女検事ほど面白い仕事はない (講談社文庫 た 87-1)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062735179

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  • 法曹界というのがある。裁判官、検察官、弁護士。
    司法、行政、立法という三権からいえば、司法の領域ということになる。
    たまたま「女検事ほど面白い仕事はない」(講談社)という書名の本に出会った。
    1998年(平成10年)11月の刊行というから、二昔も前の本ということになる。
    筆者は田島優子さん。現在は、さわやか法律事務所所属の弁護士となっている。
    「均等法」などができる以前の1970年代後半に、女性差別のない職業を選びたいと東大を卒業、1年の司法試験浪人の後に合格するところから話は始まる。「法曹」の司法研修の中で、当初は希望に燃えた弁護士の修習で、現実の弁護士事務所のあり方に幻滅を感じ、検事の道へ進むことを選ぶ。そこでも「女に検事は向かない」などと言われながら。
    そこからが、この本のユニークなところだが、検察庁のなかで経めぐる職場の多様性と、そこでの経験が楽しく読ませる。「新任」の検事は、いわば見習いで、都内の東部地域での犯罪の処理から始まる。山谷の労働者のけんかから盗み、やがて殺人といった事件を、オン・ザ・ジョブで学んでいく。その辺りは、新聞記者の仕事の覚え方と同じだ。司法試験を合格しても、刑事訴訟法に精通していることは滅多にないのだ、ということも分かった。事件の処理は、検察官の任務として、警察から送られてきた被疑者を調べて起訴したり、不起訴にする。そして、今度はその被疑者の裁判を、法廷に立ち会って、起訴状を読み、弁論をしていかなければならない。刑事部と公判部というのが、その任務の分担だ。担当した検事の詰めの甘さから無罪となることもある。簡単そうな交通事故のようなものが裁判になるようなものに、ままみられる。それを控訴するか、上級の検察との協議も。
    1年ほどの「新任」が終わって、福島へ赴任する。司法修習時代に結婚したが、単身赴任だ。もの珍しい「女検事」の赴任に、地元記者との赴任記者会見があったり、殺人事件の死亡解剖の立ち合いをしたり、3年がたち通常の異動期となる。
    異動先の内示は、検事生活になれてきた身に、意外なものだった。東京法務局の訟務部。「訟務」というのは、国や地方自治体の代理人として、民事事件や行政事件に当たる仕事だ。一線の検事にとっては、異質な仕事だけに、「検事として不適格」との烙印か、と受け止めるのは、記事を書く新聞記者が、他の記者の原稿を受けて紙面をつくる整理部への異動内示と同じようなものだったろうと同感する。相談した先輩の訟務担当者の「いろいろ別の分野の仕事をしてみるのも勉強」との話で納得する。異動してみると、なるほど立場として受けて立つ立場から、訴えられた国や行政のシステム、その内実がよく分かってくる。検事として憧れでもある特捜と訟務の間にもしばしばの異動があり、これが後に特捜事件の端緒となったり、役に立つということも分かってきたりする。この点は、初めて気がついた面白いことだった。筆者にとって「一身上の大変化」、2人目の子の出産という事態が起き、仕事をもつ女性のジレンマに見舞われる。
    ここでまた異動。法務局訟務部から法務省訟務局民事訟務課。当時の担当事件は3つ。シベリア抑留日本人捕虜の国家賠償請求訴訟、ラスベガスを舞台にしたとばく事件で東京地検が押収した賭け金の返還を、アメリカの賭博場経営会社から求められた事件など。いずれも「国の弁護人」として、容易ではなかった。
    そうこうしているうちに7年目を迎え、東京地検刑事部へ戻る。2人の乳幼児を抱えての検事生活で、拘留期限などの時間的制約がきつい身柄事件でなく、身柄拘束をしないで取り調べを擦る在宅被疑者を割り当てられた。多くは告訴事件だが、それなりの難しさがある。そのうちに突然、「まるで震度7の地震のさなかにいるように周囲が揺れ動き、トイレも這って」いくような奇病に襲われ1カ月半ほどの入院生活を送る。刑事部から公判部へ移り、さらに異動の内示を受ける。法務大臣官房。人事課長となっていた堀田力氏のもとで司法試験制度の改革に当たることに。新任検事時代に出会った堀田氏との縁もあったが、唐突な異動だった。秘書課に席を置きながら、改革の下準備に当たる。各地の弁護士会との応接、マスコミ対応も経験する。秘書課員でもあるところから、大臣の記者会見も支えなければならない。検事生活とは大違いの仕事ばかりとなった。
    30年来の懸案だった司法試験制度改革は堀田課長のもとで進んでいった。
    その次の移動先は、外務省領事移住部だった。外務省の外交官としてキャリアを志してきた人たちにとっては異端の分野だが、ここが扱う業務について法律的観点からアドバイスする仕事。「旅券の返納命令を無効と争っている者が、新たな旅券の発給を申請してきた。どう扱えば良いか」といったことへのリーガル・アドバイザー。ここでは世界中の日本の大使館から日々、膨大にもたらされる情報に目を通すことになった。そして、3度にわたるフランス出張の機会も。OECDの会議で、アメリカが途上国における公正競争確保の一手段として、贈賄の国外犯処罰を義務付ける条約を作ろうとしているため、その検討をするためのもの。緊張しながらも出席した会議も回を重ね、それぞれの国の立場、姿勢をも学ぶことになった。このパリへの数次の出張が、人生観を大きく変えることになり、辞職の決意を固める。1991年(平成3年)9月、法務省官房長として本省に戻っていた堀田氏に決意を語る。堀田氏は引き留めはしなかた。「僕も辞めるよ」と高齢者福祉をやる、と語り、筆者にも「どうせ辞めて弁護士をするなら、僕と一緒にやりませんか」と。
    そして筆者の13年の検事生活は終わり、現在も弁護士を務めている。

  • 私の生まれた頃に検事になったようだが、子供2人も産んでも、尚、続けたことに感動した。周りの協力があってこそだが、仕事への打ち込み方がやっぱり凡人と違うと思った。

  • 自分の仕事の特殊性をしっかり理解しておくと良いことがあるかも

  • 本書のタイトルは版元側の意向かもしれませんが、わざわざ「女検事ほど~」と「女」といふ文字が付されてゐるのは、やはり珍しいといふことなのでせう。
    著者田島優子氏が学生時代に就職活動をしてゐた頃、現在では考へられぬほど、待遇面で男女差がありました。そもそも採用時点で、女性といふだけで門戸が閉ざされてゐたのであります。

    さういふ時代に、猛勉強で司法試験に合格した著者。一般的な民間会社では、女性をまともに働かせるところは数少なく、さまざまな差別が存在してゐたさうですが、法曹界はまだ女性差別がマシな世界だと思はれたのが理由のやうです。
    で、最初は弁護士志望だつたのですが、弁護士の実態を知り嫌気がさして検事になるのでした。

    捜査や取調べ、裁判の実態などが活写されてゐて面白いのですが、それよりも「この国で女が仕事をするのは、何と障害が多いことか」と、男女差別の訴への方に力点が置かれてゐるみたいです。
    あとがき(「おわりに」)でも、「男なんて、体面ばかり気にして、小心で臆病で、思い切ったことが何も出来ないスケールが小さい連中で、本当は、女のほうが元気で実行力がある」と述べてゐます。さぞかし過去に嫌なヤツに嫌なことをされたのでせうね。

    斯界の内幕話などを期待する本ではなく、田島優子といふ一女性検事の職務経歴書として、まことに興味深く読めます。
    尚、田島氏はその後、弁護士に転身したさうです...

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-224.html

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