数奇にして模型 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (720ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062731942

作品紹介・あらすじ

模型交換会会場の公会堂でモデル女性の死体が発見された。死体の首は切断されており、発見された部屋は密室状態。同じ密室内で昏倒していた大学院生・寺林高司に嫌疑がかけられたが、彼は同じ頃にM工業大で起こった女子大学院生密室殺人の容疑者でもあった。複雑に絡まった謎に犀川・西之園師弟が挑む。

感想・レビュー・書評

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  • S&Mシリーズの第9弾。
    やっぱ、好きだな。このシリーズ。

    約20年前の小説だけど、色あせないよね。
    また、書かれている内容が濃い。

    こういっちゃなんだけど、最近の森先生の作品よりもこのころの方が内容が濃くて、深い文章が一冊にたくさん入っている。(もちろん、最近の小説が浅いとは言っていませんよ。このころの方が深い内容がたくさん入っているということです)

    しかも、哲学的なんですよね。
    例えば、本書で主人公の天才女子大生・西之園萌絵嬢が嬉々として殺人現場に向かう際に彼女が思う感情描写が非常に考えさせられます。
    ちょっと引用します。

      その感情を、どう説明できるだろうか?
      首が切断された死体のすぐ近くで、彼女は、待ち合わせの恋人に手を振るみたいに弾んだ気持になった。
      新しい冒険が始まる予感でもあった。
      不謹慎だろうか?
      もし不謹慎だというならば誰に対して?
      社会の一員として自分を正当化するつもりなど、彼女には毛頭ない。
      そんな必要など、どこにもなかった。
      人によっては不謹慎だと思うかもしれないけれど、では、不謹慎とは何か?
      その境界はどこにあるのか?
      地震学者は、大地震が発生すると喜んで出かけていく。
      医者は珍しい病気の患者に群がる。
      核分裂の研究が何に利用されようと、科学者の興奮は冷めない。
      自分の子供をモルモットにしたのは誰だった?
      最初にグライダで空を飛んで墜落死したのは誰?

      決して他人の不幸を無視するつもりはない。
      けれど、勉強して成績を上げることも、すべて、スポーツの試合で勝つことも、商売で成功してお金を儲けることも、会社で出世することも、すべて、誰かから搾取した幸せなのだ。
      どこかで誰かが不幸になっているのである。
      どこに「不謹慎」の境界があるのだろう?
      社会のため、正義のため、などと言い訳をするのは悪いことではない。
      だが、本心からそれを信じているのなら、明らかに偽善だ。
      そんな精神が本当に多数存在するならば、警察も、政治家も、教育者も、すべてボランティアだけで組織できるだろう。

    てな感じです。
    いかがでしょう?
    深いですよね。うん。深い。

    こんな話がS&Mシリーズには随所にちりばめられています。
    このドキッとする文章を目の当たりにする愉しさがあるのですよね。
    いや~。読書って愉しいですね。

  • 久しぶりの森シリーズ

    ⦿『破壊は必ず何らかの新しい造形の前処理でなくてはならないんだ』
    当たり前、常識、一般的。
    これらの破壊なしに道は見えてこない。かぁ〜
    今回も伏線?とまではいかないけど、物語の途中途中で挟まれる哲学的な問いが、謎を解く鍵になっていたように思う。
    どうしても理解できない不合理なことって、実は自分がものを見る前に勝手な決めつけをしてて、そのゴールにたどり着かなかったというギャップの現れなのかもしれないですね。

    ここ最近は犀川先生と萌絵ちゃんの別行動が多かったので、やっとタッグ来た〜という安心感ありました笑
    _________
    以下印象的ワード

    ⦿『名乗るほどの者じゃありません』
    ⦿ 余裕を失うことほど、幸せなことは、人間にはないだろう
    ⦿『先生は私に対しても猫を被っているのですか?』『うん、12番枚くらいかな』『じゃあ本当の犀川先生ってもっと小さいんですね』
    ⦿『人間がどうして戦争するのか考えてみてください。領地、資源、民衆、宗教そんなものは全部見せかけの理屈に過ぎない。そうやって理由を分析して安心しているだけのことなんです。実は何かを求めているわけではない。ただ、人間は推移のプロセスを見たいだけなんだ。形が変わる、歴史が変わる、その瞬間を見たいだけなんだ』

  • 700ページもあるけれど、読み出したらあっという間だった。
    今回も最後まで犯人は分からなかったし、犯人の心理がこれまで以上に理解不能な殺人だった。
    殺人よりも犯人の精神が恐ろしい…

    新たな登場人物として、萌絵の従兄弟が強烈なキャラクターで面白かった。
    萌絵の友人もまた強個性だったから、類は友を呼ぶ感じ…?
    同じゼミ生の金子くんも活躍していて、今回は警察よりも周りの人達がよく動いていた。

    それにしても、萌絵は何故こうも危機感が薄いのか…
    今回も読んでいて大丈夫なのかハラハラした。

  • 1998年作品
    巻末の作者がマンガ同好会で活躍されていたことに驚いた。

    今回のミステリーは普通の感性で読んでいたら、???
    となる。サイコミステリーといえるのかも。
    1.嘘つきの犯人が文章からも浮気をした事実がなくても
    嫉妬で殺人ができるのだろうか?
    2.衝動的な行動でも、犯行の痕跡を残さないことはできるのだろうか?
    3.最後の被害者は犯人の異常な精神を感じていなかったのだろうか?
    4.この時代、足跡(靴跡)は調べることは不可能だったのか?
    とおもったりした。
    2020年の今、沢山のカメラが存在する。科学捜査も
    進歩している。
    昔のミステリー小説は懐かしく感じる。

    犀川先生は親の愛情で萌絵に接しているのか?
    萌絵がトラウマで刑事のまねごとをして、危険を顧みないのか?2人の関係は気になるところ。

  • 本人にとっては矛盾のない言動も、他人からみたら理解不能な思考になる。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    模型交換会会場と、M工業大の実験室で同時間帯に起こった2つの殺人事件。
    そのどちらもの事件の容疑者となったのは、社会人大学院生の寺林だった。

    本当に寺林が犯人なのか…?
    殺人のあと、実験室にあった弁当を食べ、容器をきれいに洗ったのは誰か?
    そして模型交換会会場の被害者は、首がない状態だったのはなぜ…?

    珍しく、事件について自ら考える犀川助教授だったが…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    S&Mシリーズ第9作。
    やっと本編らしい物語にもどってきたな、という印象です。
    そして登場人物一覧も復活!(嬉)

    とにかく珍しいのは、最初から最後まで犀川が事件に絡んでいることです。
    しかも考えるだけでなく、重要ないくつかの現場に、犀川はきちんと居合わせています。
    これがとても珍しく、うれしい反面、今までと違う犀川の行動に、非常に困惑します。
    どうしたんだ犀川…!?

    あまりの分厚さに「読みきれるか…?」と不安になりましたが、半分をこえたあたりからおもしろくなり、あやうく朝を迎えるところでした。危なかったです。
    でも、結末を読んだあとも、行動の意図がついにわからなかったものが残されました。
    なぜ、その人はそんな行動をとったのか…?

    その人にとっては矛盾のない行動も、たにんからみたら理解不能な思考になる…。
    だからその人物の行動も、犀川の行動も、中に渦巻くものも、すべては理解できない…
    なぜなら、犀川とわたしたちは違う人間だから。

    「子供の頃には、何でも素直に言えて、素直に聞けたのに。
    理由のわからない力に支配され、少しずつ不自由になっているようだ。
    これが大人になるということだろうか。
    ちょっと馬鹿馬鹿しい。」
    (696ページ)

  • S&Mシリーズ9作目。
    正常と異常の違いとは。
    森博嗣らしい世界観

  • 帯は、
    -------------------------
    密室には、
    首を切断された
    女性モデルと容疑者。

    孤独な模型マニアに降りかかる
    人生最大の危機。
    謎が複雑に絡み合い、
    ミステリィは冴えわたる。
    -------------------------
    S&Mシリーズ第9弾。
    700ページで分厚く、通勤の持ち運びが大変でした。
    (ほかにも資格の参考書何冊か持ち歩いてます…)

    なぜ犯人は首を切断したのか。
    殺人事件が一晩のうちに2か所で発生。
    事件のつながりは?犯人の目的は?

    最初は読み進める手が鈍りましたが、途中からは一気に読み切りました。

    今作も、萌絵ちゃんのピンチに犀川先生が駆け付けますが、今回は特に犀川先生が素敵でした。笑

    なかなか異様な殺人事件で、犯人がわかったときも、
    そーなの!?となりました。笑
    次作で最後。早く読まねばです!

  • 2023 読書メモ
    ▼冒頭からネタバレ。
    夏のレプリカ、今はもうない、の前2作同様に、最初に犯人っぽい対象が明確に提示される。
    で、その認識をどう覆すのか?それともやっぱりそうなのか?を悩みながら読み進めていくことになる。
    『次おれグー出すからな!』というジャンケンのアレである。
    あまりSMの会話劇が多くはない回。しかし他の登場人物の魅力がでてくる。

    ▼物語の大筋
    一晩に別々の場所で起きた密室殺人事件。そして圧倒的な容疑者が1人。条件的にはそいつしかいないが、明らかな犯行に及ぶか?というバイアスがかかる。

    物事を説明するための理屈は、結論ありきで作られる。というあまりビジネス的には大きな声で言えないが、みんな理解しているこの世の摂理みたいなことを改めて考える内容。
    仮説思考、と、結論ありきの議論。の違いは、再検討が行われるかどうか。
    確証バイアスのかかりまくった仮説思考は、結局結論ありきの会議と一緒になってしまうよね、というのがこの本での感想。

    一番単純と思われがちな子ども、幼い時代こそもっとも複雑で、教育や成長によって型にハマり、単純化されてしまう、シンプルになる。
    だからラベル貼りすぎるのよくないな、と思った。


    ▼以下メモ

    理解できないということは、なぜそのままにできないのか。不安だから。せめて身近なことくらいは理解したい。というMの表現。
    →これこそわかったつもりの人々に認識してほしい。
    コテンラジオで沢山でてくる無知の知の必要な要素。
    わかった。知っている。自分が正しい。そう直結してしまうのは、自身が不安定だからに他ならない。わからないことをわからないまま放置できない、なぜ?プライド?

    分類して、記号化、単純化することも同じ。思考するに楽な方に変換して、理解したつもりになって安定をもとめている。

    国枝先生の、感情も思考も分類されて平均的なイメージに名称がつけられる。というやつ。
    大多数の分類に漏れたものに例外、としてレッテルを貼ることでしかコントロールした気になれない。
    笑う泣く怒るというパターンは、成長する過程で教え込まれる。本来の感情の複雑さは、成長過程でコントロールされて単純化される。

    道徳が単純化の最たるものだ、知識のない子供や頭の悪い大人にルールを教えるための記号。まるばつ付けといたほうがバカでも教育者になれる。という国枝先生。
    →ここまで沢山セリフがあった回があるだろうか笑

    女の子の遊びそのものが、社会から与えられたもので、限られた狭い将来像を見せる模型。おままごとも、人形遊びも。
    単純化されて、統一された思考に身を任せたい。
    →まさにこの通りである。
    自由な不自由というか、選ぶ余地がないほうが楽。ナッジもそんな感じ。

    Sの理屈の機能は2つ。行為自体が選択や決断をする上で正当化するため。先に決定があり、後から理屈が構築されるもの。ふたつ目は他の理屈を撃退する機能。

    ひとまとめに単純化された概念だけが、それを異常と呼ぶ。複雑さへの尻込み。、根拠のない幻覚。
    世の中にコモンセンスと呼ばれる幻覚はどれだけあるのだろう。

  • シリーズの中で1、2を争うぐらいすきな作品

    金子くんが圧倒的に推せて、きつい口調なのに世話焼きで優しいっていうギャップにときめきが止まらない

  • 「なるべく、統一された思考に身を任せたい欲求が人間にはあるのよ」
    「死を迎えるための高貴なる欺瞞を、成熟と呼ぶのだろう」

    買った時は「分厚い!」と感じたのですが、
    のめり込みあっという間に読むことが出来ました。

    人は普遍性に他人をはめたがるけれど、その普遍性はそれぞれ個々人によって異なる。
    最近話題になったりする「普通」って、実は一番普遍性がなかったりするのでしょうか。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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