アフリカの蹄 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062635875

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  • 主人公の作田信は30代の外科医師。心臓移植手術を学ぶため、南アフリカの大学病院に留学している。この国では、白人の命を助けるために黒人の臓器が提供され、その逆はない。医学技術の進歩が人種差別の犠牲の上に成り立っている皮肉に、作田も疑問を感じざるを得ない。
    作田は、勤務時間外を利用して、町のスラム地域にあるサミュエルの診療所を手伝い始める。
    サミュエルはエリート医師として豊かな生活も出来るが、使命感と反骨精神から、自らスラム地域に留まっている。しかし、スラムの環境は劣悪で、医者の手はいくらあっても足りない。
    そんな中、黒人の子供たちの間に奇妙な病気が広がり、特に体力の乏しい幼児は次々に落命していく。
    ウィルス性の伝染病ではないかと推測するが特定出来ず、作田が大学病院へ患者を連れて行っても、黒人だという理由で診察を拒否される。直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため、作田は正義の闘いに命をかけてゆく…。

    南アフリカ共和国がモデルとなっているであろうこの作品。
    絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師の冒険サスペンス!と裏表紙にも書かれていて、そういう側面としての面白さも抜群で、どうなるの⁉︎ と先が気になり映画のようで夢中で読みました。そして、何よりも“名誉白人”とされる日本人であり、エリートでもある作田が、その立場に甘んじることなく身を挺して戦う姿に、深い深い感動があるのです‼︎

    改めて「人種差別」というものについて考えさせられました。人間って、何か人と区別をしたい生き物なんだろうな〜とは思いつつ…。自分自身も生きている中で、なにか「差」を意識することは、大なり小なりあるとは思う。しかし、同じ人間でありながら、ただ生きているだけで、それを虫けらのように考え扱う、白人優位の思想、白人至上主義というものの怖さ、薄気味悪さを強く感じました。ある意味、単純でありすぎるがゆえに、力を持ってしまうというか…。
    作田も気付く「日本にいる時は、自分の皮膚の色など考えたこともなかった」という気持ちは、日本人である自分には、とてもよく分かります。もちろん日本にいても、格差というのは大なり小なりあるけれど、やはりレベルが違う。簡単に、本当に簡単に次々と子供たちが犠牲となり、死んでゆく場面は心が痛みました。

    サミュエルや、黒人解放運動の闘志のニール、その妹のソーシャルワーカーのパメラ、そして自らの危険を承知しながらも協力する、国立衛生研究所部長の父と、ウィルス学の助教授である息子のレフ親子。損得ではなく、本当に虐げられ命の危機にある人々を救おうと闘う人々に頭が下がります。世界はこういう人達の働きで救われるんだなあ〜と思ったのでした。

    恥ずかしながら…アフリカのことや、人種差別のことなど、TVや映画で知ってはいても、身近な生活に結びつけることは出来てなかった私でしたが、この作品で多少ながら理解が深まったような気がしています。
    人間の“尊厳”を求め、耐えて、武器を持たずに闘い抜く場面に心震え、ラストの作田の言葉に涙が滲みました。

    やっぱり、帚木蓬生さんは、凄い!少しずつ、また読み進めていきたい作家さんです。

    心に残ったところを少し。
    ーーーーー
    解剖学的にみれば、白も黒もたかだか皮膚のメラニン色素の量の差です。脳だけ取り出したら、黒白の見分けはつかない。

    シン、ここが大切なところなんだ。黒人が解放されることは、白人が解放されることなんだよ。

    解剖や生理学を嫌というほど叩き込まれた医者でさえ、偏見からは自由でないのだ。精神的に盲人なら、目がどんなに見開いていても、何も見えない。

    いつかこの街がパリみたいになればいい。街路や建物は整然としていても、なかにいる人間は種々雑多なんだ。白人も黒人もアジア人も、そこがまるで花園みたいにいい顔をして生きている。

    「あなたが生きていてさえくれるなら、たとえ何年会わなくても私は平気よ」

    最後の自分の砦は、身体じゃなくて〈意志〉です。これがある限り、拷問には負けない。・・・(中略)
    ぼくは、多分そんな拷問にあえば骨なしになるかもしれない。しかしそれでも構わない。このままあの国を去っては、生きていても無意味なのだ。

    歌だけは奪えない。歌には原料も維持費もかからない。息さえできていればうたえる。

    赤ん坊はすべて先祖の生まれ変わりです。人が死ぬとき、必ずどこかで赤ん坊になって生まれているのです。
    ーーーーー

  • 南アフリカのアパルトヘイトを題材にし、白人の支配層が絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を殲滅しようとする。

    そんな中で心臓移植を学ぶ為に南アフリカに来ていた日本人医師・作田信が主人公をつとめます。

    大学病院へ行かない時間を使い、スラム街の診療所の手伝いを始めた頃にその地域で生活する黒人の子供たちの間で奇妙な病が流行りだす。

    次々と命を落としていく幼い子供たち。

    作田はなんとかしょうと、大学病院に患者を連れて行くも、黒人だからという理由で診察すら受けることを許してもらえない。

    時を同じくし、作田の周りの人々が彼に対し圧力をかけ始める。

    その間にもどんどん広がりをみせる病と、命を落とす子供たち。

    使命感に燃える作田はウイルスの専門家レフ助教授に助けを求め、ついに絶滅したはずの天然痘が黒人の子供たちの間でだけ蔓延していることを突き止める。

    医療ミステリーの要素、冒険小説の要素も加わった作品であるが、アパルトヘイトという人種差別に立ち向かうヒューマニズム作品。

    積読となっているネルソンマンデラの「自由への道」を読みたいという欲望と共に、人間の恐ろしさと温もりに触れられる作品でした。



    説明
    内容紹介
    絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師。留学先の南アフリカで直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため正義の闘いに命をかける。証拠品の国外持ち出しは成功するか!? 黒人差別に怒る日本人医師を描く冒険小説!<br><br><br>絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師。留学先の南アフリカで直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため正義の闘いに命をかける。証拠品の国外持ち出しは成功するか!? 山本周五郎賞受賞作家が描く傑作長編冒険サスペンス。
    内容(「BOOK」データベースより)
    絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師。留学先の南アフリカで直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため正義の闘いに命をかける。証拠品の国外持ち出しは成功するか!?山本周五郎賞受賞作家が描く傑作長編冒険サスペンス。
    著者について
    1947年、福岡県生まれ。東京大学仏文科卒業後、TBS入社。2年間の記者生活を経て九州大学医学部に進んだ、現職の精神科医。’93年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞を受賞。著書は『臓器農場』『空夜』『総統の防具』『逃亡』など多数。

  • 新年一冊目は、チョット真面目なお話。ずっと気になっていた帚木蓬生さん。心臓移植を学ぶ為にアフリカに留学した若い日本人医師。そこで黒人差別の酷さを目の当たりにする。白人が黒人社会を排除する為に絶滅した天然痘ウィルスをばらまき、黒人の子供達の間に天然痘が一気に流行する。なんとかして助けてやりたいと、若き日本人医師が自分の命の危険を犯してまでも白人社会と闘う。教科書では知る事の出来ないアパルトヘイトについて書いてあって、どうしてこんな差別が起きたのか哀しくなった。最後は、日本人医師の人種を越えた勇気にただただ感動。

  • 白人の子どもがこの小説を手にしたら、
    何を感じるのだろう

    世界全体がコロナ禍に見舞われた今の時代に読んだためだろうか
    昨今のジャンプ漫画でも見られない、
    徹底した勧善懲悪がとにかく鼻に付いた

    原因は言うまでもなく、ウイルステロという昨今非常にセンシティブなネタを背景に、
    本作では潔い程の白人=悪の図式が敢行されている点だ

    確かに黒人奴隷、アフリカン冷遇の歴史は史実だ
    しかし、史実であればそこにどれだけの味付けを加えても許されるのだろうか?

    はっきり言って、主人公「作田」を作者が自身の分身として描いているように思えてならない

    冷徹な白人像・迫害され続けてきた黒人像・未曾有の危機である天然痘

    これら三種の存在を隠れ蓑に、作者がメアリー・スーよろしく自分自身の欲得を満たすために書いた作品
    それが本作のように見えてしまった

    過去に汚点を持つ人種の血を引いていたら、
    あとは未来永劫「加害者の一族」として「被害者の一族」ならびにその関係者、ですらない自称有識者らにまで殴られ続けるしかないのか

    この作品を白人の子どもが手にしたら、
    何を感じるのだろう

    良くも悪くも90年代だからこそ許された作品

  • 絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師。留学先の南アフリカで直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため正義の闘いに命をかける。証拠品の国外持ち出しは成功するか!?山本周五郎賞受賞作家が描く傑作長編冒険サスペンス。

  • 物語の主人公は「天然痘」 
    伝染病はワクチンが無ければ予防・治療が難しい 
    そのワクチン供与を遮断して、天然痘の蔓延を企てた犯罪物語だった。

    さて、今は「新型肺炎」蔓延の恐怖 
    まだ、ワクチンがない未知の伝染病 

    えっ、早く治療薬を作らないと
       早くワクチンを作らないと・・・・

  • メディアマーカー・読了コメントRSSで興味。南ア差別についてがテーマらしい。

  • これは良かった!正直『閉鎖病棟』があんまり好きじゃなかったから、期待はしてなかったんだけれど、いい具合に重くて。
    アパルトヘイトがあった頃の南アフリカ共和国を舞台にした、日本人医師・作田信を主人公としたストーリー。本当にこんな非人道的な政策がとられていたのか…。人間てむごいな。合衆国大統領が黒人の現代からは考えられない。まあまだ差別は残っているんだろうけど。
    ラストの大行進(スト)の場面は、なんだか胸がじ~んってんなったよ。

  • おそろしい物語でした。さすがにこれはフィクションだと思いますが、つい20年ほど前までアパルトヘイトという差別が現実に存在していたというおそろしさを垣間見た気がします。

  • もしもぼくが化石になって見つかった時に、ぼくの肌が黄色だった事に気づくだろうか。彼の肌が黒いというそれだけで、傷つけられた時代があったと気づくだろうか。著者の描くヒューマニズム。そこからいろんな事を考えさせられた。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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