定年ゴジラ (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062731096

作品紹介・あらすじ

開発から30年、年老いたニュータウンで迎えた定年。途方に暮れる山崎さんに散歩仲間ができた。「ジャージーは禁物ですぞ。腰を痛めます。腹も出ます」先輩の町内会長、単身赴任で浦島太郎状態のノムさん、新天地に旅立つフーさん。自分の居場所を捜す四人組の日々の哀歓を温かく描く連作。「帰ってきた定年ゴジラ」収録の完成版。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;重松氏は、出版社勤務を経て、フリーライターとして活躍。ドラマ・映画・雑誌等で手広く活動した後、執筆活動に入りました。「ビフォア・ラン」でデビュー。「ビタミンF」で直木賞・「エイジ」で山本周五郎賞・「十字架」で吉川英治文学賞等を受賞、他にも著書多数。矢沢永吉(歌手)、広島カープのファン。
    2.本書;郊外のニュータウンで定年を迎えた山崎さん(主人公)が朝の散歩を通じて、知り合った地域の定年仲間4人と共に自分の居場所を探す日々の哀歓を綴った小説。七章構成(第一章;定年ゴジラ~第七章;家族写真)。仲間達(元広告営業マンで世話好きな町内会長の古葉さん、元転勤族で今は物産巡りを趣味とする野村さん等)と交流する中で、それぞれの人生がリアルに語られています。人間描写の機微に好感。定年ゴジラは、用済みのニュータウン模型を踏み潰していく様子が由来。
    3.私の個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
    (1)『第二章;ふうまん』より、「本人達にはそんなつもりはないのかもしれないが、山崎さんにはきっと野村さんにも、わかる。現場の第一線で働く若手の冷ややかな視線にさらされてきた。考え方が古いんですよ、時代が違うんですよ、もうあんた達の仕事は通用しないんです・・まなざしに乗って、声のない言葉がいつも聞こえていた」
    ●感想(1)⇒私も若い頃には、先輩に仕事のやり方を否定されると、「考え方が古いんですよ、時代が違うんですよ、もうあんた達の仕事は通用しない」と、心の中で反芻したものです。所で、良い仕事をするには、ハード面とソフト面の技術が必要と考えます。ハード面は道具、ソフト面はやり方です。パソコン等の道具は訓練である程度修得できます。しかし、仕事の進め方等の道理は書物だけでは難しいと思います。やり方・考え方は、先輩が実務を通じて身に付けたノウハウを伝授して貰うのが一番です。私も、“現地現物第一”、“気を見て森を見ず”・・などを体験事例を交え、仕事のコツを沢山教えて貰いました。若い時には感情に走る時もあるでしょうが、「人皆師匠(学ぶ)」の気持ちが大切です。
    (2)『第五章;憂々自適』より、「定年退職後、暇を持て余し人恋しさを募らせて、妻の出かける先々へ用もないのについていく、車のボンネットに貼りつく濡れ落ち葉のような夫。妻にとっては最もうっとうしい存在なのだという。山崎さんも常日頃から『濡れ落ち葉にだけはならないでよ』と奥さんに釘を刺されている」
    ●感想(2)⇒昭和前半生まれの定年退職者は、“月月火水木金金”状態で働いてきた人が多いと思います。会社中心の生活で、いきなり定年を迎え、自由時間が一杯出来て、さて何をやろうという人もいます。定年後の生活は、趣味なし人間には、辛いかもしれません。しかし、現役時代に思い描いた自由を手に入れた事に喜びと感謝を込めて、一日ボーと過ごしても良いと思います。五木寛之氏は言います。「孤立を恐れず、孤独を楽しむのは、人生後半期のすごく充実した生き方」だと。一方、奥さんは永年家庭を守ってきたのです。夫としては、いつまでも召使扱いせず、やりたい事をやらせてあげるのが恩返しです。自分の下着の在り処もわからない旦那さんは、言語道断。自分の事は自分でしなければなりません。
    (3)『第七章;家族写真』より、「娘たちはまず最初に母親に相談した。山崎さんに対しては、いつも相談ではなく報告だった。『お母さんはいいって言っているんだけど』と前置きして、話がこじれそうになると『お母さんちょっと来てよ、もうお父さん全然話がわかってないんだから』と援軍を求め、最後は奥さんが山崎さんをなだめて納得させる、その繰り返しだった。
    ●感想(3)⇒仕事人間と言われる人には厳しい話です。父親の留守がちな家での母娘関係、気持ちが通じる同性同士等の理由で、娘が母親を頼るのはもっともな話です。仕事に傾注し過ぎた父親に、積年のツケが回ってきたのです。しかし、何かしら侘しいですね。母娘も少しは父親の立場に配慮して、何でも両親に相談する素振り位して欲しいものです。男は意外と繊細かつ単純な生き物です。嘘も方便と言います。家族から、「お父さんあっての我が家だからね」の一言を期待するのは高望みでしょうか。
    4.まとめ;本書は、定年後の散歩仲間との日常生活をを温かく描いています。彼らは人生の勝ち組の人達でしょう。恵まれた老後を送れる人々です。所で、私は勝者・敗者と区別するのは良くないと思います。世間には様々な生き方があるのです。身の丈に合った生活と幸福があれば、誰もがそれに感謝し、好しとすべきです。書中人物は、必死に働き、仕事の為に犠牲にしてきたものを回顧しつつ、自分の居場所を模索する日々です。しかし、先ずは定年退職で仕事・時間に追われた生活から解放された幸福感を噛みしめるべきです。そうしたくても出来ない人もいるんです。本書は、中高年だけでなく若い世代にも高評価の作品だそうです。男性の気持ちへの理解を願い、女性にも読んで欲しいと思います。

  • 購入後に奥付を見ると21年前だった。当時の定年は60才。まだまだカラダが充分元気な頃と思う。
    孫にブラブラしていると言われるとショックを受けると思う。作者もまだ若く、自分の父親世代を書いたとのこと。戸建のニュータウンは建て替え等あり、まだマシかも知れない。古い団地などは老年の家庭が増え、建て替え出来ずにゴーストタウン化しているとも聞く。内容的には、良くあるホームドラマに近い。
    都会の割に緑があり、数年前に男性長寿日本一になったところに住んでいて、私も主人公達と近い世代だが、どこの集まりに行っても60代の男性に会わない。定年すぐ後、皆んなは何処で何をしているのだろう?

  • 少し前の昭和のお父さんが仕事を定年で引退した後のお話。
    出てくるお父さん達皆さん60で引退されてて現在からすると、ある意味羨ましく思える時代。
    仕事一筋で生きてきた人たちの哀愁を感じます。
    お父さんファイト!って思いました(╹◡╹)♡

  • 年老いたニュータウンを舞台にした作品です。

    高齢化や世代の違いなどの課題はあるが、そのなかでも定年を迎えた人々が“自分”を見つける温かい物語です。若い頃には分からない(感じない)こともあり、世代を超えて新しい発見ができる作品だと思います(*^^*)

  • 定年を迎え、第二の人生を歩み出す…なんて華々しいものではなくて、もっと現実的な定年後の生活の短編連作。
    家族のために、職場まで近いとは言い難い郊外にマイホームを構え一生懸命頑張ってきたお父さん4人。定年まで頑張ってきた達成感と仕事を離れた一抹の寂しさと、これからの不安と、各々の夫婦、家族の問題やら…日々色んな事があるけど、定年ゴジラは今日も頑張って生きている。
    定年は大きな節目だけど、そんな事で何かが全く変わってしまう訳じゃないですよ。と言われた気分になった。

  • 時代は少々古いが、ニュータウンの定年世代のオヤジ達の物語。
    自分の家を建てるという事は、現役世代で働いている時間をすべて捧げ無ければ普通の家庭には難しい。
    定年まで健康で働けるか、職は失わないか。リスクだって当然あって不安にもなる。けれど家を建てたいと考えたとき「子供が伸び伸びと笑顔で暮らしてくれれば」とその一心で決断してきたのだろう。私だってそうだ。子供が思いっきり遊べて、自分の家を好きになってくれて、時に家を疎ましく思いながらも、自分が当たり前に帰れる場所と思ってほしい。物語のニュータウンに家を建てた当時のお父さん達は、皆きっとそう思って長年働き続けてきたはずだ。

    ローン組んだ直後に不安で不安でどうしようもなかった時に、父が言ってたな。
    土地と建物を買う為だけに、ローンを組んで莫大な負債だけ負うんじゃないんだ。家族みんなが過ごせる居場所を買うんだ。それは土地と建物以上の価値があるんだ。
    ってね。家建てて良かったって今ならハッキリ言えるよ。

  • 短編の連作です。
    重松氏が親父の世代を書きたかったという作品です。
    ニュータウンが舞台で、定年後の生活が描かれています。
    テーマは「家族」。
    短編集ですが、物語がつながっていくので、長編のようなしっかりとした本です。
    とても面白く、あっという間に読めました。

    きっと これを読んだあとは父親に対して理解ができ、優しく接することができるような作品です。。

    これも手元においておきたい作品です。

  • 本当に、色々と考えさせられる小説だった。
    30歳の時に読めて、良かった。

  • 神本だと思う。2000年代前のニュータウンを舞台にしているが、その,心の動きは今と同じ。35歳でこれを書いた重松清の凄さも感じる。あとがきも良い。

  • そんな日が来るんだろうなと思う
    会社に行かない日々ってなんだろうな
    私はいつまで働くんだろう
    できれば、コツコツ
    地道にいつまでもと願うが
    そんなの無理だもんな…

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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