天使に見捨てられた夜 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062635233

作品紹介・あらすじ

失踪したAV女優・一色リナの捜索依頼を私立探偵・村野ミロに持ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの父善三と親しい多和田弁護士を通じてだった。やがて明らかにされていくリナの暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性で描く、女流ハードボイルドの長篇力作。

感想・レビュー・書評

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    失踪したAV女優・一色リナの捜索依頼を私立探偵・村野ミロに持ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの父善三と親しい多和田弁護士を通じてだった。やがて明らかにされていくリナの暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性で描く、女流ハードボイルドの長篇力作。
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    冒頭のAVの描写があまりにひどすぎて、読むのをやめたくなったが、著者のことだからこれだけで終わるはずはないと思い直して読み進んだ。案の定、出るわ出るわ、あとからあとから、ただならぬ事情が暴かれていく。渦中の一色リナは、AVの中にしか現れず、実態は杳として知れず、彼女の周囲にいた、あるいはいるだろう人びとは、次々に厄介事に巻き込まれていくように見える。果たして、彼女がこれらの悪事の首謀者なのだろうか。興味は尽きないが、それだけではない。ミロが関わっていく人たちの個性の強さや、彼らとの関係性からも目が離せない。父・善三さんは、今作でも顔を出すくらいで、深くは掘り下げられず、それなのに、絶妙な存在感を残して、早々に帰ってしまう。彼のことをもっと知りたいと思うのはわたしだけだろうか。本筋だけでなく、さまざまに愉しめる一冊だった。

  • ネタバレ


    『顔に降りかかる雨』より、絶対上手くなってるんだけど、その分、前作にあった勢いが殺がれちゃった気がするっていったらいいのかなー。
    起こる出来事を詳しく描きすぎだったり、逆にもうちょっと詳しくてもいい話が描かれなさすぎだったりするように感じた。

    つまり、前半の矢代等AV会社との様々なエピソードが描かれすぎで、同じところをグルグル回っているような気がするのに対して。後半のリナや牧子、あるいは富永洋平については描かれなさすぎのような気がするのだ。
    たぶん、そのせいだと思うんだけど、終盤がやけにバタバタっと収束していくように感じてしまう。
    唐突にこれとそれがくっついて、あれもくっついて、あー、結局そういう話か…、みたいな(^^ゞ
    それらがくっつく興奮(カタルシス?)が、思ったよりも得られないって言ったらいいのかな?

    例えばラストの犯人…、まぁ犯人とするけど、その行動を漠然と描くのは全然OKなんだけど。
    でも、その後、どうなったのか?さらっと描かれてあった方が印象が強まる気がするのだ。
    ま、著者としては、描きたいのはハードボイルドであって、事件の詳細ではない、というのはあったのかもしれないけどさw

    もっとも、前半、AV会社とのエピソードが妙に長々しているように感じるのは、解説者も書いている“ミロ(主人公)は衝撃的なほどカッコ悪い”という風に描く必要性を著者としては考えていたのかなーとも思う。
    というのも、主人公は物語の敵役であるはずの矢代を男として魅かれて、自ら抱かれるのだが、2度目だったか、3度目だったか。「じゃあ、お前は俺となんで寝たんだ。お前だって、やりたかったんだろう?」と男目線で言う矢代に対して言うのだ。
    「欲せられて酔うのは馬鹿じゃないわ。それを笑う方が馬鹿なのよ。男だってそうでしょうが」と。
    つまり、主人公はそこで、女性自らがエッチを欲していることを男に認めさせられる恥ずかしさ、それを女性に“負い目”として感じさせることで、エッチにおいて男が優位に立てるという、男のアホバカな思い込み(orアホバカな男のピュアな女性幻想w)に肘鉄をくらわすのだ。
    そこが、カッコイイ!
    でも、そのカッコよさっていうのは、ミロがその男にデレデレするカッコ悪さを描かれていないと鮮やかに出てこないわけだ。
    それゆえ、前半のAV会社を巡る話を長くなった…、というのはあるのかなーとは思う。

    ていうか、著者って。
    もしかしたら主人公にこのセリフを言わせたくて、そこまでずっと主人公をカッコ悪く描いたんじゃないかと思うのだ。
    そしてそれは、主人公が矢代に言うというよりは、著者が世の男どもに言いたかったことなんじゃないだろうか?なんて思ってしまうのだ(^^;
    男なんてもんは、思いあがってナンボなところがあるから、ゆえに単純だ。だからこそ、男は誰しも、女性という“もの”に美しい幻想を抱いているものだ。
    それは作家であっても同じで。男である以上、どうしても女性にアホバカで中二病な幻想を抱くものなのだろう。
    でも、著者は女性だから。
    女だってエッチしたいんだよ。それはアホバカな男どもと同じなんだよ。勝手なくだらない幻想(倫理)を押し付けないでくれ!と。
    そんな風に、世の男どもを笑ってみせたということなのかなーなんて思ってしまうのだ(^^ゞ
    いや、あくまでオトナの話だ。
    それも、ある程度、世の汚濁にまみれた(爆)

    そんな著者ならではだなーと思うセリフは他にもある。
    それは、主人公が何気に点けたテレビで、意外に重要な登場人物(?)である富永洋平の元奥さんが言うセリフ。
    「トミー(富永)は私の青春そのものでした。でも、青春はいつか終って本当の大人になりますよね。(中略)でもトミーはいつまでも青春が続いていると思っていたんです。いつまでたっても二十歳の頃の、カッコよくて女にもてて、いい歌が作れるって。そんなこと絶対続かないでしょう。実は最近、私はこう思うようになっていたんです。あの人は可哀想な人なんだなって。一番、人間が自分を磨かなくちゃならない時に、さんざん脚光を浴びすぎてしまったんだ。だから、まだ目が眩んで気づかないんだって」
    いやはや(^^;
    これなんかは、マイケル・ジャクソンから、プリンスから、カート・コバーンから。ポップスター(に限らず様々な有名人)の裸の王様的な本質を見事に言い当てているように思う。
    というか、「そんなこと絶対続かない」のに(自分を磨かずに)目が眩んでいるor眩んだふりをして自らをごまかしているという意味じゃ、今のニッポン人のほとんどにあてはまる(もちろん自分もだw)ことなんじゃないだろうか…、
    なんて思ってしまう(^^;


    そんな『天使に見捨てられた夜』。
    これを読む前は、このまま『アフター・ダーク』に進もうと思っていたんだけど、とりあえず1回休み(^^ゞ

  • いやあ、やっぱり大好き桐野さん。
    ケータイがない近現代の話というのは、中途半端で正直苦手なのだが、これはおもしろい。

    こういうのがハードボイルドっていうの?
    原寮さんみたいな??
    なんにせよ、そういうのが好きな人にはお見逃しなく~と言いたい。

    しかし、あれだな。ミロは30代前半みたいだけど、当方30代後半。
    トモさんや矢代に惹かれる気持ちはわかるよね、恋愛とか性愛とか何だろう。
    別に答えを求めているわけじゃないのだけど、理屈じゃないところで人肌を感じたいことはありますよね。

  • 面白かった。
    女探偵・村野ミロ、ワールド。

    描かれているのは、どうしようもなく歪んだ痛い現実ではあるのだけど
    事件を追っていくそのスピード感に、やられた。

    スーパーヒロインではない、間違いもしくじりもするミロがとても魅力的。

  • ・9/1 読了.女性探偵物は初めて読んだけど思ったより面白い.「OUT」も女性たちが主人公だったからこの作家はこういうのが得意なのかも.最後にどんでん返しのあるちゃんとしたミステリーだった.

  • 『顔に降りかかる雨』の続編、村野ミロシリーズ。
    父親の後を継いで探偵業をしているミロの今回の依頼は、AVに出ていた女優を探すこと。
    依頼人は小さな出版社を経営しており「アダルトビデオの人権を考える会」の代表である渡辺という女性。
    意外と簡単な依頼だと思っていたが、ただの捜索では済まない事件へと発展していく。
    そんな中、ミロは探偵としての失敗もおかしてしまう。
    そして行き着いた真実は、悲しいものだった。

    2017.3.9

  • 5/15→5/22読了。村野ミロ第二弾。安定のおもしろさ。いつも思うのは、桐野さんの人間の観察力がすごい。キャラクターの描き分けもうまいからぐいぐい入り込めるのだろう。

  • 村野ミロシリーズ2作目。おもしろかった。レイプのアダルトビデオ。ほんと、暴力的な男なんてサイテー。ウルトラレイプもそうだけど、自殺のビデオのやつはもっと最低。ほんとにこういうのは出回っているんだろうと思う。お父さん、やっぱかっこいいなぁ。トモさんという素敵な隣人ができたのもミロにとっては良かった。結末にはびっくり。リナのトリッキーさは不幸な生い立ちにあるのか。それにしてはトリッキーがすぎるけど。しかし、そんなリナと男女の関係になる岩崎先生が信じられない。

  • 失踪した少女を探してほしい、という依頼だったのに
    思わぬ方向へと話は進んでいく。

    ただの訴えるための依頼だったのが
    二転三転どころでなく転がっていくという
    一体どこへ進むのか、さっぱり状態でした。
    行き着いた先がすごかったですが
    よくあると言えば、あるかも知れない現実。

    しかしDNAって、表面に出てくるものなのだな、と。

  • 1994年に原版刊行なので、携帯電話が普及していない。今や、携帯電話は小物類では無く生活必需品であり、偶に携行するのでも無く常時、文字通り携帯するのである。前作同様、自宅電話の留守番伝言メッセージが重要な鍵となるが、30年近く経った現代から見ると、正に隔世の感がある。これは初期の東野圭吾作品にも共通するアポリアである。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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