詩的私的ジャック (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062647069

感想・レビュー・書評

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  • S&Mシリーズの4作目である本作。本作の印象として、前回までのシリーズとは打って変わって主人公である犀川が不在の中、もう1人の主人公である西之園が事件に巻き込まれていくことがとても印象的でした。

    本作はまず、大学教員が密室のログハウスで女子生徒の遺体を発見することから始まります。その遺体は絞殺された痕跡とともに、衣類が脱がされ、ナイフによる切り傷で作られたメッセージが残されています。そして、事件が連鎖していく中で1人のミュージャンに疑惑の目が向いていきます。果たして、殺人犯はどのようにして、密室を作り、なぜこういう犯行に至ったのか…というストーリー。

    事件のトリックと推理の導き方に関しては、森さんの特徴とも言える、理系工学に基づいたトリックであり、かつ論理の筋道も思考過程を踏まえながら主人公が話してくれるので、知的好奇心がそそられるようで相変わらず面白いなと思いました。

    また、少しずつ主人公の関係性にも変化が見えてきて、シリーズも深まってきたなぁと個人的には思いました。

  • 真相を知ってから、358ページの会話を読むと、そのやりとりの絶妙さに思わず唸ってしまった…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    2つの大学での連続女子大生密室殺害事件が起こる。

    捜査線上に浮かんできたのはロック歌手の結城稔だった。
    彼の曲の歌詞をなぞらえたかのような殺人の手口…
    本当に彼が犯人なのか…?

    お嬢様大学生・萌絵は情報を集めていくものの、真相にたどり着くことができないでいた。
    一方、犀川助教授は…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    S&Mシリーズ第4作目。
    究極の消極的探偵・犀川は、あまり事件に関係してこないにも関わらず、萌絵もたどり着けなかった真相にポンと気づいてしまうところが、恐ろしいです。
    というか、このシリーズを読めば読むほど、犀川という人物がますます遠くなる感覚を覚えます。
    例えるならば、ウルトラセブンに出てくる諸星ダンのような…身体は人間のように見えるけれども、中身は地球人ではないような…
    ちょっと大げさかもしれませんが、そんな風に思えてしまうのが犀川という人物です。
    それと同時に、ウルトラセブンが地球を離れて帰っていってしまったように、いつか犀川も“どこか”へ行ってしまうのではないかと、危惧してしまいます。
    今後、犀川と萌絵の関係性も、どうなるのでしょうか…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    分厚い1冊であり、物語の8割は萌絵がつかんでくる情報が書かれているのですが、全然真相がわかりません。
    正直、5割くらい読んだ時点で、あまりに真相らしきものがわからなくて、じれったさマックスになりました。

    もちろん犯人の予想は自分なりに立ててみるのですが、今回もまったくのハズレでした。
    特に358・359ページに書かれている犀川とある人物との会話は、初見ではチンプンカンプンであり、その場にいた萌絵のセリフ「もう!何の話をしているの?二人とも…」(359ページ)という叫びに、「わかる!その気持ち!」と思ってしまいました。
    しかし真相を知ってから改めてそのページの会話を読んでみたところ、驚くべきことにちゃんとかみ合っているのです会話が。
    驚愕でした。

    しかも、ある人物の、ある相手への苦しい恋心を示したこの一見不可思議な会話のやりとりは、その恋の“苦しさ”を真に知ったとき、とてもせつなくなりました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    トリックも正直なところ、勉強した内容を全部学校に置いて卒業した身のわたしには、なかなか理解するところまでいきませんでした。
    なので真相部分では、人間模様のほうに重きをおいて読み進めました。
    それでも十分、楽しめました。

    真相にたどり着くまでの道のりは長いですが、なんとかがんばって歩ききっていただければ…と思います。

  • 今作はミステリとしては控えめな面白さという印象でしたが、常人には理解できない理由で事件を起こすこれまでの犯人とは違い、「ノートを真っ白にしたい」というの分からなくもない動機だったので(「女性を」といったジェンダーの話ではなく、全ての事象において自分の理解の範疇に納めて起きたいという感情)、心情は一番受け止めやすかったかも知れません。それでも殺人に結びつけるのは、やはり異常だとは思いましたが。

    とはいえ、犀川先生と萌絵の2人の関係性を掘り下げる作品としては、これまで以上に心情を深掘りしたエピソードが多く、非常に魅力的な作品でした。あそこまでぶちまけられたにも関わらずはぐらかす犀川先生は流石に鬼だと思いましたが(笑)。萌絵の大学院進学の話も出てきて、ますます目が話せませんね。

  • 1997年作品

    トリガーとなった論文を本にするというところに疑問符がついた。私的にはそもそも論文は引用回数と認識していたが。

    あと、気になったは研究材料に異物が購入した形跡があれば実験データとして使えないだろう。ワザと嫌がるようにして犯人説としたかったのか

    犯人のトリックは知識を誇示したかったのか??
    いたずらを誤魔化すためか?
    犀川先生と萌絵の距離が縮まった物語であった気がする。
    国枝助手ほうがミステリーである。

  • 大学で起きた女子大生の連続殺人。現場は密室。死体には文字のような傷が残されていた。容疑者はロック歌手の結城稔。被害者と面識があった上、事件の内容と歌詞が酷似していて──。

    犀川助教授と萌絵が活躍するS&Mシリーズ第四弾。密室が開かれるほど、謎が増えていくという息苦しさが面白い。トリック自体は早めに明らかになるのに、事件の糸口がまったくつかめないのが不気味だった。すべての密室が解かれても、心という密室の中だけはわからない。動機は理解できないけど、それでいいのだろう。奇麗な結晶であることは人間の理想にして、人間社会という無秩序の中では醜く脆いというのが皮肉だと感じた。

    今回も犀川を事件に引っ張り出す萌絵にハラハラさせられた。それに加えて萌絵の将来、犀川との関係性などのドラマも深く描かれて読み応えあり。むしろこちらがシリーズ的には見どころかも?終盤は思わずニヤニヤしてしまう展開に。あと、国枝がカッコ良すぎ。一番いい味を出してる。事件と並行して伝えられる哲学性も好き。基本的には理系なんだけど、文系な香りもするところがいいよね。

    460ページという物量に対して、ミステリとしてのカタルシスは弱め。犀川が推理に乗り気じゃないので、事件が解かれずに時間が過ぎ去っていくことに焦れてしまう。もうちょっと本腰を入れてくれた方が、萌絵も危なくならずに済むのでは。というか、萌絵が首を突っ込みすぎなんだが(笑)

    p.72
    「そもそも、男女平等と職業とは無関係だ。つまり、男と対等になるために、仕事をするなんてナンセンスだと思う。それでは、仕事をしている者が偉いという、馬鹿な男が考えた言い訳を認めることになる。いいかい。仕事をしていても、遊んでいても、人間は平等だ。問題をすり替えてはいけない」

    p.113
    「研究ってね。何かに興味があるからできるというものじゃないんだよ。研究そのものが面白いんだ。目的を見失うことが研究の真髄なんだ。君が、今、殺人事件に夢中なのと同じ。君だって、殺人が好きなわけじゃないだろう?」

  • 2023/1/25読了(再読)
    初読は'99年。ナンバーの振られた連続殺人で、実は途中で犯人による意図的なナンバーの入替えがあって、それが錯誤の元になる、というパターンがあることを後年、更に更に色々なミステリを読むことで知るのだが、本作もこのパターン。しかも、密室についても、HowよりもWhyに重点が置かれ、謎が明かされた時に、「密室が必要だった」理由が、きちんと説明されている。非常に緻密に構成された作品だったのだと、改めて感じた。――以上、小生意気な論評でした。

  • 犀川先生が建築学科の先生のこともあるけども、今回のトリックにコンクリートが使われていて、そのコンクリートに関する実験をしている先生たちの言葉が、まさにわたしが施工管理一級の勉強で出てきたものがたくさんあって、

    読んでて、そうそうコンクリートは水和熱を発するから固まるまでの時間が気温で違うのよー!!!と、読みながら思ったり、

    早強コンクリートのことかな?

    レディミクスコンクリートとかは実際使ってるから、他の新しいコンクリートの実験なのかな?いや、携帯もない時代のミステリーだから新しいコンクリートがもう実践で使ってるかもだよなぁ?

    車止めのコンクリートについても、余ったコンクリートを先に型枠作っておいて、ポンプ内のコンクリートやらを流し込んで車止めコンクリートを一緒に作成!

    これ経験記述にあったわー!!!あった、あった!

    鉄筋との兼ね合いから、型枠の話まで。

    つい最近の勉強で、なんだか嬉しくなってしまった一冊でした。

    特にコンクリートはわからなくて勉強したからなぁ。こんなところで出てくるとは!!!!笑

  • S&Mシリーズ4作目。
    今回は犀川離脱が多く、主に萌絵視点で話が進むが、安定の面白さ。

    しかし中国から帰って萌絵の話を聞いただけでまるっと解決してしまう犀川先生、、、流石すぎる。

    事件としてはやや薄味(当シリーズ比)でありながら違ったカタルシスがある。

    次回はどんな密室が二人を待つのか。

  • S&Mシリーズ4作目。うーん犀川先生、魅力的だと思うけど考えてること全く理解し難い…女学生の、女性の社会進出についての質問の場面なんて特に…。
    犀川先生だけじゃなくて登場人物の言ってることが節々で共感できなくて、理系のひと〜って感じだなあ。嫌いじゃないんだけどね。ちゃんと言葉にしないと、言葉にしないのは甘え、って言って2人の距離が縮まるところはよかった。

    今作は動機が焦点のようで、私はこれにはすごく、ストンと落ちた。
    愛する人が、部分的にでも自分の愛する人じゃなくなることってすごく苦しいと思うから。
    それならそのひと自身を消してしまいたい気持ちはわかる。

    どちらかと言うと1人目2人目で密室にした理由がよくわからなかった…笑

  • 2月最後の本
    S&Mシリーズは今まで面白いなぁと思いながら読んできたけれど、この本は面白いよりも切なさを感じたり、読んだ後も登場人物の気持ちを推測したりしてしまう。そんな本でした。

著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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