将棋の子 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062737388

作品紹介・あらすじ

奨励会…。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る"トラの穴"だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の一冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わった後、感情の整理が出来なかったのですが、落ち着いてきた今感想を書いてみようと思います。
    読んでいる途中で、何度も泣きスポットがありました。
    将棋のプロを目指すべく奨励会に入ったものの、プロになることはできずに奨励会を去っていた瞬間。
    それ以上に胸を熱くさせるのは、奨励会を後にした後にどうやって人生を立て直ししていくかの過程です。
    涙なしには読むことができません。

    成田という一人の男性を中心にストーリーは進みますが、それ以外のかつてはプロを目指していた人についても書かれています。
    奨励会を退会しても将棋を別の世界で続ける者、将棋の世界とは別の世界で生きる者。
    夢破れても人生は続いていきます。
    私は夢が破れるタイミングが悲惨に感じました。
    十代(早いと)、二十代で自分の一生をかけて努力してきたものの結果を突き付けられ、その道を絶たれてしまう。
    普通の人はこれから人生の目的に向かって歩き出そうとしている時期に、人生賭けて目指していたものの道を絶たれてしまうのです。残酷です。

    文中に下記のフレーズがあります。
    ”これまでの人生で、将棋のほかのことは何もしていない。こんな自分が将棋をやめていったい何ができるというのだろう。”(抜粋)

    夢を目指している時には考えもしなかった不安が諦めの気持ちを持ち始めた瞬間に押し寄せてきます。
    人生が狂ってしまうのもわかる気がします。

    しかし、人生賭けて何かを頑張ってきたという事実は消えることはありません。
    それに気づけたときに、人生が開けていきます。
    それは夢を追いかけていた世界では報われなかったのかもしれません。でも、長い目で見るとこの時期があったからこそ、今の自分が存在している。この時期こそが生きる原動力であり、自分の人格を形成している全てであることが理解できると、次のステージに進むことができるのかもしれません。

    成田の言葉に以下のフレーズがありました。
    ”「いや。これだけはさあ。これだけは置いていけなかったんだ。だからポケットにつっこんでさぁ、持ってきたんだ。だって、これがこっちの人生のすべてなんだもの。これがなきゃ、こっち何やってきたのかもわからなくなっちゃう、何も証明できなくなっちゃうもの」”(抜粋)

    訳あって、借金取りから逃げて生活していた成田ですが、逃げる際に母親の写真を置き去りにしても奨励会を退会した時にもらった駒は持ち続けていました。

    奨励会を卒業してプロになれなかった。その一点を見れば「負けた」という事なのかもしれません。しかし、人生は長い。その先もずっと続いていきます。
    目指した世界では勝てなくても、自分の勝てる場所を見つけることは誰にもチャンスが与えられています。
    死にたくなるくらい辛い経験をしても、生きていれば勝てる時がくる。
    たとえ夢破れたとしても、人生を賭けてやりきった先に見えるもの、そこからでないと見えない景色は絶対にあるのだと思います。
    その経験をした人はやっぱり強い。
    そういう人ってGRITっていうのかな?やり抜く力が尋常じゃないと思うんですよね。

    将棋の話というよりは、人生再生の物語といったほうがいいかもしれません。
    個人的には江越のストーリーが好きです。

  • 私、将棋はルールを知ってる程度でほとんどの人に負けるレベルだと思います。

    「聖の青春」の著者、大崎善生さんの2作目。講談社ノンフィクション賞受賞作です。

    将棋の世界では三段と四段では天国と地獄ほどの違いがあるようで、三段は奨励会というプロへの登竜門、四段からはプロとなります。

    奨励会には26歳までに四段になれなければ退会という決まりがあり、生活の全てを将棋に捧げてきた青年たちにとってはあまりにも辛い現実です。

    この本では1人の奨励会員を軸にその他の夢破れ退会した奨励会員たちのセカンドキャリアを描いています。

    この本を読まなければ知り得なかった世界。将棋好きの人にもそうでない人にもオススメです!

  • すごい。将棋の世界はこんなに厳しいものだったのか。将棋なんて小さい頃友達のお父さんとした詰め将棋と「3月のライオン」ぐらいしか知らないけど。将棋の世界には「天才児」がわらわらといる。大人でも勝てないような、奨励会でもごぼう抜きして段を取るような天才児たち。そんな彼らにも四段の壁は厚い。天才天才と崇められてきた神童たちが高校にも行かず生活のすべてを注ぎ込んで尚突破できない四段の壁。そんな壁に阻まれて奨励会を大会したものたちのその後の人生を追ったノンフィクション。成田英二という著者と縁のある元天才児を主人公に据えて、棋界の厳しさ、敗れた者人生で何を得たのかが描かれている。成田さんが失ったものは人生のほぼすべて。しかしなんと大きなものを得たのかと胸が熱くなった。

  • 夢を目指し、叶った者、挫折した者、挫折して新たな夢を掴んだ者達。
    辿りつけずとも、その過程に意味はある。

  • 連盟職員として奨励会員の悲喜劇を間近に見てきた著者が、棋士になれなかった者たちのその後までを追ったノンフィクション。
    著者が子供の頃から折にふれて見知ってきた元奨励会二段の成田を主役に据え、羽生らが席巻する昭和末期の同時代を共有した何名かを脇役に置く。将棋の世界に再び寄り添う者、別の業界や新天地に飛び込む者、文無しへ転落する者、十人十色のあまりに早い第二の人生を群像的に捉える。

    とても気に入ったところとしては、高みに昇るための鍵について、才能や努力を超えたところにある偶然を推していること。ともすればむしろ酷なことだと思う。
    あまり気に入らなかったところとしては、300ページにわたって将棋は厳しい世界と言い募りつつ、最後になってそこから得られるものとか、将棋は何も奪わない優しいものなどと、急に反転しだすこと。願望混じりなのかもしれないが。

  • 三段リーグを勝ち抜いてプロに上がることができるのは半年に2人だけ。26歳という年齢制限があり、それを超えてしまうと彼らはただの人になってしまう。いや、全てを失うのだ。今と違って、プロを目指すなら将棋一本、高校や大学には行かなかった時代だ。将棋だけをやっていた中卒の26歳が、夢破れて何も持たずに社会という未知の大海原にぽいっと放り出される。
    将棋会館に勤めていた筆者が、プロを諦めて全く違う人生を歩んでいた成田英二に再会する話を中心に、夢破れた元奨励会員の姿にフォーカスする。プロの華々しい姿の裏に隠れた、将棋に本気で向き合った彼らの壮絶な物語。

  • 将棋のことはさっぱり分からんが、ノンフィクションを読んで久しぶりに心揺さぶられた。
    年齢制限がある奨励会の仕組みはもちろん、プロ棋士を目指して競争の日々を送る青年たちとその後を描いた内容。
    初めて知ることばかりだった。将棋しか知らない青年たちが年齢という壁に突き当たる。勝負は勝ち負けの非情な世界。敗れた者たちは奨励会を止めていく。立ち去らねばならない。ある日突然、社会に放り出される。学歴も資格もなく、働いたことすらない彼らに待ち受ける苦難や挫折。非情な現実のなかそれでも生きていけるのは、奨励会での日々が青春のなか何かを信じ、「名人」という神に限りなき近い場を目指して、何かを賭けて、無我夢中に、一心不乱に、頂きに駆け上がっていこうとした。その記憶があるから。奨励会での厳しい競争の日々がその後の彼らの生きる営みを支えている。読みつつ胸に迫るものがあった。

    - 将棋は厳しくない。本当は優しいものなのである。もちろん制度は厳しくて、そして競争は激しい。しかし、結局のところ将棋は人間に何かを与え続けるだけで決して何も奪いはしない。-

    奨励会を去った青年たちの物語を読み終えると、本の終わりこの文章と出会う。これは決して将棋の世界だけではないだろう。勝負の世界はどれも優しい。
    その事実に深く感銘した。

  • 三段リーグを抜けてプロになれるかどうかで大きく人生が変わっていく厳しい世界がまざまざと記されていた

    羽生や藤井といったニュースで見る一握りの天才に隠れて、多くの天才たちがいること、そこに厳しさだけでなく優しさも確かにあることが感じられた

  • 将棋にかける、若さの全てをかける世界。
    スポーツや勉強にかける他の世界とは全く異なる世界。
    泣ける。
    奨励会とは厳しい制度だ。
    だが、そこで夢破れても何も残らないことはない。確かに戦った経験があり、残るものがあり、その意味で彼らや彼女らは将棋の子である。

  • プロの棋士を目指すが夢やぶれていった人たちの、その後を追った話ってところでしょうか。

    将棋に打ち込んで、天才と呼ばれた人でもプロの棋士になるのは難しいんですね。

    自分が信じた道が閉ざされた時の挫折感を感じながらも、それでもどうにか前に進んでいく人達のドラマに胸を打たれました。

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著者プロフィール

1957年、札幌市生まれ。大学卒業後、日本将棋連盟に入り、「将棋世界」編集長などを務める。2000年、『聖の青春』で新潮学芸賞、翌年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞を受賞。さらには、初めての小説作品となる『パイロットフィッシュ』で吉川英治文学新人賞を受賞。

「2019年 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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