- Amazon.co.jp ・本 (1408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062735353
感想・レビュー・書評
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ものすごい重いテーマのはずなのに、淡い儚い印象の作品。
清涼院流水のジョーカーを思わせる大量殺人と度重なるどんでん返しを取り入れつつ、民俗学を使って構造主義を説明していたりと非常に読後感のよい小説でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
京極堂シリーズ5作目。前作までの事件はそれぞれ今回の事件に結びつくために張られた蜘蛛の糸の一端だった。「この世には不思議なものなど何ひとつないのだよ。―」妖怪の仕業か人のエゴか、古いしきたりか宗教のならわしか、男性的女性的、偶然必然。陰陽師中禅寺秋彦の軽妙な饒舌うんちくで、絡新婦(じょろうぐも)の憑物がおちてゆく。(K.M)
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前作は白黒の世界に閉じ込められているような感覚に陥ったけど、今作は冒頭から色彩が豊かで、特に桜のうつくしさが印象に残った。そのぶん、かなしみもさびしさも空虚さもすべて押し寄せてくるのだけど。
つながっていそうで、ほんとうのつながりが見えない。自分の行動が次々と連鎖を起こしていく。止めることはできない、早めること、遅くすることはできる。蜘蛛の糸に搦め捕られて、気付かないうちに蜘蛛の筋書き通りになっている。よくよく考えてみれば、ひどく怖いことだと思う。
男とは?女とは?と疑問に思ってしまった。なんだか、自分の性別に関する知識や感情がぐらぐら揺れている。夜這いのこと、そうとらえると決してマイナスイメージばかりではないんだなあと。
最後の最後まで読んで、また冒頭に戻る。この作業が無意識に行われる作品って、これ以外知らない。蜘蛛と対峙する京極堂が、頭の中でありありと浮かんだ。
(1408P) -
張り巡らされた蜘蛛の巣があまりにも巨大で、一つ一つを紐解くのは容易なことではないだろうと不安になりましたが、巧みな構成で読み出したら止まらない!
前作の坊主とは打って変わり妖しげな信仰をもつミッション系の女学生たち、社会や男や己自身に抑圧されながら春を売る哀しき淫女達、そんな彼女らを同情しながらもどこかで見下す女権拡張論者など、各々が巣食うのは美しき女の蜘蛛ばかり。
彼女らの個々のキャラクターや思想が魅力的、な話ではあるのだろうけど私は少し食傷気味。美由紀の存在がちょっとした救いのように感じる。
なんとも耽美な世界でした。
一面の桜吹雪に黒衣の死神、冒頭と末尾のこの描写がこのお話の妖艶さを際立てていますね。
もう一巡したくなる流れですし。
今回割とアクティブな動きを見せてくれた榎さんが新鮮で愛しさが爆発しそうになりました。あの探偵あざとい。 -
謎が少しずつ明らかになってきてからラストまでの脳汁全開っぷりが気持ち良かったです。
人におすすめしたいけどこの分厚さを思うとなかなかおすすめできないのよね…。 -
【本79】本の分厚さを感じさせない、すばらしい構成。横移動の事件が視点を変え縦移動になる。奥までいっても辿りつかず最後には京極堂さえ絡められてしまう。最後の読了感も申し分なしの一冊です。
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最初は無関係と思われたいくつかの事件が最後にきれいにまとまっていく物語は圧倒された。
例によってかなり終盤になるまで事件の全容がつかめず、やきもきする羽目になったが、難解な推理物としてとても面白かった。 -
シリーズ第5弾、「理に巣喰うは最強の敵―京極堂、桜の森に佇つ」
ページ数は「鉄鼠の檻」をさらに超え、1374!
おそらく現在書店に並んでいるものの中でもっとも厚い文庫本である。
「あなたが―蜘蛛だったのですね」
物語は京極堂の印象的なセリフで始まり、そして終わる。
本作のおもな語り手は釣り堀いさま屋と女学生の呉美由紀で、関口君は最後にちょっとだけ登場する。
目潰し魔と絞殺魔が引き起こす連続殺人。
キリスト教を信仰する敬虔な女学院で噂される黒い聖母の呪いと売春組織。
無関係に見えるさまざまな事件は八方に広がる蜘蛛の巣のような構造をもっており、その中心に陣取るのは真犯人—「蜘蛛」
誰もが自分の意志で行動しているようでありながら、実際は誰がどう動こうと筋書きが変わらぬ程に完璧に機能している巧緻な計略。
「益田君。世の中は凡て偶然で出来ているのだ。驚くまでもないよ…ただ、その偶然―既に蜘蛛の巣の上に乗っちゃあいないか?」
京極堂をして「当然、僕の動きも読み込まれているのだろうな」と言わしめる真犯人「蜘蛛」は、間違いなくシリーズ中でもっとも手強い敵である。
シリーズを全て読んでいても、京極堂が行う憑物落としを言葉で説明することはとても難しい。
しかし、本作で京極夏彦は京極堂の憑物落としについて実に明快な説明を用意してくれている。
「中禅寺は謎の解明はしないのだ。中禅寺は謎に対して解答を出すのではなく、謎の方を一般の人間に解るレヴェルまで解体するのである。謎の、謎たる背景を揺さぶって、謎自体が無効化してしまうような状況を擬似的に造り出すだけなのだ。つまり、現実を一旦反古にしてしまって、まやかしだろうが詭弁だろうが、謎が謎たり得ないようなもうひとつの現実を表出させるのが彼のやり方なのだ」
「僕は真理を探究する求道者でも事件を解決する探偵でもない。犯罪を糾弾する立場にもない。僕の仕事は――憑物落としだ」
榎木津礼二郎名(迷)言集
「探偵は職業ではない。選ばれた者にのみ与えられる称号のようなものだ…いいか、探偵とは神にも等しいものなのだよ。そう云う自覚が必要なのだ。とてもとても、僕くらいでなくちゃあ勤まらない」
「いいですか、半年でも50秒でも一緒です。途中で止めたなら最初から何もしないのと変わりませんね」
「苦労苦労と云うが、結果の出ない苦労はただの無駄です。努力が必ずしも報われることはないし、報われぬ努力は賛辞に値しない!」
「努力せずとも成績が良ければ称えられ、努力しても至らなければ称えられることはない、それが世間の道理です」
「デモもメーデーもないぞ益山君。見損なったよ。いいかね、聞き込みなんてくだらないことするのは犬か刑事か変質者くらいなんだぞ」
「僕はクッキーが嫌いだ!」