李歐 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062630115

感想・レビュー・書評

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  • 壮大な物語だった、ということは間違いないのだけれど、最初から最後まで、ついにハマらずに終わってしまった。
    髙村薫なので、くどい位に細かい描写が、いつかきっと物語世界に深く浸らせてくれると思ったのだが。

    原因は、主人公の吉田一彰の、あまりにも動かな過ぎる感情ゆえの、共感性のなさ、なのだと思う。
    小説は共感してなんぼだ、とは思わないけれど、あまりにもとっかかりがなさすぎる。
    小学校入学を前にして母に捨てられた時も、育ててくれた祖父母を捨てるように東京から幼児期を過ごした大阪の大学に進学した時も、ゼミの指導員の妻と不倫をしているときも、アルバイト先で殺人の手引きを強要された時も、本物の拳銃を手にした時も、常に心は平静だ。

    だから彼の何が李歐に惹かれたのかはわからない。
    逆に、李歐が彼に執着する気持ちもわからない。
    だからこそ互いの「運命」と言えるのかもしれないが。

    一彰が唯一安らげたのは、母が働いている間敷地で遊ばせてくれた、アパートに隣接する町工場にいたとき。
    モノ作りは好きだったのだ。
    だから服役後、守山の経営するその小さな工場で見習いとして働き、後継者として工場を守っていくのはわかる。

    守山工場で働いていたのが、中国人や朝鮮人、そしてどうやら匿われているらしい中国人たち。
    中国やアメリカや台湾の組織が入り乱れてそれらの人々を殺したり逃がしたりするのだが、一彰は特にそのことに深入りはしない。
    ただ李歐だけは別で、彼の半生を聞き、彼が無事に日本を脱出して、成功するのを祈るのだった。

    22歳で出会った李歐と一彰。
    37歳で中国で再会するまで、互いと接触せずに信頼してきた、その根拠は何なのだろう。
    そもそも波瀾万丈の李歐の半生はまた聞きで、一彰の方の半生は町工場でこつこつ働くだけの地味なもの。
    もっと二人が「俺たちに明日はない」ような手に汗握るバディものかと思ったんよ。
    うーん、残念。

  • 2人が惹かれあった理由、結び付きがどうしてそれほど強いのかよくわからなかった。多少読み飛ばしても問題なく進める。こんな人生やだなと、中国語と歴史の知識があったらもう少しおもしろいのかも。

  • ええ、惚れましたね美貌の殺し屋に。
    が、吉田一彰の良さがさっぱり判らん。李歐ほどの男がなんでこんなヤツに?と何度か思いましたが、イヤイヤ一彰くんにも成長のチャンスや活躍の場面があるはず、と気を取り直して読み進むも、さして成長せず周りがバタバタ死んでいくばかりで。
    だいたい、そんなに大陸に行きたいのに何故世話になった人の娘に手ぇ出して子供まで作ってしまうんや?
    家族の安否が気になってダッシュで帰って来たのに、なんで気を抜いたんや?
    奥さん気の毒やし残された子供のPTSDを心配したわ。私やったらこんな男には関わらんけどなぁ。

    一彰はともかく物語は、
    華僑に大阪の裏ビジネスの方々にCIAやらスパイやら盛りだくさん、拳銃もお薬もてんこ盛り。物騒です。
    淀川だの千本松大橋だの大阪育ちにはお馴染みの地名も出てきて不穏な雰囲気を盛り上げています。
    暴力シーンもいっぱいでなかなか辛かったですが大陸で待つ李歐に会いたい一心で読了。

  • 母から棺桶に入れてくれ、やっぱ勿体無いからあんたにあげると言われてる本。
    高村先生初読でした。1行目からスッと入って引き込まれる。描写が細かく難しいので人物を追う感じ。

    田丸が一彰に言った「お前は水銀灯やな、男も女も、犯罪すらも引き寄せる」(意訳)の部分で田丸、絶対に手帳に詩を書き溜めてるやつじゃん〜!!って思った大好きなセリフ。

    いまいち自分にも他人にも興味が持てなかった一彰が、守山とともに桜の下で最後の花見をするところが印象的で好き。よかったねって涙出た。

    美しい殺し屋とか好きでしかない。
    一彰、あらすじでは平凡とか書かれてるけど上澄みの上澄みじゃない?と思ったが、李歐がいるからか。
    李歐と一彰の魂の結びつきが書かれているブロマンス。

    壮大なストーリー、桜の印象的な美しさに本を閉じて静かに涙が溢れた。 

  • 初めての長編ハードボイルド小説.
    hardboiled=固茹で卵の黄身のように流れない恐怖や喜びの感情に流されず精神・肉体に強靭な主人公の小説 暴力反道徳的な内容を批判を加えず客観的、簡潔に描写する手法・文体….
    読み終えて調べたが、そのとおりの説明だなぁと.
    しかし、この話はハードボイルドだけでない物語の濃さがあるように 思う.
    主人公一影の六歳から三十八歳の間の出来事が李歌を軸にして描かれていたため、一人の男性の半生を垣間見たような錯覚を覚えた.
    序盤は工場や機器のことが 長い文章で書かれていたため、退屈だと思っていたが、次第に 他者から語られる李歐が所々に存在する為、二十二歳から 三十八歳までの十五年間一度も会っていないのにも関わらず、一彰と李歐はずっと繋がりつづけている様子に引き込まれていった.月並みな言い方で言えば運命の人なんだろうが、「理由もなく理屈もなく繋がりつづける人間関係って、きっとあるよね」と思わせてくれた作品.
    情交や婚姻だけが強い人との繋がりではないないなと思う
    長い夢を見ている様な物語だった

  • 2021.06.15

  • 果てしなく続く大陸の風景を、
    圧倒的なスケールで描いた壮大な青春の物語。

    毎日をただ平凡に、無気力に過ごしていた主人公の吉田一彰はバイト先で偶然、李歐という男に出会う。
    殺人や抗争、裏社会のあらゆる思惑に巻き込まれながらも、徐々に失われていく今までの日常の中で、李歐の持つ壮大な“夢”を一緒に追いかけるという想いは15年という歳月が流れても忘れられることはなかった。

    「惚れたって言えよ」「必ず迎えに行く」「年月なんか数えるな。この李歐が時計だ。あんたの心臓に入っている」

    こんなこと言われたら性別関係なく惚れてしまうでしょ…
    もはや友情とか愛情を超えた、特別な魂の結びつきさえも感じる二人の関係性にどんどん惹き込まれてしまう。

    五千本の桜や生霊との逢瀬など、普段文字としてあまり見慣れていない中国語の文面とも相まって非常に現実離れしたような世界観なだけに、ラストは最高のハッピーエンド!

    『李歐』というタイトル通り、全てが李歐の為に、李歐を中心に人や世界が動いているようなこの作品には、もうこれ以外のタイトルはあり得ないと思う。

  • 本作の主人公は、大阪の大学に籍を置きながら、幼少時に彼がすごした町の工場で働いていた外国人をたずねている吉田一彰という青年です。ある日、彼が働いている「ナイトゲート」というクラブで殺人がおこなわれる計画があることを聞かされ、しかも一彰がターゲットとなっている陳功という男に電話をとりつぐ役を引き受けることになります。この事件がきっかけとなって、彼が幼少時にすごした西淀川の姫里にある旋盤工場の人脈が、東アジアにまたがる闇の世界の一端につながっていたことが明らかになっていきます。

    一彰は、陳功を殺した李歐という若者に出会います。意気投合した二人は、住之江区平林の倉庫から、笹倉という男のかくしもっていた拳銃を盗み出すという計画を立てます。見事計画を成功させた彼らは再会を約束してわかれ、李歐はシンガポールへと旅立ちます。他方一彰は、盗み出した拳銃を交渉の材料として姫里の工場の再建資金を手にして、工場の再建に努めます。工場長の娘の咲子と結婚して世帯をもつ一方で、彼は李歐との約束をけっして忘れることなく、もう一度彼と会うことを願います。しかし、ひとたび一彰が片脚を突っ込むことになった闇の世界は、簡単に彼がそこから抜け出すことを許してくれません。

    月日は流れ、笹倉と再会することになった一彰は、李歐の現在について教えられます。彼は李歐のもとへ行きたいと願いますが、妻の咲子と息子の耕太を置いて日本を去ることはむずかしく、二人が約束を実現するにはさらなる年月が必要でした。

    大阪の下町とはまた違う湾岸地域独特の雰囲気と、在日コリアンや中国系マフィアの複雑な人脈関係を背景に、主人公の三十年にわたる半生をえがいたアンチ・ビルドゥングスロマン小説です。読んでいるあいだ、機械の錆びたような空気が胸に這いあがってくるように感じられ、そのハードボイルドな魅力に一気に引き込まれました。

  • 艶のある文章が読みたくオススメされた物を読みはじめました。

    艶があるというと、恋愛であるとか性描写などが当てはまるのでしょうが、本書では違うと思い知らされました。
    同性愛要素があるので、それだけで濃厚といえば濃厚ですが、それを抜きにしても濃厚でした。
    男女関係、銃の取引、マフィア、他国国籍の人間との絡み。
    私が感動したのは、風景であったり心理描写が兎に角美しいと胸を打たれました。

    一彰と手を組んで悪巧みをする前に「嘘なら嘘と貫き通してくれ。〜」と友情を結び握手をする。その直前にもっと同性愛的な表現があったのに、こちらのセリフの方に濃厚な感情を感じました。
    他にも一彰が李歐にビールを差し入れして彼が喜ぶ何気ないワンシーン。
    あからさまな描写よりも、どこかさりげなさを感じるほんの一部分にとても惹き付けられ、頭の中にそのシーンのイメージが勝手に浮かび上がりました。
    特に胸がドキドキしたのは、李歐が約束を交わして何年も経った頃に、桜をプレゼントすると約束したシーンです。
    高価と言えば高価ですが、美しい桜そのものではなく、二人で凄く時間を共にしたいという贈り物が素晴らしく美しかったです。中国大陸の雄大さと五千本の桜が咲き誇る幻想的な美しさ、凄くドキドキしました。たった3ページたらずだからこそ、そのシーンだけを何度も読み返してしまいました。
    彼らはそれぞれに家族を持ったり仕事をしたりと、自分の生活がありましたが、それでも長い年月お互いを意識し合っていたこの部分が濃厚さを感じました。
    決して妬んだり恨んだりもせず、いつも心配したり、大切に思いやるこの精神的な絡みがとても素敵でした。
    一彰も最初は何もかもがどうでも良さげだったのに、人と出会い時間を重ねていくうちにドンドン人間的な感情が芽生えて行くのもとても良かったです。

  • すべてが美しいです
    李歐の「櫻花(インファ)」という言葉にゾクリとする
    「わが手に拳銃を」を下敷きにして登場人物まったく同じにあらたに書き下ろされているが、「わが手に…」がゴツゴツした金属の塊で「李歐」はその塊を丁寧に加工して美しく磨きあげられたようなもの。
    壮大で美しい、桜の描写はなんと言えばいいのか、読んでいて目の前に息をのむほど美しい桜があるかのよう、李歐の強さと聡明さと美しさそのもの。
    読後の余韻がたまりません。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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