日本とは何か 日本の歴史〈00〉

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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062689007

感想・レビュー・書評

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  • 少し前に 福岡伸一さんの
    「動的平衡」を読み直していた。
    言うまでもなく
    この世の全てのものは
    生命の本質は要素そのものではなく、要素と要素の「あいだ」で起きる相互作用にある
    という まことに刺激的で興味深い「思考」である。

    そして 網野善彦さん
    ずいぶん前から 網野史学に魅せられて
    ことあるごとに 手にする著者のお一人

    この「「日本」とは何か」
    を読み進んでいる中で
    何度も 「動的平衡」の仕組みが
    思い出された

    「動き」があるがゆえに
    成り立っている 日本の歴史が
    読みほどかれていく

    従来の これぞ「日本」という
    固定観念にとらわれた歴史学ではなく
    網野善彦さんの膨大な資料の読み込み
    と柔軟な思考に裏付けられた
    「日本の歴史」は
    「これまで」よりも
    「これから」を考えさせてもらえる
    興味深い一冊です

  • 講談社学術文庫 日本の歴史シリーズ 網野善彦 日本とは何か

    面白かった。全26巻読んでみたい

    日本という国号の意味と 日本と不可分の天皇制度を古代からたどっている巻。良書だと思う

    この巻の基本思想
    *神話的な日本像を批判〜日本は 孤立した島国、稲作中心の社会、単一民族ではない
    *日本は、ヤマトによる国家の国号であり、ヤマトは 天皇を王と定めた
    *一国史は成立しない〜海は本来、国境になじまない

    日本について
    *日本が初めて現れるのは、ヤマト支配者(壬申の乱に勝利した天武の朝廷)が、倭国から日本国に国名を変えたとき
    *持統朝において、天皇の称号とともに日本の国号が定められた
    *倭人は日本人と同一ではない〜倭寇は国家を超えた海を生活舞台とする人々の動き
    *日本国の成立以前には、日本も日本人も存在しない〜聖徳太子は倭人であり、日本人ではない
    *日本書紀の初代神武以降9代までは実在が否定されている〜実在しない神武天皇の即位した日を建国記念日と定めている

    進歩史観に対する批判
    *人間は自らの努力で進歩してきたわけではない〜人間は常に 社会を意識して生活してきた
    *進歩の名の下に切り捨てられたものに目を向けつつ歴史を再構成する必要がある

    著者のメッセージ
    日本論に必要なのは、列島の自然との関わりで形成される地域社会の生業と個性的な生活の歴史を捉えること


  • 「日本」とはなにか?

    というタイトルから、やや一般論的、本質論的な議論かなと思って読み始めると、たしかにそういう面もあるのだが、まさにそのタイトルどおりに、日本という国の名前はいつ使われ始めたのかというところから、話は始まる。

    で、その起源は、他国、つまりは中国との関係ででてきたもの。ある意味、そうだろうな〜。国名って、他の国があるから、でてくるものだろうからな。

    国名からして、そんな感じなので、日本を独立した島国の一民族の農耕民族としてホモジェニックな社会として捉えられがちな思考を気持ちよくらしてくれる。

    日本という土地、陸を中心とした歴史ではなくて、海や川で、他国とつながった国としての日本。

    多様性を持った国。関係性のなかにある国。

    網野さんの晩年の作品で語られてきた歴史感の総まとめみたいなものであるが、この本は完成形になっているわけではななくて、まだまだ研究しなければいけないテーマはたくさんある、という投げかけがなされている。

    自分がそれらの仕事を完結できないので、次の世代の研究者への投げかけということなんだろうけど、自身としても、最後まで、問いを探求していく人なんだなと思った。

  • 網野善彦の射程は長い。日本の歴史を語るのに、まず日本とは何か、を問う。日本列島に住み始めた人々が国を作り「日本」と名乗ったのは7世紀だ。しかし、従わない人々が、またその埒外で生きる人々がいた。それを含めて「日本」を理解しなければならない。

  • この書籍は、日本の成り立ちを専門家の一人である著者が解説されています。

  • 網野善彦著 2000/10/24発行

  • 歴史家の網野氏の日本に対する考察を示した本。
    2月11日は戦前の紀元節、神武天皇の即位の日という全く架空の日であり、実際日本という国号、国の名前が定まったのは、689年に施行された「飛鳥浄御原令」とされる。実際は702年に中国大陸に渡った即天武后の使者が日本国の使者と明言している。
    日本は「日の本」、つまり「日出る処」を意味している。それは中国大陸、当時の唐を強烈に意識し、唐から名付けた国名と言える。

    日本は海で覆われた「島国」で閉じられた世界で生活してきた均質・単一な民族、単一な国家であるというのも全く虚像であり、実際は海外との貿易を中世時代には既に活発に行っていて、民族的にもアイヌ民族を有し、国家としても琉球王国、中部以東、関東、東北と、本州列島西部とはかなり異なっている。倭人というのも、本州列島西部では重なるとしても日本人とは同一ではない。倭人と呼ばれた人は朝鮮半島南部などにもいて、新羅人となっていた。

    ペルーのリマ市の1613~1614年の人口調査では日本人は既に20名いたと記されている。
    メキシコにも16世紀には既に日本人が住んでいた。江戸時代の末期には能登の船がサハリン南部に赴き、商業が行われていた。これらは氷山の一角にすぎず実際にははるかに太い渡航者たちの流れがあると考えられる。

    また弥生時代以降、日本人は稲作を中心とした瑞穂国日本という先入観があるが、実際には漁業や商業が日本人の職業の大きなウエートを占めていると考えられる。明治5年に作成された壬申戸籍によると、人口は約2000万人であり、78%が農民、工民が4%、商人が7%、雑業が9%、雇人が2%となっている。一方で実際には、農民に区分された人々商業、漁業、廻船業、あるいは金融業まで営んでいた者も数多くいたと推定され、その多くは一般的な農民のイメージとは異なった裕福な暮らしぶりであったと考えられる。

    日本国の戸籍は律令制のもと702年にはきっちりとした形で存在した。そののち実態を失い、中世においては戸籍は作成されないが、江戸時代に宗門改め帳の形で復活する。この戸籍制度は古くは唐の制度を日本が受容し家父長制とっているが、世界の多くの国々は戸籍制度を持っていない。家父長制により女性の社会的活動が制約されている一方で、遺産相続などにおいては基本的に男女均等であり、社会の実生活の中ではその役割・権利も男性と拮抗していると考えられる。

    日本の農民のイメージや、近年まで海外から閉ざされていたイメージを覆す、示唆に富む本ではある一方で、素人には専門的で読み応えがありすぎる気もします。

  • 網野史学の決算ともいうべき力作です。「人類社会の歴史を一生に例えるならば、いまや青年時代から壮年時代に入ったといわざるを得ない」から始まる。いかにも人類の社会史という観点からの壮大な試みを感じます。そして日本という国号・天皇がずっと続いてきた、日本は一つの民族だった、日本列島は一つの文化・政治圏だった、瑞穂の国だった(稲作中心)、江戸時代まで自給自足の農業経済であった、という常識を次々に否定するその筆の説得力は凄みを感じます。西尾幹二などの国粋的な歴史観が台頭している中で、非常に新鮮でした。

  • 人生の50冊

    豊かな教養のための楽読部門 

    日本の歴史、文化史に関する再考を促す話題作。
    通説となっている「日本論」の常識を覆すのが主眼。

    この場合の「日本論」の常識とは
    ・単一民族説
    ・孤立した島国説
    ・水田稲作中心の農業国家などである

    これらの通説は大和朝廷が、随を中心とする対中外交政策として
    もくろんだ神話や物語を利用して流布したストーリーであり、
    無視された部分が多すぎることを解明している。

    強力化する中国政権に対して、柵封制度に従うか否かが
    当時の大和朝廷の最大関心事であり、
    厩戸皇子を中心に進められた政策が
    「柵封を受けず、自立国家として中国だけでなく周辺国家にみとめさせること」であった。
    そこで有名な「日出ずる所の天子」という一文が生まれる。
    この政策が中国の「天子」に対する「天皇」を制度発生させ、
    柵封における蔑称であった「倭」からの独立としての「日本」の
    国名を誕生させるに至と推理する。

    初期大和政権の日本の国土拡張のための侵略の課程も
    詳細に検討されており、
    特筆すべきは、幾内の大和朝廷に対する東国の対抗軸の説明。
    坂東の反乱である平将門の乱以降、
    源頼朝の鎌倉幕府、徳川の江戸幕府など、
    西国と東国はじつは二つの国と区分すべき存在だとしている。


    私にとっては
    紹介される森巣博氏の「日本国籍所有者という意味以外では、日本人というフレームワークは存在しない」という指摘が重要である。
    いまの最大関心事である
    「少子高齢化に対抗する大量帰化人の日本国籍取得」政策を
    バックボーンで支えるかもしれない理論書になりえると感じた。

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著者プロフィール

1928年、山梨県生まれ。1950年、東京大学文学部史学科卒業。日本常民文化研究所研究員、東京都立北園高校教諭、名古屋大学助教授、神奈川大学短期大学部教授を経て、神奈川大学経済学部特任教授。専攻、日本中世史、日本海民史。2004年、死去。主な著書:『中世荘園の様相』(塙書房、1966)、『蒙古襲来』(小学館、1974)、『無縁・公界・楽』(平凡社、1978)、『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978)、『日本中世の民衆像』(岩波新書、1980)、『東と西の語る日本の歴史』(そしえて、1982)、『日本中世の非農業民と天皇』(岩波書店、1984)、『中世再考』(日本エディタースクール出版部、1986)、『異形の王権』(平凡社、1986)、『日本論の視座』(小学館、1990)、『日本中世土地制度史の研究』(塙書房、1991)、『日本社会再考』(小学館、1994)、『中世の非人と遊女』(明石書店、1994)。

「2013年 『悪党と海賊 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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