アフターダーク (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062755191

作品紹介・あらすじ

時計の針が深夜零時を指すほんの少し前、都会にあるファミレスで熱心に本を読んでいる女性がいた。フード付きパーカにブルージーンズという姿の彼女のもとに、ひとりの男性が近づいて声をかける。そして、同じ時刻、ある視線が、もう一人の若い女性をとらえる-。新しい小説世界に向かう、村上春樹の長編。

感想・レビュー・書評

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  • 20190807、五年越しの再再読。
    以下エンディングまでのネタバレ含む、注意。
    (過去二回のレビューはメモへ移動)




    顔のない男とは、結局「男性」そのものなのではないかと思う。
    白川は、一見、優秀なサラリーマンである。
    妻との交流も出来、仕事でも能力を発揮する。
    そんな白川の暴力性が、白日の元に晒されれば、きっと私たちは驚くのだと思う。

    よく挨拶してくれたけど、まさか。
    真面目な人だったので、仕事にストレスでも感じていたんでしょうか。
    と。

    そして白川は、日常的に暴力を振るっていたかは分からない。

    だから、顔のない男とは、白川だけを指すのではないのだと思った。
    高橋や、高橋の父、組織の男、コンビニの店員。
    暴力性を男性に喩え、ある日、ぽっかりと空いた深淵に足を取られた時、コンビニに置かれた電話さながら、システムは牙を剥く。

    それが、高橋と死刑判決を受けた男の共鳴であり、システムとしての法律に、高橋自身が関心を寄せるようになったのかもしれない。

    そして、根源的というのか、理不尽な悪としての暴力を受けるのが、喩えとしての女性だ。
    中国人の売春婦、そして浅井エリ。
    浅井エリの眠りの原因を高橋に求める読みは、せっかくの夜明けを損ねてしまいそうなので、個人的には取らない。

    ただ、エリは「お姫様であること」を脅迫的に求められた人物であり、その意味では男性的な暴力性の被害者だと言える。
    美しく品があり、それに見合った人生を送ることを両親からも期待されてゆく道。

    マリがそんな姉に距離を感じながら、「取り返しのつかないことをした」と最後に涙するのは、姉を置き去りにしたことを意味するのではないか。
    つまり、「姉が姫なら、妹は秀才であること」というレールを自分だけが脱し、中国という境界の外へ出て行けてしまったことなのかなと思う。

    マリは自分の家を離れ、闇の世界を通して、そういった象徴的な出来事や人物に触れていく。
    「私たち」はもう少し俯瞰的に、彼女をキッカケにした社会システムのようなものを見通していく。

    最後に、「思い出す」ことの大切さを別の本で読んだところなので、マリがエリのことを「思い出す」ことにも触れておきたい。

    『アフターダーク』の世界では、多くの出来事が起きるわけではない。
    けれど、マリがエリとの繋がりを「思い出す」、その一点に集約されているのだとすれば。
    エンディングで、マリがエリの布団に入り、「取り返しのつかないこと」に言及し、キスをして眠りにつくことは、決してバッドエンドではないように思う。というか、思いたいのだ。

    自分にとって、とても愛着のある一冊なので、随分勝手な考察になってしまった。
    長々と失礼しました。

  • 夜が明けていく雰囲気が伝わってきた。

  • 渋谷の一夜を遠隔から見つめる形で描写する、なんともジム・ジャームッシュ風な雰囲気で始まる物語は、ミステリー要素を少し含みながらも、氏の特徴を多分に孕んだ作品だった。

    まず、高橋という男の得体の知れない不気味さ。基本的に無害で人の好い青年を思わせながら、ところどころ違和感を覚える発言を繰り返す。そもそもの声の掛け方や、ジョージオーウェル風チキンサラダのクダリ、ラブホテルのオーナーとの関係など、浮遊感漂うキャラクター。バンドでセッションをやっているが、プロを目指すわけでもなく、法律の勉強をしている。その理由は裁判を傍聴した際、死刑判決の瞬間を目の前で見た後に霞ヶ関で地下鉄に乗る時どうしようもない気持ちになったからだとか。。。彼は好奇心をとことん深掘りしていくタイプのようで、友人の彼女だったエリとホテルへゆき、エリをあちらの世界に送り込んでいる。(おそらく)そして最後はマリへの急接近を図るもはぐらかされ、北京へ長文手紙を送るところで妥協する。

    一方ホテルの部屋ではマリの姉のエリが監禁されている。顔のない男による仕業であるが、特に暴力的な描写はなく、ただ美しい女としてのエリが意識を飛ばして眠っているだけだ。この顔のない男はまさに、中国人娼婦に暴力をふるった白川かのように描かれる。しかし、果たして白川なのかというと、物語の後半の流れからして合点がいかない。そうなると、高橋の暴力的な一面、すなわち、エリを損ねた髙橋の姿として捉えることができる。

    こちら側とあちら側、善と悪については、氏の作品で度々唱えられている要素ではあるが、
    高橋が、善悪の境目は強靭な壁ではなく、もたれかかるとすっとすり抜けてしまう程に脆弱なものだみたいなセリフはまさにその通りだろう。

    本人は悪意なく好奇心に従って動いている(すなわち性欲にだけ支配されて女を攻撃する人間とは異なる)だけで人を損ねるつもりはないと言いながら、実際にはエリを損ねてしまっている。善悪の境目が脆いということを感じている高橋ですら、そうである。すなわち我々も髙橋のような一面をどこかに内包しているのかも知れない。そう思わせてくる作品である。

  • ただの一夜の物語。一夜のうちにある、登場人物の感情の機微をつぶさに拾っていた。

    物語は夜が明けて終わりを迎える。
    その夜明けがマリに対してどのようなものであったかは、村上春樹の作品らしく克明には記述されない。ただ、物事が明るい方向へと向かっているとは分かる。

    視点の使い方や描写には毎度感嘆させられる。

    私もこんな含みを持った夜を送ってみたいものだ。

  • エリの存在は、マリの心を表してるのか。わたしたちは、読者目線?難しい。けど、不思議な世界観が心地良い。

  • ▼かなり以前に読んで、その時に紛れてしまって感想を書きそびれてしまい。今となってはかなり忘れてしまっていますが・・・。

    ▼覚えているのは、読み始めた瞬間は、何やらカフカじみた不条理小説かな?うーん、ユーモアの要素は少ないかな?ちょっと苦手かな?辛いかな?と感じたんです。ところが読み終えて、大満足の一冊だった。

    ▼とある少女の、都会の一晩の冒険。一方では、謎の場所で眠り続ける、少女の姉。大都会東京の深夜。デニーズ。ジャズ・ミュージシャン。そして事件が起こる。ラブホテルで中国人の売春婦が、客に酷い乱暴をされて怪我をした。客はそのまま去った。事件に巻き込まれる少女。個性的で魅力溢れるラブホテルの女性マネージャーと店員たち。

    ▼フィリップ・マーロウばりの具体的な事件が緊張感を孕む一方で、全然現実的ではない「眠り続ける姉」の案件が差し込まれる。このアツアツとヒヤヒヤの温度差がたまらない。そしてラストはなんだかとっても夜明け感があって(現実的に夜が明けるということもあるのですが)なんだか村上作品らしからぬ感動までが(褒めてます)。

    ▼元々が、ふっと考えると「一冊だけ未読の村上長編がある!」ということから読み始めたのです。そんなコレクターズ・マインドみたいな理由で読まれるのは本としてはベストな運命ではない訳ですが、まあしかし出会いというのは得てしてそんなものだったりしますね。結果、村上さんの長編の中でも「好きなベストスリー」に入る一冊。

    ・・・と言ってもその3つってなんなんだろうと考え出すと・・・「1Q84」「海辺のカフカ」「アフターダーク」? うーんでも「風の歌を聴け」は外せない気も。いや「スプートニク」も・・・「ワンダーランド」は? 「羊をめぐる」だって今再読したらかなり面白いのでは・・・「騎士団長」も中盤のワクワク感は凄かったし・・・。

    それぞれの読者にとってのベスト3があるでしょうねえ。

  • 村上春樹っぽさをあまり感じない、ちょっと変わった作品のように感じた。それでもあちら側とこちら側、そこの境界は曖昧だよねっていうどの作品にも顔を出す村上作品特有のものはある。
    カメラから見る視点(私達)はどういう意図があったのかちょっとわからなかった。

    街に、部屋に、陽の光が差し始める時間の描写は素敵だなと思った。

  • 文体、構成について相談した時に、参考として読むといいと貸してもらったこちらの本。
    村上春樹のニヒリズム漂う文体だからこそ、ある意味でとっかかりがなく、躓かずにスルスルと読んでいけます。
    こういったライトな読み方もできますし、ところどころのナンセンス(に一見みえる)な部分に意味や意図を見出す解釈的な読み方もできて、なるほど万人に愛される作家です。

    内容についてですが、僕は読んでいるうちに、またイェイツの詩を想起してしまいました…。

    A brand, or flaming breath.
    Comes to destroy
    All those antinomies
    Of day and night;

    「炬火(たいまつ)が、火を吐く息が
    現れて、昼と夜の
    あの背反を
    ことごとく抹殺する。」

    登場人物たちはみな、夜から抜け出せないでいる、あるいは自ら望んで夜に引きこもっているように感じました。
    何か超越的な存在が、昼と夜という二義性を破壊し、昼を遥か遠い存在にしてしまったかのように。

  • 夜中から夜明けまでの時間に起きた何か不思議な話。高橋、マリ、エリの関係が絶妙な距離感で描かれている。しかし、結局、白川はどうなったのか気になる。

  • 読み終わったものの、主題がはっきり分りませんでした。
    最後に解説があるかと思っていたのに、解説もありませんでした。
    インターネットで調べて、いろいろな感想や解説を読み、なんとなく分ったような分らないような・・・。
    他の作品を読めば、村上氏の言いたいことが分るのかな?
    ちょっと難しい本でした。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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