新装版 人間の檻 獄医立花登手控え(四) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062735896

作品紹介・あらすじ

子供をさらって手にかける老人の秘密。裁きを終えた事件の裏に匂い立つ女の性。小伝馬町の牢内に沈殿する暗く悲しい浮世の難事を、人情味あふれる青年獄医がさわやかに解決する。だがある日、かつての捕物の恨みから、登の命をもらうと脅す男が現れた-。著者が五年にわたって書き継いだ傑作シリーズ完結編。

感想・レビュー・書評

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  • 立花登は、20代の若い町医者にして、獄医、そして柔術の達人という設定である。町医者だから底辺の庶民の暮らしの中にいる。獄医なので犯罪仲間や冤罪等々凡そ世の事件の様々に関わるし医師だから彼らの本音と向き合いやすい。そして柔術達人なので、危ない橋を自ら渡り早急な解決も可能である。尚且つ、若いので、熟れた女房の女の匂いに敏感だったり、下宿先の姪となし崩し的に恋仲になったりする。清廉潔白のスーパーマンでないところに、読者の共感も得やすいだろう。本書が連作短編でありながら、四集まで続いたのも宜(むべ)なるかな。

    なし崩し的に三集までレビューしたので、最終巻まで付き合うことにした。最終巻なので、最初叔父の娘の立場を傘に着て生意気だった小娘が、しおらしく甲斐甲斐しく恋する「女」になった。おちえの成長をも、見届ける事が出来た。祝着である。

    一方、こんな描写もある。

    うす暗い部屋の中に、彦蔵が寝ていた。その寝姿の薄さに、登は胸を衝かれた。部屋の中に、ふわりと夜具をひろげてあるだけのようで、その下に人間の身体が横たわっているように思えない。(「戻ってきた罪」より)

    ホラーではない。胃癌で何も食べれなくなった人間は、そこまで痩せ細ることもあるのだ。若い頃サナトリウムにいた藤沢周平の実感だったかもしれない。死の間際の彦蔵の告白が登をして、のうのうと犯罪を続けるシリアルキラーに辿り着かせる。

    或いは、こんな描写も。

    登は立ちどまって女を見た。元気な人間の中に立ちまじっていると、病人は目立つ。まわりから孤立してさびしげに見える。そういう人間を何となく見過ごしに出来ない気持になるのは、格別登が医者だからというわけではない。性分である。もっとも立ちどまって、声をかけるとは限らない。大方はいっとき見送るだけに終わるのだが、それでも登は立ち止まらざるにはおられない。(「見張り」より)

    近づくと女は酉蔵の女房だった。そこから酉蔵も関係する押し込みグループの逮捕に繋がってゆくのである。ただ、この登の「性分」は、おそらく藤沢周平の「性分」でもあったろう。エッセイの中で、娘に「普通」を忘れるな、と諭す文章がある。その普通とは、こういう女を「見守る」という普通なのである。藤沢周平の小説を読みながら、優しい気持ちになるのは、こういう箇所が、所々に現れるからである。

    立花登の推理は、少し主観的な飛躍があるように思える。その割には好都合に早急な解決に向かってゆく。それは、登は十手持ちでもないし、第一短編だから尺の都合で仕方ないだろう、とも思う。ただ、藤沢周平は楽しんで書いているのが、ありありと見える。このクライムミステリー的な構成は、明らかに藤沢周平が大好物だった海外サスペンスの影響である。何度もテレビドラマ化されたのは、大まかな筋の骨格がしっかりしていたからに他ならない。

  • 2002年発行、講談社の講談社文庫。6編。このシリーズの最終巻。柔術道場が大きく絡むのは最初の1巻だけだった。もっとも最後まで真面目に通ってはいたようですが。やはり犯罪捜査は本書言うの岡っ引きの方が役に立つのか。この巻は前半は主人公が被害にあいそうな話はないが、最後は最大のピンチが。それでもなんとかやっつけてしまうところがすばらしい。そして最後の場面へ。なんとなくにやり、としてしまうのが最後ということで、もっとこの話を続けてほしいな、と思わせることに成功している。

    収録作:『戻って来た罪』、『見張り』、『待ち伏せ』、『影の男』、『女の部屋』、『別れゆく季節』、解説:『「女の部屋」の謎』出久根達郎、他:年譜、備考:1983年4月に講談社より刊行、

  • 「獄医立花登手控え」シリーズ完結編。

    最終話「別れゆく季節」より
    幼馴染のおあきを賊の手から救い出し、おあきや、従妹のおちえとの若き日々が終わり登も大坂に医術を学びに旅立つ。
    「若さに任せて過ぎてきた日々は終わって、ひとそれぞれの、もはや交わることも少ない道を歩む季節が来たのだ。おあきはおあきの道を、おちえはおちへの道を。そして俺は上方に旅立たなければならぬ。」

    「春秋の檻」にはじまったシリーズの4作は立花登青春記だったな。

  • すべて読み終わってみて、感想を一言でいうと、さわやかな物語だった、ということ。

    小伝馬町の牢獄医師という主人公の設定の他に、4冊それぞれのタイトルに「檻」という単語が用いられているので、窮屈で真面目な話というイメージもあったのだが、そんなことはまったくなかった。

    なぜそういうタイトルにしたんでしょうね。

    手品のように次々に物語が生み出されていくさまは圧巻ともいってよく、中井貴一主演でNHKでテレビドラマ・シリーズが作られたそうだが、それも当然である。

  • 全巻を通してとても面白くこの巻で
    最後かと思うと残念。
    キラキラ輝いた青春の日々は終わりを告げ
    最後にそれぞれの大人の道を歩んで行く事を
    自覚する登。
    おちえとの最後はちょっと切なく甘い。

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    子供をさらって手にかける老人の秘密。裁きを終えた事件の裏に匂い立つ女の性。小伝馬町の牢内に沈殿する暗く悲しい浮世の難事を、人情味あふれる青年獄医がさわやかに解決する。だがある日、かつての捕物の恨みから、登の命をもらうと脅す男が現れた―。著者が五年にわたって書き継いだ傑作シリーズ完結編。

  • やはり、藤沢周平氏の小説いいね!

    獄医 立花登手控え 4 シリーズ完結編。
    人情味あふれる、登のやわらの凄さも、良い。
    おばさんの小言も、おちえの甘えた我儘も可愛い。
    大坂に修行に行く前に、おちえと、結ばれるのだが、描き方が、綺麗で純情さが、初々しい。
    やはり、時代小説は、藤沢周平氏 一押し!!!

  • 獄医立花登手控えシリーズ第4巻完結。《女の部屋》病気の亭主に代って、店を取り仕切るおむらに挑みかかった槌屋彦三郎の頸をしめた手代新助は、情状を汲まれて八丈遠島と決まった。新助の身を案ずるおむら。裁きを終えた事件の裏に匂い立つ女の性。小伝馬町の牢内に沈殿する暗く悲しい浮世の難事を、人情味あふれる青年獄医がさわやかに解決する。だがある日、かつての捕物の恨みから、登の命をもらうと脅す男が現れた…。最終話《別れゆく季節》前巻から事件に巻き込まれたおあきも幸せをつかみ、登もついにちえとの距離がなくなり完結。

  • L 獄医立花登手控え4

    シリーズ一作めに感想記載
    岡っ引きの藤吉とは懇意にしているのに、手札をあたえてる定町廻りの同心とは絡みがない。そういえば、なにかと出てくる善いヒト土橋さんは事件にはさっぱり関わらなかったなぁ。何故爺さんとバトンタッチさせたんだろ。

  • 全集14で読む。
    このシリーズ好きだった~。

    時代苦手な女性でもかなり読みやすいのでは。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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