新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

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著者 : 中井英夫
  • 講談社 (2004年4月15日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739962

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)の感想・レビュー・書評

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    『虚無への供物』は、「反推理小説」と呼ばれる。
    「推理小説でありながら、推理小説であることを拒む」アンチミステリ。

    この本を読了するまで、私はアンチミステリを見くびっていた。
    「読者に推理できるはずのない、バカバカしい推理の飛び交うバカミス」くらいに思っていた。推理小説より低俗なものとして。

    今思えば酷い誤解である。
    それどころか中井英夫は、「推理小説なんて俗なもの」を描くには、あまりにも優しい人だったのではないか。

    というのも、多くの推理小説は、犯人を読者から見て「他人」の位置に置いて、勧善懲悪のように切って捨てるか、あるいは過度に擁護して「これこれこういう理由があって殺人を犯したのだから、仕方がない」と読者の同情をくすぐるものだからだ。
    同情といっても、あくまで好奇心を内包した同情である。
    推理小説の見せ場はトリックと「動機」であって、素晴らしい「動機」であれば読者は満足する。当然のように、読者の満足のために犯人の「動機」が存在する仕組みだ。

    その点、中井英夫は、「犯人」すら他人と思われない方だったようだ。
    この本の「犯人」と「動機」は、読者の満足のためにあるのではない。この本の読者にとって、その事実はあまりにも明白である。



    彼の死ぬ直前の日記に、下記のような記述がある。

    「―――死んだらどこへ行くのか、B(友人)のさいごの問いだった。教えてくれなくちゃ、教える、といった。「他人の心のなかに」だ。
     この他人を、たとえばテレビなどでいつも「タニン」といい、「他人事」をタニンゴトなどと平気で発音するが、己は「ヒト」としか読まない。それも平がなの「ひと」だ。死んだら「ひと」の心の中へ行く。
     やっと答えが見つかった。」


    中井英夫の『虚無への供物』は、反推理小説であり、あまりにも「ひと」に優しい、純粋すぎるくらいの純文学である。推理小説の俗っぽさに痛みを感じたことのある方には、ぜひ読むことをお勧めしたい。

    (著者はあとがきで、この本を「いわば反地球での反人間のための物語だ」と言ってはいるが、それはあべこべで、この本は実に人間らしい、ひとのための物語である。)

  • 先入観というものは恐ろしい。本書をミステリの傑作として読めばそのアンチ・ミステリな仕掛けに一杯食わされるし、三大奇書という触れ込みで手を伸ばせば純ミステリ的手法に肩すかしを受けるだろうから。そして本書を純粋な娯楽として楽しもうとすればするほど、千人以上の死者を記録した戦後最大の海難事故、洞爺丸事故の悲劇が印象から薄れてしまうのだ。結局の所、書物が紡ぐ物語というのは私たちがそれとどのようにして出会うのかという点から切り離して考えることは不可能なのだろう。ただ一つ、「読む」という行為のみが現実として残される。

  • でっかく一回りして帰ってきた感じ。
    結末よりも、その一回りが醍醐味なんやと思います。

  • 古い小説を読み慣れていないせいか、最初は少し読みずらかった。
    序章が長いせいもあって、最初は少し飽き気味。

    でも下巻に入ると、一気に終わりまで読んでしまった。
    最後の数行を感じさせるために、今までの内容があったのか。

    感想が難しいが、時代を超えて読むことができる名作であるとおもう。

  • 世の探偵小説に対する批判のように感じました。人の死に、複雑怪奇なからくりをこじつけないではいられないミステリーマニアへの強烈な皮肉。故人を悼むことなど二の次三の次で、自分の知識をひけらかすことと独自の推理を展開することに固執する人物達の姿は恐ろしく利己的で、醜く、時に腹立たしい。

  • ミステリの体裁を取りながらのアンチ・ミステリという意味がよくわかった。
    いくつもの(空論の)トリックや背景が語られ、それら1つ1つが普通のミステリならば十分に最終解となりうるレベルとなっていながらその全てが裏切られて終わるという結末。
    全体を通して幻想小説といってもよい。

    ただ、推理小説に求める所謂「解き明かした」という快感は得られない。
    読んでいて常に謎めいてモヤモヤしている感があるが、先を読み続けたいと思わせる筆力もあって「奇書」と呼ばれるのだろう。

  • 前半に引き続き怒涛の展開が万華鏡のようにめぐるましく動き、これは一体どうやって着地するのだろうと思えばラストは案外綺麗に終わりました。
    ちゃんと「犯人」がおりました。

    反推理小説、アンチミステリーと呼ばれる今作ですが、最後の独白のあと、エピローグになる部分を読むとなるほどなあと思わなくもないです。
    御見物集が存在し、凄惨なものを面白がるからこそ事件が起きるのだという纏めは、推理小説を否定してるなあと思わずにはいられないです。
    登場人物が矢鱈、事故で死んだものの魂を悼み、ただの事故死などで誰々が死んでいいはずがない。死には理由が必要なのだと力説するあたりも推理小説の否定なのかなと思いました。
    面白かったです。耽美な作品でした。

  •  上巻はすっきりとまとまっていたのですが、下巻では次々に事件が起こって拡散していき、それらが解明されないままグダグダと続いてもう何が何やら分からない状態に。
     最後まで読んで一応謎が解明されたのですが、本当にこれで全て解明されたのか、良く分かりません。
     記憶が鮮明なうちに、もう一度再読して確認する作業が必要かも。
        
    少年少女・ネタバレ談話室(ネタばらし注意!)
     中井英夫『虚無への供物』ネタバレ感想会
      http://sfclub.sblo.jp/article/177292872.html

  • 疲れ果てた、というのが率直な感想。
    練りに練られた、事件の数々の幻惑。
    あったようでなかった様々な事象に惑わされるうち、犯人の告白によって、第三者であるはずの読者自身までえぐる内容になっていくのはお見事の一言。

    が、いかんせん、たどり着くまでが長い……
    「たどり着かない」ことすべてが「よくぞここまで」というくらい考え抜かれていたものだったけれど、正直、興をそがれる冗長さではあった。

    とはいえ、キャラクターの魅力は特筆もの。
    オシャレな久夫が魅力的。
    そして腐女子に人気があるというのがよく分かる登場人物たちではありました……

  • 「あれこれ考えるだけで非現実のワンダランドに結構入りこめるんだから、」

    4つの密室殺人というテーマは面白かった。
    しかし、実際の殺人は1つで残りの死には不明な点が多い。結局は何が正しいのかわからない小説だった。

    読書がいるから犯人が生まれるという主張を掲げているので、すべての出来事が解決するわけではないという挑戦なのかもしれない。

    三大奇書のブランドに支えられている作品だろう。

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新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)の作品紹介

アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック-素人探偵・奈々村久生と婚約者・牟礼田俊夫らが推理を重ねる。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など、蘊蓄も披露、巧みに仕掛けたワナと見事に構成された「ワンダランド」に、中井英夫の「反推理小説」の真髄を見る究極のミステリー。

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