「民都」大阪対「帝都」東京 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 164
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062581332

作品紹介・あらすじ

大阪。30年代まで人口、面積、経済すべてに「帝都」を圧した「民衆の都」。ターミナル・デパート、高級住宅地…。私鉄を中心に花開く市民の文化。しかし、昭和天皇の行幸を境に「帝国の秩序」が浸透し、人びとの心は変容する。権力の装置=「国鉄」と関西私鉄との葛藤を通し、「都市の自由」の可能性とその挫折を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 原先生が大好きになるきっかけの本。
    阪急クロス問題あたりの描き方がとてもよいです。

  • 近年、何度か関西方面に足を運んで、関西での私鉄各社の発展や背景というようなことに、何となく関心を強めていたところだったので、本書に関しては「タイムリー」な感じだった…
    明治時代辺りからの鉄道の発展経過の中、関西では首都圏や他地域以上に私鉄が先導的な役目を担ったことや、鉄道経営を軌道に乗せて行くための戦略として色々な手を打って、結果的に“文化”が創造された経過等が本書では詳しく説かれている…
    こういう関西の様子に対して、大正時代の終わり頃から昭和の初めに掛けてという時代は、「天皇を頂く統一国家」としての“帝国日本”という体制、意識が昂揚、完成していく時代という側面も在る。そうした“時代”と“大阪”との関わりというものが、“鉄道”を切り口に説かれている辺りがなかなかに興味深い…
    実は本書の初登場は1998年とのことで、極一部に「その場所?現在は様子が一寸違うが…」は交じっている。しかし、気になる程でもない…全国各地で、同じように流れる時間の中、淡々と動く方々の各種列車が在って、それが“帝国”の要素となって行く様子と、それに対してそういう趨勢が強まる以前に独自の発展を遂げた関西の私鉄の対比が本書の肝なのだから…
    本書は、“乗物”にも“歴史”にも興味が在るという私にとっては、なかなかに好い“贈り物”となってくれた。

  • 大阪樟蔭女子大学図書館OPACへのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/283319

  • 大正期の活力と自由な雰囲気にあふれる大大阪に私鉄王国が形成されるも、時代が皇国史観に傾いていくつれ、官の逆襲が始まる。それを象徴するのが阪急クロス問題であり、また天皇の行幸コースとも関連するとの指摘が興味深い。

  • 私は大阪の凋落は阪神優勝の1985年あたりから露わになってきたと思っていたのですが、梅田阪急クロス問題における民意というやつの重要性の指摘には瞠目しました。新聞がここで大きな役割を果たしていたのですね。

  • 大阪、というか関西圏の私鉄と関東圏の私鉄の駅の配置の考え方等について考察したもの。もともと関西では国鉄の力があまり強くなく、現に現在でもJRとの相互乗り入れはない(はず)。この歴史的経緯を探っている。阪急の過去の企業戦略も見ることができ、非常に参考になった。

  • (跡で書きます。参考文献一覧はないが、巻末に注あり)

  • 2011/5/6
    面白かった

  • 阪急がいかに旧国鉄に対して張り合っていたか、という鉄道史を通して日本の近代を論じるのはそれはそれで面白いと思うんだけど、キタが「合理主義」でミナミが「浪漫主義」、だから梅田にターミナルを作った阪急は合理的で、難波の南海は浪漫主義的とか、梅棹忠夫みたいなことを言うのはダメだろう。

  •  風邪ひいてしまって、難しい本が読めない。

     この本は、政治学者が大阪の私鉄の発生過程を追ったもので、自分の興味の範囲が重なっていて抵抗なく読めた。

     阪急の小林一三さんが、鉄道省なにするものぞ、と鉄道省の鉄道をまたがって鉄道を高架で横断して、梅田ターミナルをつくった話から、戦時中の鉄道省の巻き返しで、阪急が譲歩して、鉄道省の鉄道高架にあわせて阪急が地上に降りる話を軸にして、大阪の民間の活力の盛衰を描いている。

     それ以外に勉強になった点。

    (1)鉄道を規制する法律は、鉄道事業法と軌道法があるが、その前身の私鉄鉄道条例と軌道条例では、前者が軌道の幅を1067ミリの狭軌に規定していたのに対して、軌道条例は特段の規定がなかった。そのため、阪急などは軌道条例をつかった広軌1435ミリを採用した。(p65)

    (2)小林一三の大阪論「要するに政治の中心の東京をまねずして、政治以外に一本調子でやっていく西の方を財界の精神を尊重してやっていく」(p97)

     今は、関西の財界といっても、関西電力が一番元気といわれているぐらいで、民間の活力がないのは残念。リスクを思い切ってとる財界人がいないよね。

    (3)御堂筋の整備には、土地の買収に加え周辺地権者に対して受益者負担金をとって整備を進めた。その時の地権者への説得文句が、「天皇が行幸されたときにお歩きになる道をつくるんや」(p135)

     都市計画の実現に、意外と天皇の偉勲がつかわれているのもおもしろい。そもそも都市計画にはパリの大改造だけでなくて、そういう為政者の偉勲を伝える側面があるから、当然といえば当然だが。

     

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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