源氏物語 巻四 (講談社文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062757010

作品紹介・あらすじ

最後の女性・藤壷の尼宮が崩御。冷泉帝もついにその出生の秘密を知ってしまう。正室にと噂された朝顔の君には拒まれ、夕顔の忘れ形見・玉鬘を発見するが…。広大な六条の院に愛する女君たちを住まわせ、太政大臣となった源氏は栄耀栄華の限りを尽くす。

感想・レビュー・書評

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  •  平安時代の平均寿命を調べてみると、男性33歳、女性27歳くらいとのことですが、これを貴族に限定すると、それぞれ50歳、40歳くらいとなり、やはり、あらゆる面で恵まれていたのもあるのでしょうが、今と比較すると、とても短命で、その刹那に生きた姿には感慨深いものもありますよね。

     そして、巻四の源氏は、31~36歳までの人生を描いており、もう既に人生の半ば以上でありますが、まあ、何でしょうね。ここまで来ての、この体たらくに、最早何も言うことが無いというか、やはり、この作品は反面教師的意味合いが強いのか、貴族の驕り高ぶりを皮肉っているのか、どうしようもない性格の人間にも生きた証のようなものがあるのか、逆に、こんな奴はいないといったコメディとしての面白さなのか、色男故の悲劇を描いているのかは、分かりませんが、まあ、なるようになるんじゃないですかね。


    「薄雲(うすぐも)」
     初っ端から、「明石の君」とその姫君の別れの場面が、なんともやり切れなく、この後、しばらく母と会えなくなることを、まだ認識していない姫君の「お母ちゃまもお乗りなちゃい」には、胸が詰まる思いでいっぱいとなり、こんなことさせるなよと思ってしまうが、結果として、嫉妬に苦しむ「紫の上」に気を紛らわせる役割を与えるきっかけになりそうなのが、またなんとも皮肉的である。

     また、源氏にとっての大きな悲しみが、「藤壺の尼宮」の崩御であり、そのすぐ後に、例の秘め事を「冷泉帝」が知ることになるのは、話の展開を狙いすぎた感があるものの、既に太政大臣もお亡くなりになった状況で、源氏に再び暗雲が立ちこめる中、何故か、「前斎宮の女御」を口説き初める、困ったお心も発現し・・・ほら、女御が少しずつそっと奥の方へお引き取りになる姿を見て、察しろよ。

     しかも、彼の凄いところは、「こうした無理な恋に胸のふさがるような癖が、まだ残っていたのかと、我ながら思い知らされる」と、ちゃんと自己分析しているのに、それを抑えられない点にあり、更に、過去のあの過ちについて、「あれはまだ思慮の浅い若者の過ちとして、神仏もお許し下さったのだろう」と、堂々と言える姿には言葉もありません。はいはい。

    「朝顔(あさがお)」
     「朝顔の姫宮」の父、「式部卿の宮」がお亡くなりになり、その喪中のお見舞いを口実に、源氏は再度、朝顔の姫宮を口説きに通うが、それを隠している事に紫の上は本気で憎しみを燃やし、その思いは、「馴れてしまうのは、たしかに厭なことの多いものですわね」と辛辣で、以前はこんなこと言う人じゃ無かったのにと悲しく思うが、源氏はどこ吹く風で、女童たちと雪ころがしや雪の山作りを無心にしている姿には、却って、恐怖を感じさせるものがあったが、その報いを受けたかのように、彼の夢の中に現れた、ある女性の恨み言はまた恐ろしく、おそらくこれは、故桐壷院も交えて冥界で繰り広げられているのかと思うと、この現世と冥界の曖昧で緩い境界線こそが、この作品で最も恐ろしいものなのかもしれないと思い知った。

    「乙女(おとめ)」
     故「葵の上」と源氏の息子である「若君」がメインの話で、この若君に対して、源氏がいきなり高い位にせずに六位にしたことが、後々の悲しみを引き起こすこととなり、この源氏自身の価値観で子どもの事を決めつけるやり方には、普遍的な子育て問題にも通じるような、子どもの意志を反映させないものを感じさせられて笑えないものがあり、若君が好きになる「雲居の雁の姫君」の乳母に、「どんなに御立派なお方にしろ、せっかくの御結婚のお相手が六位風情ではねえ」と言われる始末で、そんな中でも、若君の御乳母の宰相の君の計らいで久々に会えた時の、若君の「恋しいと思って下さいますか」に対して、姫君がかすかにうなずく姿には、この作品を読んで初の正統派かと思わせるものがあったので、この後の、この作品特有の常道の展開にはがっかりさせられた。

    「玉鬘(たまかずら)」
     かつて源氏が恋した「夕顔」の娘「玉鬘の姫君」は、築紫で乳母の一家とひっそり暮らしていたが、ある日、そこに住む勢力のある武士から求婚されたことをきっかけに京へと旅立つのだが、そこで見られた、乳母の一家の主従関係の容赦の無さが印象的で、そこの長男は妻子を、妹は長年連れ添った夫を捨てての同行なのだから、その覚悟たるや凄いものがあったが、それに応えるように、かつて夕顔に仕えていて、今は紫の上に仕えている「右近」との劇的な再会も感動的な中、そのことを源氏に報告したときの彼の浅ましさには、ちょうど新たに造営した六条の院へ姫君を移すのを見ていた女房たちの、「厄介な骨董趣味だこと」が、誰よりもその勘の良さを発揮しており、なんとも侘しいものがあった。

    「初音(はつね)」
     新年早々、源氏が色々な女性を尋ね回った上、とある出来事で紫の上を怒らせたという、ごくごく、日常的ないつもの出来事。

    「胡蝶(こちょう)」
     六条の院で暮らすことになった、玉鬘の姫君は、その母親の良さを引き継いだ華やかな可愛らしさに、何人もの男が恋してしまう中、あの男も・・・「何とまあ、お節介な親心もあるものですこと」といった皮肉では済まされない、これは本当に怖いし、ここで次巻へ続くといった終わらせ方も、作者は、上手いところで終わらせたなと思っているのでしょうが、怖くて笑えません。もうここまで来ると常識を疑ってしまうが、元々、そんなものが備わっていないから、こうした歴史を積み重ねているのでしょうね。


     ちなみに、「初音」で登場した「男踏歌」の行事は、紫式部が執筆した、一条天皇の時代には既に無く、物語の時代設定がもう少し昔の『延喜・天暦の治』の頃であることを表しており、この言葉は、当時の摂政や関白を置かない、天皇を中心とした治世を、後世に理想化し称えたものだそうで、そうした素晴らしき時代に、この男ありといった面白さも考えていたのではないかと、思わずにはいられなくなりました。それにしても酷すぎるけどね。あるいは物語の中に、帝を積極的に登場させたかったのかもしれないけれど。

  •  巻四は「薄雲」「朝顔」「乙女」「玉鬘」「初音」「胡蝶」。この巻は男性の心理について「ふーん」、「えー」と考えさせられることが多かった。
     まずは、源氏の長男夕霧への態度(ほんとは次男ですが、冷泉帝の父親であることは秘密なので)。元服のとき、普通は源氏の息子くらい上流の子だと官四位を与えるそうなのだが、源氏は敢えて夕霧に官六位を与え、大学に入れる。将来のために、敢えて苦労させ、学問をさせたのだ。親の七光りの道ではなく、自立出来る道を与えるというのは素晴らしい。自分のようにチャラい男にしたくないというのも分かる。親心が嘘でないのも分かる。けどなー、夕霧は、六位というのが(服の色で分かるらしい)恥ずかしくて恥ずかしくて、禄に人前にも出られないんだよ。それに好きな子がいても相手の親から「官六位じゃあねえ…。四位になったら結婚考えてもいいけれどねえ。」と思われてしまうんだ。かわいそうに。
     それに、源氏は夕霧を極力二条の院の自分と紫の上のいる所には寄せ付けないようにしてるんだ。冷たい。あー、だけど自分は子供のころいつも桐壺帝の横にいて藤壺に会っていたため、間違いを犯してしまった。そのことが頭にあるというわけだな。
     もっと夕霧の心に寄り添って「頑張れ」とか言ってやればいいのに、自分は女の人のことにばかりかまけてるから、「父上は冷たい」と思われるんだな。
     それから男の本心といえば、花散里の君に対する源氏、夕霧親子の本心が面白い。
     夕霧の世話役に付けられた花散里に会った夕霧は
    「お顔立ちはそんなに綺麗な方ではないな。父上はこんな方でもお見捨てにならなかったのだ。父君はこの方をこんなご器量とご性質(柔和)と知った上で、几帳などを隔てて何やかやと紛らわして、顔を見ないように心がけていらっしゃるのもごもっともなことだ。」と失礼な感想。源氏は源氏で、
    「まだそれほど気にするほどではないけれど、かもじなども付けてつくろったらいいだろうに。他の男が見たら興ざめしそうなこの人をこうしてお世話しているのが私としては嬉しいし、満足なのだ。もしこの人が浮気な女たちと同じように、私を裏切り離れていってしまったらどうなっていたことか。」と。
    不器量でも優しくて安心感を与えてくれる女性とは古女房のように安らかに何年も連れ添えるものなのですね。
    この巻の最初に藤壺が亡くなり、その後でおしゃべりな僧が冷泉帝に出生の秘密を喋ってしまい、冷泉帝は動揺して、源氏に対して恐れ多いから退位しようかと思う。そんな冷泉帝の態度を見て、源氏は「知ってしまったのだな」と悟るが、そんなに源氏は動揺していないようだ。
     そんなことには構わず、六条に“明石の君”“梅壺の中宮”“花散里の君”“玉鬘”という四人の女性を住まわせる大ハーレムを建設する。絶好調。出家するんじゃなかったっけ?新年には二条のほうの女性と六条のほうの女性一人ひとりに似合った衣装をプレゼントする。どんな女性にも魅力があることを知っていって、一度関わった女性のことは決して忘れないのが源氏の美点らしい。
     それに対して、夕霧と雲井の雁ちゃんとの恋愛はなんとピュアなこと。幼なじみで両思い。だけど、雲井の雁ちゃんのお父さんの内大臣は夕霧が子供のころから雲井の雁と一緒に育った従兄弟であり、しかも官六位というのが許せなくて二人を引き離してしまう。こういう難のある恋愛こそ物語を面白くするよね。アオハルだよ。
     それに引き換え、源氏は玉鬘が本当は内大臣と夕霧の子供だということを世間に隠して自分が親のような顔をして、世話し、玉鬘に来た恋文への返事の仕方などについてもあれこれ手ほどきしていたのが、そのまま堪らなくなくなって…。かわいそうな玉鬘。
    源氏は悪い男よのう。

    • 地球っこさん
      Macomi55さん おはようございます♪

      『源氏物語』、もう4巻とは読むスピード早くないですかー!?
      それにレビューがとても的を得ていて...
      Macomi55さん おはようございます♪

      『源氏物語』、もう4巻とは読むスピード早くないですかー!?
      それにレビューがとても的を得ていてそれでいて面白くて。夕霧と源氏の父子関係なんてニヤリとしながら読んでしまいました。

      今年もお世話になりました。
      来年もどうぞよろしくお願いします(’-’*)♪
      2022/12/31
    • Macomi55さん
      地球っこさん
      速くないですよー。
      地球っこさんのほうが日本文学も海外文学も沢山読んでいらっしゃって、私は一生かかっても追いつけないと思います...
      地球っこさん
      速くないですよー。
      地球っこさんのほうが日本文学も海外文学も沢山読んでいらっしゃって、私は一生かかっても追いつけないと思います。それに韓国ドラマとかミーハーどころもちゃんと抑えられているのでリスペクトしてます。
      源氏物語、面白いですが、積読本も早く読みたいと思いながら読んでます。でも、この歳(源氏の女性ならみんな亡くなってる)になって、やっとエンジンかかったので、ここでブレーキかけたら生涯読みきれないかもしれないと思ってアクセル踏んでます。
      紫式部すごいですね。令和の時代まで面白いと思われるように計算出来てたのかな?と思ってしまいます。
      こちらこそ、今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
      2022/12/31
  • 薄雲・朝顔・乙女・玉鬘・初音の5帖が収録.全編を通して特段の盛り上がりがある訳でもなく,太政大臣となった光源氏の傍若無人さが淡々と描かれる.本文中の語り手が描写する源氏への評価がてんでバラバラなので,紫式部の意図や思惑が測りきれないが,少なくとも読んでいて自分を投影できない為人であることは確かである.平安と令和とで,これほどまでに人の価値観念が移ろいゆくものだとは,80年程度の寿命では理解のできない時間そのものの潜在力を目の当たりにする.

  • 光源氏ハーレムは華やか。源氏ジュニアには教育パパ。中年になっても衰えを知らず。

  • 六条の院の、あまりの広さと、ハーレムさ。しかし、ハーレムなんだけど、源氏は全ての女性を訪ねてある程度満足させなければならなあ、というハードミッションを与えられていて、これは厳しいと思う。これの非現実感は現代と平安時代の常識の違いによるものなのか、当時でもやっぱり非常識なのか。
    妻問婚の世の中だと、ありえるのかなあ…

  • 藤壺の宮が亡くなるというショッキングな事が起こる以外は、四季の美しさが散りばめられていていわゆる日常編的な読み応えだった。紫式部が源氏のことを理想の男性ではなくエゴと性の人として描写しているのが一貫していて良い。
    六条の院のジオラマ、めちゃくちゃ見たすぎる。

  • 《目次》
    ・「薄雲」
    ・「朝顔」
    ・「乙女」
    ・「玉鬘」
    ・「初音」
    ・「胡蝶」

  • 一日中臥せって、苦痛の抜けかけた朝ぼらけに、少し壁にもたれて起き上がり、残していた「源氏のしおり」を夜明けの薄明かりの中に読んだ。目に留まるのは、登場する女たちの短命さについて、である。
    漠然とした魂魄の頼り無さの中にあってこそ感じる、それを包み、繋ぎ留める事象の冷ややかさ、人の身体に宿る温もりと授受の情緒。これを欲する身体性が源氏物語に惹かれているのだなと、病みあがりの、五感の融解した中にあって実感する。
    平均寿命だけは、源典侍が引き上げているとは思う。
    それもまた情緒である。

  • 2007/05

  • この巻はなんといっても六条の院だろう。いったいこれは何なのか。一人の人間がそれだけのものを所有し、そこに住む人々の生活をまかなっていくことが可能なのか。具体的に源氏が働いている場面は描かれていないが、政はどこかでやっていたのだろうか。収入源はいまでいうところの税金なのだろうか。まわりの人々は、その生活ぶりを見てなんとも思わないのだろうか。時代背景が分かっていないので、不思議に感じることばかりだ。そして、夕顔の娘であるところの玉鬘の姫君との関係。実の娘として引き取っておきながら、すっとすり寄ってからだを合わせる場面。姫君の不快感。上手に描かれていると思う。どうやら、結局は源氏を受け入れていきそうだけれど。ところで最初に紫の上にすり寄ったときも嫌悪感を示されていたと思うのだが、いつの間にか、普通の男女関係になって、嫉妬心まで呼び起こす。いったいぜんたいこの男の魅力はどこにあるのか。それと、容姿は良くないが、気持ちが安らぐということで近くに住まわせている花散里の君、映画だと誰が演じるのかなあ。興味深い。

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著者プロフィール

1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で女流文学賞、92年『花に問え』で谷崎純一郎賞、11年『風景』で泉鏡花賞を受賞。2006年、文化勲章を受章。2021年11月、逝去。

「2022年 『瀬戸内寂聴 初期自選エッセイ 美麗ケース入りセット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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