巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)

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著者 : 永幡嘉之
  • 講談社 (2012年4月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062577670

巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)の感想・レビュー・書評

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  • ほんとうの「豊かな自然」とはどういうものか?
    震災後の秋、三陸の河川を多数遡上したギンザケはメディアなどに「生命のたくましさ」などとして好意的に取り上げられた。しかしギンザケは外来種であり本来そこにいるはずのない生物だということを、本書を読んで初めて知った。他にも様々な例が提示され、自分が知っているつもりだった「豊かな自然」はただのイメージでしかなかったのだと気付かされた。
    筆者が吐露する「こんなときにこんなことをしていていいのだろうか」という煩悶は、その時その場で「命を救うこと」に関わらない学問や職業に就いている人間なら誰しもが感じることだろう。でも、胸をはってほしい。その土地の表情を守るための活動は、必ず、その地に根付く人々の精神的な豊かさを守ることに繋がると思う。そしてそれは、その地の人々を世代を超えて守ることになると思うからだ。
    被災した東北の、動植物の生息地を調査し続けて目の当たりにした破壊の痕に打ちのめされそうになったときもあっただろう。これからいくつもの絶滅を確かめなければならないだろうと筆者は書いている。状況は全く楽観できるものではない。けれどそれでも調査を続け、豊かさとは、復興とは何かを問い続ける筆者に敬意を表したい。

  • 冷静で、客観的で、そして視点の面白い「環境書」。扱われている事象が事象であるだけに、手放しで「面白い」とは言いにくい。

    しかし3.11はつまり、「自然環境」と「生態系」を巡ってビッグバン的大事件が起こったということは言えるわけだ。その中で生命がどう生き抜き、どう死に絶え、そしてそこに人間がどう関与していくのかという内容が、ある意味で残酷に描かれている。そしてその残酷さが興味をひきつける。

    生態系が破壊されたと、単に嘆く本ではない。動植物が戻ってきつつあると、明るくはしゃぐような本でもない。そして「復興」によって希望の持てる未来がやってくるなどという楽観論もない。かといって環境愛護一辺倒でなく、開発悪玉論一辺倒でもなく、バランスのとれたクールさが、読み手に取って(残酷で)気持ち良い。

  • 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は人的被害だけでなく、三陸沿岸の生態系をも一変させた。その地域に存在しなかった動植物が、津波によって運ばれて根付いたものもある。東北地方太平洋沖地震の被害を人間の視点だけでなく、自然界の視点からも注目すると興味深いものがある。

  • 東北を襲った巨大津波は生き残った動植物の生息地も激変させた。震災直後から生きものたちの消息を追って奔走した著者が問う「真の復興とは」。

  • 読み進めるにつれて、著者が被災地に配慮してあえてオブラートに包んでいる“本当の意図”がいろいろな行間から滲み出てくるような気がしてならなかった。

    東北地方の海岸線には、防風や防砂、そして景観維持目的でクロマツが多く植えられていた。緑が濃いその景観は、一見、豊かな自然が残されているように見える。しかし、本当の自然界-東北地方に本来生息すべき動植物の眼から見た場合、クロマツだけが勢力を広げ繁殖するのは「人間の作為」によるしかありえず、ある意味自然に反した姿だ。

    「多くの動植物の絶滅が心配される状況は、津波だけによって引き起こされたものではなかった。『この程度なら大丈夫』という小さな開発が重ねられた結果、池や湿地の孤立が極端に進んでいたからこそ、津波による生態系への影響は深刻なものになったのだ。」(本書P33)

    つまり、東北の自然や生態系の破壊は2011年3月11日の巨大津波によって激変的にもたらされたのではない。護岸壁、道路、水路などのコンクリート化といった“完全破壊”のほか、湿地の水田化や砂浜へのクロマツ植樹などの、一見自然が残ってるように見える“ニセ自然”も含めた、人間の手による自然環境の変化(=破壊)が手を変え品を変え進められてきた結果で、津波は単なる1つの契機に過ぎないと言えないだろうか?

    もちろん、著者は人間の生活実態を無視してまで動植物を守ろうとする、よくペット愛好者とかで見られる生類憐みの令的な生き物偏愛主義者ではない。著者が生息地に入って写真を撮る行為すらも、一種の生息環境の破壊行為にほかならないはずだし。

    しかし、人間が自分の生活を維持するために犯している「生態系の破壊行為」という事実を直視せずに、津波による破壊の事実に驚いてるだけでは、もし津波が起きていなかったとしても、遅かれ早かれ人間の手によって生物たちの生きる場が失われてしまうという恐れから目を反らす「楽観論者」に陥ってしまう。

    「いま、…津波跡地に大規模な公園や施設、植樹による森つくりなど、新しいものを作る計画が次々と耳に入ってくる。だが、新しいものを作ることでもたらされる「物質的豊かさ」と、生まれ育った場所の自然の風景に懐かしさを感じる「精神的な豊かさ」とは、必ずしも共存するとは限らない。…復旧あるいは復興の名のもとに進む開発によって、土地の個性ともいうべき地域の自然環境が失われ、画一的な公園に変わりゆくとすれば、地域で暮らしてきた人々の生活から失われる「精神的な豊かさ」もまた大きい。」(本書P206)

    これを読んでも、著者は人間の生活を脇に置いて生態系を守れとは言ってないのがわかる。著者が求めるのは、豊かな生態系と、それによってもたらされる人間生活の豊かさだ。
    この本に収録されたトンボ、カエル、ハマナス…の写真は本当に私の心を豊かにしてくれた。
    (2013/1/27)

  • 東北の自然は豊かと言われるが実は残っていたのは「わずか」であり細々と生き残り孤立していた
    津波の塩害でとどめを刺され、避難できる淡水が近くになかったならば生き残ることは難しい
    「油」は流れ去ったが「塩」は水に溶けいつまでも残った

  • 読了。

  • 津波の影響というとどうしても人間社会に対するものに目が行き、それは仕方が無いというよりは当然である。
    しかし「ボランティアの方たちに後ろめたさを感じ」ながらも、自然環境への影響をきちんと調べた本書は傾聴に値する。立派な仕事だ。
    自然が戻ってるように見えても、生態系はすでに変わっている。局地的な絶滅が起こったのだ。

  • 直接的には、津波が多くの生命を奪い、少なくない種を地域からの絶滅に追いやったのかもしれない。しかし、真の原因は、大震災の前から、大規模な開発によって、希少種の生息域が分断されて孤立化していたこと。いったん、孤立化した生息域内の種が巨大津波によって全滅すれば、孤立していたがゆえに、周辺からの同種の移動も望めず、その一帯で絶滅するしかない環境に追い込まれてしまう。繰り返される筆者の主張は、震災後の東北地方で懸命に生きる生物たちの美しい写真(特にトンボの写真は本当に美しい!)とともに、深く心に残った。この国は、いつまで自然環境を破壊し続けるのだろうか。そして、我々には何ができるのだろうか…。

    (2013/11/1読了)

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巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)の作品紹介

2011年3月11日に東北を襲った巨大津波は、生き残った動植物の生息地をも激変させた。死滅するカエルの卵、真夏に枯れゆく木々、姿を消した絶滅危惧種のトンボたち…。しかし津波の影響がかつてない規模になったのは人間による隙間のない土地利用が原因だった。「復興」の名のもと、急速に進む土木事業は本当に東北の「豊かな自然」を回復できるのか。震災直後から生きものたちの消息を追って東北全域を奔走した著者が問う「真の復興とは」。

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