脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062579681

作品紹介・あらすじ

数理で「脳」と「心」がここまでわかった!

囲碁や将棋で、AIが人間に勝利を遂げた。
2045年、人工知能が人間の能力を超える「シンギュラリティ」は、本当に訪れるのか?
数学の理論で脳の仕組みを解き明かせれば、ロボットが心を持つことも可能になるのだろうか?
AI研究の基礎となった「数理脳科学」の第一人者が語る、不思議で魅惑的な脳の世界。

第1章 脳を宇宙誌からみよう
 まずは脳がいつどのように誕生したかをみていこう。その起源をたどるには、宇宙のはじまりを知らなくてはならない。生命が脳を持ち、人に「心」が宿ったのはなぜなのだろう。

第2章 脳とはなんだろう
 私たちの脳には1000 億もの神経細胞が詰まっていて、それが思考を担い、心を司っている。そもそも脳とは、どのような器官なのだろうか。最新研究で明らかになってきた脳のメカニズムを紹介しよう。

第3章 「理論」で脳はどう考えられてきたのか
 現在ブームとなっている人工知能は、脳にヒントを得て1950 年代に提唱された理論モデルから誕生した。「理論」で脳の仕組みを考えるとは、どういうことなのか。その歴史をたどってみよう。

第4章 数理で脳を紐解く(1):神経興奮の力学と情報処理のしくみ
 数学の理論を使って脳の仕組みを考えるのが「数理脳科学」である。本当にそんなことができるのか、数理の世界を披露したい。神経回路はどのように興奮し、記憶はどうやって蓄えられるのだろうか?

第5章 数理で脳を紐解く(2):「神経学習」の理論とは
 数理の視点から、脳がどのように学習するのかを考えてみよう。これは、最近注目を集めている人工知能の「ディープラーニング」の基礎になっている理論である。

第6章 人工知能の歴史とこれから
 技術がさらに発展すれば、人工知能が人間を超える「シンギュラリティ」が本当にやってくるのではと騒がれている。その歴史を振り返り、未来を考えてみたい。

第7章 心に迫ろう
 これまでみてきたように、脳の仕組みが次第に明らかになってきている。だが、脳科学の最終的な目標は「心」を知ることである。それが叶えば、心を持つ人工知能が誕生する日も訪れるのだろうか?

感想・レビュー・書評

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  • 本書の前に、池谷裕一さんの「単純な脳、複雑な『私』」という本を読んだ。池谷さんは、薬学が専門で、その方面から脳科学を研究されていた。そして、本書の著者・甘利俊一さんは、数理工学という分野から脳科学を研究されていた。

    池谷さんも著書の中で、「脳」の研究というと医学部だと思うだろうが、いろんな分野で研究しているんだと言われていた。医学部、薬学部、工学部、以外でも理学部、心理学の側面から文学部、など様々な角度から研究されているようだ。

    本書の著者は、脳の働きを数式化して、それで解明していこうとされたのだと思う。「思う」というのは、本書の中にたくさん数式が書かれていたが、その内容についてはチンプンカンプンで、たぶんこんなニュアンスかなといった程度しか理解できなかったからだ。

    脳の働きといっても個人や、その時の環境や、様々な条件で違うのだろうが、それを一般化して数式に表して、マクロ的に理解していこうというもののように自分は理解した。

    だけどもそういう方法であっても、導き出された脳の特性や働きの理論は、他の角度の研究結果と全く矛盾するものではなく、ある考えの基礎となっていたり、あるいは補完していたりする。著者の初期の研究は、現在の脳科学の研究の先駆け的なものだったようだ。

    著者は、若いころに数学の魅力に取りつかれ、そこからそれを脳科学の研究に応用し、本書を著した80歳(傘寿)の年齢まで、精力的に研究を続けてこられた。そして、本書はその傘寿の記念に、執筆されたようだ。

    第一章では「宇宙誕生から脳をもつ生物が生まれ、さらに将来どうなっていくか」の歴史の語りからスタートしたが、最後のページでは、ご自身の「80年間の研究人生の歴史とこれから」について記されていたのが面白い。

    2045年頃、人工知能が人間の能力を超えるだろうとする「シンギュラリティ」について、軽く述べられていたが、最後のほうでは、人工知能により研究が進み、例えばロボットにも心を持たせることが可能かというようなことに触れられていた。

    人間が行う「先読み」と「後付け」の話は興味深かった。人は、情報をもとに先を予測して方策を講ずる(=先読み)。また人は、自分の選んだ行動を後付けで合理化する(=後付け)。

    池谷さんの本にもあったが、実験の結果、アクションが先でそのあとに「アクションを行った」という意識が起こっているということが分かっており、これは行われたアクションに対し、人間が後から意味付け、合理化を行っているというものである。

    こういう「先読み」や「後付け」の仕組みの研究が深まってくると、そういうことができるロボットを作れそうな気がしないでもない。人間と同じような行為を、コンピュータ上の高速計算で割り出し、行わせることが可能となるかもしれないと感じる。

    反面、近いところまで行くが、越えられないような気もする。

    本書の中に。AIと将棋のプロの対戦で、「角を成らない」手を人が打った時に、コンピュータが混乱して負けたという話が載っていた。そういう柔軟な発想ができるのが人間の心であって、その結果がなければAIは強く成れないような気もする。

    それさえもできるものが2045年にできるのかどうかは不明だが、人間としては、人間優位でいてほしいという願望と、そうならないほうがよいとい危機感みたいなものがなんとなくある。

  • 新聞広告が出る前に書店で見つけて即買いました。もう甘利先生が書いた一般書って初めてではないでしょうか。興奮してすぐに読み通しました。「数理脳科学」格好良過ぎます。もちろん情報幾何など専門的内容は分からない部分もありますが、脳科学の分野での甘利先生の立ち位置とか、その時々でどんなことを考えて来られたのかとか、そういうことを知ることが出来て感激です。人工知能についてはこのところ話題に上がることが多いですが、先生が最終章で書かれていることを読んで納得しホッとしているところです。長くなるので最後の一文だけ引用します。「人間がつくるロボットは、あくまで人と協調し、人を助けるものに留まるだろう。」なぜ、先生がそうお考えかは本書を読んでみてください。実はほぼ並行して「現代思想6月号」で津田一郎先生の書かれたものも読んでいるので、混ざってしまっているのかもしれないのですが、意識とか感情とか心というものが、どう定義されて、どういう関係にあるのかをもう少ししっかりとつかんでいかないといけないと感じました。

  • 人間の脳の仕組みを元に、工学的にAIにアプローチしてきた研究内容の紹介。昨今のIT企業主導の実用的AI事情は軽くスルーしている。微妙な頻度で数式が登場してしまっていて、数式アレルギーだと、読むのを諦めるかどうか迷うところ。でもまあギリギリ読み進められる感じだ。著者の自己承認欲求がどうにも強い文章だけれど、御歳80の名誉研究者の言葉なので、ありがたく頂くのが良いだろうし、何よりもピュアな研究者の心意気のようなものも感じる。

  • 数式はよくわからなかったけれどもそのわからなさも含めて熱気の伝わってくる本だった。
    なんとか学習法というものを著者が世界で初めてモデル化したにもかかわらず、欧米の研究者のほとんどはそれを黙殺してきたことへの不満が随所に見られるとともに、脳研究の第一線を走ってきたという自負もうかがえる、コラムがとくに面白かった。
    2045年のシンギュラリティに対する見解も著者らしい。
    人間が作ったものが、人間を凌駕するということなどないのだ。人間が作った暴力装置が人間を駆逐することがあるとすれば、それは「凌駕」と呼ぶべきではなく、「十分に想定内の結果だった」と言うべきだ。

  • 甘利先生のあの口調が聞こえてきそうに
    楽しそうな一冊。
    正直難しいとこは飛ばしましたが
    こぼれ話とか面白く。
    先生いつまでもお元気で…✨

  • 人工知能をこれ以上無いと思われる背景、ビッグバンに遡り、生物と脳の発展を振り返り、脳とは何かについて分かり易く解説、そして、ニューロコンピューティングを中心に、現在の第三次人工知能ブームに繋がる第一次人工知能ブームと第二次人工知能ブームそしてその間に横たわる冬の時代をご自身の研究と重ね合わせて丁重に解説。続いて著者の専門である「数理脳科学」についての説明があり、再び人工知能の歴史の説明に戻りつつ未来を俯瞰、終章はでは人間の心に迫り、BMIやロボットの未来を示唆する。
    長年の研究人生が滲み出る好著です。著者の専門である「数理脳科学」の部分は難解ではありますが、記憶の仕組みやパーセプトロン(初期のニューロコンピューティング理論)について、少しは分かったような気になりました。
    また、IBMも共同で研究所を開設している、ジェフ・ホーキンスが提唱する大脳の構造や信号処理を模した生物学的アプローチで階層的時間記憶理論(Hierarchical Temporal Memory Theory = HTM理論)の源流は著者の甘利氏にあるようです。

  • 途中専門的な数学の解説はほとんど理解出来なかったが、大学内のオープンカフェで読みながら、深い思索にふけることができた。先のアメリカ大統領の広島における演説を読みながらでもあり、私達ヒトという存在を俯瞰しながら考えてみるとても大切な経験を得ることができた。

  • 数式の理解ができたかどうかたぶんできていないので星ひとつ減らしたけれど、内容的には面白く、著者の感慨も含めてよい入門書であると言えよう。

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著者プロフィール

甘利 俊一(あまり・しゅんいち):1936年、東京生まれ。1963年東京大学大学院数物系研究科博士課程修了。工学博士。九州大学助教授、東京大学教授、パリ大学客員教授、ルーバン大学特任教授、理化学研究所脳科学センター長などを経て、現在は同センター特別顧問。東京大学名誉教授。専攻は数理工学(神経回路網理論・情報幾何学)。「神経情報処理の基礎理論の研究」により、1995年日本学士院賞受賞。文化功労者、文化勲章受章。著書に『情報理論』(学芸文庫M&S)、『脳・心・人工知能』(ブルーバックス)、『情報幾何学の新展開』(サイエンス社)ほか多数。

「2024年 『神経回路網の数理 脳の情報処理様式』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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