忍法忠臣蔵 山田風太郎忍法帖(2) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062645034

作品紹介・あらすじ

殿中で吉良への刃傷沙汰により、浅野家は断絶され、赤穂浪士は仇討の機を窺う。一方、吉良方が頼りとする上杉家では、家老の千坂兵部(ちさかひょうぶ)が女忍者を用い、仇討防止に色仕掛けで浪士の骨抜きを企む。大石内蔵助が同志と密議の最中に、妖美と怪異の忍法が華と炸裂した!殺気と妖気が奔流のごとくに交錯する!

1度読みだしたら止まらない――それが風太郎作品の最大の魔力なのだ。――馳星周

感想・レビュー・書評

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  • 忠臣蔵の話は元々興味があったので、物語としても楽しめた。しかし、ストレートに忠臣蔵を描いているのではなく、主人公は、赤穂浪士の敵にあたる吉良側だ。主人公の綱太郎は、忠と女を憎む風太郎作品にしては変わった主人公だ。そんな彼は、忠を体現するかのような赤穂浪士たちを、敵陣営でありながら、将来の上杉家の安泰のため、守ることになる。複雑なストーリーだが、大石内蔵助サイドと上杉サイド両方の目線が楽しめる。

    忠というのは善なのかそうでないのか。
    忠のために捨てられ身を汚した女たちは、それでも敵討を望んだし、一方で忠のために生きようとした織江を綱太郎は許せなかった。
    赤穂浪士たちの敵討ちは、彼らにとっては本望であるだろうが、それが必ずしも美談であるとは言えないのかもしれない。

  • 相変わらずの面白さ、解説の馳星周氏の言葉の通り「読み出すと止まらなくなる」

    元禄赤穂事件を題材にし、赤穂四十七士の討ち入りに至るまでの裏模様を描いている。発端と結末の史実を変えることはない、忍法帖の特色としてその紆余曲折を、虚実合わせて描き、歴史の裏に埋もれたであろう(全くの創作かもしれぬが?)人々(忍者等々)を、誰に偏るでもなく冷徹な視線で描く。その視線からこそが物語中において、強烈な叙情を持って読者に語りかけてくるに容易いのだ。

    今作において赤穂四十七士の有名人物も多数登場するが、メインとなるのは「主君の仇をなす血の盟約」から脱盟した者達であった。松の廊下にての刃傷沙汰により浅名家は断絶、赤穂浪士は仇討ちの機を窺う…一方、吉良家が頼る上杉家では、赤穂浪士討つべし!なる勢力と、討たずに仇討ちを阻止すべし!という勢力の内紛が起こる。それぞれに能登忍者、能登くのいちがつき、当の赤穂四十七士のあずかり知らぬところでの忍法合戦が繰り広げられるのだ。くのいち側に主人公無明綱太郎がつき、決して討ち果たすことなく、くのいち忍法にて浪士を骨抜きにし、さらに命を狙う能登忍者から、浪士を影ながら守らねばならない!というハンディキャップマッチとなる。

    登場する忍法がぶっ飛んでいるのは毎度ながらも楽しい、中途で脱盟した実在の浪士達がくのいち忍法に篭絡され打ち果てていく姿はまた哀しい。無明綱太郎はオブザーバー的役割でくのいちの補佐もするが、裏切った時の制裁役も兼ねており、「忠」を忌み嫌う虚無の忍者である。その虚無が「討ち入り、仇討ち」の虚無と重なる時、凄惨極まりなくも胸を打つシーンが登場する。

    最後の脱盟者となった毛利小平太の章である。くのいちの手引きで、浪士達の妻、妹、娘、女達の悲惨な状況を知らしめられる。いずれも悲惨極まりない最下層の売春婦と墜ちており、性病に侵され、精神すらも病んだ女達を目の当たりにした小平太は心を変える。首魁大石内蔵助を自ら討ち取り、仇討ちを終わらせようとするのだ。しかしながらそれを阻んだのは墜ちた女達であった。彼女達が大石にかけた言葉は今作の中でも特に、さらに言うなら忍法帖の全てにおいても心に残った。「…首尾よう御本懐を……かげながらお祈り申し上げるまする。……」


    小平太をして、仇討ちの虚しさを説いておきながら、手のひらを返したように仇討ち為すための犠牲となった女たちによって、それを正当化して見せた。この場面において風太郎氏の歴史観を垣間見た気がした。解説にもあった通り、善も悪もない、ただ人の心のままに歴史は動くのだと。

    史実は変わらないのでその通りの結末なのだが、ラストにおいては無明綱太郎の心はさらなる虚無に晒されることとなり憐であった。にしても無明綱太郎強し!忍法帖シリーズにおいてもトップレベル、ライバルはおげ丸か?いや最強の術は甲賀弦之介の瞳術か?こういう楽しみもまた忍法帖なるかな。

  • 相変わらずの面白さ。
    ぶっ飛んだ忍者が出てくるという
    風太郎パターンは同じなんだけど
    ついつい読んでしまう中毒的小説。

    堅い小説読んだ後にはこういうのお勧め。

  • 忍法の発想がぶっとんでいる。特に歓喜天はすさまじい。私は忠臣蔵をよく知らないが、面白くよめた。

    千坂兵部が女忍者をもって仇討ち防止と能登忍者が赤穂浪士を殺害するのを食い止めるのは、はじめから成功を信じていなかったのではないかと思われる。この役割だと女忍者が相手の忍者より相当強くないとできない。それなのに人数も少ない。結局綱太郎が一人で相手の忍者を倒している。
    死んでいった大勢の忍者はひとえに綱憲の復讐心の元に死んでいった。これは忠義の元に死んでいったわけである。綱太郎が忠義も女も嫌いと語って終わる。虚しい終わり方だった。

  • ネタバレ 「週刊漫画サンデー」連載。忠臣蔵が物語の基軸になるエロティック伝奇時代小説。作品の構図は、エロティック忍術を使うくの一軍団が、赤穂浪人を狙う上杉綱憲配下の忍者軍団と戦う一方、浪士らをその忍術で性的に籠絡するというもの。高田軍兵衛ら脱盟者を物語の核とする点は、面白い目の付け所。が、物語の対立構図が米沢藩の内部抗争劇で、忠臣蔵としては判りにくい。ただ、忠臣蔵でありながら、忠義と女が嫌いという主人公(理由も納得できるもの)を配し、浪士への冷ややかな目線と忠義への皮肉を伏流させたのは戦中派の著者らしい。
    上野介は登場せず、松の廊下刃傷事件も情報伝達されるだけ。という意味で忠臣蔵を斜めから見た作品であり、普通の忠臣蔵では飽き足らない人向けかも知れない。1998年刊行(初出1961年)。

  • 亡き主君の無念を晴らす仇討物で日本人が大好きな忠臣蔵。その忠臣蔵に材をとり、大石内蔵助率いる赤穂浪士、彼らの命を狙う吉良の刺客、そして色仕掛けで仇討を放棄させようとする女忍者たちの三つ巴の闘いを描きます。忠臣蔵というタイトルですが、見どころは討ち入りではなく、浪士をめぐって争われる忍者同士の奇怪な忍法合戦です。

    女忍者の罠にかかり仇討の盟約から一人また一人と離脱していきますが、"忠"にも”義”にも無縁の僕からすると、脱落した者たちのほうに同情してしまいました。忠臣蔵というと赤穂浪士たちがやたらと称揚されますが、家族までを巻き込み不幸にしてしまう武士の道徳に、著者は疑義を呈しているよう。

    史実についてはよく知りませんが、仇討を期待する世間が公儀を動かし、浪士たちの不穏な動きを見て見ぬふりした、ということもあったのでしょうか。そこまで読んでいたとすると、やはり大石内蔵助はただものではないですね。

  • 2012/2/19読了。正月に放映された忠臣蔵のドラマがあまりにつまらなかったので、面白い忠臣蔵に触れたいと思い読んでみた。虚と実を巧みに組み合わせた風太郎忍法帖の傑作、期待に違わぬ面白さだった。
    赤穂浪士を暗殺するべく吉良上野介の実子上杉綱憲が放った忍者たちと、それを阻止すると同時に赤穂浪士を色仕掛けで骨抜きするべく上杉の家老千坂兵部が放ったくノ一たちの忍法合戦がストーリーの中心。
    赤穂浪士ではなく上杉家内部の忍者同士の戦いとしたところが面白い。それでいて大石はじめ赤穂浪士たちもキャラが立つよう描かれているのが凄い。風太郎忍法帖らしく奇想天外でエロチックな忍法が次々に繰り出されるのも楽しい。
    しかし本書で最も印象に残るのは、くノ一たちを陰から監督する伊賀忍者無明綱太郎の視点である。忠臣蔵のテーマである「忠」に根本的な疑問を投げかけるこの男、大佛次郎の『赤穂浪士』における堀田隼人と同じく、物語をただの義挙美談ものに終わらせない重要なキャラクターである。

  • 『拙者、忠義と女は大きらいでござる』

    風太郎忍法帖第七作。
    忠臣蔵に忍法争いを絡めるだけでも奇想天外ですが、その舞台設定も想像を超えています。
    浅野家の浪士達の討入を阻止するため、忍者を放つは吉良家ではなく上杉家。主君「上杉綱憲」により主導者の討伐を命じられた「能登忍者十人衆」vs 家老「千坂兵部」により浪士討伐を阻止し色仕掛けにより浪士を骨抜きにするよう命じられた「能登くノ一六人衆」と伊賀忍者「無名綱太郎」。何とも複雑な構図です。
    さらに、主人公の綱太郎は、風太郎忍法帖屈指の強さを誇りながら、忍法争いには積極的に参加せず、くノ一の補助と監視に徹するという、これまた異色な設定。

    忠義と肉欲の間で揺れ動く浪士達の葛藤はもちろん、
    忠臣蔵のテーマである「忠義」に投げかけられる疑問も印象的です。
    世にもてはやされる忠義とその裏で生じる犠牲。
    何が正しくて何が間違っているのか?

  • 山田風太郎の忍法帖シリーズの2つ目。
    甲賀忍法帖はバジリスクのアニメがあったので忍術やキャラクターがイメージしやすかったが、今回は自分の想像力が全くついていけなかった(笑)

    女忍者の使う技が常人のアイデアを超越しすぎていてもはや訳がわからない。
    これが山田風太郎の作品なのか…と大いに納得した。
    こんな作品が60年代に描かれていたとは。
    当時の読者はどんなものを想像して読んだのだろうか。
    男と交わると中身が入れ替わったり、男と交わると血管がくっついたりと、奇想天外な術のオンパレード。

    歴史小説は読み慣れていなくて、中々読み進めるのが大変だったが、後半は人物名の漢字も読めるようになってきていた。
    歴史小説は今後どんどん読んでいきたい。そうすればスラスラと読めるようになるのだろうか。

  • 忠臣蔵って苦手です。
    歴史ものは大好きなのですが、なぜか赤穂浪士だけは読まない、見ない、知らない、なのです。

    しかし、山田風太郎の手にかかれば・・・
    期待を裏切らないおもしろさ、相変わらず「んな、あほなぁ」と忍術に突っ込みを入れながら、あっと言う間に読んでしまいます。おもしろい!

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著者プロフィール

1922年兵庫県生まれ。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞、97年に第45回菊池寛賞、2001年に第四回日本ミステリー文学大賞を受賞。2001年没。

「2011年 『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽 山田風太郎ベストコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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