FUTON (講談社文庫)

著者 :
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本棚登録 : 410
感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062757188

作品紹介・あらすじ

『蒲団』読む人、書く人、生きた人。百年という時間

日系の学生エミを追いかけて、東京で行われた学会に出席した花袋研究家のデイブ・マッコーリー。エミの祖父の店「ラブウェイ・鶉町店」で待ち伏せするうちに、曾祖父のウメキチを介護する画家のイズミと知り合う。彼女はウメキチの体験を絵にできるのか。近代日本の百年を凝縮した、ユーモア溢れる長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 中島京子さんの書く人や東京が魅力的なのは、デビュー作からなんだなあ。
    田山花袋の蒲団からの発想で、ここまで想像するとは凄すぎる。

  • 田山花袋の「布団」いつだったか、もう40年くらい前に読んでると思うのだが、ほとんど記憶なし。本作はその「布団」をリスペクトして書かれた長編小説。

    現代を生きるアメリカ人日本文学研究者、寿命尽きんとしている90代老人の戦中時代、新解釈「布団のうちなおし」に出てくる本家「布団」の主人公でもある幸雄。この3人の中年男が実に情けない。その情けなさが腹立たしい。

    腹立たしい思いは、おそらく今その歳になっている俺だからこそ。自分の中に彼ら的な情けなさを飼っているのが分かるからなんやけど…。

    なんぼ自分が若いつもりでも、最近の若モンより立派な男やと勘違いしてても、実は全然大したことないって客観的に認めないと…。

    若い女性、いやどの世代の異性でも、いやいやどこのだれであっても、勘違い甚だしいおっさんの姿は、見苦しくて滑稽で哀れみを感じるもんなんだということ。

    俺も哀れな中年じじい。せめて勘違いだけは少なめにしときたいもんである。

  • 電子書籍、巻末特典本家花袋の『蒲団』付。なんとお得な。とりあえず中島さんの方から読む。ウメキチはじめ個性的な男性盛りだくさん。どれも妻の他に恋心を抱く女性を持つ。ウメキチの場合は遥か昔の記憶のため、それが現なのか夢なのか誰も判断ができないのが一興。デイヴ教授の蒲団アレンジ、妻視点からの夫の酔狂。子を三人もなしている故、どっしりしていて極めて正論で清々しい。中年夫がプラトニックラブで終った女弟子の蒲団で見悶えた後に妻がとった行動。これぞ本妻というものか。天晴。男は新しい玩具を求めるばかりで。しょーもな。笑

  • 花袋の『蒲団』では脇役として影を潜めていた主人公の妻視点で『蒲団』の打ち直しを行うアメリカ人日本文学研究者とその周辺の人々の物語。
    誰が語るかによって世界がこんなにも変わってしまうというのがすごくおもしろい。

    主人公のひとり語りで進む『蒲団』で存在していたたくさんの壁、例えば年齢、性別、価値観など、そういう隔たりに橋がかけられたような印象を受けた。

    『蒲団』で主人公が抱いていた人生に対する圧倒的なさみしさを思い出す。

    そのさみしさは『蒲団』を打ち直す研究者にもおじいさんにも絵描きにも共通していて、誰か何かがその空白を埋めてくれるんじゃないか、自分が誰かのさみしさに寄り添えるんじゃないか、どこかにきっとそれはあるはずなのにいるはずなのにと探し回るけれどそれはなかなか見つからず、見つかったと喜んだ途端それは幻に変わり、皆、途方にくれているようだった。

    物語のそのあとに『蒲団』の夫婦が思いっきりぶつかりあえてたらいいなー。

  • タイトルからもおわかりのように、田山花袋の〝蒲団〟を本歌取りした長編小説です。
    感想を簡潔に述べるとすれば〝おもしろかったぁぁぁ〟のひと言に尽きます。
    主人公はアメリカの大学で教鞭をふるう日本文学研究者。女性を巡る彼の私生活と、彼が〝蒲団の打ち直し〟と題して、女性視点で焼き直して書き上げた小説。そして、東京の下町に暮す百歳になろうとする老人とその周辺の人々・・・これら3つの物語が交錯しながら、ストーリーは展開していきます。
    ただ面白いというのではなく、人が生きていく上で背負わなければならない重荷、その過程で深く刻み込まれる心の傷痕などもしっかり描かれていて、断片的に語られる老人の過去などは、胸に突き刺さるものがありますよ。
    日本文学史に残る花袋の〝蒲団〟ですが、そのタイトルだけ知っていて読んだことないという人でも、中島京子さんの〝FUTON〟には、すんなり入り込めると思います。また、花袋の〝蒲団〟を理解する上でも、〝蒲団の打ち直し〟は、良いサブテキストになるのではないでしょうか?
    デビュー作とは思えぬほどの面白さでしたぁ。

  • なんとも近代的な名前をつけてもらったものだ。
    美穂。
    美しい、実り。

    原作では名前さえ与えられなかった女性が本作では主人公の座を射止め、物語を語りはじめた。
    田山花袋の『蒲団』を題材にとって瑞々しい女たちの姿が動き始める。

    自分の夫が奔放な女弟子に翻弄される姿を悔しい思いで見つめつつ
    生活が荒れないようにあたりに目を配る主婦の目。
    華やかな女弟子の姿に母としての日常に追われ「女」を捨てている、と目が覚める瞬間。
    その気づきが豊かな実りをもたらすのだろう。
    「女」なだけでは身につけられない母の豊かさ。
    永遠の男の子である夫の目には気づかれないかもしれないが、女は何食わぬ顔でと変化を遂げるのだ。
    女弟子には到達できない豊かさであるかもしれない。
    ふてぶてしさと豊穣。
    明治の女の強さと平成の女の肝の太さ。
    男は幻惑させられる。
    なぜなら彼は女の一面しか見ないから。
    一面にしか執着できないから。

  • 直木賞作家のデビュー作って事で、前知識まったくナシで読んでみた。

    FUTONってのは、田山花袋の「蒲団」に由来する。
    内容も、田山花袋の「蒲団」とかなり関連するので、そちらを知らないと根回しが効かない。
    私は田山花袋を読んだという記憶がない。
    だからかどうか解らないが、ちっとも面白くなかった。

    まあ、私は女流作家の書く女性ってのは、あまり好きじゃないからなぁ。

    私のレビューなんて、なんの役にも立たないので、ネットで書き込まれたレビューの方が良いでしょ。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18358

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA81636876

  • 中島京子さんの「小さいおうち」から読み始めて4作目読了。田山花袋の「蒲団」を読んでいなかったので、「futon」の奥さん側の視点から入ってしまって、後から付録の「蒲団」を読んで納得。奥さん側の視点の方がより詳細な感じがした。明治時代の人も、昭和の人も、21世紀の人も、女に弱い(!?)中年男性の心を浮き彫りにした作品。いつの世も変わらぬ恋の話。

  • p116
    いろんな人に声をかけてる。その声を聞きとるかどうかが、まず最初の関門になる。同じ声を聞いても、それを形にする人間によって、どんな形になるのかはまったく違う。

    別のテクストを暗示しながら進む文章に私はひかれてしまうらしい。タイトルでもしかしてとは思ったけど、田山花袋『布団』のスピンオフみたいな作中作。あと布団のストーリーをなぞるような恋愛をしているアメリカ人教授と、花袋の時代を生きていた老人。この微妙な接点を作り込まれた設定が良い。
    小説として面白いかはオススメできる自信がないけど、技巧的だと思う。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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