からだの中の外界 腸のふしぎ (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062578127

作品紹介・あらすじ

最大の免疫器官にして第二のゲノム格納庫!

進化をきわめた「おどろきの臓器」は、

実は「体外」だった!

年間1トンもの食べ物を消化・吸収し、
たえず病原菌にもさらされる「内なる外」=腸。

眼や口、呼吸器にまで目を光らせる最強の免疫器官であり、
独自の遺伝子をもつ「腸内細菌」との共進化の場でもある。

1億個ものニューロンを擁し、「第二の脳」とも呼ばれる驚異の「腸」能力とは?

感想・レビュー・書評

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  • 腸の入門書として、バランスが取れた読みやすい良書である。分野外の人にとっても適度な量のわかりやすい解説だと思われる。
    腸という器官がどのように発展し、どのような役割を果たしているのか、ざっくりとイメージを掴むには手頃な本だろう。

    消化器系は体の中心を貫く通路だと見なすことができる。そうした観点から見れば、消化管は、からだの中に存在する外界だと言ってよい。
    その中でも腸は、栄養分を体内に取り込む役割をしているため、「外」と「内」の境界をなす場所だと考えられる。生命を維持するために必要なものを取り込みつつ、有害なものは排除していかなければならない。そうした役割を担う中で発達してきた特徴がある。
    主な仕事である消化吸収に特化した形態。「第2の脳」と呼ばれるほど多くの神経細胞の存在。「外」と「内」をつなぐ門番としての免疫機能の発達。そして腸内細菌との共生である。
    順に簡単に見ていく。

    1.消化
    腸は発生の途上で、最初に形作られる器官である。生物の教科書に出ている発生初期の細胞分裂の図では、卵割が進み、まず原腸が形成されるさまが描かれる。栄養を取り込むための器官が初めにできるわけである。
    進化が進み、食の範囲が広がるにつれて、腸の機能が向上し、形態も変化してきた。
    ヒトは1年に約1トンの食物を取り込むという。多くの食物を取り入れるため、腸管は長く、そのうえ微絨毛と呼ばれるひだを多く持つことで面積を増大させている。食道や胃などの他の臓器の補助、ホルモンや酵素の働きも重要である。ヒトが超雑食となった背景には、後述のように、共生菌の存在もある。

    2.神経
    腸は実は非常に多くのニューロンも持つ。ヒトの場合、大脳には数百億のニューロンがあるといわれる一方、腸には約1億個が存在し、脊髄に存在する数に匹敵するという。これほどのニューロンを持つ臓器は他にない。
    もし「さあ、消化は今はやめておこう」と思っても止めることはできない。腸の蠕動運動は腸神経系が支配しているためである。
    独立した側面を見せる一方で、腸は脳にシグナルを送ることもある。満腹になった場合、空腹である場合、腸はホルモン等を分泌することで脳にそれを知らせる。

    3.免疫
    生命を維持するには外界から栄養を取り込まなければならないが、外と接触する際には有害なものと出会う危険が常に伴う。内なる外である腸は、水際で敵を退ける役割も持つ。
    最も外界に近いのは口であるが、口にも免疫細胞や抗体が存在する。これらは腸管で作られるものである。
    小腸の免疫系に特徴的なのは、パイエル板である。この組織には免疫系の多くの細胞が存在する。病原体が取り込まれると「武器」となる抗体を作り、粘膜固有層と呼ばれる通路を通じて、腸の別の場所や唾液・涙腺などに送り込む。
    その他、腸には「殺し屋」であるT細胞も多く存在し、二重三重の機構で体を守っている。

    4.共生菌
    体内に共生する腸内細菌は1000種、100兆個に及び、重量は1~1.5kgに達するという。
    共生菌は食物の消化に重要な役割を果たしており、種間で異なる。近年、日本人の腸には海藻の多糖類を分解する酵素を持つ細菌が存在すると報じられ話題になったこともある(Nature 464, 908-912 (8 April 2010))。
    有害な腸内細菌を増やさないようにする一方で、有益な細菌を残すため、腸には独特の免疫系が発達しているようである。
    無菌状態(体内に微生物がまったく存在しない)のマウスを作製すると、免疫の働きが低く、パイエル板も小さいという。こうしたマウスは、さらに共生菌と免疫系の関わりを調べるうえで非常に役立ちそうである。

    腸や共生菌については複雑でまだわからないことも多いようだが、可能性を感じさせる、興味深い分野と言える。その取っ掛かりとしてお薦めできる本である。


    関連書レビュー
    『腸内共生系のバイオサイエンス』
    『共生の生態学』
    『細菌が世界を支配する』

  • ・私たちの好物やからだにいいものと、腸内細菌、特に有益菌の好物は異なる。だから、食事をする際には、時には腸内細菌のことも考えて、有益菌が元気でいられるものを食べることも必要。
    ・腸内フローラのバランスが崩れると、免疫系、神経系、ホルモン系の働きが不十分になり、さまざまな病気を発症する危険性が増える。感染症、アレルギー、がん、炎症性腸疾患、肥満、便秘など。
    ・腸内フローラの正常化対策: プロバイオティクス(e.g. ヨーグルト)、プレバイオティクス(難消化性の糖質、e.g.オリゴ糖、食物繊維)の摂取
    ・腸は食に応じて進化。大腸は、生物が陸に上がってから(両生類)から現れた。
    ・小腸を構成する細胞は毎日生まれ変わっている。
    ・腸は第二の脳。多くの神経が集中し、脳に対して自律的に動いている。
    その他、免疫系、ホルモン系、腸内細菌のお話など。

  • 大阪樟蔭女子大学図書館OPACへのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/581133

  • 目新しい内容ではないが、やっぱり腸は大事だなーと思います。

  • 腸本をブルーバックスで読みなおし。内容は科学的で網羅的だったのだが、どうも興味を惹かれなかった。この分野、あまり向いていないのかも。

  • 消化器官全体の説明から腸の機能をきれいに整理した一冊。

  • 腸、特に小腸について学べるかと思って読んだ。消化や免疫、そして、腸内細菌について詳しく書かれていて参考になるところが多数あったが、腸の進化や「セカンドブレイン」など、誇張や強調、簡略化のしすぎで怪しげに思えるところも多かったし、短腸症候群の患者として不快に感じる記述もあって、他の人には勧めにくい本だった。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2015年 『乳の科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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