今はもうない (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062730976

感想・レビュー・書評

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  • 現象に名前をつけるから、“有象”になり、意味を含むようになる。
    でもそこに、名前をつけないままだったら…?

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    西之園家の別荘のとなり(といっても5kmは離れている)にある橋爪家の別荘で、姉妹2人の死体が発見された。
    しかも密室の中で…

    一体なぜ?
    密室のトリック、そしてその背後にあるものとは…?

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    前作・前々作に引き続き、今回も登場人物一覧がなかったため、メモをとりながら読み進めました。
    しかし読み切ったあとで、確かにこれは登場人物一覧は載せられない事件だな…と納得しました。

    今回の物語は、笹木という40歳男性の主観で語られていく形式で、S&Mシリーズの中では珍しいタイプの物語です。
    というかこの物語は、本編というよりは長編の番外編だなあと感じました。
    なせ笹木の語りで物語が進んでいったのか、その理由も最後まで読めばわかります。

    “ミスリード”される物語と聞いていたので、「騙されるものか!」と果敢に挑んだのですが、騙されまいとしたポイントがずれまくっていて、結局ミスリードの罠にかかってしまいました…不甲斐なし。
    いやでも、違和感はちょこちょこあったんです…でもそういう理由だとは思わなくて…(言い訳)

    密室トリックにはあまり興味がなかったので、ななめ読みでした。
    ただ、なぜそんな密室が誕生してしまったのか、物語の中で推測され書かれているその理由を考えると、やるせないものがありました。

    こうなのだろう、ああなのだろうと、見えないものを推測し、行動する。
    それが成果を生むこともあれば、誤解を招くこともある…。
    いや、そもそも、目の前の現象に名前をつけるのは人間だけで、だからこそ事件が“事件”として認識されてしまうのだなとおもいました。

    元の姿なんて、どこにもないのです。
    なぜなら“元”とされているものが、本当はどこにもないから。
    人間がその状態を“元”の姿と名付けたにすぎないのです。

    「今はもうない」のではなく、もともとこの事件は、その事件に関わった人々の思いも、実は“なかった”のかもしれないな…なんて、ちょっとキザに決めて終わりといたします。

    「矛盾を含まないものは、無だけだ。」(486ページ)

  • 1998年作品
    S&MシリーズNO.1と裏表紙に書いてあり、興味を抱き読んだ。

    萌絵の叔母とスケベな叔父さんのミステリーであり、え!思った。
    アマチュア無線機、映写機などが登場して、いつの時代の話?と思った。

    蜜室殺人と麻薬の謎については未解決ミステリーのままだった。
    昔だから、調べることが難しいのだろう。

    萌絵と叔母の血縁は濃いのだと感じた。

  • ・シンプルかつ大胆に裏切ってきた。はは。

    ・犀川の言葉論も面白い。
    「言葉とか、理論とかいうのは、基本的に他人への伝達の手段だからね。言葉で思考していると錯覚するのは、自分の中の複数の人格が、情報や意見を交換し、議論しているような状態か、もしくは明日の自分のために言葉で思考しておく場合だね」(220ページ)

    ・「それを君の中で収束させる努力をしてみてもいい」と犀川は言う。萌絵が面白いと言っているのは伝達の過程であって、伝達の過程=記号化のプロセスは自分の中で完結させられるんだからわざわざ犀川を使わなくてもいい、という理屈なのだろうが…

    複数人格を自分の中で飼っているのは犀川の特質であって萌絵にあてはまるかどうかはわからない。

    し、そもそも思考と言語は違うという出発点自体苦しいのではないか。思考も言語も人間の認識に端を発している点では同じだ。デジタル化の度合いが違うと言いたいのかもしれないけれど。

    いずれにせよ論理の混線と犀川の意図的なはぐらかしが絡まって、独特のいじらしさがうまれている。いつものこの感じが好き。

  • 帯は、
    嵐の山荘で、
    美人姉妹が殺された。
    それはひと夏のアバンチュール?
    名画のごとき情景の中で
    展開される美しき密室トリック。

    今回の作品、レビューを読んでいると、良い感想が多いのですが…
    今作は、
    笹木という男性の告白スタイルで
    物語が展開するのですが、
    この笹木が全く好きになれず、
    むしろ気持ち悪くて嫌悪感を抱いてしまい、
    途中で挫折しかけました。
    本当に無理でした。
    時代もあるのかもしれないですが…。

    トリックは最後に萌絵と犀川先生が解決してくれて、なるほどと。
    そして、西之園嬢は、萌絵じゃなかったのね、と。
    おばさまの話でしたか。
    そこは面白かったですが、とにかく笹木さんが好きじゃなかったの一言に尽きます。泣

    残り2作!!
    期待しております!!!

  • 避暑地の別荘。密室での姉妹の死。S &Mシリーズでありながら番外編の仕掛け。西之園令嬢のラブロマンスとして楽しめるのか、楽しめないのか複雑なストーリー

  • 自分にしては珍しく最後のオチが読めてしまった、、、違和感がビシビシ伝わってきたのだもの。。
    しかし本作がシリーズでも1番好きな人が多いのも納得。シリーズも8作目となるとネタも尽きてくるのかな、と思うけどさすがは天才森先生。改めて1作目から読み始めてよかったなと思えた本作。これを読んでから2周目したらまた違った風に作品が見えてくるかも。

  • (最初に断っておくが、決して面白くないわけではない!)
    非常に評価が難しい作品。
    終盤にはいつも以上のカタルシスが待つが、必ずしも終わり良ければ全て良しという訳ではないと私は考えている。そこに至る過程で読者に寄り添い楽しませる工夫が今回は今一つに感じた。

    それは私個人がこのシリーズの醍醐味は犀川と萌絵が事件と関わりながらその真相に近づいていく過程にあると考えているからに過ぎず、物語全体を総括すると完成度は高いと言える、そこは意見が分かれるところかもしれない。

    くどい様だが嫌いなわけではない、読む人によっては最高傑作に上げる作品、必然、一読の価値はある。

  • S&Mシリーズ8作目読了。
    今回の物語の語り手は笹木という人物です。
    犀川先生と西之園萌絵が別荘へ向かう車内の現代パートと、別荘で起こった過去の事件の出来事のパートを交互に進んでいきます。

     ある程度予想がついた内容でしたがそれでも楽しめました。
    犀川先生の出番少なめで犀川ファンとしてはがっかりしてたんですが、ラストの現代パートでたくさん犀川語録が出てきます。
    大満足です。笑

  • 叔母様にやられた(笑)
    こんな構成なのにS&Mシリーズナンバーワンに上げる声も多いってどうなんだ。しかし確かに面白かった。
    解説も面白かった。乙一っぽかった。

  • 今は昔、高校生の頃に一度読もうとチャレンジして、結構後半まで
    読んだのに途中放棄してしまっていた作品。
    理由は、西之園お嬢様がなんかカンに触ってしまったから。
    そして、笹木さんの態度が、鈍くてぼーっとしてそのくせお近づきになりたいという
    行動だけはしっかりやる、というあたりに「しゃきっとしろよ!」と
    イライラだけが募ってしまったから。

    完全に西之園嬢に対しては同じ女性から見たやっかみが、
    笹木さんにはこうあって欲しいという男性像ゆえの反発が、
    当時の私にはあったのだと推察されます。
    それも、もう今はない。

    S&Mシリーズは他の作品や短編集も読んでいたので、
    最後のネタばらしには薄々気づきながら読みました。
    事件の方の結末は予想できなかったです。

    再チャレンジして全く印象が変わった作品。
    読んでよかった。

著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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