大きな鳥にさらわれないよう

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199650

作品紹介・あらすじ

遠く遙かな未来、滅亡の危機に瀕した人類は、「母」のもと小さなグループに分かれて暮らしていた。異なるグループの人間が交雑したときに、、新しい遺伝子を持つ人間──いわば進化する可能性のある人間の誕生を願って。彼らは、進化を期待し、それによって種の存続を目指したのだった。
しかし、それは、本当に人類が選びとった世界だったのだろうか?
絶望的ながら、どこかなつかしく牧歌的な未来世界。かすかな光を希求する人間の行く末を暗示した川上弘美の「新しい神話」

感想・レビュー・書評

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  • それは地球の遠い未来の形なのか。それともここから人類の歴史が再び始まるのか…。
    とてつもない年月をかけた壮大な連作短編集。
    ファンタジーのようでいて、人類のリアルをシュールに描いたようでいて…この世界観はちょっと一言では表現できない。

    「おれたち生命体なんて、地球にとっては塵ほどのものでもない。でも時々は、生命体は地球をいらいらさせているらしい」
    この文章にはドキッとさせられた。
    世界レベルの自然災害や異常気象…ここ近年の地球はさぞかしイライラしていることだろう。
    そして人類の数が減ってどこがいけないのか、という問いも深い。

    短編の最後を読み終えて再び初めの短編を読み直すと感慨深い。
    この物語は俯瞰的にこの世の全ての生き物を見る神話だったんだ。
    そしてその瞬間、我々は神話の一部になった。

    この物語を読み終えた今、長い長い白昼夢から目覚めたような余韻が続く。
    川上さんの作品をもっと読みたくなった。

    • mofuさん
      まっき~♪さん、はじめまして。
      こちらこそ、いいねをして頂きありがとうございます。
      フォローもして頂いて、とても嬉しいです(*^^*)
      ...
      まっき~♪さん、はじめまして。
      こちらこそ、いいねをして頂きありがとうございます。
      フォローもして頂いて、とても嬉しいです(*^^*)
      まっき~♪さんの本棚もとても素敵ですね。私の好みの本が沢山あってとても嬉しいです。

      川上さんのこの作品は、読んだ後もずっと余韻が続く、記憶に残る本になりました。

      今後ともよろしくお願いします。
      コメントをありがとうございました(^-^)
      2018/04/15
  • 衰退する人類の未来を描いた物語、SF、神話。

    ものすっごい、ピュア。
    出張の帰り、すっかり刈り取られた田んぼの中を無駄にのんびり走る(今どき途中駅で15分も停まる!)鈍行列車の中で、ゆったりとした気持ちで本著を読んで、なんだか少し救われたような気持ちになりました。
    「清い水」と例えるよりは、「きよい みず」で、表現を紐解いて紐解いて因数分解していった、これ以上ない最後のアウトプットがこの文章、という感じ。

    そして、構成の妙。
    スイスイと読み進められる短編の連なり、うっすら繋がり始めたなぁと思ったら、明確な線が見えてくるこの気持ち良さ。著者の技量には脱帽です。
    裏表紙の紹介文に「新しい神話」とまで書くのはやりすぎじゃ…と思ってましたが、そんなコト全然なかった。。

    で、かなり野暮なのですが、SFを読んだらなんか考察をしたくなるので…
    こんなにあったかい文章なのですが、本著の展開は人に対して冷たいのです。冷たいと言うか、シニカルと言うか。そのギャップも含めての面白さだとは思うのですが。
    人の悪い面や無力さがしばしばクローズアップされていて、さて、じゃあ現実においても、人類は将来自滅するんだろうか?ということを考えさせられます。
    ただ、こんなに穏やかに自滅できるんだったら、アリなのか。ディストピアとはではなく、ゆるーい管理(「見守り」をどこまでと捉えるかとかはありますが…)のユートピア。
    それでも、本著の登場人物たちが静かに闘っていたように、そういう場で諦めたくはないなぁ、とふと思ってしまった次第です。

    • りまのさん
      ゆうだいさん
      こんばんは。はじめまして。
      フォローに答えて頂き、ありがとうございます!
      川上弘美は、好きな作家さんなのですが、この作品は、読...
      ゆうだいさん
      こんばんは。はじめまして。
      フォローに答えて頂き、ありがとうございます!
      川上弘美は、好きな作家さんなのですが、この作品は、読んだ事がありませんでした。
      ゆうだいさんのレビューを読んで、この本を、読んでみたくなりました。(でも、積読本が、とてもたまっている……。)

      どうぞよろしくお願いいたします。
      2021/01/14
    • ゆうだいさん
      りまのさん
      こんばんは。
      こちらこそ、ありがとうございます!
      私は、川上弘美さんの著作はこのブクログで初めて知って、こういった本に会え...
      りまのさん
      こんばんは。
      こちらこそ、ありがとうございます!
      私は、川上弘美さんの著作はこのブクログで初めて知って、こういった本に会えて嬉しい気持ちになりました。
      大丈夫です。きっと積読本がぜんぶ読み終わるまで、そうそう人類は衰退しないんじゃないかと思いますので、のんびり行きましょう。。

      こちらこそ、よろしくお願いいたします。
      2021/01/14
  • もしかすると数年ぶりに、寝る時間を忘れて読みふけってしまった。ゆるくつながる短編を並べていく形式が非常に成功している。どうにか作品世界の全体図を知りたいという思いでパズルのピースをはめるのに夢中になり、最後まではまらなかった第一章の位置が決まって物語が終わったときのカタルシスといったら!

    小説を読むときは映像が浮かぶほうなのだけれど、自然に思い浮かべていた映像をまんまとひっくり返される流れがあり、そのことにもとても興奮した。ヒトという、異質な存在を受け入れるようにできていないかもしれない種の一個体であることを、あのような形で提示されるとは。小説というフォーマットと、それを自在にあやつる川上弘美の力に感動した。

  • 芸術!
    難しい!
    どんな気持ちで呼んだら正解なのか…
    正解はないのが正解か?

  • 又吉は、第2図書係補佐でコインロッカーベイビーズについて、このように評している。
    「いつかはるか遠い未来の住人が、過去の世界も残滓として土の中から1冊の本を発見するならこの本がいいと思う。充分新世界の神話になり得るだろう。」
    私は、この言葉は、むしろ川上弘美さんの『大きな鳥にさらわれないよう』のためにあるように思える。
    超人的な視点で人類の営みを見つめる神としての母たちと、そして最後の人類である二人。母たちはAIゆえの合理性で人類全体の寿命を延ばすことに努めるが、人類の果てしない愚かさに抗うことはできなかった。最後まで人類を愛していたにも関わらず。予想に反して、本当の最後に文字通り新たな創造主が現れるのです。やはり人類の神たり得るのは、人間らしい人間のみなのかもしれません。我々の神がそうであるように。
    私が特に心打たれたのは、見守りが新たな人類を発見し、否応無く溢れる嫌悪感に耐えられず毒殺してしまうところ。他のレビューにも書いたが、悪人ははなから悪人として存在し得ない。誰しもが皆、悪人たり得るのです。そしてそれは差別も然り。その自覚があるかないかの差なのではないでしょうか。

  • 近未来小説というのだろうか。滅亡の危機に瀕した人類の壮大な実験・・・・なのか。 
    一言で言うなら不穏、ざわつきを禁じえない。 

  • はじまりとおわりの神話。新たな創世記。
    人間はいつも繰り返す。愛しあったり憎しみあったりしながら、何度も絶滅する。それを本能とも本性とも呼ぶのかもしれない。
    やわらかく平易な言葉で綴られていて、はじめはディストピアだろうかと読んでいたけれど、読み進めるごとに理解が難しくなっていった。「なぜなの、あたしのかみさま」で、なんとなく分かったような。
    慈愛と知恵を授ける無色透明な存在を"母"と名付けているところが恐ろしい。

  • 遥か未来、衰退していく人類が描かれる。
    読むうちに子守唄のように穏やかなイメージが身体に満ちる。終末の静けさの中で、たおやかな母の愛に包まれた生命のひとつとなってこの物語を漂う。
    ノアとカイラの物語と、みずうみの種族とそれを滅亡させた人の物語が特に心に残る。知らない存在を怖がり嫌うその人間の性質を、この読書によってなぞって自分の心の内を確認している気分だった。さまざまな能力を持つ者たちを、何も持たない自分がまるっと受け入れること、そう簡単じゃないのかもしれないと今は思う。
    純粋で綺麗な言葉が紡がれる世界。争いのない世界は理想だが、競争心は芽生えず、たしかに子孫は残さないかもしれない。
    まだ読み切らないうちに何度も遡り読み返した。

  • 人類が絶滅に向かう未来のお話。神話的なおおらかさとか、生命力、自然的な環境、人間が持つ「愛」と動物的な部分の差。1冊を通して色々な角度から、人間のようで人間ではない存在が生きている未来世界を感じることができました。ただ私にとっては少し難しかったかなあ。伏線も多く、あっここでこう繋がるんだ、という感触は多々ありましたが、もう1度読まないと真の理解には辿り着けなさそうです。私は愛に包まれて生きていくことは、必要で大切なことだと思っているから、ちょっぴり悲しくなったな。

  • ずっと読みたかった本。
    不思議でおもしろい。未来の物語だけれど、なんだかしっくりきてしまう。あり得る。

    この作品と、
    献灯使と、
    密やかな結晶とで、このジャンルの3部作になると思う。全て今年読んだのは偶然かどうか。ひんやりとした絶望、現世?の違和感、何か損なわれていく感じを物語の形で見せているよう。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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