野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

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著者 : 魚住昭
  • 講談社 (2006年5月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062753906

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)の感想・レビュー・書評

  • 野中広務氏の政治家引退までを描いたノンフィクション。
    この本を読んで、野中広務氏の見方が180°変わりました。
    究極の叩き上げ人生ですね。
    逆に究極の実践力がないと、ここまでのし上がることは出来ない。
    鈴木宗男氏が、頭に浮かびました。
    もちろん、全く出自が正反対の麻生太郎氏とは所詮水と油。
    著者の綿密な取材力には舌を巻きましたが、巻末の佐高信氏の解説を読んで、ジャーナリズムの道徳観というものについて、考えられさせられました。
    本人や血縁者の意向に関わらず、結果として暴かれてしまうということの意味を。
    そういう意味で、今回は野中広務氏の肩を持ちたいと思います。
    でも著者をけして全否定している訳ではないです。
    そして、我々読者にも、一定の品位や謙虚な心が必要だという事も改めて感じました。
    いろいろな意味で、得ることが大きかった読書でした。

  • 野中広務という政治家の名前を聞いて最も記憶に残っているのは、打倒小泉を掲げながらも自民党内の権力闘争に敗れ、「毒まんじゅう」という捨て台詞を吐いた姿である。
    この姿は、当時人気の高かった小泉に対抗する勢力の象徴であり、そのため「古くて悪い政治家である」という認識を残した。

    本書を読むと、そういう認識が実に浅く間違っているかということが分かる。
    読み終わったあとの野中広務の政治家像を簡単に言い表すと、「差別を無くすために尽力した政治家だが、用いる手段は狡猾であった」となる。

    本書は、野中の生い立ちから、町議会議員→町長→府議会議員→衆議院議員→政界引退まで綴られている。
    その過程においてはかなり激しい闘争を含めた出来事が繰り広げられており、全く平坦な道のりではない。
    これは野中自身が被差別部落の出身であることを抜きにしては語り得ないし、本書の焦点もタイトルが示すとおりである。

    野中の目指した「差別を無くす」ことが出来た暁には、本書が書かれることもなくなっているのだろう。

  • 先達ての参議院選挙に先立ち、野中広務氏が自民党に復党してゐました。かういふ護憲の人は、安倍政権にとつてプラスになるのかしらん、と思つたら、どうやら野中氏が強いパイプを持つといはれる土建屋さんの票が目当てだつたやうです。立つてゐる者は、90歳でも使へ。
    政界引退から十余年の現在でも頼られる、野中広務氏とはいかなる人物か。一般には、陰で権謀術数を駆使する闇将軍の印象でせうか。悪代官のイメエヂも強いやうです。

    しかるに、魚住昭著『野中広務 差別と権力』を拝読しますと、なかなかどうして、それだけの人物ではないらしい。現在ではよく知られてゐますが、野中氏は生れながらにして差別を受ける境遇でした。いはれなき迫害を受けた経験を持つ野中氏としては、故なく虐げられる人たちへ限りなく温かい眼差しを向けます。
    たとへば、ハンセン病訴訟では当時官房長官の職にありながら、国を相手取つた原告側に寄り添ふ行動を取つてゐます。原告団の事務局長は「素晴らしい政治家です。細やかな気配りがあって人間として温かい。言葉の一つひとつに、傷ついた者をこれ以上、傷つけてはいけないという気持ちがにじみ出ています。今、私は野中さんのことを手放しで信頼できると言いますよ」と絶賛してゐます。たいした惚れつぷりですな。

    本書の第二章のタイトルに「融和の子」とあります。その後の野中氏の歩みを見るにつけ、なるほど、うまい表現だと感じました。一方的に弱者の味方かといふと、時には「わしはお前らだけの町長とちがう。全町民の町長や。お前らだけの言うことを聞けるかっ」と一喝する一面もあります。
    後に中央政界で「闇総理」と呼ばれるやうになり、政敵を次々と叩き落す一方で、身障者の施設を設立・運営したり、先述のやうにハンセン病患者の味方になる。また、松本サリン事件で容疑者扱ひされた河野義行氏は、疑ひが晴れても警察・マスコミ等から一切直接謝罪をされなかつたさうですが、唯一の例外が野中氏だつたと言ひます。弱者・虐げられた者たちへの優しさは、権力を握つてからも失はなかつたのであります。

    総理に上り詰める日も遠くないのではと思はれた野中氏ですが、自らは手を挙げることもなく、結局野中総理は実現しませんでした。魚住昭氏はその理由を、部落解放同盟の小森龍邦氏の言葉が正解ぢやないかと語ります。即ち「ふつうの議員だとその出自は問題にならんけど、総理になって日本を動かす立場になるときに『あの人の出生はこうなんだ』とキャンペーンがはられる。利害関係が一番厳しゅうなったときに部落差別が出てくるんです。それを本人は分かっていたんではないですか」といふことです。「融和の子」としては十分首肯できる意見ですね。

    さういへば失言のホームラン王・麻生太郎氏が「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」と発言したとか。麻生氏は否定しますが、「自分も聞いた」といふ証人も複数ゐるさうです。島崎藤村『破戒』から100年が経過しても変らぬ差別。
    野中広務氏の歩みを辿ると、日本人が抱へる問題がぽつかり浮かんできます。まさに「私は闘う」人ですね。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-647.html

  • 平成28年5月23日読了。
    政治家もヤクザ同様、熾烈な権力闘争を切り返し、頂点を目指していくことがよく分かった。
    野中広務という人物に、U2のボノが被る。

  • 野中広務が現役でブイブイ言わせてた頃の、濃い政治家メンツが出てきて、あの頃を知る人間にはかなり面白いのだろうが、当時まだ子供だった自分にはうっすらとしかイメージがなく退屈だった。被差別体験も本人の口から語られるものはほとんど無いので、それを期待して読むと肩透かしの印象。
    パワーゲームの描写が多く、読んでいてだんだん「政治って何なんだろう」と嫌な気分になってしまった。

  • もうちょっと評価されても良いんじゃないのかな。野中氏。

  • 1990年代前半、私は永田町界隈が仕事場でした。その間、多くの政治家と接する機会がありました。そうした中で、最も印象に残っている政治家が野中広務氏です。当時、彼は年齢こそ60歳を超えていましたが、当選回数は2-3回。まだ陣笠、その他大勢の1人、というポジションだったのですが、既に永田町周辺居住者の間では一目置かれる存在になっていました。
    それは彼の情報収集能力の高さが大きな理由だったように思えます。下手な党幹部、派閥幹部に接触するよりも、彼と話をした方が有益な情報が得られました。彼の情報の扱い方のうまさもあったと思います。
    そうやって接する機会が増えるほどに、人間的魅力も感じるようになりました。優しさとか思いやりとか、一面的なものではなく、人間的な深みを感じることがよくありました。
    今回、本書を読み、様々な思いが去来しました。著者の魚住氏の分析は正確だと思います。政治家として功利的な面もあり、恫喝的な手法で政局を回していったことも確かです。
    また、政策的課題をこなすことは得意でも、長期的ビジョンを構築することはできない、というとらえ方もその通りだと思います。
    ただ、私にとっては、やはり非常に魅力的な人物でした。
    記述に関して言えば、野中氏を軸に描かれた政界の動きの記述は、非常にわかりやすく、正確でした。(時折、政治家を取り上げた書物でも、書いた本人が正確にわかっていないのか、政策や政局の記述が非常に生硬で分かりにくいものもあります)
    私が野中氏に接していたのは3年間ほどでしたが、いまだに印象深い政治家です。その野中氏の出自も含めて、政治家としての行動原理を解き明かし、さらに人としての思いにまで踏み込んで描いた本書は、ノンフィクションとして多くの人に読まれるべき傑作だと思います。

  • 京都府園部町に生まれ、不当な差別を受けながら政治家としてのキャリアを歩み始め、57歳で中央政界に初進出し、自民党の黒幕としての地位を築くまでの、野中広務の生き様を追ったノンフィクションです。

    不当な差別を受け続けてきたがゆえに、弱者に対する優しいまなざしを持つ反面、差別に抗して自分の居場所を切り開いてきたが故に、ライヴァルたちの弱みを握ってみずからの影響力を強めていく政治手法に長けていた、複雑な政治家の実像を、みごとに描いています。

    また、高邁な理念を掲げる政治家ではなかったにしろ、土着的な共同体理念に根づいた優しさを体現していたという意味で、55年体制の終焉を象徴する政治家として野中広務を位置づけており、戦後政治史の一幕を見ることができたという意味でも、興味深く読みました。

  • 先日、これを読んでいたおかげで面白い機会に出会ったので二度目の読み返し。とにかくやはりこれは面白い。政策的にとか歴史的にどうかというのはまあそこまでなのかもしれないが、ドラマとしては素晴らしいなあと思う。

  • 本書は、以前より読みたかったけれど、通勤時に単行本は適さず、長く断念していた。晴れて文庫化された今日、早速読み進めることに。

    国内外を問わず、かつてより国家が行ってきた悪しき所業に、少しも逡巡することなく、悪いことだった、と真摯に発言できるこの自民党政治家、実は良い人なのかも?

    そんな反面、大勢をもって保守的な政策を押し進める自民党政治の王道に位置していた姿には、釈然とせず、えらく乖離した印象を持たざる得なかった。いずれにせよ、長く興味津々だったわけ。

    不遇な出自にも関わらず、地方から徐々に上りつめ、やがて中央政界入り、その才覚から早々に重用され、政争の本丸に、やがて頂点に上りつめようとするも、凋落をむかえる様は、まるで一遍の教養小説、こう言っては何だが、あまりに面白すぎる。通低音となるアンフェアな国状が悲しいのだが。

    終盤で語られる公然と差別発言をしてしまう品性下劣な政治家には、是非とも総裁選出馬などご遠慮願いたいものだ。
    (2006年記)

  •  被差別部落に生まれながら、老獪な政治手法を用い、内閣の中枢に登りつめ、「影の総理」とまで言われた野中広務の姿を描いた一冊。「潮目を読むこと」に長け、一貫した政治姿勢がないようにも見える野中には、弱者への優しいまなざしと差別の再生産を憎む気持ちがあった。
     野中はときに政敵を恫喝し、ときにトリッキーな手法を駆使しして政界を生き抜いてきた。その姿だけをみると、決して評価されるべき政治家ではないようにも思える。しかし、ハンセン病患者らによる裁判での国の控訴見送りは野中の尽力なくしてはあり得なかった。不当な差別を受け続けてきた野中の心には、弱者に対する思いやりと弱者を虐げる社会への強い憤りが生まれていたのだと思う。

  • 同和部落出身の野中氏の半生を追体験することにより、日本の被差別部落問題の複雑さが実感できる1冊。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(佐藤優選)63
    被差別部落出身の叩き上げ政治家である野中広務氏の半生を追体験することによって、日本の保守政治の中に埋め込まれている社会民主主義的要素を描き出す。

  •  野中広務の人生にに迫ったノンフィクション。

     この本は野中広務が被差別部落の出身だったというのが大きなキーとなっている。作者自身が野中に「何でこんなことを書くんだ」と追求され「業なんです」と言ったエピソードが深い。
     部落出身者だと知って手のひらを返された経験が野中を冷徹な男に変えたのかもしれない。しかし、一方で野中は徹底的な平和主義者であり社会的弱者の味方のスタンスを強く持ち、これも生い立ち故なのだと感じた。
     ダーティでありヒューマニストでもある。正反対の特性の間で揺らめく野中広務という人間が好きになった。

     

  • 普段ノンフィクションなんか読みつけない人間をぐいぐいひきつけるこの文章力はピカイチ。
    類稀なる力作だ。

  • イマドキ、野中さんですか?という感じだけれど
    これがどうして、とても面白い。野中さん自体は過去の人でもあるが、
    今、議会で跳梁跋扈している人の名前も多数。
    (特に小沢一郎の動きは中盤の見どころですね)
    (あと、小渕が想像以上にかわゆい)

    今読んでも、日本議会の流れ、についていくらかの視野を与えてくれる。

    時局上の問題だけでなく、
    この本はあるタイプの政治家についての示唆も行っており、
    野中のような媒介タイプの政治家の威力と限界を検証しているものとなっている。
    (とはいえ、そのような道筋でしか、彼は出自の問題故に政治家たりえなかっただろう)

    総じて、ネタとして面白く、かつ時期を過ぎても
    政治についての思考材料として十分耐用に足るものだと言える。

    ただ、正直に言えば最後の対談で
    「野中がこの本を不快に思いつつ、訴えれば勝てるだろうに訴えないことが、この本の内容を保証し、彼が一流であることを証だてる」
    という内容のことを言っているがこの内容は文章にして書くのは厭らしすぎる。

    この佐藤という男はおそらく魚住君より下品である。

    そして、最後に佐高君という先輩的な人物が
    解説という名前の要約を書いているが、しがらみというしがらみは
    議院などとは関係なく、社会のすみずみにあるということを証明している。

  • これは力作!
    政敵を葬るためには共産党も利用する、権力闘争とは何かがわかる本。部落差別の歴史もわかりやすく解説されている。

  • 政治家人生の後期(晩年?)しか知らなかったし、テレビを通しての印象としては権力を笠に着たたぬきジジイという印象だったのが、少し変わった。

    出自への同情ではなく、上り詰めるというあくなき執着は一般の社会人に置き換えれば「向上心」とも言えると思う。ただし、その手段が何でもあり、ポリシーも一貫してない、というところにやはりずるさ、汚さを感じてしまう。

    政治家としては基盤をもたない中フィクサー的役割を演じられたすごさと最終的にはよりどころがない故に足元ををすくわれて賞味期限が来てしまったというわかりやすい話だった。

    手法、目的の是非はあれば野中とか亀井とか古賀とかが暗躍しながら「推進力」と「実現力」があった時代の政治だったらいまの原発対応はどうなったのかはちょっと興味がある。

    そして、著者の魚住さんはノンフィクション作家としてはやはりピカイチだと思う。

  • 部落出身者なのに権力に食い込んだとうことぐらいしか知らなかったから、どんな人だったのかと思い読書。

    かなりのボリュームだったから途中で終了。

     部落を黙らせることができる政治家として、部落出身だった野中広務は頭角を現してきた。
    地方の主要産業は公共工事だと言われるが、企業献金の額と票の量によって公共事業を割り振るというあからさまな構図があり、それを当然としていた時代があったとうこと。
    政治的能力とは、結局は金の流れを作ることなんだと実感したしだい。
    そのやり方は泥臭くスマートじゃないけど、その根っこに勉強家で努力家という素質があったのだなと感心。
    被差別階級に対する親身な暖かいまなざしは、被差別部落出身であるという出生を利用し成り上がってきた野中からすれば、至極当然の姿なのかもしれない。
    権力の仕組みって普遍的なものなんだと勉強になりました。

  • 京都出身の政治家らしく差別と統治者としての政治権力等について書かれたルポ。議会制民主主義が絶対の制度ではないということがよくわかる。一線を退いた政治家ではあるが、かみそり後藤田が気になっていた昨今チェックしてみました。

  • 小渕政権の官房長官であり、自民党幹事長であったコワモテで老獪なイメージだった政治家野中広務。彼の出自について知ったのは、辛淑玉さんとの対談本である『差別と日本人』(角川oneテーマ21)で、その「いかにも老獪そうなニッポンの保守派政治家」といったイメージの一方、辛淑玉さんとの対談の中で語った、その人生を通しての差別との戦いに圧倒され、第四章は野中氏と辛淑玉さんの二人の言葉に、涙でページを繰る手も止まったガブ。今回、同書を貸した友人から、返礼のように(?)貸してもらったのが本書である。

    対談本とは異なり、本書はプロのジャーナリストが綿密な取材と、巧みな構成によって紡ぎ出した、いわば現代政治史ノンフィクション(講談社ノンフィクション賞受賞作)、野中広務の政治家としての来し方を描くと同時に、ガブが実際に日々ニュースで見聞していたはずの、当時の政治の舞台裏を見せてくれた同時代の政治ルポでもあり、冒頭の数ページから最後まで、読者を引きつけてやまない
    ノンフィクションの力作となっている。ここ数年取り替えひっかえ首相に就任した自民党総裁たちの誰よりも、日本の政治史にとって野中広務という政治家が残した足跡は大きく、私たち日本人に突きつけた「差別を生む構造」(それも古い時代そのままのものから、時代に合わせてバージョンアップしたものまで)をどうしたら解体していけるのか・・・という命題を考えさせられずにはいられない。

    この本に興味を持った方には、上記の『差別と日本人』もぜひ併せて読んでいただきたい。

  • 病気を理由に殆ど出勤せず、給料だけは貰っていた奈良県庁職員の問題の根は深い。これも部落差別の問題を抱えていて、そう簡単に解決出来る問題では無いような気がする。

    この根深い部落差別(融和)の子として出自をあきらかにしながら政治のトップにと上り詰めた政治家:野中広務を4年半の歳月をかけて追ったこの本は、重くそして深く人間差別の問題と絡めて読者に提示してくれる。

    本の後半では、ラスプーチンと言われた佐藤優氏(元ロシア外交専門家)との対談も面白い。解説は佐高信氏。読み応え十分!!

  • 2010.09.28 (81) 「差別と日本人」読了後、会社の帰りに下高井戸の啓文堂で購入。買って少し読んで読むのを中断して結構経ったが、再開してからは一気読み。別段差別については大きく語られておらず野中氏の評伝。面白いが田中角栄のようなスケールはなし。今の日本に政治家はいない。

  • 被差別部落で生まれてから、市議、県議、副知事、国会議員と成り上がり「影の総理」と言われるまでの野中広務の半生。

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