近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062583961

作品紹介・あらすじ

躓きの石としての天皇 超克されざる「近代」
――近代日本のパラドクス

革命への赤き心は、なにゆえ脱臼され、無限の現状肯定へと転化されなければならないのか。躓きの石としての天皇、超克されざる「近代」――北一輝から蓑田胸喜まで、西田幾多郎から長谷川如是閑まで、大正・昭和前期の思想家たちを巻き込み、総無責任化、無思想化へと雪崩を打って向かってゆく、近代日本思想極北への歩みを描く。

[本書の内容]
●「超―国家主義」と「超国家―主義」
●万世一系と「永遠の今」
●動と静の逆ユートピア
●「口舌の徒」安岡正篤
●西田幾多郎の「慰安の途」
●アンポンタン・ポカン君の思想
●現人神

感想・レビュー・書評

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  • 戦前の右翼思想といえば、北一輝とか、大川周明とか、石原莞爾とかが思い浮かぶわけだが、著者は、こうした革命的な右翼思想は挫折し、「変革」を目指すのではなく、「現状」を肯定する方向に理論化が進んでいったとする。

    といった着眼点で、
    ・どうせうまく変えられないならば、自分で変えようとはおもわないようにする
    ・変えることを諦めれば、現在のあるがままを受け入れたくなってくる
    ・すべてを受け入れて頭で考えることがなくなれば、からだだけが残る
    といった章立てで、安岡正篤や長谷川如是閑などのディスコースが分析されていく。

    そして、そうしたディスコースの源流には、阿部次郎やら、西田幾多郎やらの思想があるということで、なるほどというか、とほほなお話し。。。。

    戦前の知識人、教養人が、たくさんのことを学んで、深く思索して、一見、深い真理を含むような境地に達しつつも、それが当時の社会との関係では、著者が皮肉にも章立てでまとめたようなとほほな結論になってしまうのだ。。。。

    途中まではなんか深いところに到達しそうな思索が、「どうしてそうなる」ということに転換するポイントには、天皇という存在がある。

    つまり、戦前の世界のなかで、欧米諸国のなかでの弱小国家が生き延びていくためには、日本は他の国とは違う尊い国なのだという信念がほしいわけだ。そして、それは西洋文明とはことなる、日本文化、東洋文化の独自性と優位性にもとめられ、それを体現しているのが天皇なのだ、という話しに常に回収されていくのだ。

    戦前、しかも右翼のディスコースという観点からすれば、それは必然なのだろうが、今、読むと論理の飛躍というか、矛盾は明らか。が、こういうことを真面目に考えていたんだな〜と思うとなんとも言えないものがある。

  • 近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)
    (和書)2012年07月10日 11:40
    2007 講談社 片山 杜秀


    柄谷行人さんの書評で『未完のファシズム 「持たざる国」日本に運命』が紹介されていて図書館で検索したら貸し出し中だった。それで代わりにこの本を借りてきました。

    右翼というと僕は「他者を軽蔑する方法」というように短絡的に考えてしまう。この本を読んでみて右翼思想の革命というものも面白いなと思えた。

    大正教養主義と右翼思想家の関係も面白かった。

  • 北一輝、蓑田胸喜、
    西田幾多郎、長谷川如是閑
    阿部次郎、安岡正篤、
    井上日召、大岡周明、
    その他 そうそうたる人物たち
    その中には夢野久作まで…

    右翼思想という
    文脈でとらえたとき
    その人たちの位置づけが
    とても興味深い

  • 『文献渉猟2007』より。

  • 筆者の博士課程論文などがベース。日本では大正教養主義の玉石混淆の状態から個人主義を克服し社会変革ではなく現状肯定、その為の身体論と特攻精神へと昇華する右翼思想があると分かる。三井甲之、伊福部隆彦は知らなかったので勉強になる。安岡正篤の天皇が言うまで何もしないという錦糸革命が血盟団らと折り合いが悪い理由もわかる。面白い。

  • 思索

  • 日露戦争後の超国家主義を社会に出現したアノミー状況の変革を目指すある種の革命思想と捉える橋川文三の観点を基本的な軸として、右翼思想とその運動が挫折する過程を追う。過去を理想化し、そこに反り返って動くすなわち反動としての右翼は必然的に日本の「素晴らしい過去」を体現する天皇に行き着く。しかし天皇は肯定すべき過去であると同時に、その過去と連続していながらしかし否定すべき現在を体現してもいる。この矛盾にぶち当たった右翼は自ら変革する道を諦め、すべてを天皇に任せる。この思想を代表するのが安岡正篤だ。天皇を手段として右から革命を起こそうとした北一輝が2.26事件で刑死したのち、彼の思想は政府中枢を中心に一段と訴求力を強めていく。この時代の知識階級の支配的エートスであった教養主義の人格主義に影響を受けた安岡は個々の心の中にある「本当の自分」=真我こそ重要であると説く。この真我は国家や社会などの団体生活においてはすなわち天皇である。人が真我に目覚め最高道徳に支配される社会を作るには天皇に直面しなければならない。これ以外はすべて偽りである。天皇の意向なしに革命を起こすことはあり得ず、革命の主体はただ天皇だけである。こうした論理から、ともかくここに右翼自らが変革の主体となる道は潰える。すべては天皇に任されるのである。次に右翼は現在を至上化する。素晴らしい過去を体現する天皇は現在においても変わらず存在する、だから現在も素晴らしいという理路を通るのである。この時間意識には「歴史」は存在しない。過去も未来もなく、ただ「中今」すなわち「永遠の今」(丸山)がある。今がなしくずし的に連なる時間意識の中で、「歴史的思考」は拒絶される。ただ今をあるがままに受け入れること。今を楽観的に信頼し寄りかかること。理性によって観念された世界は偽りであり、手ざわりのある現在だけが拠り所となる。ここに理性とそれを司る脳が拒絶され、その代わりに身体が持ち出される。『ドクラ・マグラ』の主人公アンポンタン・ポカン君よろしく脳を否定した右翼は身体を美化し始める。だがいくら身体を美うしたところで個々の身体は有限である。すなわち死を免れることはできない。そこでどうせ死ぬのだから国防のために潔く死のうという考えが出てくる。理性を否定した果ての身体論はこうして「死の哲学」に結びつく。

  • いまの日本が気に入らないから変えてしまおうと思う。
    変える力は歴史や伝統にあると思い過去に遡る。
    と、そこには「天皇」がいる。よし!これだ!と思いつつも、天皇はいまに現前している。もう現前しているのならじつは日本はもう立派な美しい国じゃないの、と思う。

    じゃ・・、変えようと余計なこと考えないほうがいいんじゃないか。
    で、変えることを諦めればいまのあるがままを受け入れたくなるわけで。
    んで、あるがまま受け入れて余計なこと考えないならば、頭は必要なくね?。頭が必要ないならからだだけが残る。からだの姿形だけでも美しくしようと思う。でも死ぬときは死ぬ。そんなときは美しい姿形をした国を守るために潔く死にましょう。

    こうした幾重にねじれた思いと思想の絡まりを個々の思想家と内容を紹介しつつ近代日本の右翼思想の歩みを描いた内容。
    出てくる思想家は多岐に渡る。
    大川周明。石原莞爾「世界最終戦論」、北一輝の「日本改造法案大綱」。安岡正篤と大正教養主義。権藤成卿の自治主義や三井甲之の「たなすゑのみち」。佐藤通次の身体論。
    全く共通項や関係のない思想家や思想同士が結びつき絡み合い縺れあい捻じれあう。これらが「天皇」という接着剤でくっ付き。ときに円滑油のような働きをしつつ、ひとつの渦となって日露以後から大正・昭和、1945年8月15日を向えるまでの時代に作用してしまった。

    躓きとしての「天皇」。そのパラドックスと右翼思想の流れをつぶさに記述した著者の手腕。お見事です。

  • 変革の必要を感じながら、正しい変革の力は天皇に代表される日本の伝統にあると思い、その天皇が現在日本に現前しているのだから立派な美しい国だと思い、では変える必要はなく、変な知識などに目を曇らさずありのままの日本を感じることが大切だと、いつの間にか反知性的な流れに陥った戦前の右翼思想をてさばきよく解説していて大変示唆に富んでいた。単に戦前の潮流を批判するのではなく、こうした反知性的な衝動が現代にいたってもいつでも噴出する恐れがあることを鋭く警告している。

  • 丸山真男から一歩も進んでいない思想研究の貧困差に呆れ、途中で読むのを辞めた

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著者プロフィール

1963年生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(いずれもアルテスパブリッシング、吉田秀和賞およびサントリー学芸賞)、『未完のファシズム』(新潮選書、司馬遼太郎賞)、『鬼子の歌』(講談社)、『尊皇攘夷』(新潮選書)ほかがある。

「2023年 『日本の作曲2010-2019』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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