今はもうない (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 572
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062730976

作品紹介・あらすじ

避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で一人ずつ死体となって発見された。二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が…。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。

感想・レビュー・書評

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  • いやはや、これは騙されました。

    S&Mシリーズの中でも、素晴らしい一作、と言われるだけあって、秀逸。ああ、こういうことなのね~。

    まあ、本書はいわゆる本流の話ではなく、外伝的な話になるんだろうけど。

    でも、この小説は僕のような中年男性の夢を実現させてくれる小説ですよ。
    どんな形であれ、西之園嬢と疑似恋愛を楽しめるのですから(笑)。
    ちょっと、ほんのちょっとですが、犀川先生の気分を味合わせていただきました。ありがとうございました!!。

  • S&Mシリーズ8作目!

    実は語り手が犯人だった、とか、キーパーソンが多重人格で事件に関わった記憶を無くしている、とか…、そういうミステリー作品にありがちな公式的なものが、通用しなくて…。もう8作品めなので、そろそろ見破れませんかね自分、と思いながら読み進めましたが、今回も「そーくるかぁ!」と脳内で騒がさせて頂きました。どんどん沼にハマっていく気しかない。

    最終章の1番最後の行、これがホントのどんでん返しなのか……と、思い知らされました笑
    他作と違い、なんで萌絵ちゃんでも犀川先生でもない人目線からの語りなのか……早く2人の掛け合いを見たい……とうずうずしてましたが、これも重要な設計図の一部だったのですね。

    ラスト、この終わり方を、後味悪いと捉えるか美しいと捉えるか。色々な読み方が出来そうだと思いました。
    私自身、白黒ハッキリさせたい、正解…を追求することに熱を上げてしまう私ですが、「分からない」=恐怖、と感じていて、恐怖から逃れるために追求→結局余計に分からなくなって→また調べて……の堂々巡りになる理由として、「安心したい」という欲があるのかな、という考察がしっくり来ました。「分からない」はそのままでいい、犀川先生みたいに、追い求めた末「分からない」が広がった空間をむしろ楽しんでしまった方が、良いのかもしれないと思えました。

    __________________
    ハイライトめも
    ①世の中には、明らかにならない方が良いこと、そのままにしておいた方が幸せなことが沢山ある。───綺麗なものに理由がないように、私たちを魅惑する全ての存在は、理屈がない。
    ②考えて見てほしい。尻切れとんぼではない人生なんて、あるだろうか?終わりなどというものは、誰かが勝手に終わりだと決めた時が、そうであって、それ以外に区切りは無い。
    ③「どう違うんですか?洗練と最適は」
    「最適でないものを許すことが洗練だ」
    ④そもそも思考そのものが、コミュニケーションの産物なんだよ。伝達するために思考する、と言っても良い。
    ⑤ちょっとしたことなのに確かめもせず、人はどんどん妄想を広げる生き物なのだ。きっと、妄想を望んでいるのだろう。
    __________________

  • 現象に名前をつけるから、“有象”になり、意味を含むようになる。
    でもそこに、名前をつけないままだったら…?

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    西之園家の別荘のとなり(といっても5kmは離れている)にある橋爪家の別荘で、姉妹2人の死体が発見された。
    しかも密室の中で…

    一体なぜ?
    密室のトリック、そしてその背後にあるものとは…?

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    前作・前々作に引き続き、今回も登場人物一覧がなかったため、メモをとりながら読み進めました。
    しかし読み切ったあとで、確かにこれは登場人物一覧は載せられない事件だな…と納得しました。

    今回の物語は、笹木という40歳男性の主観で語られていく形式で、S&Mシリーズの中では珍しいタイプの物語です。
    というかこの物語は、本編というよりは長編の番外編だなあと感じました。
    なせ笹木の語りで物語が進んでいったのか、その理由も最後まで読めばわかります。

    “ミスリード”される物語と聞いていたので、「騙されるものか!」と果敢に挑んだのですが、騙されまいとしたポイントがずれまくっていて、結局ミスリードの罠にかかってしまいました…不甲斐なし。
    いやでも、違和感はちょこちょこあったんです…でもそういう理由だとは思わなくて…(言い訳)

    密室トリックにはあまり興味がなかったので、ななめ読みでした。
    ただ、なぜそんな密室が誕生してしまったのか、物語の中で推測され書かれているその理由を考えると、やるせないものがありました。

    こうなのだろう、ああなのだろうと、見えないものを推測し、行動する。
    それが成果を生むこともあれば、誤解を招くこともある…。
    いや、そもそも、目の前の現象に名前をつけるのは人間だけで、だからこそ事件が“事件”として認識されてしまうのだなとおもいました。

    元の姿なんて、どこにもないのです。
    なぜなら“元”とされているものが、本当はどこにもないから。
    人間がその状態を“元”の姿と名付けたにすぎないのです。

    「今はもうない」のではなく、もともとこの事件は、その事件に関わった人々の思いも、実は“なかった”のかもしれないな…なんて、ちょっとキザに決めて終わりといたします。

    「矛盾を含まないものは、無だけだ。」(486ページ)

  • これまでの話とは違い、基本は一人称で事件は語られる。
    これまでと同様に密室殺人に居合わせて事件に関わる萌絵の様子や、幕間の話での犀川先生との会話に段々と違和感を覚えていだけれども…
    まさかの真実にとっても驚いた!
    これは騙される。

    殺人事件の謎も最後にあっさり解き明かされたが、結末にしんみりとした。
    白黒きっぱりわけない、ある意味感情論的なこの結末も嫌いではない。

    まさかの真実に全部持っていかれた感はあるけれど、とっても面白かった。

  • S &Mシリーズでこう言うパターンが来るとは予想外だった
    このパターンじゃなくてもトリックは分からなかったけど…

  • 1998年作品
    S&MシリーズNO.1と裏表紙に書いてあり、興味を抱き読んだ。

    萌絵の叔母とスケベな叔父さんのミステリーであり、え!思った。
    アマチュア無線機、映写機などが登場して、いつの時代の話?と思った。

    蜜室殺人と麻薬の謎については未解決ミステリーのままだった。
    昔だから、調べることが難しいのだろう。

    萌絵と叔母の血縁は濃いのだと感じた。

  • ・シンプルかつ大胆に裏切ってきた。はは。

    ・犀川の言葉論も面白い。
    「言葉とか、理論とかいうのは、基本的に他人への伝達の手段だからね。言葉で思考していると錯覚するのは、自分の中の複数の人格が、情報や意見を交換し、議論しているような状態か、もしくは明日の自分のために言葉で思考しておく場合だね」(220ページ)

    ・「それを君の中で収束させる努力をしてみてもいい」と犀川は言う。萌絵が面白いと言っているのは伝達の過程であって、伝達の過程=記号化のプロセスは自分の中で完結させられるんだからわざわざ犀川を使わなくてもいい、という理屈なのだろうが…

    複数人格を自分の中で飼っているのは犀川の特質であって萌絵にあてはまるかどうかはわからない。

    し、そもそも思考と言語は違うという出発点自体苦しいのではないか。思考も言語も人間の認識に端を発している点では同じだ。デジタル化の度合いが違うと言いたいのかもしれないけれど。

    いずれにせよ論理の混線と犀川の意図的なはぐらかしが絡まって、独特のいじらしさがうまれている。いつものこの感じが好き。

  • 帯は、
    嵐の山荘で、
    美人姉妹が殺された。
    それはひと夏のアバンチュール?
    名画のごとき情景の中で
    展開される美しき密室トリック。

    今回の作品、レビューを読んでいると、良い感想が多いのですが…
    今作は、
    笹木という男性の告白スタイルで
    物語が展開するのですが、
    この笹木が全く好きになれず、
    むしろ気持ち悪くて嫌悪感を抱いてしまい、
    途中で挫折しかけました。
    本当に無理でした。
    時代もあるのかもしれないですが…。

    トリックは最後に萌絵と犀川先生が解決してくれて、なるほどと。
    そして、西之園嬢は、萌絵じゃなかったのね、と。
    おばさまの話でしたか。
    そこは面白かったですが、とにかく笹木さんが好きじゃなかったの一言に尽きます。泣

    残り2作!!
    期待しております!!!

  • 萌絵の過去と現在を行き来しながら進むストーリーかと思いきや、まさかの。
    今までにない、一人称視点の書き方。密室殺人のミステリーのようでミステリーでなく、犀川いわく、解決編のないミステリー、それでいて恋愛小説。

  • 避暑地の別荘。密室での姉妹の死。S &Mシリーズでありながら番外編の仕掛け。西之園令嬢のラブロマンスとして楽しめるのか、楽しめないのか複雑なストーリー

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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