江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062758260

作品紹介・あらすじ

トラウマ?トリコ? 衝撃のデビュー作!

引きこもりの少女・江利子は、拾った犬に「絶対」と名付けた。「絶対に自分の味方」となることを求め、その犬の世話をする江利子。ところが、電車の横転事故の跡を見たとき、事件が起きた(表題作)。人間の深奥に潜む、悪意、ユーモア、想像力を、鋭い感性で描いた3作品。文学界に衝撃を与えた鮮烈なるデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • 本谷有希子を最初に「目にした」のは『フリクリ』のEDだから2000年の4月だが、この時点ではまだ認識していなかった。2011年頃に『乱暴と待機』、2012年に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の映画版をそれぞれ観て、本谷有希子の名前を初めて認識した。フリクリのあの女の子がそうだったのか!と。映画が面白かったので『腑抜けども…』と、この『江利子と絶対』の新品同様の古本をブックオフで100円で買ったのが、ログによると2014年らしい。本谷さんが芥川賞を獲る前だが、ずっと積読していた。

    本谷さんは私のひとつ年下なので同世代。だから見てきたもの食ってきたもの、感覚は近いのかもしれない……となんとなく思っていた。インタビューをいくつか読んだが、面白い。
    この人にはたぶん、文学的素養がほとんどないと思う。なくて、さあ小説を書こうとなったらどうするか。山から新しいカードを引く(本を読む)か、持っているカードで勝負するかのいずれか。そして手持ちのカードは、文学作品ではなかった……ということなのではと思った。
    普通、インタビューなどではそういうことを隠したり、カッコつけると思うが、本谷有希子は正直に話す。「薦められて読んだ」「読んでみたがわからなかった」など。そして、「カッコつけ」つまり自意識の部分も、ものすごく自覚していると思う(長濱ねるとの対談など)。この人の師匠格である松尾スズキも、やはり自意識の人だと思う。(松尾スズキは庵野秀明とお互いの作品によく出演していて、シン仮面ライダーにも出るそう。)

    タイトルに『本谷有希子文学大全集』とついているのもそういうことで、逆説的に「これは文学ではない、文学かどうかわからない」という自覚があるからじゃないかと思う。なので、この本を読んで「これは文学作品ではない」と思う人がいても、それは当然のことだよなと、私は思う。
    そして、「これは文学作品である」「これはそうではない」と決めつけることは、その人の中になにか「文学的なものはこう」という固定観念があるということで、それは文学を硬直化させると思う。ただの小説なのだが、文学の懐はそんなに狭いものではないのではと、私は考える。

    ・『江利子と絶対』
    メンヘラひきこもり少女もの。この時期(2003年頃)、私も病んでいて、ニュースで事件や事故を見るたびに落ち込んでいたから、気持ちはよくわかる(浅野いにおの『ソラニン』だったかにも似た描写があった)。モデルは日比谷線の脱線事故かもしれない。この2年後、福知山線の脱線事故が起こる。メンヘラものだが、青春小説なので読後感は爽やか。

    ・『生垣の女』
    漫画そのもの。本人もそう語っていたし、ちょいちょい口にしているのは岡田あーみんの影響。なるほど!!と腑に落ちた。『乱暴と待機』の映画で私が引っかかったのは、バリーン!!ガシャーン!!となるところで、私の中のあー民の部分と呼応したからか……と。私は高校生の頃に友達(もちろん全員男子)と岡田あーみんごっこをしていた。
    あーみん以外に連想したのは、望月峯太郎の『座敷女』や、古谷実の漫画。望月峯太郎、古谷実、すぎむらしんいちなどはヤンマガ勢。この小説は、単にグロいもの、俗悪なものを描写してぶつけたかったのかなと思う。私はグロ描写が苦手なゆえに、ゾワッとして逆に面白かったが、笑えはしなかった。

    この2作、安部公房の『なわ』と三島由紀夫の『午後の曳航』の後にたまたま読んだが、共通点がある。本谷有希子は妙に安部公房に似ているなあと思ったのだが、特に影響を受けたフシはなさそうだ。

    ・『暗狩』
    ホラー小説。ソリッドシチュエーションスリラー。乙一『ZOO』の翌年?ホラー小説は初めて読むので(『Another』ってホラーだっけ?)けっこう怖かったが、最も凄惨な部分は描写されず。残念。しかしホラーというよりも、極限状態、生死のはざまで少年が意思決定をする部分が重要かと。エヴァの影響が大きいと思う。

    あとがきより。
    「当時は純文学とエンターテイメントの違いすらはっきり区別できず「小説ってこんな感じ?」と手探りで、劇団の戯曲と並行して書いた作品達です。」「三作とも見事に作風がバラバラなのに自分でも笑った」
    ↑だよねーと思った。三作の作風がバラバラなのは、方向性や可能性を模索してたからじゃないかなと。
    本谷有希子が20歳ぐらいの頃は、「サブカルの小説ってあまりなかった」と言っていた。まあサブカルの捉え方にもよると思うけど、本谷さんが言う感じの意味だと大槻ケンヂとかか?そこに自分がスポッとハマったんじゃないかなと思う。

  • 表題作の『江利子と絶対』は犬が可哀そうな話で、その次の『生垣の女』は猫が可哀そうな話だった。
    三つ目の話、『暗狩(くらがり)』について書く。

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    小学四年生の僕が、同級生の友人といじめっこの六年生と一緒にイカレたお兄さんの家に入っていく話。人が何人も死ぬ。ホラー。

    本谷さんの作品では変人が活躍することが多いけど、今回活躍した香山は変人の範疇を超えてサイコな殺人鬼だったし、とてもとても残酷な展開。
    『江利子と絶対』と『生垣の女』が笑える話(犬と猫は可哀そう)だったから、突然のホラーな展開に驚かされた。
    強い衝撃は心臓によくない。無防備だった。危うく自分も死ぬところだった。

  • 本谷有希子さんの本は大好きで、

    この本に関しては何年も前に購入した後、
    積読状態で未読のままでした。

    今日、突然読みたくなり、
    読了。

    本谷有希子さん節炸裂。
    メンヘラ系の突き抜け加減が半端なく、
    日常を忘れどっぷり異空間へ連れてかれました。
    懐かしいこの感じ。
    やっぱり本谷さんの本はいいなー。

    でも、時代かな。
    動物虐待のシーンがあり。

    実話ではないし、私自身としては小説として楽しめたのですが、こんな内容今の時代だったらSNSで凄い叩かれそうだなーって思いました。実際感想を読んでたら、その事にふれていた方がいてやっぱりなと思いました。

    今は小説に貧困やLGBTQとか社会課題とか盛り込んだ内容が増えているけど、そんな事おかまいなしに、何にも気にせず、終始ぶっとんだ内容が最後まで繰り広げられてて、久々にいろんな事忘れて本に没頭しスカッとしました。

    とは言っても、
    人に面白かったよ!とオススメできるかというと…
    叩かれそうなので。

    自分だけの感想としては大変楽しめたので、
    ⭐︎4をつけたいと思いました。 

  • 異類婚姻譚を読了していたのでデビュー作へ立ち返ってみたがホラー調が強くて雰囲気が少し違った。
    表題の『江利子と絶対』は今の作風に近い気もする。病みすぎて突拍子もない江利子を平然と受け流す姉の精神が強すぎて好き。

  • 星1つも付けたくない。

    動物虐待の描写がある時点で私には合いませんでした。
    物語を綴る上でその描写が必要ならば、殺人も虐待もフィクションとして受け止められるけれど、この作品の場合、虐待を文体で笑い話というかギャグにしようとしている。それが物凄く不快。
    作者はこれが面白いって本気で思って書いてたのか?
    そしてこれを面白いという人の気持ちが全く理解できない。

  • おかしな人々を描いているはずなのに、どこか共感できる。それはどの人も歪みながら捻れながら狂いながら生きることに一生懸命だからなのだろう。表題作が一番好きかな。とても好きな作品。

  • 映画「下妻物語」のレビューで中島監督とクドカンが苦手だということを書いた。
    書いた後で色々考えた結果、私が二人の作品が苦手なのは、作品に登場するズレてる、痛い、と言われそうな人物を笑っている観客を、二人は更に外から冷笑しているような感じを受けるからだと思った。
    笑っているけれど、本当にお前は彼らを笑えるような人間なのか?彼らよりましだと言い切れるのか?と皮肉られているような気がするのだ。
    これはあくまで私の感触なので被害妄想甚だしいと言われればすみませんでしたという他ないのだけれど。

    今回、この短編集を読み始めてしばらくは、やはりそのような感じを受けた。
    しかし、読み進めるうちに印象が変わった。
    確かに作者は「本当にお前達はこの作品の人間達を笑えるのか?」と問い掛けているとは思う。
    ただ、彼女は遠くから嘲笑しているのではない。
    読者の胸倉をつかんで、「ほんとに笑えんのか!」と詰め寄っている。
    正直なところ不快な小説ばかりであり、ぞっとする場面、吐き気のする場面は多い。
    しかし、不思議と読んで良かったと思うのだ。
    それは、この小説には作者の沸騰しそうなほど熱い血が脈々と流れているからに違いない。

  • 表題の「江利子と絶対」(の江利子)は狂おしいくらいに憎めないのですが、残りの2編「生垣の女」「暗狩」は生理的に無理でした。

    ネコはチンしちゃダメ!

  • これを「文学」を呼ぶことに抵抗を感じる。文章も酷いし、それに目をつぶったとしても、だからなんなんだこれは?とあきれながらなんとか読み通した。

  • 勢いとブラックさがいっぱいの3つの短編が収録。
    あとがきで本人も言っているけど、「本谷有希子文学大全集」という
    副題をつけてしまう図太さがすごい。

    「江利子と絶対」
    生きづらさを抱えたひきこもりの女の子が主人公で
    まさに本谷有希子の原点という感じ。
    自分なりに頑張っているのを認めてほしい江利子の気持ちは
    うっすらわかるような気もする。

    「生垣の女」
    これが1番好き。
    どたばたしていて毒があって、岡田あーみんの漫画のような雰囲気。
    アキ子はケチャップとマスタードで何をしようとしてたんだか(笑)

    「暗狩」
    小学生の男の子が主人公で、しかもホラーというのは
    本谷有希子にしては珍しい。でも途中からラストが予想できてしまった。
    「暗狩(くらがり)」というタイトルがかっこいい。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本谷有希子の作品

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