風の歌を聴け (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062748704

感想・レビュー・書評

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  • 「作家の書きたいことはデビュー作に全てが表れている」これは私が小さい頃父に教えられた"裏技"である。本当のところは果たして父から聞いたのかは忘れたが、読書家の父なら言いかねないことなのでそういうことにしている。さて村上春樹のデビュー作である今作で何を伝えたかったのか、読み始めるとまず「芸術を求めるならギリシャ人が書いたものを読め」となんだか怒られた気がした。

    作品を通して感じたのは希薄な人間関係と、それでも嫌いになれない登場人物たちの出会いと別れの切なさだ。主人公は全然人に執着しないし、鼠も全然自分のことを話そうとしないし、女の子なんて名前から何まで全て謎のままだ。それでも、人を遠ざけているようで求め合っている様子が随所に伺える。ここに自己矛盾を感じ、全私の共感を生んだ。私も人を限りなく遠ざけながらそれでいて寂しいと感じる自己矛盾を感じているのだ。なのにうかうかしていると時間だけが青春を削り取っていくので誠に遺憾である。のんびりと「よーい」しているといつの間にか周りの人はとっくに「どん」で走り出した後なのである。いくら主人公たちのように隔離された田舎で循環するような時間を生きていても東京はとっくに未来へと進んでいる。

    作品中にたびたび登場する音楽を聴くとより懐かしく、とっくに過ぎ去ってしまった取り返しのつかない郷愁の念を感じる。特によく出てくるザ・ビーチボーイズの「California Girls」という曲を聞いていたため、関係ないのに自分の青春とこの曲が結びつきそうである。自分の青春の曲はもっと華々しいはずである。甚だ忸怩たる思いである。

    誠に私事であるが村上春樹が私の在籍する大学の先輩であることを恥ずかしながら先日知った。学内に村上春樹ライブラリなるものができたらしいので気が向いたら行ってやろうと思う次第である。

  • 村上春樹さんの作品はドライブマイカーが入っている短編小説くらいしか読んでなかった。
    どこか自分の中で、食わず嫌いというか、なんとなく敬遠している自分がいた。
    でもこのデビュー作は非常にナチュラルで読後感がなんとも言えない感じだった。
    今更だけど、どんどん彼の作品を読んでみたい。

    • きゅうさん
      こんにちは❗この作品を読むと、神宮球場でビール
      こんにちは❗この作品を読むと、神宮球場でビール
      2023/12/04
  • うん!村上春樹だ!

    がっつりネタバレですので、ご注意を。



    青春ですね。
    鼠シリーズ第一弾!

    「ジェイズ・バー」とか海辺とか、洋書や洋楽が出てくるので海外を想像して読んでいたら「10円」というワードが出てきて、日本なんだと知った(^▽^;)

    登場人物の名前が一切出てこなくて、主人公は「僕」友人は「鼠」というあだ名。

    帰省している間に起こった出来事を綴っている。

    調べてみたら、芦屋市(本当かは不明)らしい…。
    がっつり日本でした笑

    バーで酔い潰れていた女を部屋に送り、彼女の部屋で朝まで過ごす。彼女、なぜか裸だよ(-_-;)

    その彼女との距離が近づいてくる様子や、鼠との出会い、過去に付き合った3人の彼女との思い出等が綴られた青春小説だ。

    小さい頃無口だった主人公が、通っていた精神科医に言われた言葉。

    ーーーーー

    文明とは伝達である。と彼は言った。もし何かを表現できないなら、それは存在しないのも同じだ。いいかい、ゼロだ。もし君のお腹が空いていたとするね。君は「お腹が空いています。」と一言しゃべればいい。僕は君にクッキーをあげる。食べていいよ。(僕はクッキーをひとつつまんだ。)君が何もいわないとクッキーは無い。(医者は意地悪そうにクッキーの皿をテーブルの下に隠した。)ゼロだ。わかるね?
    (本文より)

    ーーーーー

    その後の立ち回りは置いとく。
    だが、言いたいことは分かるし「文明である」というのも頷ける。
    人間たらしめるものの教えを子供に分かりやすく説明しているのかな。

    ーーーーー

    伝達する事がなくなった時、文明は終わる。パチン……OFF。
    (本文より)

    ーーーーー

    須藤古都離さんの『ゴリラ裁判の日』を先日読みました。
    ゴリラと人間の大きな違いは、言葉を話すか話さないか。分かりやすい。文明の違いです。まんま(^▽^;)

    冒頭に、

    ーーーーー

    完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
    (本文より)

    ーーーーー

    という言葉が出てきたので、意思を伝えることが人間であるという部分が本筋なのかなと思ったりもして。

    あと、1番共感できた所がありまして…。
    鼠が考えた小説の内容。大まかなあらすじは…

    男の乗っていた船が太平洋の真ん中で沈没する。
    浮き輪につかまって漂っていると、同じように浮き輪に捕まった女が泳いでくる。
    2人は世間話やビールを飲む。
    2人はこれからどうするかを話し合う。
    女は島がありそうな方へ泳いでいく。
    男はその場に浮かんでビールを飲んで助けを待つ。
    女は2日2晩泳ぎつづけてどこかの島にたどりつく。
    男は二日酔いのまま飛行機に救助される。
    何年か後に、2人は偶然再会する。

    再会云々はさておき、どちらの選択が正しかったのかは、決して誰にも分からない。人生の如きテーマだと。昔からの心のモヤであります。

    それがさらっと書かれていました笑
    抜粋する人なんて私くらい?笑笑
    もっと違うとこ注目しろと言われそうですが、ここが私がいいと思った所なんです。

    しかし、この会話が生きる内容が後に出てくるのかな?と思って読みましたが、そのまま何もなく終了…。
    えっ…?ひょっとして、その彼女が、指の欠けた彼女だったりする?
    だから鼠は元気なくて、彼女は堕胎していて、鼠の小説にはセックス・シーンがない(やってあたり前だから)のかな…?

    そうだったとしても、匂わせがちっさすぎて分からんよ…(-_-;)

    村上春樹小説は『ノルウェイの森』と、この作品しか読んでいませんが、どんな話だった?と聞かれると、そう言えば、何を言いたかったのだろう…と考えてしまう。
    平凡な日常と友情と青春。ですかね。

    おそらく私は、日本語の勉強不足なのだと思います。
    美しい文章だと絶賛されている箇所がどこなのかさっぱりわかりませんでしたし、アメリカンジョーク風のウケ狙いやカタカナ並べた小洒落感も鼻につく。

    そうだ!きっとビーチ・ボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』をオマージュした話に違いない!と思い、歌詞も読んでみたが…
    『あらゆる素敵な女の子がカリフォルニアに来ればいいのに…』的な?
    カリフォルニア・ガールズで謎が増えた…(^▽^;)

    テレフォン・リクエストのラジオDJのしゃっくり「ムッ」は、ウケました(*´艸`)
    あのDJは好きです笑笑
    Tシャツのイラストも、かわいい。

    しかし、何を隠そう、1番好きなのはデレク・ハートフィールドですがね。
    主人公は、ハートフィールドで文章についてを学んだらしい。(不毛な作家)文章は読み辛く、ストーリーは出鱈目。
    なぜ彼を選んだ?(-_-;)

    1938年6月、ヒトラーの肖像画を抱え、左手に傘をさしてエンパイア・ステート・ビルの屋上から飛び降りた。
    ぶっ飛んでます。いいキャラしてる。
    そして、一切話題にならないという救われなさ笑

    ハートフィールドの作品は「火星の井戸」はSF?のようで、哲学的で、しかも意味がわからない。風が何を学んだのか、彼はなぜ引き金を引いたのか、私には謎のままだ。病んでる…?


    ーーーーー

    あらゆるものは通り過ぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
    僕たちはそんなふうにして生きている。
    (本文より)

    ーーーーー

    タイトルはこの意味なのかな?

    私も村上春樹を風のように通り過ぎていいですかね笑

    意味不明なセックス・シーンがない分『ノルウェイの森』より好きです。

    3作全部読んだら意味わかるのかな…。
    村上春樹があまり理解できていない私は、少数派のようです。笑



  • 女性のついた嘘とそれを受け止める僕のからみがいい。
    村上春樹さんの片鱗が見えるけど、まだかたさを感じて自分が溶け込めない。
    でもデビュー作だから読みたかった!

  • 学生時代に村上春樹ばかり読んでた時期があります。妙に時間があって、中途半端で社会からの疎外感もまぁまぁあって、そんな気分にぴったりだったんだと思います

  • 2021/3/23読了。

    エモさを感じた。

    作中によく出てくるビールのように喉越しを楽しむ作品かなと思った。

    純文学的な作品は初めてだったので、初めは「ダラダラ何書いてんだよ」と思っていたけれど、特に際立った物語があるわけでないのに文章により感情が動いていく感じはなんだか新鮮で楽しかった。

  • 村上春樹再読。
    僕が村上春樹を好きになったのは『世界の果て』以降。初期2作、特にデビュー作である本作は苦手だった。きっと読み方が分からなかったんだと思う。真面目に読み過ぎたんだな。辻褄が合わないとか、、、

    後の作品の、双子の女の子や耳のモデルで慣らされていったせいで、多少、現実感が伴わない登場人物がいても気にならない。むしろ、その違和感に全て意味があるような気がしてワクワクしてしまう。面白かったです。

    でもなんの予備知識もなく、本作を読んで面白いと思えるかと言うと、ちょっと難しい気がする。なんか、肝心なことほどサラリとしか言わない気がします。村上春樹初読の人にはあまり勧めたくない作品。どんな作家かも分からないままデビュー作を読みこなした当時の人たちはすごいですね。

    舞台は1970年。意外と昔。当時の世相はわからないけど、学生が、車乗り回したり、バーに入り浸ってビール飲みまくってたりって、かなり裕福な暮らしぶり。ま、芦屋ですしね。

    当時、缶ビールもまだ新しいアイテムだった様です。やたらとビールを飲む僕と鼠ですが、何か意味が込められてるのかな?

    二人が事故った鼠の車はスポーツカーだと思ってたんだけど、フィアットの600セイチェントだった。めっちゃレアな気がするけど、当時は日本に入ってきてたのかな?チンクより好きな車です。

  • 先に「羊をめぐる冒険」を読んでいるので、懐かしい昔話を聞いているような。

    夏だなあ。
    ラジオ、プールサイド、ビール、新しく買ったレコード。

    「ハッピー・バースデイ、そしてホワイト・クリスマス」
    になぜだか泣きそうになったりしながら。

  • 村上春樹の良さがわかる人はどんなところに魅力を感じるんだろうって考えながら読んで、みなさんの感想を読んで、エモいってことなのかなと理解した。
    鼠(人)が鬱々としながらバーカウンターでビール飲んでるとこ想像するのはなんか好きだった。

  • 初めて読了した村上春樹の小説。本作品を手に取ったのは新卒で入った会社の役員が薦めていたから。お盆やお正月などの連休前に各役員がオススメ図書をイントラネットで紹介していたのだ。素直な新入社員だった当時の私はそれを見て古本屋で本書を購入。それから何度か眺めるが最後まで辿り着かず、いつの間にか10数年過ぎていた。今回旅行に持って行く本を何にしようか考えていたとき、薄くて軽く、時間がかかりそうな本作にした。

    期待通り、本の重さに対して読むのに大変苦労した。コスパは最高だ。読み終わってもどうもよくわからん。結局、帰りの新幹線の中で本書の考察や感想をネットで(もちろんブクログ内でも)読み漁り、え!?そうなの!?と思いながら読み直すこともう1周。1周目に独力でキャッチしたメッセージは、混沌の中でも何かしら学べ、ということだったが、2周目で自分はなんて一部分しか見えてなかったのかという愚かさを実感させられた。それは作品内でも現実世界でも。そして何かを感じ取ろうと、意味を見出そうと思いながら読むこと自体がおこがましい行為だったということ。混沌を楽しめということか。

    なるほど、なかなか答えを教えてくれないこのかんじが村上春樹小説なのか。再読するかと言われたら、うーんどうだろうなぁ。しっかり時間を取って正座して読まなきゃ、、という印象。

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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