- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062586559
作品紹介・あらすじ
13世紀にユーラシアの東西を席巻し、その後の世界史を大きく転換させたモンゴル帝国。ヨーロッパが世界を支配する以前に現出した「パックス・モンゴリカ」時代の、人類史における重要性は、近年、広く知られるようになった。しかし、ではなぜ、ユーラシア中央部に現れた小さな遊牧民のグループ、モンゴルにそれが可能だったのか、また、その創始者、チンギス・カンとは、いったいどんな人物だったのか、まだ多くの謎が残されている。本書では、20年以上にわたってモンゴルの遺跡を発掘し続けている著者が、この謎に挑む。
著者がフィールド・ワークから実感するチンギス・カンは、小説などでよく描かれる、果てしない草原を軽快に疾駆する「蒼き狼」、あるいは金銀財宝を手にした世界征服者――というイメージとは異なり、むしろ質素倹約を旨とする質実剛健なリーダーだという。その姿を明らかにしつつある近年の著者の発掘成果が、チンギスの都と目されるアウラガ遺跡である。
チンギスは、ただ戦争に明け暮れるだけでなく、この都をひとつの拠点に、良質の馬と鉄を手に入れ、道路網を整備していった。つまり、産業を創出し、交通インフラを整えることで、厳しい自然環境に生きるモンゴルの民の暮らしを支え続けたのである。その「意図せぬ世界征服」の結果として出現したのが、イェケ・モンゴル・ウルス=大モンゴル国、いわゆるモンゴル帝国であった。
さまざまな文献史料と、自然環境への科学的調査を踏まえ、気鋭の考古学者が新たに描き出すモンゴル帝国とチンギス・カンの実像。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
2018-2-27
-
伝承的な部分が多くて史実としては扱えない部分の多い史料と個人的な印象があった「元朝秘史」が、考古史料と付き合わせていくと、一面の真実を語っていたと明らかにしてくれていること。チンギスが活動を始めた頃のモンゴルは、群雄割拠ではなく、金と西遼の綱引きが繰り広げられる代理戦争の場であったこと。チンギス・カンの不遇時代と捉えられた時代は、実は遊牧的な見地からするとベストチョイスだったこと。いち早く鉄の利用と鉄の産地の確保にあたったことが他勢力に対して優位に。考古史料、文献史料、古気候学など、文献史学からだけでは明らかにされえない視点を多々提供してくれて、新たな知見に富んでいた。遊牧リテラシーに富んでいたことが他のモンゴルのリーダーとの違いで、その延長線上にある「馬・鉄・道」へ集中した「騎馬軍団の機動力向上」「鉄資源の安定確保」という戦略にも大きく影響した。モンゴルの民の安全と繁栄の実現が至上命題で、それをやっていくうちにモンゴル高原の統一が転がり込んできたという実感だ他のでは。他国への侵略すら?と。