昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062205245

作品紹介・あらすじ

本書は国鉄が崩壊、消滅に向けて突き進んだ二十年余の歴史に再検証を試みたものである。昭和が平成に変わる直前の二十年余という歳月は、薩長の下級武士たちが決起、さまざまな歴史上の人物を巻き込んで徳川幕藩体制を崩壊に追い込んだあの「明治維新」にも似た昭和の時代の「国鉄維新」であったのかもしれない。少なくとも「分割・民営化」は、百年以上も続いた日本国有鉄道の「解体」であり、それはまた、敗戦そして占領から始まった「戦後」という時間と空間である「昭和」の解体をも意味していた。

感想・レビュー・書評

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  • これは本当にすごい本、というか凄すぎる内容の本だった。
    明治国家の西洋化の象徴として新橋ー横浜間の鉄道が最初に通され、終戦直後には復員兵を数十万単位で引き受け、64年の東京五輪では新幹線を通したが為に赤字転落をした国鉄は最終的には、職員27万人、累積赤字37兆円(!)となり、複雑な労使関係、より複雑な労労関係、そして半国家組織であるが故の絶え間ない政治の介入により1980年代初頭には瀕死の重体となっていた。この国鉄を「分割民営化」して再生させるという1点に執念を燃やした国鉄キャリヤ組の井出、松田、葛西の"改革3人組"と脆弱な党内基盤ながらも抜群の政治センスを発揮して"戦後政治の総決算"を特に国鉄民営化において実現しようとする政治家、中曽根康弘らが主役のこの物語(まぎれもない実話だが)は、様々な困難で複雑な状況を乗り越えながら、最初の検討(第二臨調)から6年越しで分割民営化を成し遂げていく、それはすなわち国鉄の巨大な労働組合(国労、動労など)を分割することであり、それは全国的な労働組合連合である総評の中核を消滅させることにつながり、最終的には総評を基盤とした左派政党である日本社会党を減退、変容させることにつながった。つまり国鉄の分割民営化は昭和日本国家の解体へとつながった訳である。

    内容の詳細は省略するが、読み終わって思うことは、"これこそが政治である"ということである。職員25万人、国民の足を担う巨大組織の大改革には策謀と裏切り、変節、保身、増悪、執念などの様々な情念が宿り、さらに利権や選挙、組織の存亡など具体的事象も絡まり最終的には労組同士の殺し合いにまで展開してく、まさに人間世界の悲劇、喜劇のすべてがそこに表出されているように思える。この組織の人間の情念をすべて賭けたすさまじい権力闘争に比べれば、いまの政治状況などはすべて児戯に等しく思えてしまうのである。

    なお、「凄すぎる内容の本である」と評したが、このものすごく複雑で経過年数も長大な大河ドラマの詳細を調べつくし、かつ読者を迷わせることなく理解させる筆者の構成力、筆力も驚かざるを得ない本であった。とても分かりやすく淡々と事実を構成して語ってくれているのだが、これほど凄みのを感じる本も本当に珍しいと思う。

    前回読んだ「愛国とノーサイド」に続き、私が生まれる少し前、私が全然知らない日本がそこにあったことだけは間違いない。うーん凄すぎる。

  • とにかく詳しい。一度読み返さないと消化しきれない。組合幹部は何がしたかったのだろうか。いやはや。3人組のうち、東日本は動労に屈し、西日本は尼崎をやり、東海だけはまだ大きな失敗をしていないが、はたして葛西は無事一生を終えるのだろうか。あそこが1番危なそうなものだが… すごい時代だけど、そんなに昔のことでもなく、今でも過激にストが打たれたら、怒り狂った民衆が駅員に襲いかかることができるのだろうか。

  • 国鉄がいかに腐敗していたか、そしてJRに転換することが必然だったかよくわかる一冊。
    今のビジネスマインドでは通用しない事がまかり通る時代だったんだと。

  • ふむ

  • 国鉄は戦後も公共企業体として再出発しながらも政治との蜜月が続き、利権化されていた。さらには戦後の民主化政策で労働組合が力を増し、五十五年体制を作り上げる。国鉄はまさに昭和の腐敗した歴史の象徴であり、それが解体していく様は圧巻。
    また、中曽根首相の先見の明、断固とした決意、圧倒的な政治感覚には目を見張るものがある。
    以前読んだ国鉄改革の本は、葛西の視点によっており重視しているポイントも違うように感じたので、そちらも改めて読み直し比較してみたいと思った。

  • 自分の年齢としては当時はまだ子供で、このようなドロドロした世界があること自体も知らなかったが、読むと壮絶な暗闘という言葉がしっくり来ると改めて思った。淡々とした語り口も主題に合ってしていて、硬派な内容で分量も多いが意外とすらすらと読み進めることができた。

  • 国鉄栄枯の歴史を国鉄内部の目線で描いたルポ。
    鉄道ファン向けに描かれるような東海道新幹線開通や世間の様子ではなく、国鉄がJRへ解体されるまでの組織と政治の話に特化していて、その人間の織り成すドラマはあまりにも金と欲にまみれて重苦しい。

    変わり続ける政治家、利権をむさぼる労働者、不明瞭な責任の中で愛されなかった国鉄という組織が、国鉄三羽ガラスと言われる井出、松田、葛西の三人の官僚を中心に終息を迎える。
    筆者はベテランなだけあり、(ドラマ的な描き方をしている部分もあったが)可能な限り事実を書こうとしていたように思われる。

    心底悔やまれるのが、福知山線事故の責任を感じた井出が国鉄改革回想録2000ページをお蔵入りさせたという話。
    本書はこちらも参考にされているとのことから、他の国鉄関連書籍を読んだ上で再読したいと思った。

  • 国鉄の民営化は本当に本当に大変だったと生々しく伝わってくる。

  • 国鉄が労使対立と巨額の債務のなかで迷走を続け、分割民営化されるまでのドキュメント。親方日の丸で統制の取れない職場の実態が生々しい。

  • 本来は、国鉄の解体が昭和の解体であるということを、すぐに分からなければならないのでした。
    いや、本当に勉強になりました。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。昭和16年(1941)、大分県生まれ。昭和39年(1964)早稲田大学第一政治経済学部政治学科卒業。同年、日本経済新聞社入社、東京本社編集局社会部に所属。サイゴン・シンガポール特派員、平成元年(1989)、東京・社会部長。その後代表取締役副社長を経て、テレビ大阪会長。著書に『サイゴンの火焔樹――もうひとつのベトナム戦争』、『「安南王国」の夢――ベトナム独立を支援した日本人』、『不屈の春雷――十河信二とその時代(上、下)』(すべてウェッジ)などがある。

「2017年 『昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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