古代日本の超技術 改訂新版 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062577977

作品紹介・あらすじ

東京スカイツリーの制振装置にも使われた、「倒れない五重塔」の秘密。驚異の湿度調整能力で家屋を守る古代瓦。名刀「正宗」に半導体顔負けの多層構造が隠されていた!朽ちない釘に重要な役割を果たした"不純物"とは?縄文人はアスファルトを利用し、レーザーをしのぐ穿孔技術をもっていた!現代のハイテクを知り尽くす半導体研究者が自ら体験・実験して見抜いた、古代日本が誇る、自然を活かしきった匠の技のすべて。

感想・レビュー・書評

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  • 縄紋時代の三内丸山遺跡(5500年前-4000年前)の大型掘立柱(直径1m、高さ約15m)が凄いのだとよく言われる。しかし、どの位凄いのかは実は知らなかったことを知った。ここには、なんと現代の私たちをもびっくりさせる「技術革新」が幾つもあったのである。
    ●木柱の底部の形は石斧で整えられ、柱の周囲は焦がして腐りにくくする加工が施されていた。
    ●全ての柱が4.2mの等間隔(←約35cmの縄紋尺の存在)
    ●全ての柱を内側に二度傾けることによって、互いに倒れにくくした「内転び」の技法
    ●枠を作り、少しずつ土砂を混ぜて固める「版築」の技法(←世界史では4000年前の龍山文化より始まるとされている)を使った形跡がある。
    ●柱をどのように立てたのかはまだ解明されていない。

    著者は「自然を活かし、自然に活かされていた古代日本の技術がねじ曲げられ始めたのは、室町時代のようである」と言っている。「それはまた、日本に「成金文化」が栄え始めた時代でもあった」。「効率」と「経済性」の執拗な追求、それが貴重な技術を失くす元凶になったのである。

    私は、中国や韓国博物館を渡り歩いて古代に関して云えば海外の方が遥かに文明度が高かったと思っていたが、少し認識を修正しなくてはならないかもしれない。モンスーン気候で木々が豊富にあり、細やかな自然の変化がある日本列島には其れなりに世界の最先端をゆく技術があったのである。伊達に縄紋弥生で2600年を過ごしたわけじゃない。

    以下、印象に残った処をメモする。

    ●日本の仏塔は500以上あるそうだが、それらは焼失で建て替えはあったが、地震による倒壊はほとんど「皆無」だそうだ。「方丈記」に載っている1185年の大地震でも、関東大震災でも、東日本大震災でも木塔はひとつも倒れていない。なぜか、現代のスカイツリー、高層ビル建築に応用されている「宙吊り心柱」が採用されているからである。
    ●木材加工技術に関して。「古事記」でスサノオが「舟は杉と楠で、棺は槙で、宮殿は檜で作れ」と言っていたが、全て理に叶ったものだった。
    ●杉は比重が小さく(軽く)、強度もあり、しかも精油が含まれているので、防腐剤、防水効果があり、大木になり、材質が柔らかく加工しやすかった。楠は比重はそれ程でもないが、樟脳と樟脳油があり、防腐剤効果は抜群、強度にも優れ、大木になる。
    ●棺で思い出すのは韓国公州の百済の墓にわざわざ日本の槙が使われていたことだ。対湿、耐水、強く、適度に軽いことが求められる。そうなれば、風呂桶にも利用される槙が良い。檜もいいが、槙が使わられるのは、独特の匂いからかもしれない。
    ●欅の方が檜よりも強度が優れている。大木でもあり、化粧的な価値もある。しかし、檜に叶わない。欅は年を経るにしたがい急速に弱くなるのに対し、檜はなんと200年ぐらいで逆に30%強くなり新木と同じに戻るのは千数百年を要する。よって法隆寺は未だに創建時の強さを保っている。だから、建材は檜、宮は檜になる。
    ●神戸市元町の竹中大工道具館は、国宝にも指定されないし、記録されることもない職人の技が見える展示館である。
    ●台鉋(カンナ)、電気鉋で削った面は確かに平滑で平坦である。しかし、削られた木の表面は木の繊維が切断されているために、水をたらすと、水を吸い込む。一方、槍鉋で削った面はデコボコしているが、木の繊維の堅い層が残されているので、水をたらしても、それをはじく。だから、黴も出来ないから耐用年数に大きな違いが出る。室町時代以前は大鋸や台鉋は使わず、打ち割製材を使い、手斧で表面荒仕上げをし、槍鉋で最終仕上げをしていた。
    ●古代瓦は呼吸をする。よって室内の湿度調整をすることにより、高温多湿の日本の気候から古代木造建築を内から守って来た。現代瓦は呼吸せず、建物を外からの攻撃から守るだけ。
    ●古代の釘は千年持つ。現代の釘は外に出しておくと10年たたないうちにボロボロになる。飛鳥時代の和釘はおよそ1300年もち、まだ1000年経っても大丈夫だと言われている。それはたたら製法から作られた和鋼の釘だからである。たたら鉄には錆びやすくする不純物(硫黄、マンガン、シリコン)が少なく、錆びにくくする不純物(チタン)が多い。さらに黒錆が出たらそれは赤サビとは違い返って鉄を錆から守るのである。
    2013年4月17日読了

  • 毎年、初詣などで神社仏閣系の場所を訪れると、心なしかほっとした気分になる。めまぐるしい変化にさらされている昨今、何年も変わらぬ佇まいを見るということは落ち着くものだ。

    世界最古の木造建築である法隆寺五重塔をはじめ、日本には古代からの木造建築が、今でもたくさん現存している。周辺の建物が様変わりしていく中、なぜこれほどもの長い間、これらの建築物は風雪に耐え抜くことができたのか。

    答えの一つに、「古代人」の技術が「現代人」の技術を上回る要素を持っていたということが挙げられる。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、紛れもない事実なのだ。本書はそんな、1000年を耐えぬいた古代人たちの技術や思想を紹介した1冊である。

    たとえば釘。現代の釘は外に出しておくと10年も経たないうちに真っ赤に錆びてしまうが、飛鳥時代の釘はおよそ1300年ものあいだ新品同様の状態を保っており、この先1000年使っても大丈夫と言われているほどである。古代の釘が朽ちないのは、純度、環境、そして高度な鍛錬を行なっていたからなのだという。

    瓦も同様である。古代の瓦は、雨の日は木造建築物の天井裏から室内の湿気を保湿し、天気になればそれを屋根から蒸発させる。つまり自ら呼吸をし、屋内の湿度調節をすることによって、高温多湿の日本の気候から、古代木造建築物を内からも守ってきたのだ。

    最先端技術を駆使して量産されている現代瓦が古代瓦に劣る。これは一言でいえば、現代の技術が「生産性」「経済性」「効率」にひたすら応えようとしてきたことの裏返しにほかならない。自然を活かし、自然に活かされていた古代日本の技術が、この方向に舵を切り始めたのは室町時代以降から。それはまた、日本に「成金文化」が栄え始めた時代でもあったのだという。

    釘、瓦などの部品のみならず、建物が長期に渡って現存するためには、地震などの天災に対処する術も持っていなければならない。これを可能にしているのが、五重塔などに見られる心柱である。これが制振のシステムとして極めて重要な役割を果たしているのだ。

    心柱の直接的な役割は、当の先端部にある相輪を支えることである。つまり、もっとも太い柱であるにもかかわらず、心柱は塔の荷重を支えることにはまったく貢献していない。それゆえに、心柱はちょうど観音開きの扉を固定する閂のような働きを行い、高度の耐震性能を決定づけているのだ。

    じつはこのような”心柱制振システム”は、日本古来の木塔に必ず使われている「古代日本が誇る伝統的技術」であるそうだ。地震国である日本にあって、木造の高層建築物である木塔が、地震で倒されたという記録はほとんど残されていない。

    だが、本当に驚くのはここからである。昨年開業した東京スカイツリー。この塔のど真ん中にも、鉄筋コンクリート製、高さ375mの”心柱”を挿入した「世界初」の制振システムが使われているのだ。世界一の高さを誇る塔に「古代日本の心柱」である。これなどまさに、現代の最先端技術と、古代日本の超技術との邂逅とも言えるだろう。

    釘、瓦、心柱。これらは建物というプラットフォームにおいては一つのパーツに過ぎない。ただ、パーツに特化しているがゆえに、その技術は輪廻転生のように、長いあいだ繰り返し使われ、常に最先端のポジションを維持することができたのだ。本書で描かれているのは、そんな脇役たちの華麗な競演だ。

    本書ではこの他にも、木目に沿って伐り倒した木を打ち割る木材加工技術や、鉄線を使って粘土をスライシングする瓦の成形工程などが紹介されている。著者は、長年、半導体結晶に関する技術に従事してきた人物。これら古代の技術が、今でも半導体の結晶の切断などに応用されていると、驚きを隠さない。

    よし、今年はこのイメージで行こう。本の文脈に沿って、鉄線でスライシングしたような書評。う〜ん、ちょっと違うかな。

    そんなわけで、皆様、本年もどうぞよろしくお願いします!

  • 「古代世界の超技術」を読み、この本の存在を知った。
    「古代世界」に比べると地味な印象がある古代日本だが、あなどれない「超技術」がけっこうあるのには驚きだ。
    目次によると、内容は
     1.五重塔の心柱
     2.日本古来の木造加工技術
     3.”呼吸する”古代瓦
     4.古代鉄と日本刀の秘密
     5.奈良の大仏建立の謎
     6.縄文時代の最新技術
    の六つ。
    「超技術」はいずれも現在の科学によって理にかなっていることがわかるのだが、なかでも作製するものによって材木の種類を変える(舟は杉/樟、棺は槙、宮は檜)というのは、なるほど理にかなっているようだ。

  • 現代技術にもつながる古代日本の超技術。廃れてしまったものもあるが、経験に基づく驚くべき技術。便利でない時代だからこそ、試行錯誤しながら、経験を重ねて培っていった技術。たたら鉄、古代瓦、大仏鋳造、三台丸山遺跡など。

  • ≪目次≫
    はじめに
    第1章  五重塔の心柱
    第2章  日本古来の木造加工技術
    第3章  ”呼吸する”古代瓦
    第4章  古代鉄と日本刀の秘密
    第5章  奈良の大仏建立の謎
    第6章  縄文時代の最新技術

    ≪内容≫
    半導体の専門家だが、物理学のフェローもしている著者による、古代の技術論(1997年版の改訂新版)。
    法隆寺の五重塔やほかの建築物の話の1、2章はなかなか面白く、3章の瓦も古代の焼き方の利点に「なるほど」と思う。効率を求めていると結果として木材をだめにしている(結露を起こすなどして)話など、今後の日本の技術発展の参考になるのではないかと思った。金属系の話は、ちょっと専門性が強くてわからない部分もあったが、日本刀の話は、もしかすると日本刀は時代劇のように何人も「ばっさ」と切れるのかもと感じた。

  • 昭和時代人であるぼくにとって、最近は「なんでこれがブルーバックスなんだよ、という本も多い(岩波新書については言うまでもない。他の新書については最初から何も言う必要はない)。そして本書、第一章が「五重塔の心柱」だ。ふつうはこの目次を見ただけで、購入を控えるに違いない(五重塔に用いられている技術は、誰もが知っている話だ)。

    しかし3章の「呼吸する古代瓦」や、4章の「古代鉄と日本刀の秘密」は素晴らしい。昭和なぼくらがどこかで見たテーマばかりなのに、「さすがはブルーバックス」と納得する記述が続く。読んでうちに幸せを感じ、にっこりしている自分を笑ってしまうほど。

    「読まなくちゃいけない本」を探しているなら、本書の怪しげなタイトルを見てまず敬遠することだろう(笑)。よっぽどのことがないと本書を手に取ることはないと思う。

    いろいろと障害があった中で、本書に出会えたことを嬉しく思う(^^)。たぶんぼくは3つくらいレベルあっぷしたと思う。

  • 東日本大震災から11年目だ。色々浮かぶことはあるが、古代の日本の技術には目を見張るものがあった。





    2012年に開業した東京スカイツリーは、古代からの技術を取り入れている。それは、制振構造技術だ。東京スカイツリーでは塔の真ん中に「心柱」を挿入した。鉄筋コンクリート製で、高さ375メートルになる。




    この技術は、奈良にある法隆寺五重塔などの日本古来の木塔に使われていた。





    日本には、木造の仏塔は全国に500以上あった。火災などの理由によって焼失して建て替えたが、地震によって倒壊した例はほとんどなかったというから驚きだ。





    瓦に方言があったと聞いて頭の中がはてなマークになった。「方言の瓦」と表現したのは、数多くの文化財建造物の再建・修復に携わった小林章男「瓦博士」だった。日本各地にある独特の瓦をそのように表現した。






    瓦も言葉の方言同様、戦後の高度成長時代とともに消えていき画一化されていった。





    驚いたのは「瓦が呼吸する」ことだ。小林から著者は聞いたところによると、「日本の在来木造家屋はかつて、屋根からも天井裏からも室内の湿気をきれいに吸って、屋根から吐き出していた。そういうことができる昔の瓦は理想的だった」と述べた。




    瓦も全呼吸していた時代があったのかあ。

  • ロストテクノロジーと現代科学。
    昔は科学的に説明できなくてもわかっていた。
    歴史も科学であると思わせる一端を知ることができる。

  • 蜊雁ー惹ス薙↑縺ゥ譌・譛ャ縺ョ繝上う繝?け邏?譚舌r謇ア縺?ーる摩螳カ縺ォ繧医k縲∵律譛ャ縺悟商莉」縺九i莨昴∴縺ヲ譚・縺滓橿陦薙?螂・豺ア縺輔r邏ケ莉九☆繧区悽縲ゅ↑縺九↑縺矩擇逋ス縺九▲縺溘?ゆコ秘?縺ョ蝪斐?蟒コ遽画婿豕輔′繧ケ繧ォ繧、繝?Μ繝シ縺ォ蠢懃畑縺輔l縺ヲ縺?k隧ア縲∝商莉」縺ョ逑ヲ縺ッ貉ソ豌励r蜷ク蜿弱@貉ソ蠎ヲ繧剃ク?螳壹↓縺吶k蜒阪″縺後≠縺」縺溘?縺ォ縲∬ソ台サ」莉・髯阪?逑ヲ縺九i縺ッ縺昴?讖溯?縺ッ螟ア繧上l縺ヲ縺励∪縺」縺溘?∝商莉」縺ョ縺溘◆繧芽」ス驩??驩??邏泌コヲ縺ッ迴セ莉」縺ョ貅カ驩ア轤峨↓繧医k陬ス驩?h繧顔エ泌コヲ縺碁ォ倥°縺」縺溘↑縺ゥ縺ェ縺ゥ縲∝柑邇?↓繧医▲縺ヲ螟ア繧上l縺ヲ縺?k繧ゅ?繧ょ、壹>縺ョ縺?縺ィ遏・繧翫?∽クュ縲??蜻ウ豺ア縺九▲縺溘?

  • 古代にこれだけの技術を、どうやって確立したのだろうか。かなり興奮して読んだ。

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著者プロフィール

志村史夫(しむら・ふみお)

1948年、東京・駒込生まれ。工学博士(名古屋大学・応用物理)。日本電気中央研究所、モンサント・セントルイス研究所、ノースカロライナ州立大学教授(Tenure:終身在職権付)、静岡理工科大学教授を経て、静岡理工科大学名誉教授。応用物理学会フェロー・終身会員、日本文藝家協会会員。日本とアメリカで長らく半導体結晶などの研究に従事したが、現在は古代文明、自然哲学、基礎物理学、生物機能などに興味を拡げている。物理学、半導体関係の専門書、教科書のほかに『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』『古代日本の超技術』『古代世界の超技術』『人間と科学・技術』『アインシュタイン丸かじり』『漱石と寅彦』『「ハイテク」な歴史建築』『日本人の誇り「武士道」の教え』『文系? 理系?』などの一般向け著書も多数ある。

「2019年 『いやでも数学が面白くなる 「勝利の方程式」は解けるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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