彼女がエスパーだったころ

著者 :
  • 講談社
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感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199643

作品紹介・あらすじ

進化を、科学を、未来を――人間を疑え!

百匹目の猿、エスパー、オーギトミー、代替医療……人類の叡智=科学では捉えきれない「超常現象」を通して、人間は「再発見」された――。
デビューから二作連続で直木賞候補に挙がった新進気鋭作家の、SFの枠を超えたエンターテイメント短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読んだ宮内悠介さんの小説でした。
    あまりに好みなので鉱山の中で宝石を発見した気分になった。
    テーマにしている疑似科学は昔『トンデモ本の世界』とかを好んで読んでいた私には懐かしく、ミステリ仕立てにしたお話の謎は魅惑的で、おまけにほのかな恋愛風味も。このさじ加減が絶妙でした。
    ずっと読み続けたい作家さんがまた増えました。

  • 面白かったです。単独で読むのは初めての作家さんでした。
    連作短編集だとは途中まで気が付きませんでしたが、主人公はなかなかヘビーでした。
    科学的なことを扱いながら、物語は人の心理的な面に焦点を当てていくところが不思議で好きでした。
    「百匹目の火神」「水神計画」「薄ければ薄いほど」が特に好きでした。何かにすがらなくてはならない、人の弱さを感じました。

  • 摩訶不思議なSF短編集。
    「ヨハネスブルグの天使たち」でも怪しい文体に引き込まれたが、本作も曖昧なSFのようなオカルトのようなミステリのような。
    標題の「彼女がエスパーだったころ」の彼女が他の短編にも顔を出すが、別に狂言回しの役どころでもない。
    それどころか仄かに恋愛の匂いを振りまいてくれる。
    いいですねぇ、「沸点」ラストの台詞「来ちゃった。」
    この曖昧さ加減にトドメを刺すような甘い一言。
    及川千春に会いたくなります。

  • 人類が現在のこの座を奪われる時が、いつか必ずやってくるのだろう。
    それは、次の知性体が、今の人類と同じレヴェルまで進化した時なのか。
    それとも、ただ単純に、人類が退化しただけのことなのか。
    という問いを投げかけられている気がした。

    望もうと望むまいと、何度でも沸点は訪れる。
    望むと望まざると、必ずその時は訪れる。

    科学では説明できない、けれど「似非科学だ」とは言い切れないある種の法則に、結局のところ私たちは支配されてしまっているのかも知れない。

    けれどそれらの法則を捻じ曲げてしまえるのは、人間の想像力だけだ。多分、今のところは。

  • 初めて宮内悠介さんを読んだ。かなり理性的な頭脳明晰な文章だと思った。また別の本を読んでみたいと思った良作短編集。

  • 火を操ることを覚えた猿の群れ、スプーン曲げを繰り返して有名になった女性、脳の一部を破壊することにより暴力衝動を消してしまう手術、「ありがとう」と言うだけで浄化される水、記録しないことで精神を救うホスピス・・・さまざまな対象を取材するライターの視点で描かれる連作短編集だ。

    途中まで、同じ人物が語り手だと気づかず、独立した短編なのかと思っていた。それくらい、主人公の影は薄く、読んでいる当初は男性なのか女性なのかもわからない。
    対照的に語られる「取材対象」は奇想に満ちていて、強く引き込まれる。

    宮内氏の頭の中っていったいどうなっているんだろう。巻末の参考文献等を見ると、各短編の核になる部分には、実際にどこかの学者が提唱している何がしかの「根拠」があることがわかるのだけれど、その根拠を胚にして野放図にどこまでも拡がっていく世界の危うさに翻弄される。

    各短編の冒頭に、オマージュされた文章が引用されているのだけれど、それがまた気が利いていて、いい。

  • 疑似科学をモチーフにした連絡短編集。物語を楽しんでいるうちに衝撃的なテーマが現れ、心揺さぶられてしまった。構成もまとまっており、それぞれの作品というよりは本全体を読み返したい気持ちになった。

  • SF、なのだろうか。ジャンル分けが難しい小説。

    6つの短編は、共時性、スプーン曲げ、オーギトミー療法、言葉による水の浄化、プラセボ効果、ティッピングポイントといった、科学とオカルト(?)の境界にあるトピックを軸に展開する。
    主人公は記者で、最初の方はまったくの語り手に徹しているが、話が進むにつれて当事者として巻き込まれていく(もしくは踏み込んでいく)。

    ドライな感じで話が進み、終わっていくように見えて、突き詰めて考えれば深く含蓄のある台詞や一文が、物語にくさびを打ち込んでいる印象。

    人の心の機微を丁寧に描く小説が好きな人にはアレかもしれない。が、枠組みの見事さがすごい小説だな(枠組内に読者がいろいろと詰め込める)と思った。
    あと、サブタイトルの英訳が、いいと思った。

  • 6つの作品が並ぶ。
    火を使うことを覚えた猿、スプーン曲げの少女、
    脳幹手術をうけたロッカー、インチキ科学を奉じる宗教、
    医療拒否するホスピス、脱アル中の匿名会の事件

    ルポライターであろうか?語り手が同一人物であるらしいことで、ゆるく繋がっている作品集。
    表題「彼女がエスパーだったころ」の彼女・及川千晴も、あちこちで登場する。

    SFという形態ではあるけれど、社会の”企画”に合わない人間が、どのように折り合いをつけて人生を消化していくか、そういう悲しみや辛さがたくさん詰まっている。
    宮内小説は、いつも”異質”を意識させられるんだよね。
    でも、縁もゆかりもない全然関係ない”異質”とは違う。
    ちょっと何かを知っている、変わったことができる、体をこわす、心が疲れる そこから生じる異質......

    最後は救いがあります。
    大事な人のことを大事にする力こそがエスパーかも ....

  • 宮内悠介面白そうだな、どの作品を読もうかな、とリサーチしていた矢先の吉川英治~でしたので、ヨシキタとこの本を選びました。
    短編集で、連作……に当たるのだろうか。関係性はありますが、因果関係は強くない模様。
    ドライなようで実はウェットなのかその逆なのか、私には判断が難しいです。
    狐につままれたような読後感、さらにその後やってきた、幻の狐を追い求めるような感覚、かなり独特なもので、クセになりそう。良い作家さんだなあ。

    収録作の中で一番ツボだったのが『百匹目の火神』。
    猿による全国規模の連続放火をめぐる話。エンタテイメント的なものと文学的なもののブレンドぐあいが、とても私の好みに合いました。ラストシーンは「あざといぜこんちくしょう」とつぶやきながら、でも感動しちゃうもんはしちゃうんだから仕方ないじゃないですか。

    『水神計画』も好きです。言葉により水を浄化する、世界を浄化するという精神世界めいた<水神計画>に主人公は関わっていくが、意外な方向に。
    このタッチでこの展開を書いてしまうことがまず異常でした。なんだろこれ、とやや戸惑いながら読み進めましたが、主人公が窮地に陥った時の光景が面白く(限定的な愉快ではなく)、この頂点に、それまでとそれからの諸々が収斂されていく様が興味深かったです。

    他の本も読んでみようと思います。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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