公子曹植の恋 (講談社文庫 ふ 43-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062639187

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  • 曹植が兄曹丕の妻に恋をしたという話。登場人物はすべて史実通りだがこの恋の話は当然創作だろう。しかし曹植の作詩の能力とさらなる向上の謎解きになっている。
    解説北方謙三がベタ褒めしている。中国史の一場面を借りた恋愛小説で、豊穣な鉱脈を作者は掘り当てたという。この後どれだけの作品を産み出したのか。
    残りも読みたい。

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  • 三国志の英雄曹操の息子で、詩の才能を謳われた曹植が兄嫁に懸想し続ける小説。目的意識に欠ける曹植の生きる意味を兄嫁の存在においてみた、という感じ。主人公が在原業平になってもストーリーは成立するかもしれない。

  • 『三国志』関係の小説は多いが、この本は「主人公の曹植と兄嫁の甄氏の悲恋」を描いた異色作。甄氏の夫で実の兄・曹丕との確執だけでなく、他の兄弟への愛も描かれており、面白かった(曹丕が冷酷すぎるような気もするが)。

    「私は人を恋うる資格もなかった」という曹植の嘆きが悲しい。「詩人」としての曹植も描かれているが「亡き甄氏への愛」を歌ったという伝説がある『洛神の賦』に触れていないのが寂しい。『洛神の賦』のような悲恋小説だと紹介しておく。


    洛神の賦 曹植

    黄初三年、私は宮中に参上し、帰路、洛水を渡った。
    昔の人の言い伝えでは、この川の神の名は宓妃という。
    私は、遠い昔、宋玉が楚の襄王に
    神女の事を話したことを思い出して、
    この賦を作った。
    それは次のような内容である。

    私は都から、東の所領に帰る途中だった。
    伊闕を後にし、轘轅山を越えて、通谷を通り、景山に登った。
    日はすでに西に傾き、車には傷がつき、馬は疲れていた。
    そのため馬車を香草が繁る沢に止めて、
    馬たちに万年茸が生えている場所で飼葉を食べさせ、
    柳の生い茂る林で休息して、
    洛水をぼんやりと眺めていた。

    そのうち、心は夢の世界へと誘われ、
    私の想いは遠い彼方へ飛んでゆく。
    ぼんやりと眺めている間は気づかなかったが、
    顔を上げ、目を凝らすと、
    ひとりの麗しい女性が岩の近くに立っていた。
    そこで私は御者を呼んで 彼に訊ねてみた。
    「そなたにも、あの女性が見えるか?
    いったい誰だろう、あのように美しいお方は」
    御者は問いに答えて言う、
    「私は 洛水の神で、
    宓妃という方の話を耳にしたことがあります。
    わが君が目にしているのは、その女神ではありませんか。
    どんなお姿か、わが君 お聞かせ願えないでしょうか」
    そこで私は彼に言った。

    その人の姿は、
    突然、飛び立つ鸛のように軽やかで、
    天に飛翔する龍のようにしとやか、
    秋の菊よりも、まぶしく輝き、
    春の松よりも、満ち足りて華やぐ。
    軽い雲が月にかかるように朧で、
    流れる風に舞う雪のように現れては消え、
    遠くから見れば、白く輝く肢体は、
    朝に立ち籠める靄の中から昇る太陽のよう、
    彼女に近づいてみると、赤い蓮の花が、
    緑の波に浮かぶように見える。

    太くもなく細くもないししおき、
    高くもなく低くもない背丈。
    削りとられた肩、白い絹を束ねたような腰、
    長くて細いうなじ、眩い白い肌。
    芳しい油はつけず、おしろいは塗らず、
    うず高い豊かな髷、細く弧を描く長い眉。
    外には輝く赤い唇、内には鮮やかな白い歯。
    艶やかに揺れる明るい瞳、えくぼは頬に浮かぶ。
    この世のものとは思えぬ悩ましく、
    もの静かな 立ち振る舞い。
    人を穏やかにする風韻、趣のある物腰、
    愛らしい言葉づかい。
    幻でも見ているような衣服をまとい、
    絵の中から抜け出たような麗しい人。

    身につけた薄絹が光り、
    美しく飾られた宝玉の耳飾りが揺れ、
    黄金や翡翠の髪飾りを挿し、
    身体につけた真珠が、まばゆい光を放つ。
    「遠遊」の刺繍のある履物をはいて、
    透明な絹のもすそを引き、
    幽玄な香りがする蘭が咲く中を見え隠れしながら、
    ゆっくりと山の片隅を歩いてゆく。

    突然、その人は身も軽やかに遊び戯れる。
    左に彩られた旗に寄り添い、
    右の桂の旗竿に身を潜める。
    水際で白い腕を露わにし、
    激しく逆巻く早瀬のそば、万年茸を摘む。
    私は、女神の滑らかな美しさに魅せられながら、
    胸は不安で震える。
    彼女に私の想いを伝える者はいないから、
    細波に託して届けよう。
    私の心が、あの人に伝わるように願い、
    私が身に帯びた玉を解き、私の心の証としよう。

    ああ、美しい人よ、なんと素晴らしいことか、
    奥ゆかしく礼儀作法に通じ、詩の道にも通じている。
    美しい玉をかざして、私に応え、深い淵を指差し、
    愛の誓いを立ててくれた。
    私は切ない慕情を抱いているが、
    同時に女神が私を裏切るのではないかと不安を感じ、
    長江の女神から佩玉をもらった鄭交甫が
    約束を反故にされた伝説を思い出し、
    私の心は暗く沈み、疑いは消えない。
    そこで喜びの表情を改め、心を落ち着かせ、
    礼法を守って、自分を制した。

    洛水の女神は その態度に感銘し、
    立ち去ることもなく、私の周囲をさまよい歩き、
    神々しい光は、彼女の姿が見え隠れするとともに、
    ときに暗く、ときに明るくなる。
    彼女は軽やかな体を浮かせ、鶴のように爪先立って、
    今にも飛翔しようとするが、迷っているようだ。
    山椒の生えた道を踏めばよい香りが漂い、
    香り草の草原を歩けば芳香が漂う。
    悲しげに、長く心に残る女神の歌声は、
    私を永久の恋慕へと誘い、
    哀切な声がいつまでも続く。

    やがて、ほかの神々がつどい集まり、
    お互いに仲間を呼びあう。
    ある者は滑らかな流れに戯れ、
    ある者は神聖な渚に飛び、
    ある者は真珠を採り、
    ある者は翡翠の羽を拾う。
    南の湘水より、二人の妃が急いで参上し、
    漢水で遊ぶ女神と手をつなぐ。
    私を、ほかの星と離れて輝く匏瓜星のようだと嘆かれ、
    七月七日にしか織女に会えない牽牛星のように孤独だと歌う。
    女神は軽やかな小袖を風に翻し、長い袖をかざして、
    私の顔ををじっと見つめる。

    彼女の体は飛びたつ鴨よりも速く、
    浮いて漂い、捉えることができない神霊のようだ。
    波を踏み、ゆるやかに歩くと、
    足下の薄絹より塵が舞い上がる。
    その動作には、まるで決まりがなく、
    崩れそうであり、同時に揺るぎ無いように見える。
    いつ進み、いつ止まるのか、私にはわからず、
    去っていくようであり、戻って来るようでもある。

    流し目の中に、強烈な光を生み、
    玉のような顔は、あでやかさを増す。
    唇は何か言いたげだが、言葉が出ず、
    芳しい息づかいは幽蘭のようだ。
    美しく、しなやかな女神の姿は、
    私に食事をすることさえ忘れさせてしまう。

    ここにおいて、風の神は風を収め、
    川の神は波を静める。
    水神は鼓を鳴らし、女媧は清く澄んだ声で歌う。
    八目鰻が先駆けになり、
    玉の鈴を鳴らす車が一斉に動き出す。
    六頭の龍が、厳めしく首をもたげ、
    愛しい女神が乗る雲の車をゆるやかに引く。
    躍りあがった鯨は車の左右を守り、
    水鳥は天翔けて女神を守護する。
    車はついに北の中洲を越え、南の丘を過ぎた時、
    女神は白いうなじを巡らし、涼やかな瞳を私に向け、
    朱色の唇を動かして、静かに男女の契りの定めを説く。

    人と神は、越えることのできない隔たりがあることを恨み、
    二人が出会うのが遅すぎたことを恨んだ。
    薄絹の袖をあげて、女神はむせび泣き、
    涙が、静かに止まることなく襟にこぽれ落ちる。
    私たちが、もう二度と会えないことを悲しみ、
    ひとたびここを去れば、
    私と彼女が異なる世界に住むことを哀しんだ。

    「これより先は、ささやかな追慕の言葉さえ口にできません。
    今、江南の真珠の耳玉をあなたにさし上げましょう。
    たとえ、私が鬼神の住む世界に隠れる身となっても、
    永遠にあなたのことを愛しています」
    そう言い残すと 女神の姿は見えなくなり、
    悲しい幽暗の世界の中、光が沈んで消えた。

    こうして私は、低い水辺を後にして高みへと登り、
    足は前に進むが、心は後ろに残る。
    募る想いを抑えることができず、何度も振り返り、
    女神の姿を思い浮かべ、心は愁いに閉ざされる。
    女神と再会できることを願い、
    小舟をあやつって、川の流れをさかのぼり、
    川に浮かんだまま、どこまでも小舟を漕ぎ続け、
    所領に帰ることすら忘れ、
    恋い慕う想いが募るばかりだった。
    夜になっても心は安まらず、眠ることもできずに、
    気がつくと、激しい霜にわが身を濡らして立ち、
    いつの間にか朝を迎えていた。

    私は御者に車の準備をさせ、
    ついに東へ帰ることを決めた。
    副え馬に乗って手綱を握り、鞭を打とうとしたが、
    胸が塞がり、決心を固めることができず、
    私はその場から、立ち去ることができなかった。

  • 08/03/29読了

  • 曹植は詩だけの人でもなかったはずだが・・・。そして曹丕の扱いが酷い気がする。

  • 曹一族では曹植がいちばん好き。
    何となく。
    その曹植の恋のお話とは一体どんなのだろう!
    と期待して図書館で借りてきた。
    どうにも読後感がすっきりしないのは、
    曹植が身を滅ぼしていくからだろうか。

  • 曹操の息子、曹植が主人公。兄嫁への秘めた想いの心理描写がメインですが、繊細すぎてあまり好ましく思えない。文字が大きいのですぐ読めます。

  • 「若き曹植の悩み」とでも言ったらいいのでしょうか。自分の気持ちにどうしようもなく振り回される若者が良く描けているのではないでしょうか。自殺にむかわず詩に向かったところが良いのですが、すこしきれいにまとめすぎたかもしれません。

    ただただ、曹植という若者の恋情を描いた本です。他の登場人物は書割の背景みたいなものなので人によっては少々物足りないなぁと思うかもしれません。

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著者プロフィール

藤 水名子 ふじ・みなこ
1964年、東京生まれ。作新学院を経て、日本大学文理学部中国文学科に学ぶ。1991年、『涼州賦』(集英社刊)にて「小説すばる新人賞」受賞。主に、中国・日本を舞台とした歴史小説、時代小説を発表する。著書に、『色判官絶句』『赤壁の宴』『紅嵐記』(講談社刊)、「開封死踊艶舞シリーズ」(徳間書店)、『あなたの胸で眠りたい』『浪漫’S―見参!桜子姫』『花道士』『赤いランタン』(集英社刊)、『花残月』(廣済堂)などがある。

「2022年 『公方天誅 古来稀なる大目付7』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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