カーテンコール (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062757164

作品紹介・あらすじ

かつて有望なプロデューサーを葬り去った「森下家の沈黙」の再演にあたって、家出娘のマナコ役に抜擢された赤坂絢子。最後の第三場にしか登場しない難しい役に、気持ちは作者の寺脇滋有へと向かう。舞台初日は好意的に迎えられたものの演技に悩む絢子は、深夜、滋有の家に電話をかけて…。読売文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 演劇界を舞台に繰り広げられるドラマ。たまたまこれを入手できたので読んでみた。初めて読む黒井千次さん。

    振り返ると出だしの部分がよい。ぼんやりと少しずつ状況がわかってくる文章。一文一文の文章レベルでの完成度が高い作家、という印象を持った。ただ、分量的に少し多いかなとも思った。もう少し短くしてもいいのでは? これは好みの問題かもしれない。

    伊井直行さんの『会社員とは何者か』を先に読んでいたこともあって、伊井さんの著作でこの作品は触れられていなかったにも関わらず、そこに書いてあった内容が少し頭をよぎりながらページをめくっていた。

    登場人物の絢子は、小説中で「マナコ」という役名を与えられ、現実世界の「絢子」と劇中の「マナコ」をめぐって、脚本家である滋有との間にそれぞれの思いが交わされていく。演劇、もっと言うと作るのに多くの人が必要なもの(映画とかもそうかもしれない)の制作途上では、いわゆる会社員のお勤めと部分的に同じような質の問題が発生することがあるのではないだろうか。この小説中で一つ例を出すと「この人をいつ、このポジションへつければよいか」という問題。会社人間もだんだん出世して、より多くの人を管理するポジションや、より高い技量を求められるポジションへと登っていくけれど、そのタイミングと、そのアサインのジャッジをする人、という問題が出てくる。「カーテンコール」の中では、絢子にマナコ役をやらせるかどうか、という逡巡が関係者の中にある。マナコ役は難易度が高い役なのである。昔同じ脚本が上演された時に、マナコを演じた人がその後、演劇人としては駄目になっていったという苦い経験がその逡巡のもとになっている。

    あるポジションに対する候補が複数いたりするとジャッジする際に、単純に数量的なものでは推し量ることができなくなってしまう。思いきってやらせてみる、ということも時には必要なので、一種の賭けのような感じで、ある人を抜擢することもあるだろう。また、そんな人間臭い要素に無理やりロジックをかぶせて、もっともらしい体裁を整える、という形でしかジャッジを作れないこともあると思う。絢子と滋有は結局不倫の関係に陥っていき、滋有の判断に揺らぎを与えている。案外、会社とかあるいはスポーツのレギュラーメンバーを決める時でもそうかもしれないけれど、泥臭い要素を完全に切り離すことは難しい。また、その泥臭さはぱっと見、昼ドラ的ともいえるかもしれないけれど(実際「カーテンコール」は滋有夫婦のW不倫になっていて、筋だけ見ると昼ドラ風ともいえる)、昼ドラ的にぶったぎるには少々ややこしい要素で本当はできているのだろう。「カーテンコール」を読んでいて、そんな気がした。でもあんまりこれは「カーテンコール」に対する感想ではないかな。

    ラストがちょっとあっけないんですけどね。話の構造から予想できるとは言え、こうなの? うーん…という感じ。しかし、その部分も文章はすごくいいのです。
    ちょっと違うやつも読んでみたい。『群棲』とかがいいのだろうか。

  • 福岡、下関などを舞台とした作品です。

  • 劇作家の滋有は昔手掛けた「森下家の沈黙」の再演を依頼される。
    物語の要となるマナコ役を演じる絢子は
    役作りをきっかけとして滋有に惹かれていく。
    妻帯者であり、また新たな作品を執筆中の滋有は
    男としても作家としても絢子に対して複雑な思いを抱く。

    お芝居が好きな方にはいいんじゃないかと。
    主語がころころ変わるからよく置いてかれます。
    せっかくだから「森下家の沈黙」も読みたいですね。
    作中作って気になってしかたがないです。

  • 作家と役者がなんやかんや。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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