK連続テレビ小説『ひらり』、『私の青空』、大河ドラマ『毛利元就』などがある。

    TVドラマの脚本で著名な方のようだ。
    毛利元就も当時(1997年)リアルタイムで視聴していた。
    本作品はNHKニュースでも取り上げられていた。
    定年って生前葬だなという一文が紹介されており、うまい表現だと感じた。
    楠木新氏の定年後という著作にも本書が紹介されており
    一読しようと改めて思い手に取った。

    レビューを見ると恵まれすぎたビジネスパーソン人生で共感できない等のコメントがある。
    確かに客観的に見ればそうだ。ただこれはあえてわざとそういう設定にしていることが読み進めるとわかる。
    現実問題として、お金が無い等の理由で定年後も働く人もいるがそれだと年齢で社会から追い出されるとはどういう事なのかがぼやけてしまう。
    まだまだやれると思っている60代を描く為にも主人公田代にはエリート銀行員である必要があったのだ。

    私のような30代は既に生涯現役だの、一生働く時代だの脅されているのでちょっと本書のような展開は将来イメージできない。
    出来ないが、仕事一本調子でやる危険性、会社組織しか知人、友人がいないというのは危険だよねという当たり前の結論が出てくる。
    当初絶対に自分の心の中を、考えていることを素直に表現しない主人公が少しずつではあるが、素直な気持ちを表現するように変化していく所は興味深い。

    会社で、仕事で、充実することは人生にとって極めて重要。
    重要だが、それだけではなく良い+αを見つけよう。
    そんな気持ちにさせられた。
    これが正解というものは当然無い。
    主人公夫婦のたどり着いた卒婚もひとつの形に過ぎない。
    当初主人公の思い描いた夫婦の時間を大切にし、残りの人生を旅や映画や食事など夫婦で楽しめる時間にあてることも素晴らしい選択だと思う。
    ただ大切なのは自分で決めることではないか。
    ビジネスパーソンは突き詰めると他人が決めた事に
    従わなくてはならない面が多い。

    印象に残った部分を少しだけ列挙してみたい。

    あがいて(生涯現役に)しがみつくレベルの才能じゃなくてさ、俳優でも映画監督でも芸術家でも何でも、世代交代と無縁でいられるヤツらは天才よ。
    それと同列に並ぼうったって、努力でどうにかなるもんじゃない

    サラリーマンは、人生のカードを他人に握られる。
    配属先も他人が決め、出生するのもしないのも他人が決める。

    (パーティなど)挨拶で「さて」を言うヤツにろくな者はいない。
    長くなるぞと思った。

    人間が老いて行きつくところは、大差ない。
    行きつくまでのプロセスで、いい思いをするか否かはあるが、そのカードも他人に握られているのだ。

    仕事を離れて、スーツにふさわしい息をしていない男には、スーツは似合わなくなるのよ

    今にして思えば、患ったり死んだりしないだけ幸運だった。
    会社は個人の献身に報いてくれるところではない。

    年齢や能力の衰えを泰然と受け入れることこそ、人間の品格よ

    男と女になれば、10年も20年も持つ関係が、半年や1年で終わります

    かけがえのない人ってのは「友達として見ている人」のことだからね。
    男として見ている人っていうのは、簡単に代わりが出てきたりするからさ、かけがえなくないんだよ

    金時モチ=お金と時間を持っているオヤジのこと

    世の中のオヤジの9割はメシだけオヤジだよ。
    ま、可哀想だから1回くらいいいかってケースはあるけどさ。
    それは別に恋愛じゃないから。メシ代。

  • 昔仕えた上司が、定年時に読んでいた。いつか読んでみたいなと思ったのは、まだまだ先の退職に対し、何か学んでおきたいと思ったからかも知れない。仕事人間ならば、たまの連休で時間を持て余す時、あまりにも無感動な自分に気付く時があるだろう。夢中になれるものには、ある程度の纏まった時間や継続性が必要なのに、働いていると、細切れでしか時間が取れないから。大人になるとRPGゲームにのめり込めなくなる理由に似ている。それだけ、仕事中心で生きた人間が退職をして、どんな生活が待ち受けるのか…。

    この本にあるのは決してハッピーエンドではない。仕事に自らを賭けた主人公の持て余すプライドや苦悩。あるのは、リアリティだ。妻との関係。来るべきシミュレーション。読んでおいて良かった一冊。

  • 新書「定年後」で紹介されていた小説3冊のひとつ。
    「孤舟」に似ているが、それよりも波乱万丈な定年後だった。

    「思い出と戦っても勝てない。勝負とは今と戦うこと。」これが本作のキーだろう。

    なお、奥さん(千草)が凄い。娘(道子)も凄いが。

    以下は千草のセリフと場面。本文を読んでいないとピンとこないだろうが、ここは震えた。

    千草「田代の家内でございます。鈴木社長に出会えたこと、主人も私も誇りに思っております」181p
    千草はやがて立ち上がり、キッチンへ駆け込んだ。泣く気だろうか。「壮さんにはピッタリの話だ。やった方がいい」トシはつぶやき、俺はキッチンの方を気にした。泣くどころか、千草はシャンパンを抱え、笑って出て来た。191p

  • 仕事人間が定年を迎えたら?
    エリート銀行員・田代壮介(63)の場合。

    東大法科を出てメガバンクに就職、エリートコース一直線で辣腕をふるって来た田代は、役員を視野に入れたところで突然出世コースから外される。
    出向、転籍で、定年を迎えた。
    彼はどこで「終わった」のだろうか?
    妻は美容師として生き生きと働き、別のレールを進む…この辺りの関係も「終わった」?
    男としても「終わった」?

    その辺のいわゆる「ジジババ」と一線を画そうとするものの、蟻地獄に落ちてゆくがごとく、一つづつ、自分も「ジジ」なのだと納得せざるを得ない様子がつぶさに描かれているあたり、リアルで恐ろしい。

    しかし、ここまでは誰にでもある話だったかもしれないが、「サラリーマンとして成仏していない」田代は、もうひと旗挙げようとする。

    徹底的に裸にならなければ見えてこなかった、人生の行きつく先、そして夫婦関係。
    これも一つの結論なのだろう。

  • 岩手出身で東大法学部卒業の元メガバンクエリート銀行員の主人公。子会社の専務として定年を迎え、身の処し方を思い悩む。
    エリートのプライドが邪魔をして、「自分は他の老人とは違う」と思い込む。妻は美容師として生き生きと暮らしている。
    ひょんなことからベンチャー企業の社長となるも、結局多額の負債を背負うことになる。
    救いなのは温かい故郷と友人、腹を立てながらも見捨てない妻。
    人生80年の時代、長い定年後の過ごし方を考えさせられる作品

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著者プロフィール

1948年秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業。1988年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」(1993年第1回橋田壽賀子賞)、「毛利元就」(1997年NHK大河ドラマ)、「塀の中の中学校」(2011年第51回モンテカルロテレビ祭テレビフィルム部門最優秀作品賞およびモナコ赤十字賞)、「小さな神たちの祭り」(2021年アジアテレビジョンアワード最優秀作品賞)など多数。1995年には日本作詩大賞(唄:小林旭/腕に虹だけ)に入賞するなど幅広く活躍し、著書に映画化された小説『終わった人』や『すぐ死ぬんだから』『老害の人』、エッセイ『別れてよかった』など多数がある。元横綱審議委員で、2003年に大相撲研究のため東北大学大学院入学、2006年修了。その後も研究を続けている。2019年、旭日双光章受章。

「2023年 『今度生まれたら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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