新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.66
  • (154)
  • (182)
  • (262)
  • (38)
  • (12)
本棚登録 : 2224
感想 : 190
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739962

作品紹介・あらすじ

アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック-素人探偵・奈々村久生と婚約者・牟礼田俊夫らが推理を重ねる。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など、蘊蓄も披露、巧みに仕掛けたワナと見事に構成された「ワンダランド」に、中井英夫の「反推理小説」の真髄を見る究極のミステリー。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • アンチミステリの世界
    これは…
    なるほど。

    『ドグラマグラ』とも『黒死館殺人事件』とも違う。奇書と構えて読むからか、胸に遺物が残る読後感。

    1955年が舞台。
    1年前に起きた洞爺丸沈没事故により両親を亡くした氷沼蒼司、紅司、藍司。
    ある晩、藍司はアイヌの格好をした不審者を目撃し、紅司は、アイヌの呪いや洞爺湖の蛇神の祟りだと怯える。
    藍司が働くゲイバーの客であり、蒼司の友人、光田亜利夫は氷沼家と仲を深めるが、そこで謎の密室殺人事件が起きてしまい、巻き込まれてゆく。
    家系・密室系のミステリーです。

    ノックスの十戒はもちろんだが、江戸川乱歩や不思議の国アリスの話などがポンポン出てくる。
    複数人による推理合戦が繰り広げられ、読んでいる方は次々に湧いて出る容疑者やトリックに惑わされてしまう。

    それぞれの人が独自の見解で犯人を推理しているので、まるでゲームのエンディングが幾つもあるような錯覚に陥るが、ちゃんと真相は1つなので安心して下さい^ ^

    奇妙な推理合戦も魅力ですが、最後まで読んでこの作品の本当の魅力が分かります。
    読後は『暗黒館の殺人』と同じようなモヤが心にかかります。
    (暗黒館の殺人が大好きなので、すぐ基準にしますが、深い意味はありませんw)

  • めちゃくちゃ面白かった。

    想像は時として現実をも凌駕し、新しい物語を生み出す。蓋を開けてみれば、なんだ、こんな感じ?
    なんだけど、時代の背景と相まって、なんとも言えないスカッとしない感じが底にあって面白い。

    読んだ本と知識が半端なくすごいと思うのだが、
    『黄色い部屋の秘密』なんかも、あ、犯人言っちゃうんだ…

    『現実に耐えられなくて逃げこんだ非現実の世界は、現実以上の地獄で、おれはその針の山を這いずるようにして生きてきたんだ。』

    終章の蒼司の告白が最高だった。考えて考えて考え出した答えは歪曲し、別の方向へ怒りとして矛先をかえる。自分が納得した形があれだ。
    無責任な好奇心の創り出すお楽しみ...
    どうやって自殺を食い止めるのか。

    真犯人は私たち御見物衆。ちょっとだけ無責任な好奇心の先にある物語。まさに虚無への供物。

    この本は読めてよかった。

  • 推理小説だと思って読み始めたので二転三転…何転したか分からない展開はかなり疲れたし、最後まで読んでもスッキリ解決したとは言いがたい内容だった。

    ただ下巻最後の久生のセリフ「ページ外の読者に向かって"あなたが犯人だ"って指差さす、そんな小説にしたい 。(中略)この一九五四年から五五年にかけて、責任ある大人だった日本人なら全部犯人の資格がある筈だから」は現代社会に生きる自分達にも当てはまる指摘だと思うし常日頃感じていることだけに共感出来た。
    社会問題に無関心で安穏と生きることを糾弾した問題作、と捉えておこう。

  • まず、単純に面白い。奇書とか墓碑銘とか何も気にせずに読んだとしても、不動ー薔薇ー犯罪の符号(特に黄色の薔薇には驚かされた)や、三重の密室トリックはとてもレベルが高く、珍説もあるものの、推理合戦はかなり楽しかった。

    そして”楽しんだ”後に訪れるのがあの仰天とも肩透かしともとれる真相。
    しかし、これは「肩透かし」だと思ったらもう十分に犯人たる資格を有していることになるのだ。事件が起こる前からヒヌマ・マーダーなどと騒ぎ立てている久夫たちと同じく、これは殺人事件でなにか突飛なトリックが使われているに違いないと思い込み、”楽しみ”にしているということなのだから。

    反推理小説であり、著者自身は「反地球での反人間のための物語」とまで言った作品だが、やはりこれほどまでに評価され読まれ続けているのは、解説にもある通りこの作品自体が面白いからに他ならない。
    流暢で読みやすく、それでいて独自の世界を築いている文体もどこかクセになる。
    これからも推理小説史に間違いなく燦然と輝き続けるだろう。

  • 再読。
    久しぶりの中井英夫文体に実家のような安心感をおぼえた。解説の出口裕弘は美文の度がすぎると思っていたようだが、シンプルではないにせよハッキリとしたスタイルを持つ文章はそれだけで読むストレスが少ない。
    探偵気取りのキャラが何人もでてきて、推理を披露するや「いやいや…」と否定され失敗していくタイプのミステリーが好きだと最近自覚したんだけど、その源流は『虚無への供物』だったんだなと。この形式の面白さは「一つの事件につき幾つもの解釈法を読ませてもらえるお得感」だと思う。けれど、この〈推理ゲーム〉がゲームであること自体に意味を持たせているのがこの作品のすごさ。推理小説が殺人事件を創り出し、探偵による秩序の回復をエンターテイメントに変える虚構の謂だと知っていれば、真犯人の動機と小説の構成が織りなすテーマの見事さにクラクラすることだろう。

  • 不幸が相次ぐ氷沼家の事件の謎を自称探偵達が推理する話。上下巻なんやけど、上の推理が割とぶっ飛んでてこの先どうする気や、と思ったら下巻で繋がってくるの凄い。下巻がまじでどう転ぶのか楽しみすぎて一気に面白くなった。最後の批判は現代にこそ刺さる。

  • 日本三大奇書のひとつであり、アンチ・ミステリの金字塔とも言える作品。
    探偵達の永遠に続く推理合戦に、現実と虚構が混ざり合い、一気にワンダランドへ連れてかれました。
    犯人の独白が痺れたしミステリファンには刺さるんじゃ無いかなぁ

  • 「虚無への供物」を初めて読んだのは、確か中学生の頃で、母方の伯母が読みさしを譲ってくれた、蜜柑箱一杯の文庫本の中に、講談社文庫版が混じっていたのだ。とはいえ、一読、そのすごさ、おもしろさに驚倒して夜を徹し、と言うなら自慢もできるが、ミステリは横溝正史氏あたりを読み始めばかりの中学生のこと、途中までは面白かったが、最後は支離滅裂、なにが四大奇書だよ、てな感想しか抱けなかったのではどうにもならない。それ以来の再読だが、中学生の俺、レベル低かったなと正直に思う。そのくせ、お話のディテール、例えば、最初の推理合戦で久夫が的外れは推理を延々披露したあげく、藍ちゃんに一蹴される辺り、ほぼ完璧に覚えていたから、さすが十代の記憶力と言うべきか。
    止まれ。
    四大奇書だの、アンチ・ミステリの金字塔だのの惹句を前にすると、尻込みもしたくなるが、実物の筆致は拍子抜けするほどに軽やか。さらさらと流れるようでありながら、表層よりはずっと手強い文体はともかく、自称探偵群以下の賑々しい顔ぶれを眺めれば、まるで今のラノベを先取りしたかのような、立ったキャラが揃っている。彼らが丁々発止を繰り広げる、推理合戦の面白さは言うまでもなく(身内で人死が出たのにこんなことやってていいのか的なことは思わないでもないが、これは伏線だから)、続々と起こる怪事、これでもかと繰り出される、的外れとも言い切れない、密室の謎解き。これほど愉しいミステリも少ない。「虚無への供物」を呼んだと言えば、自慢できるし、まずは読むべし。

  • 先入観というものは恐ろしい。本書をミステリの傑作として読めばそのアンチ・ミステリな仕掛けに一杯食わされるし、三大奇書という触れ込みで手を伸ばせば純ミステリ的手法に肩すかしを受けるだろうから。そして本書を純粋な娯楽として楽しもうとすればするほど、千人以上の死者を記録した戦後最大の海難事故、洞爺丸事故の悲劇が印象から薄れてしまうのだ。結局の所、書物が紡ぐ物語というのは私たちがそれとどのようにして出会うのかという点から切り離して考えることは不可能なのだろう。ただ一つ、「読む」という行為のみが現実として残される。

  • 三大奇書の一角にしてアンチミステリーの代表作、という前情報は得ていたので途中から段々「あれ?もしかしてこれ全部ただの事故や自殺なのに探偵役らが勝手に殺人事件に思い込んでキャッキャしてるだけなのでは…?」とヒヤリとしましたがちゃんと犯人はいました。よかった(?)
    アンチミステリーの所以たる一連の『他人の不幸をよってたかってエンタメにしてんじゃねーよバーカ!』の流れにはギクリとした方も多いことでしょう。ハイわたしです。
    巻末には約20年後の短編が収まっておりなんだかんだで皆元気そうで何より。

    …ところで玄次の事件ってただの自殺ってことになってますがあの不可解な状況や齟齬は結局なんだったんですかね…?

  • 2021-12-12
    なるほど。反推理小説とはこういう意味だったか。語り継がれるにはそれだけの意味があるという事。もちろん、コレを出発点としてさらに進化して今のものがある訳だが。
    何よりも、ただ面白いというのが第一にあるわけだ。
    さて、後は黒死館殺人事件読めば三大奇書制覇だな。

  • 日本三大奇書の一つ。なんだかんだで初読み。存在自体はだいぶ前から知ってはいたが「アンチミステリ?それよりも正統派の本格ミステリが読みたいやい!」といった感じで中々手が出せなかった。しかしいざ読んでみるとその読後感は正統派の上等な本格ミステリを読んだ時とさほども変わらず。むしろ違うベクトルで本格ミステリを追い抜いているといったところ。真犯人の動機は確かに高尚すぎるだろうが、それでもその犯人の言葉は今現在を暗喩しているような気がしてならない。

  • どいつもこいつも頭おかしくて蒼司めっちゃかわいそうやな……と思ってたら一番頭おかしいのは蒼司だった。急に人格変わっててビビる。

    紫司郎も菫三郎も単に(というとアレだけど)不幸な事故死で、紅司も普通に病死で、玄次も自殺で、綾女も氷沼とは無関係な事件で、なのに久生をはじめとした部外者たちがヒヌマ・マーダーとか言ってはしゃいでたんだと思うとめちゃくちゃグロテスクな光景だし久生たちに限らず殺人事件というミステリを娯楽として消費してる読者にも刺さる糾弾だな……そして読者としての立場より、実際の不幸をワイドショーとかで騒ぎ立てる「あたりまえ」に釘を刺された気分。見えないものを見ようとするな(自戒)

    1950年代という設定とはいえ米花町レベルに東京の治安悪いな~ヒヌマ・マーダーとは関係ない治安が凶悪。でも戦後まもなくだから仕方ないのかな。
    話としては藍ちゃんが真っ当に立ち直って幸せになってくれそうで良かった。ルナ頼むよ……
    蒼司がヤベーやつだったので亜利夫との友情描写全部ウソだったの地味にダメージなんだけど、でも亜利夫ってそもそも久生伝いの野次馬だったわけだしなー。
    久生のこと本当に全然好きになれなかったんだけど、牟礼田のことも一切好きになれなかったのでまあお似合いカップルなのでは……

    久生たちの妄想劇場ずっと読んでたせいで作中での真実と久生たちの妄想との区別がつかなくなってて、途中までおキミちゃん=黄司を事実だと思ってしまってて混乱した。原爆の爆心地にいて生きてるわけねえ、それはそう。

    あとがきの、三島由紀夫がアポ無しで旅先までお仕掛けてきて小説の感想語って帰っていったってエピソードおもしろすぎて爆笑してしまった。迷惑~!(笑)そんで三島が久生好きなのわかる、好きそう~(笑)

  • 前半に引き続き怒涛の展開が万華鏡のようにめぐるましく動き、これは一体どうやって着地するのだろうと思えばラストは案外綺麗に終わりました。
    ちゃんと「犯人」がおりました。

    反推理小説、アンチミステリーと呼ばれる今作ですが、最後の独白のあと、エピローグになる部分を読むとなるほどなあと思わなくもないです。
    御見物集が存在し、凄惨なものを面白がるからこそ事件が起きるのだという纏めは、推理小説を否定してるなあと思わずにはいられないです。
    登場人物が矢鱈、事故で死んだものの魂を悼み、ただの事故死などで誰々が死んでいいはずがない。死には理由が必要なのだと力説するあたりも推理小説の否定なのかなと思いました。
    面白かったです。耽美な作品でした。

  • 面白いけれど消化不良な感じが残る。
    すべてを読んだ時点で消化不良というわけではなく、一つ一つの事件が終わる度に消化不良のものが沈殿していく感じ。

    前半の第二章までしかない未完成状態で江戸川乱歩賞に応募したと言う。
    惜しくも受賞を逃すが反応は上々だったそうだ。
    江戸川乱歩は「これは冗談小説だ。」と言った。
    なぜなら小説内で一人を除き審査員全員について触れられていたから。

    三大奇書の一つと言われるが、はたしてその資格はあるのだろうかと揶揄されることの多い本書。
    文中に他の二作『ドグラマグラ』と『黒死館殺人事件』など他のミステリーのことにも触れられており、いわゆるファンブックというと怒られるかもしれないがそういうものだろうと思う。

    この本に対して利害関係も思い入れもない、ただただ面白い本が読みたいだけの読者の一人の私としては、三大奇書を完成させるために誰かが押しも押されぬ様な奇書を新たに書いてくれはしないかと願うのみです。

  • 3大奇書を読破しようという淡い希望を胸にする読者にはオススメできない。この作品にはドグラマグラの重大なネタバレが含まれます。順番はドグラ、虚無、黒死館の順で読みましょう。
    思った以上に頭を掻き回される話だったと思う。
    次から次に探偵役が出てきて、アレも違うコレも違う、もっともっと違うといった具合に...
    その中でも群を抜いて、鬱陶しかったのがホームズ役。

  • でっかく一回りして帰ってきた感じ。
    結末よりも、その一回りが醍醐味なんやと思います。

  • 古い小説を読み慣れていないせいか、最初は少し読みずらかった。
    序章が長いせいもあって、最初は少し飽き気味。

    でも下巻に入ると、一気に終わりまで読んでしまった。
    最後の数行を感じさせるために、今までの内容があったのか。

    感想が難しいが、時代を超えて読むことができる名作であるとおもう。

  • 世の探偵小説に対する批判のように感じました。人の死に、複雑怪奇なからくりをこじつけないではいられないミステリーマニアへの強烈な皮肉。故人を悼むことなど二の次三の次で、自分の知識をひけらかすことと独自の推理を展開することに固執する人物達の姿は恐ろしく利己的で、醜く、時に腹立たしい。

  • 小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」は、どうにか読み終えたものの、理解出来ずに撃沈!
    次は、日本三大ミステリのもうひとつ「虚無への供物」。
    「推理小説史上の大傑作が大きい活字で読みやすく!!」の言葉に励まされて読んでみました。うん、確かに読みやすかったです。しかし、ミステリの醍醐味だと思う「すっかり納得できる」と言うものとは全然違うんですね。解説でも、アンチミステリーだと書かれていました。何か胸の中にモヤモヤを抱えたまま最後を迎えてしまいました。とくに、重要な探偵役と思われた牟礼田俊夫の行動(謎はすっかり解けた、それを君たちに話す前に云々…)にはモヤモヤ、モヤモヤ。
    やはり私は沈没でした。

  • 下巻は謎解きなので満足感あり。
    ただ、薄っぺらい感想しかなく…登場人物が美男子揃いでBLっぽさを感じてしまった、程度。私には日本三大奇書はまだ早いな、と思う。

  • カラマーゾフの兄弟を読んだ時ぐらいには置いてけぼりにされた。
    考察読もう笑

  • 「事件が起きる前に、殺人を犯しそうな人物を予想する」まではまだ理解できたんですが、これが「起きるに違いない事件を小説に書き下ろしてみて、その犯人とトリックを推理する」までくると理解できるようなできないようなで、さらにそこから「叙述トリックがありました!」って、叙述も何もまだその殺人起きてないんだけど!?とまさにワンダランドの世界。 推理合戦で一度は否定された推理がやっぱり正しかったり、かと思わせておいて正しくなかったり、読み終わった時には”面白かった”以前にようやく迷宮を抜けた達成感がありました。

  • 読んでる時確かに退屈は感じたんだが、面白そうな映画をものすごく遠くから、目を凝らして見よう見ようとするのだけれども全く内容が入ってこないまま終わってしまう、といった種類の退屈さだった。

  • 下巻もなんだかよく分からないまま読了
    でもこの世界観はなんとなく楽しかった
    東京旅行のお供に読んでてそうとは知らずに池上本門寺へ行ったら、作中に名前が出てきた力道山のお墓があってビックリ

  • 「アンチ・ミステリー」ってどうかしら?
    ミステリーなんだけどミステリーを否定するって……ぞっとしちゃう想像しちゃったけど、なにかヘビが自分の尻尾を咥えて飲み込もうとしてるみたいな。

    でも作者はもともとミステリーを書こうと思ってペンを動かし始めたのよね。書いてる最中に変節したわけでもないし。じゃあもうそれは、ミステリーでよろしくなくて?

    たとえば、衒学趣味がかちすぎてミステリー部分を凌駕してしまっている。怪奇小説か探偵小説かを分かつ垣根があいまいになってしまっている。……本屋さんの立場になったら、どの棚に並べたらいいのか困りものかも知れないけど、読者からしたらそんなニッチなカテゴリー分け必要あるかしら。『メルカトル』も『邪馬台国』も趣向は違えど最高のミステリー、これでじゅうぶんいいのよ。

    もうひとついいかしら。あたしがいいたいのは逆にメステリー以外の文学のことなの。今そこそこ売れてる小説ってたいてい、ミステリー要素が入ってなくっちゃなりたたないみたくなってない? 今週のベストテンなんか覗いてごらんなさいよ、きっとそうなってるから。古くは『罪と罰』や『カラマーゾフ』なんかも今の感覚でいうと完全にミステリーだし、『万延元年』も『薔薇の名前』もそう。だからといってこれらをわざわざアンチ・純文学なんていうかしら。「純文学でありながら純文学を否定してミステリーの方に寄せてきている」なんて、おかしい話よね。日本人はこんなこまかな範疇をつくるのが好きだからしょうがないけど、自称ミステリーファンっていうのが、純文学だからという理由でドストエフスキーや大江健三郎に手を出さなくなってる。これがほんとにくやしいっていいたいのよ、あたしは。「アンチ・ミステリー」とか言ってる場合じゃないの。面白くって謎に満ち溢れている小説が、ミステリー以外にもいっぱいあるのよ、そこんとこわかって欲しいの!

    あらいやだ。あたしってまた喋りすぎちゃったみたい。ちょっとアリョーシャ、莨ちょうだい。こんな話したのもあたしまだあれから一冊も小説が書けてないからなの。うかうかしてたらヒヌマ・マーダーケースはよその作家に取られちゃったし、刺激的な殺人事件も大規模な海難事故も鳴りを潜めて長いことたつし……まぁ、こんなこと言ってたらまた蒼司に怒られるかもしんないけど――。

  • 【ネタバレあり】



    とりあえず読んだだけでいっぱいいっぱいだった初読時よりは内容を理解できた…と思う…けど、正直どこまでが事件の本筋だったのか、あやふやな感じです。
    紅司の殺害現場に意味ありげに洗濯機の中から出てきたゴム毬ですが、犯人いわく「なぜそんなことをしたのか、自分でも説明できないが、そうせずにはいられなかったから」という、力技にはちょっと笑った。なんじゃそりゃ。
    ミステリ的には疑問に思うところもいっぱいあったけど、この小説の暗くて妖しい雰囲気はとても好き。
    犯人は狂ってると思ったけど、一番恐ろしいのは牟礼田なんじゃないかという気がしました。

    読者として読んでいる分には素人探偵たちの推理合戦は面白いけど、事件当事者としたら実際の事件をオモチャにされて引っ掻き回されて、たまったもんじゃないだろう。この小説の時代から60年以上経った今読んでも、ラストの犯人の台詞にはどきりとさせられる。新聞やテレビで報道される事件を、推理小説を読むように、心のどこかで面白がってはいないだろうか。ステージをネット上に変えて、現代の「虚無」が生み出されていくのだろう。

  • ミステリの体裁を取りながらのアンチ・ミステリという意味がよくわかった。
    いくつもの(空論の)トリックや背景が語られ、それら1つ1つが普通のミステリならば十分に最終解となりうるレベルとなっていながらその全てが裏切られて終わるという結末。
    全体を通して幻想小説といってもよい。

    ただ、推理小説に求める所謂「解き明かした」という快感は得られない。
    読んでいて常に謎めいてモヤモヤしている感があるが、先を読み続けたいと思わせる筆力もあって「奇書」と呼ばれるのだろう。

  •  上巻はすっきりとまとまっていたのですが、下巻では次々に事件が起こって拡散していき、それらが解明されないままグダグダと続いてもう何が何やら分からない状態に。
     最後まで読んで一応謎が解明されたのですが、本当にこれで全て解明されたのか、良く分かりません。
     記憶が鮮明なうちに、もう一度再読して確認する作業が必要かも。
        
    少年少女・ネタバレ談話室(ネタばらし注意!)
     中井英夫『虚無への供物』ネタバレ感想会
      http://sfclub.sblo.jp/article/177292872.html

  • 疲れ果てた、というのが率直な感想。
    練りに練られた、事件の数々の幻惑。
    あったようでなかった様々な事象に惑わされるうち、犯人の告白によって、第三者であるはずの読者自身までえぐる内容になっていくのはお見事の一言。

    が、いかんせん、たどり着くまでが長い……
    「たどり着かない」ことすべてが「よくぞここまで」というくらい考え抜かれていたものだったけれど、正直、興をそがれる冗長さではあった。

    とはいえ、キャラクターの魅力は特筆もの。
    オシャレな久夫が魅力的。
    そして腐女子に人気があるというのがよく分かる登場人物たちではありました……

全190件中 1 - 30件を表示

著者プロフィール

中井英夫(なかい ひでお)
1922~1993年。小説家。また短歌雑誌の編集者として寺山修司、塚本邦雄らを見出した。代表作は日本推理小説の三大奇書の一つとも称される『虚無への供物』、ほかに『とらんぷ譚』『黒衣の短歌史』など。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中井英夫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×