実録・老舗百貨店凋落 〈流通業界再編の光と影〉 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062753302

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  • 「丸井」と言っても駅前の「赤いカード」の丸井ではなく、
    北海道の優良企業であった丸井今井である。

    地元の人たちからは斎着を込めて「丸井さん」と「さん」付け
    で呼ばれていた百貨店の誕生から経営危機、同業者・伊勢丹
    の支援を受けての組織再編を追ったノンフィクションである。

    創業者一族が堅実な経営をして来た丸井今井だったが、4代目
    が個人事業を拡大したことで苦境に陥る。

    このまま4代目をトップに据えておいたら、会社はますます
    苦境に陥る。そこで勃発したのが、4代目社長を除いた経営陣
    のクーデターである。

    ただ、トップの首を斬るだけでは会社の再建はならなかった。
    4代目が拡大しまくった事業を整理しても客離れが起きる。

    それは時を同じくして、イオンに代表される郊外型ショッピング
    センターの開業が相次いだことも遠因になっている。

    買い物客は市の中心部から徐々に郊外へと足を運ぶようになり、
    丸井今井への来店客を見込んだ市中心部の商店街へも影響が及ぶ。

    これは地方百貨店の凋落だけの問題ではない。市の中心部がどの
    ようにして空洞化して行くかの過程をも描いている。

    独自の再建策でも傾いた経営はなかなか立ち直らない。そこで
    丸井今井が支援を要請したのが、百貨店の雄・伊勢丹である。

    丸井今井が正式に伊勢丹傘下に入るまでを追った、北海道新聞
    の取材過程がかなり面白い。地元百貨店が今後どうなって行く
    のかだもの、そりゃ取材にも熱が入るよね。

    本書は2006年の発行なので、百貨店業界もそれ以降の変化は
    ある。丸井今井は地方百貨店ではあるが、そもそも百貨店自体
    が苦戦しているのではないかと思う。

    子供の頃、百貨店に行くのは特別なことだった。「いい物を
    買うのは百貨店」だった。個人的には買い物よりもその後の
    大食堂での食事の方が楽しみだったんだが…。

    その「特別」がなくなってしまっているのではないだろうか。
    安くてもそこそこいい物が買える店舗もあるし、有名アパレル
    などは地元に店舗がなくとも通信販売を利用できるところも
    多い。

    なので、話題になるのは地下食品売り場。所謂「デパ地下」に
    何を取り揃えるのかで差別化を図るしかないのかもしれない。
    好きだけどね、デパ地下。出掛けるとついつい入っちゃう。
    でも、その上の階までは行かないんだな、私は。食いしん坊
    だから、デパ地下で散財して終わっちゃう。

    いつか日本から百貨店がなくなる日が来るのかもしれない。

北海道新聞取材班の作品

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