新装版 春秋の檻 獄医立花登手控え(一) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062735865

作品紹介・あらすじ

江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。居候先の叔父の家で口うるさい叔母と驕慢な娘にこき使われている登は、島送りの船を待つ囚人からの頼みに耳を貸したことから、思わぬ危機に陥った-。起倒流柔術の妙技とあざやかな推理で、獄舎に持ちこまれるさまざまな事件を解く。著者の代表的時代連作集。

感想・レビュー・書評

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  •  雨が上がったあとの濡れた道を、若い男が歩いていた。
     ひと夜降りつづいた雨は、明け方にやんで、道のところどころに水たまりを残すばかりだった。東の空に、雨を降らせた雲が、まだ青黒く残っている。雲にさえぎられて、日の光はまだ地上にとどいていなかったが、日がのぼった証拠に、雲のへりが金色に輝いていた。空気が澄みきって、三月の半ばとも思えないほど、肌寒い朝だった。‥‥(6p)

    冒頭である。あゝ藤沢周平の世界だと思う。なんのことはない描写ではあるが、この「若い男」が幸薄い世界を歩いていることだけは、なんとなくわかる。しかし、それは真っ暗闇の絶望的な世界なのではない。

    「若い男」は女に会いに来たのであるが、木戸から出てきたのは待ち伏せをしていた岡っ引きだった。お縄になり、牢屋に入れられる。若い獄医の立花登は、診察時に「若い男」勝蔵の頼み事につい耳を傾けてしまう。「ある長屋を訪ねて10両を受け取って、おみつという女のもとに届けて欲しい」。しかし、10両という大金、相手が簡単に渡すはずもなく、登は襲われてしまうのだが‥‥。

    藤沢周平の再読である。
    でも、私には自信があった。
    ・ほとんどが20-40年前の読了なのですじは一切覚えていない。
    ・目を瞑って、どの藤沢本を選んでもハズレはない。
    ‥‥その通りだった。新鮮に読めた。
    わたしは約95%ほどは藤沢作品を読了しているけど、本書は約35年ぶり。発見の多い読書となった。

    立花登シリーズは藤沢周平の代表作というわけでもない。最近NHKが溝端淳平主演でドラマ化した、というわけからでもなく、電子書籍で少し安く買えたので暇つぶし用に用意したのだが、表紙をスクロールしたが最後、止めること能わなかった。

    著者の狙いは明らかだ。
    主人公を短編にちょうどいい設定に作っている。
    立花登は地方出身の医者見習いの若者。しかし必要な医術は一応できるから、藪医者の叔父貴の家に寄宿しながら獄医の代診も引き受けている。若いから理想家肌、純粋ではあるが、美人には弱い、また情に流されやすい。その一方で柔術の免許皆伝、達人という腕前だ。獄医者をしているので、犯罪と接点を持つ。武士としての責任はないが、岡っ引きや同心から情報を引き出すこともできる。若いので、無鉄砲に首を突っ込み、早急に解決に導く。

    35年前にはわからなかった、立花登の女の色気に敏感な部分や従姉妹のおちえの不良に辟易しながらも時々ドキッとしている部分もわかるようになった。頭は良いし、腕も立つのでなんとか切り抜けるのではあるが、今読むと危なかしくてたまらない。藤沢周平は、そんな彼を息子を見守るように描いていたのではないか。

    性悪女を信じて島流しにまでなるのに女に金を渡そうとするいじらしい勝蔵という男や、様々な哀しい男女を描きながら、立花登が若くてのほほんとしていて、それでいて強いので、作品に藤沢初期のような暗さはない。むしろ明るい。

    さて、次は藤沢周平の何を読もうか?

  • この医者無敵か!?と思うくらい、柔術が強い…
    やり切れない、なんでこの人がこんな目に…みたいな話が多いけれど、登場人物たちが魅力的で、軽快に読める。

  • 昔、ドラマもやっていたそうなので見てみたいな。
    今回の主人公は医学を志す者であり、柔の達人でもある。

    江戸の医療、どんなものだったのだろう。
    そして牢獄という特殊な環境を舞台にしながらも、人情や駆け引きなど、盛り沢山で面白い。
    どの話も一話完結だけれど、次へ次へと読み進んでしまいました。

  • 「獄医立花登手控えシリーズ」全四巻の最初の作品です。
    医者になる夢を叶えるべく江戸に出た主人公の立花登を迎えたのは、はやらない町医者の叔父と、口うるさい叔母、驕慢な娘ちえ。叔父宅の居候として代診や小伝馬町の牢医者の仕事にこき使われる登は、一方で起倒流柔術・鴨井道場の高弟でもある。
    小伝馬町の牢を起点にした様々な事件を解決する捕物要素に加え、柔道の名手としてのアクション要素、全体としては青年医師・登の成長物語であり、また従姉妹のちえとの恋愛模様も有り、色んな要素を含むエンタメ系連作短編です。
    これらは『小説現代』に1979年1月号から1983年2月号まで連載され、連載中の1982年からはNHKにより中井貴一主演で全23話のテレビドラマ化されました。そもそも最初からTVドラマ化を視野に入れながら書かれた作品なのかもしれません。

    どうしても山本周五郎の『赤ひげ診療譚』を並べてしまいます。どちらも江戸の町医者を描いた連作短編で、主人公が立花登で舞台が小伝馬町牢屋敷の本作と保本登が主人公で小石川養生所を舞台にした『赤ひげ診療譚』。どちらもサスペンス仕立ての連作短編という事も有り、何度かドラマ化されているのも共通点です。
    しかし、時に人間の本質に迫るような『赤ひげ診療譚』と比べ、本作は(やや苦みは多いものの)ずっと娯楽色の濃い作品です。1980年前半は藤沢周平にエンタメに走った数年間でした。

  • 牢獄に務める医師という設定も奇抜ですが、医師にして起倒流柔術使いで、牢に送り込まれてくる罪人が関わる未解決事件に首を突っ込んだりと、職務逸脱ぶりも江戸時代だからありそうな感じでなかなかにおもしろい。下宿先の叔父のやんちゃな娘との関係も気になりつつ、エンターテイメントに徹した第2集に続く。

  • L 獄医立花登手控え1

    江戸の町医者の叔父が勤める獄医を代わって勤めることになった若い医者登。獄中の下手人たちの声に耳を傾け岡っ引きの力も借りながら事件の真相にせまる。という感じ。
    一気にシリーズ4作を読んでしまったので感想はまとめて記して置く。獄中にはいろんな人がいて、その接触の切り口が毎回違うからさらに面白い。ついでにシリーズ通しての話もあるから順に読むことをおすすめ。なにげに登が好人物で隠れた色男なのも読み進めるうちに判明。事件だけじゃなく登を取り巻く人々も見逃せない。4作の間にみんな成長していく。
    シリーズの終わり方がスマートすぎてもの足りない気もするが、後腐れない終わり方でスッキリ。

    登に診察を頼み、そこで本当の願いをいうところなんて藤原の藍染袴に引き継がれている感じがした。

  • 小説にもペース配分が必要。短編なら完全試合も狙えるが中編になると難しい。初回からのバッタバッタの三振奪取の挙句、後半完全にバテてしまった『遠い海から来たCoo』、余りにも感傷的な滑り出しの為、失速に気付かぬ裡に読み終わっていた『さらば甘き口づけ』。さて、本作であるが短編の名手 藤沢周平にしては至って平凡な出だし。世評に高い作品なのに何故?と思いつつ読み進めると、いつもとは違いゆっくりと江戸の町に引き込まれてゆく。そう言えば短編は短編でも、四巻本を成す連作集。ゆったりとした完投ペースで先ずは一巻目が終わる。

  • 06年9/28読了。

  • 2002年発行、講談社の講談社文庫。7編。藤沢周平の捕物貼に近い形式の作品。主人公は牢屋に勤務する医師という設定で、事件が連続する。この医師、柔術ができるという設定で、柔術により解決する作品も多い。しかし、中には悪役を八つ当たり気味に投げ飛ばすだけという作品もあり、変化球的な面白さがある。

    収録作:『雨上がり』、『善人長屋』、『女牢』、『返り花』、『風の道』、『落葉降る』、『牢破り』、解説:「解説」佐藤雅美、他:藤沢周平年譜、

  • 再読
    その昔立花登は中井貴一でした。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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