李歐 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062630115

作品紹介・あらすじ

惚れたって言えよ-。美貌の殺し屋は言った。その名は李欧。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 美しい見た目、冷酷さや聡明さといった印象を抱かせつつも、その奥には透き通った素直さや純粋さも垣間見える、出会う人に畏怖や尊敬の念を抱かせるカリスマ、李歐。
    一見平凡だが幼少の頃から底知れぬ組織・権力との切っても切れないつながりを運命づけられ、厭世的な雰囲気を纏う一影。
    それぞれが惹かれ合う最初の出会い、印象的な別れ、そして互いを思い続けた再会までの長い年月を、重厚な時代背景と共に繊細な描写で描いた大作。

    高村薫さんの作品を読むのは初めてだったが、人物の細かく魅力的な描写や、繊細でありながらどこか理路整然とした物語の運び方がとても好みだった。

    2人がなぜそんなにも惹かれあったのか、その理由は正直はっきり描かれていない。だからこそ、理屈抜きで、相対する人間そのものを愛するという事実だけが存在している。

    2人をつなぐものは、恋愛感情か、愛か、羨望か、希望か、慰めか?
    型にハマった定義づけなどできないような、人間同士の関係性を描く作品をこれからもたくさん知りたいと改めて思った。

    『李歐という歓喜。暴力や欲望の歓喜。友達という歓喜。常軌を逸していく歓喜。
    熱である限りそのうち冷めるだろうし、熱が下がらなければ死ぬだけだった。』

    読み始めた時、重厚な世界観に一気に引き込まれたものの、読み終わった時に頭にあった一影と最初に抱いた一影の印象がまるで別人のような心地がし、長い年月とその中での変化を一冊の本で描き切り、読者に感じさせるその描写力にあらためて驚いた。

  • 至高の作品。
    全てが心突き刺さる。
    そして読了後の充足感。
    何度でも読み返します。

  • ガチだガチだと(あるところでは)よく聞くので、ちょっと期待していたけど、「大陸」って言葉がこれ程似合う邦書があるだろうか。だだっ広い中国の大陸と、紙面からこぼれそうな桜の描写が美しい。説明の細かさもそうだけど、一気に読まないと、二人の儚さに負けてしまう。殺伐としてても冷ややかさはあまりない。最後まで一彰のキャラが掴めなかったしね。男女構わなかったり、あっさり人殺してみたり、李歐を求めてみたり、主人公が何考えてるかわからないっていうのも凄い(いい意味で)。
    同性愛とはまったく感じなかった。これは女との性描写が再三書かれているからかな。ノーマルから変換するのと間逆だ。「友情」にしては行き過ぎているけど、プラトニックな愛だと思う。

  • 『李歐に会いたくて読み進めていた』

    この本を貸した友人が言っていた通り、一彰の目を借りて李歐に魅了されてゆく
    (しかも、その目を貸してくれる一彰自体が魅了的な男なのだ)

    読後の爽快感、多幸感!満開の桜が目に浮かぶ
    一彰たちに幸あらんことを

  • 鮮やかな残忍さと透徹を備えた聡明で美しい殺し屋と、幼い頃から虚無感を抱き続けたクールな男の、長く壮大な物語でした。

    あまりにも濃い物語と美しい情景に余韻がしばらく消えそうにありません。特に本書の桜の描写は見ものです。なんといって言葉にすればいいのか。

    1960年以降の日本が舞台ながら、中国の広大な大地、マニラの山林、シカゴの証券取引所など殺し屋が駆け巡った土地は世界中におよび、スケールの大きさが伺えます。
    そして、本書はなんといっても裏社会に魅入られた男が主人公なだけあって、普段私の知る世界とは全くの別物で、夢中で読んでふと現実に戻るとそのギャップに背筋がぞくっとするほどでした。
    こんな世界、私は知らない。

    随分とハードボイルドな作品で色気もあり、男性二人のやり取りには本当にぞくぞくさせられました。
    「運命」と言うと陳腐な感じがしてしまうし、彼ら二人の繋がりは「愛」とも「友情」とも単純に呼べるものではないと思うのだけど、一生に一度の鮮烈な出会いだったんですよね。
    生きるか死ぬかの世界を生き抜いた殺し屋にしても、母に捨てられ醒め切ったような男にしても、確かに残っていた純な部分が互いに呼応したんでしょうか。うまく言えませんが、言葉で説明しようとすること自体が、無粋なのかもしれませんね。

    冷徹なこの世界ではたくさんの人が殺されますが、田丸刑事にせよ、ギャングたちにせよ、一定の矜持を持っていると感じられる人も数多くいて、そこが格好いい。
    私には想像もつかないような、政治的な駆け引きなんていうものが存在する世界なんですよね。思想の違いで人が死ぬ、なんて平和な世界に生きているとピンときませんが、この時代の日本、それも中国との距離が近い彼らにとっては肌に感じる程身近なものだったんでしょうね。

    機械工場や拳銃、薬物と、広大な土地に咲く何千本もの桜、耕された農作物との対比がまた印象的で、なんとも美しい余韻を心に残す1冊でした。
    しばらくは思い返して余韻に浸ること必須です。

  • 銃に魅せられ、裏の世界に足を踏み入れていく一彰と、彼の前に突然現れ、心を奪っていった美しき殺し屋・李歐。
    暗い世界の渦にのまれながらも、十五年にわたり繋がり続ける、二人の男の物語。


    友情でもあり愛でもあり、二人の名のない関係性がとても強く魅力的。なんともいえない切なさが、見事に描きだされています。

  • 李歐格好良いよ、李歐。
    ドラマ版はひこそがやったんだっけ。
    誰か豪華キャストで映画作ってくれないかなー。

    下町の工場、朝鮮系や中国系のおにーさん方、裏社会的きな臭さ、大陸の香り・・・そんな雰囲気がとても好き。
    大切な人の子供にプレゼントを贈ることについての漠然とした憧れは、ここに端を発するのかもしれない。
    そうそう、大学入ってからまさかあんなに繰り返し「在哪遥遠的地方~」と歌う羽目になるとは思いもよりませんでした。

  • うーん、一人の人間に魅せられて、人生をここまで貫くというのはなんとも小説的で、だからこそ面白いなぁと思った。

    そんなに李歐は魅力的なのか、と思ったけれど、よくよく読んだらものすんごく魅力的だった。

    とにかく頭がよくて格好いい、しかもそんな相手が自分と同じ魂を持っていて、約束を違えず、国境も時間も超えて自分を想っていてくれるとしたら。
    性別はもはや関係ない。

    しかし髙村薫はどうしてそんなにいろんな知識を持っているんだと常に驚嘆してしまう。
    興味の対象の広さと、それを掘り下げる知識の深さはマリワナ海溝並だ。

  • 李謳というキャラクターに引き込まれて魅了されて、読了後に思わず「うわー!」と声を上げてしまったくらい。
    そのくらい、眩しい。
    読み始めは文章の硬さと緻密すぎる描写に何となく苦手意識があったんですが、最後には気にならなかったです。
    李謳が素敵過ぎて\(^o^)/

  • 何故、こんなに魅せられてしまうんだろう。
    この2人の男の醸し出すオーラに引き寄せられて、夢中で読みました。

    掴みどころない、何を考えているか分からないカズにも。
    大胆な生き方を足取り軽くやって退けてしまう李歐にも。
    引き寄せられてしまう男を描くのが上手い高村作品。

    殺し屋と、普通の男が目に見えない絆で絡み合うというか、引き寄せられて行くというか。
    とにかく!カッコイイ!

    最後の再開が、またカッコイイ!
    対象的な2人が求めるものが一緒で、求め方も生き方も
    全く違うのに着地点は一緒みたいな。

    私的には文句なしの☆5です。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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