精読 アレント『全体主義の起源』 (講談社選書メチエ)

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  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062586078

作品紹介・あらすじ

近年、注目を浴びることの多い思想家ハンナ・アレント(1906-75年)は、ユダヤ人としてドイツに生まれ、ナチスが政権を奪取した1933年に亡命して、1941年以降はアメリカで活動した。『人間の条件』(1958年)や『革命について』(1963年)、『イエルサレムのアイヒマン』(同年)などの著作で知られるアレントだが、その主著は何かといえば、1951年に発表された『全体主義の起源』であることに異論はないだろう。ところが、全三部で構成されるこの大著の内容を包括的かつ系統的に検討した研究は、不思議なことに、今日に至るまで存在していない。
その理由は何か? それは『全体主義の起源』が体系性を欠いたモザイク状の書物だと考えられてきたからである。そうした見解は、ドイツ語版(1955年)の「緒言」で「まず第三部を読んだほうがよい」と書いたカール・ヤスパースにすでに見て取られる。こうして『全体主義の起源』は、第三部「全体主義」と英語版・ドイツ語版の第2版で付加された終章「イデオロギーとテロル」を中心に議論がなされ、第一部「反ユダヤ主義」と第二部「帝国主義」は個別の話題を恣意的に取り上げるだけの対象にされてきた。その結果、この大著を第一部、第二部、第三部という順序で読む試みは、なおざりにされてきたわけである。
さらに日本について言えば、邦訳がドイツ語版を底本としている、という特殊事情を無視できない。ドイツ語版は英語版の単なる翻訳ではなく、多くの加筆がなされたものだが、そのためにかえって論旨の展開が読み取りにくくなっていると言わざるをえない。
こうした現状を踏まえ、本書は主として英語版の初版を読解することを通して『全体主義の起源』の全貌を初めて明らかにする、画期的な1冊である。

感想・レビュー・書評

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  • だいぶ理解できたような気にはさせてくれたけど、まだまだ難しいな。
    要素、要素は分かるけど、「なぜ国民全員が良心を失ったの? 」に一言でこたえられない(一言で答える必要があるわけじゃないけど)。いろんな理由があるのは分かってきたような気はするけど、まだ相対化できないや。
    だけど、この本は丁寧な書き方なんだと思う。

  • 最近参加するようになった読書会で『全体主義の起源』を読むというので、この本を手に取った。kindle版が欲しいのに『全体主義の起源』はkindle化されていないし、と心の中で言い訳しながら。

    そう本書は、アレントの主著である『全体主義の起源』を解説したものである。著者は「アレントのいう「全体主義」とは、ファシズムと共産主義を包括する概念ではなく、それぞれの中から出てくる独特かつ深刻な支配の現象形態を指している」という。「アレントにとって「全体主義」はなによりも「運動」であり、特定の本質に収まりきらないところにその本質がある」ともいう。アレントは、「全体主義の「起源」を扱っているのではなく、全体主義へと結晶していった諸要素を歴史的に説明している」らしい。

    そしてどうやら、乱暴に言ってしまうと、民族主義が全体主義を産んだらしいが、その民族主義の近世の起源は、アフリカの原住民の発見によってもたらされたということらしい。アフリカにおいて帝国主義と人種主義が交わった。このときに「人種」の概念が確立され、その流れにおいてユダヤ人に対する迫害がナチス政権の中で行われたと。

    ----
    アレントが全体主義を分析して得られた現象形態は、現在においてもいまだ存在可能な形態ではないかと思える。アレントは全体主義の起源において鍵になる「モッブ」という新しい階層を「あらゆる階級の残滓を代表する集団」として定義する。全体主義運動のリーダーの多くはモッブから出てくるという。「モッブはつねに「強い男」、「偉大なリーダー」を請い求める。モッブは自分たちが排除された社会を憎み、自分たちが代表されない議会も憎む」と書く。「モッブ」の組織は不可避的に国民の人種への変形という形を取るだろう、とアレントは言う。

    2016年秋、ドナルド・トランプが米大統領選の共和党候補として選任され、多くの批判を浴びながらも一方では意外と思うほど多くの支持も得ている。そこにアレントの分析から出た「モッブ」の影を見ることができないだろうか。トランプとその熱烈な支持者の中では、移民やイスラム教徒を邪魔者として排斥しようとすることを通して、新しい排他的な「人種」の観念が導き入れられているのではないだろうか。彼のような主張が、ある程度の支持を集めるところに、われわれがアーレントから学ぶべき点がないだろうか。彼の言葉は、もう少し洗練された形になれば、実は主流の考え方になってもおかしくはない、と思うのは杞憂なのであろうか。


    もちろん、日本においても、だ。


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    『今こそアーレントを読み直す』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062879964
    『ハンナ・アレント』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062922363

  • 確か落合氏の紹介で借りた本。、

  •       ―20230113読了

    読み進むのに些か難渋‥
    直に原典にあたったほうがよかったか‥‥



  • 牧野雅彦 精読 アレント 「 全体主義の起源 」 ナチズムなど 全体主義の歴史を分析した本。衝撃的で ハードな読書だった


    なかでも 衝撃的なのは、全体主義が暴力を用いずに、人間の法的人格やアイデンティティを抹殺し、死体になる前に「人間として死せる身体」となっている点


    国家利益や体制維持のために行う政治活動と異なる点で、全体主義は 国家や体制を乗り越えた現象であり、人間に対して破壊と支配を進める点で、悪の極致だと思う


    反ユダヤ主義、人種主義、帝国主義が 全体主義に結晶し、プロパガンダにより組織化された大衆により、全体主義が成立する姿を 歴史の中に見出している


    全体主義を通して、人間の恐ろしさや愚かさを随所に感じる
    *国民国家体制の崩壊、反ユダヤ主義、人種主義、帝国主義が 全体主義に向かって結晶していく恐ろしさ
    *階級脱落分子(モッブ)の思い通りに 組織化され、全体主義が自己破壊するまで気付かない 大衆の愚かさ


    全体主義を 大衆を組織化し支配することで 国民や国家を破壊する運動と捉えている。

    全体主義が国民を破壊する論理的プロセスは衝撃的
    法的人格の剥奪→道徳的人格の破壊→人間の個性の抹殺→死体になる前に死せる身体と化す

    大衆を組織化し支配化するためのプロパガンダ
    *反ユダヤ主義を自己規定の原理に転換し、孤立した大衆に自己規定と自己同一化を与えた
    *目的は人々を説得するのでなく組織すること〜暴力を用いず権力を蓄えること
    *指導者に必要なのは、官僚的組織技術でなく、構成員間の陰謀や闘争を操る才能


    大衆
    *政治的に無関心な市民、組織されない巨大な個人の集積としての大衆
    *階級社会の解体によりバラバラにされ、共通の利益をもたない
    *自らを組織する能力を持たない

    国民国家
    *政治的に平等の市民権を与えられる一方、構成員の社会的地位は階級による
    *ユダヤ人は国民国家を構成する市民、階級の例外

    ユダヤ人=抜きんでたマイノリティ
    *母国を持たないマイノリティ〜どこでも少数であり、どこでも多数になれない〜無国籍者
    *ユダヤ金融網〜国民国家の国際体系と不可分、ユダヤ人金融業者と国家の癒着
    *ユダヤ人が社会に受容されるには、個人として例外的存在であることが必要

    1部 反ユダヤ主義
    *反ユダヤ主義は、帝国主義や古い政府形態の破壊手段として行われた
    *国民国家の衰退と反ユダヤ主義の興隆の相関関係を検証することが一部のテーマ
    *ドレフェス事件〜反ユダヤ主義が政治の舞台に登場した最初の実験場

    ヨーロッパの国民国家は 政治的平等に基づく国家と階級によって編成された社会のバランスの上に成り立っている

    モッブ
    *偉大なリーダーを追い求めるあらゆる階級の残滓(階級脱落分子)
    *主なナチス指導者や幹部はモッブ

    2部 帝国主義
    *帝国主義の目指すところは 国民国家の利益や領土拡大てなく、権力の拡大そのもの
    *帝国主義的拡張の原因は、資本の過剰生産と余剰貨幣〜もはや国内では生産的な投資先を見出せない
    *帝国主義とは 資本とその担い手のプルジョアジーによる政治権力拡大運動である
    *帝国主義の原動力は資本輸出〜国内市場の飽和、原料不足、恐慌

    人種主義(人種を支配装置として用いる)
    *人種に基づいた支配〜政治的な組織化のための人種主義
    *プルジョアジーを引きつけ、モッブを組織化する原理は 人種主義
    *人種主義は帝国主義のイデオロギー
    *人種主義は人間文明全体の破滅〜人種は政治的に、人間性の始まりでなくその終焉であり〜人間の自然は誕生でなく、不自然な死である

    反ユダヤ主義も人種主義も〜重大な結果をもたすのは、特定の政治的な問題と結びつき、すでに存在する対立を政治的な問題に先鋭化させたときである

    種族的ナショナリズムの特徴
    政治的に常に「敵の世界」を想定し、自民族の特質を強調し、共通の人類の存在を否定する〜やがて人間性の破壊にまで行き着く


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著者プロフィール

広島大学法学部教授

「2020年 『不戦条約 戦後日本の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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