お登勢 (講談社文庫 ふ 57-1)

著者 :
  • 講談社
4.33
  • (3)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 22
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (639ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062731645

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 幕末から明治を舞台に淡路島出身の女性を主人公とした歴史小説である。稲田騒動(庚午事変)に巻き込まれた女性・登勢が主人公である。幕末のお登勢と言えば伏見の寺田屋の女将が知られているが、それとは別人である。淡路島の洲本市では、お登勢を観光に活用している。
    淡路島は兵庫県に含まれるが、江戸時代は徳島の蜂須賀家の領地であった。淡路島は洲本城代で家老の稲田氏を中心にして治めていた。この稲田氏の家臣は徳島藩から見れば陪臣であり、徳島藩士から足袋の色に至るまで厳しく差別されていた。それが稲田家臣団の独立心を強め、尊皇思想に目覚めさせることになる。これは土佐藩の郷士差別にも通じるものがある。封建支配の不合理を物語るもので、江戸幕府は滅びるべくして滅びたとの思いを強くする。
    一方で本書は明治維新の勝者の側にも手厳しい。稲田家臣を純朴な尊皇思想家と描き、御所に火を放って天皇の身柄を抑えようとする長州などの過激浪士と対比させている。
    「討幕という理想のためであっても、御所に放火したり、天皇に動座を強制したりする行為には、感情的についていけないものがあった。稲田からみれば、それは口に尊王をとなえながら、その主体である筈の天皇を、自分たちの政治目的のために道具化し、ほしいままにあやつることであって、かりにも志士をもって任ずる者のなすべきことではなかった。」(44頁)
    ここに尊王家の欺瞞が表現されている。現代日本において天皇制を賛美し、愛国心を強調する勢力の本音にも通じるものである。そして明治維新後に稲田家臣は新政府に裏切られることになる。
    本書の歴史観に共鳴する。明治維新の勝者となった薩摩や長州を好きにはなれない。天皇の権威を私物化して幕府を追い込む薩摩や長州は卑劣である。会津藩への過酷な報復は陰険である。それ故に佐幕派にシンパシーを抱きたくなるが、佐幕派の内情を知れば知るほど、その頑迷さにウンザリさせられる面もある(林田力「佐藤賢一と藤本ひとみ~フランス歴史小説から幕末物へ」日刊サイゾー2011年10月17日)。『お登勢』に登場する津田貢のように、佐幕も尊皇も単なる権力闘争と冷めた目で見たくなる。
    主人公の登勢は貧農の娘として育てられ、武家に奉公に出る。奉公先の娘・志津は現代的な感覚の持ち主であった。この時代は翻弄されがちな女性にとって厳しい時代である。それでも志津の同時代人の常識から逸脱した言動は物語に魅力を与えている。
    その点では登勢も負けていない。登勢は稲田騒動など時代の波に巻き込まれるが、愛する人の無事のみを考えて行動する。主家への忠義や尊皇攘夷などのイデオロギーは頭にない。古くて新しい歴史小説である。
    稲田騒動後、稲田氏の家臣団は北海道の静内に開拓移住することになる。開拓は想像を絶するものであった。ここでも明治政府の欺瞞が描かれる。侍が威張っていた時代から役人が威張る時代に変わっただけであった。一方で開拓者である稲田氏によるアイヌ人の抑圧・同化政策にも言及する。この点でも『お登勢』の歴史観はバランスが取れている。

  • 2001年、NHKで連続ドラマ化。
    淡路島、黒岩出身のお登勢が洲本へ奉公に出て、北海道日高で牧場に手を染めるまでの歴史ロマン。

  • 幕臣の娘、北海道開拓での苦労話、涙なしには読めない

  • 洲本などを舞台とした作品です。

全4件中 1 - 4件を表示

船山馨の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×