- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062758352
作品紹介・あらすじ
亡くなった大君のことを思い切れないまま、薫の君は、今上帝の女二の宮と結婚。中の君は匂宮によって、京・二条の院に迎えられ懐妊するが、姉宮の面影を求める薫の横恋慕に悩み、異母妹・浮舟を大君の身代わりにと勧める。しかし、可憐な浮舟に匂宮も心惹かれはじめ…。思うにまかせぬ運命の不思議。人の心と運命に、男も女も翻弄される第九巻。
感想・レビュー・書評
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匂宮はとうとう宇治の中の君を二条の院まで連れてきた。車から中の君を抱きおろし、それはそれは愛くしんだ。
だけど、前から急かされていた夕霧の六の君との結婚も執り行われ、思っていたより魅力的だった六の君の虜にもなった匂宮は中の君に少し寂しい思いをさせることになってしまった。
「やはり思ったとおりになってしまった。元々私などが来る所ではなかった。宇治に帰りたい。」と悩む中の君の相談に乗りながら、薫は中の君への思いを抑えることが出来ない。最愛の大君を亡くしてしまったからには似ている妹の中の君を妻にしておくべきだった。と中の君を匂宮に譲ってしまったことを後悔していたのだった。
薫も帝に請われて女二の宮と結婚した。それも世間から羨まれる結婚であったが、薫は心ここにあらず。亡き大君のことばかりが心を占め、亡き八の宮と大君と中の君のために宇治の邸を寺院に改築することで日々追われている。
そんな折、中の君から聞いたこと。実は中の君を遥々常陸の国から訪ねてきた異母妹がいる。その人は姉の大君に大変似ているとのこと。聞けば、八の宮氏が女房に産ませた娘らしいが八の宮氏は認定せず、その母娘とは別れ、母親は田舎の常陸の守の妻となり、娘は常陸の守の元で継娘として不遇な扱いを受けてきたとのこと。なんという女たちの悲しい運命。八の宮は人徳のある方だと思っていたけれど、やはり男性のご多分に漏れず、女性を蔑み、外聞の悪い女性関係は隠される方だったのだ。
チラッとみたその大君似の妹に心を寄せる薫は八の宮に仕えていた弁の尼君の取次で(彼女は薫の実父の乳母の娘で薫に出生の秘密を話した人でもある)、その常陸の姫君に会い、そのまま車に載せて、宇治に向かう。車の中で薫はしっかりと姫君を抱きしめ、はなやかにさしこんできた朝日がうすものの細長を透けさせる。
シンデレラストーリー。まるで薫は白馬の王子様じゃん。
思えば薫も数奇な運命に生まれついている。そんな運命に翻弄された二人が前世からの宿縁で?出会うべくして出会った?。さあこれから宇治で二人はどうなっていくことやら。どうせ、匂宮との三角関係になるのでしょうが。
いよいよ次は最終巻です。
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巻八で、宇治十帖は、これまでとテイストの異なる、現代ドラマのような親しみやすさと書いたが、やはり『源氏物語は、源氏物語であった』と、本書を読み終えて、しみじみと感じさせられた点には、まるで、紫式部のしたり顔が脳裏に浮かぶようで、人間には良いところもダメなところも共存しているのが当たり前なんだよなと、改めて、私のイメージしていた現代ドラマって、夢物語だったのだと痛感させられた。
「早蕨(さわらび)」
父も姉も現世より去っていった、「中の君」の喪失感は、「匂宮」からの希望で、これまで住み続けた、宇治から京へと引っ越さねばならない現状も重なることで、より漠然とした重い不安を抱くようになるが(宇治で引き籠もっていたかのような姫君が、いきなり華やかな京の都の一員になる心境は、シンデレラとはまた異なるのであろう)、そこから現代のような、いっそ死んでしまいたいといった気持ちには至らず、『それでもこの世に生きる寿命は定められていますので、死にたくても死ねないのが、中の君には情けなくてならない』といった思いに、却って、はっとさせられたのは、限られた命だからこそ、自ら幕を下ろすような事はせず、その時まで生きていってこそ、人としてのあるべき姿だというような概念に、自分自身の為といったものを飛び越えた、ある真理に到達しうるかのような達観ぶりを感じられたからだと思う。
また、それとは別に、『花の色や鳥の鳴き声をその折々に楽しみながら、少しは気も晴れやかに生きていくことも出来たのに』という思いには、今も昔も変わらぬ、自然と共に生きることの幸せを共感出来たようで、嬉しいものがあった。
それから、現代ドラマの終焉は、おそらくこの帖かと思われて、匂宮の祖父を思い出させる、あの御性分には今後の伏線を思わせるものがあったし、「薫」の『この世はすべてむなしいと悟ることです。それが、この世に生きていくことなのです』には、今後の彼自身の信念と相反するものを感じさせられたりと、まるで、これまでの彼らが猫被ってたような印象を抱かせるが、それこそ人間の本性を如実に表しているのだと私には感じられ、よく職場などで、「それは、さっき言っていたことと矛盾しているじゃないか」ということに、妙に固執する人に会ったりすると、人間は何でもかんでも理屈付けたりせず、時には意味も無いような矛盾した言動だって平気でする生き物なんだということを理解していないようで、つくづく嫌な気分になる。
「宿木(やどりぎ)」
中の君の姉、「大君」が忘れられない薫は、今上帝の姫君「女二の宮」との結婚が迫っても気乗りせずにいる中、「夕霧の右大臣」は匂宮に、自分の娘「六の君」をやや強引に勧めたら、意外と匂宮が気に入ってしまい、ここでまたしても中の君が、匂宮から結婚も知らされず一人寝の寂しさを慣らされたりと、その情けない有り様が強調されるが、そこから見事に転換してみせ、人間の持つ、まさに無常な変わり身の速さを痛感させられた、紫式部の描写には、苦笑いしながらも肯かざるをえない生々しさが凄すぎて、詳細は控えるが、それにしても薫・・・でも、これは責められないよ。そして、彼と対照性を為した匂宮のネチネチした嫉妬深さには、自分もやっているくせに、他人に対しては何故そうなるのかと、はっきり言って、うんざりさせられるものがあったが、これも人間の本性なのだろうか(いやいや)。
そして、この帖、最大の読み所は、ついに登場した、大君にそっくりな、中の君の異母妹、「浮舟」の登場であるが、ここでも、これまで好感度の高かった父「八の宮」のイメージが急降下した点に、やはり人間の奥深さを感じられたりと、物語を追っていく毎に顕わとされる別の顔の見せ方が、紫式部はおそらく、とても上手いのだと思う。
「東屋(あずまや)」
浮舟の出生を見くびって、決定していた婚約を破棄された事に(まあ、大した男では無かったが)怒りを覚えた、浮舟の母「中将の君」は、彼女を連れて、中の君のところへ匿ってもらう事になるが、ここで久々に怖い出来事が起こり・・・あーあ、やっぱりこんな展開がまだあるのかと、ガッカリしかけたところで面白かったのが、浮舟の乳母の逞しさであり、姫君を守るために敢然と不埒な輩に立ち向かうが、またその相手の対応、『手を思いきりおつねりになられた』が、なんとも可愛らしくて。子どもの喧嘩か。
でも、実際、平安時代にそんな場面が起こっているのを想像すると、思わず笑ってしまい、何となくここだけコメディタッチのノリを感じたが、それでも、その場面と彼女の心理描写の対照性には、また身に沁みるものがあり、これはやはり分かっていて、こういう描き方をしているのだろうと、また紫式部の凄さが垣間見えたなと思っていたら、最後の最後に思わず、「薫ーーっ!!」と叫びたくなる、まさかの展開が。というか、これはある意味、あの人を思い出させる皮肉も感じられそうだけど、それでも私は、今回の彼の行動について、断然支持したい。「そのままどこまでもいったれー!」と応援したくなるし、これこそ、ここにきて、ようやく訪れた『全ての恋する人に贈る最高のラブストーリー』なのか? 源氏物語は、いよいよ最終巻へ。 -
人気の宇治十帖との事。宇治の二人の女子が平安のイケメンスパダリの二人の男子をここまで魅了する理由を読み取れない。恋愛小説としては、独占、嫉妬、執着、セフレらしきものまで出てきて趣きがある。
薫様の執着、匂様の多情などは遺伝子の表現かな。 -
薫と匂宮、そして中の君と浮舟(本文にはこの名前は出て来なかったように思うが)この4人を取り巻く恋愛事情が本巻の主題というところか。光源氏から見てきて、わりと自由に恋愛しているようにも見えるし、性的にも奔放な様子が描かれているように思う。けれど結婚ということになると、顔を見たこともないような異性と、親の心積もりだけで取り決められてしまうようでもある。何かしっくりいかない。まあ、そういう時代だったと言えばそれまでだけれど。そんな中、匂宮がひょんなことから初めて見かけた浮舟に手を出そうとしたり、それを大してきつくとがめようともせず、また悪い癖が出たと太っ腹な対応の中の君。はたまた、中の君のからだに、薫のかおりが残っていると、嫉妬心をおこす匂宮。ぐずぐずして、なかなか行動に移せない薫。これらの人間模様が楽しい。いまもむかしもそういう点は変わらない。そして、浮舟を宇治にまで連れ去る薫の行動。女性に対して、こうも積極的になれたのは初めてのことではないだろうか。ちょっと清々しくもある。さて最後の巻で、どういう展開になるのやら。楽しみだ。
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大君、中の君の2姉妹の父・八の宮の寂しい晩年の状況は今に通じるものを感じます。失意の世の儚さは今も同じです。そして2人の重要な人物、薫の君と匂宮の対照はますます鮮やかで、禁欲的で慎重居士の薫の君と快楽的で精力あふれる匂宮の二人が印象的です。その薫の君の中の君への想いが捨てられず、何ども匂宮へ譲ったことを後悔する心持が出てくることはいかにも女々しいように思いますが、御簾の中で大胆に行動し、その香りのゆえに匂宮に疑われてしまうという描写からは、柏木もそうであったように、やはり男の本性を紫式部が冷徹に描いているように思われます。
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宇治の八の宮の姫君たちの物語がつづく。
亡き大君(おおいきみ)のことが忘れられず、悲しみに沈む薫の君。
妹である中の君(なかのきみ)は匂宮の妻となるが、その面影が大君と見まがうほどに似てきたため、薫は中の君を自分のものにすればよかったと後悔する。
2人の姫君たちには異腹の妹がいて、名を浮船という(巻九にはまだその名は出てこない)。
薫は、大君に似ているというその人に会ってみたいと思う。
ところが、ふと浮船の姿を見かけた匂宮がそのまま彼女を自分のものにしようとしてしまう(ここでは危機一髪で難を逃れた)。
亡き人のことをずっと一途に想っている薫と、美しい女性には抜け目なく言い寄っていく匂宮。
対極的な2人が浮船をめぐってどんなドラマを繰り広げるのか、最終巻が楽しみだ。
この巻九には「早蕨」「宿木」「東屋」の3帖が収められている。
おもしろいと思ったのは、この時代の人たちがよく音楽やトークで夜を明かしていること。
「カラオケでオール!」的なノリは1000年前からあったってことなんだなあ。
寂聴さんの「源氏のしおり」が本当にわかりやすい。 -
早蕨・宿木・東屋の3帖が収録.中の君を触媒に,薫と匂宮の関係性を掘り下げ,浮舟の物語への布石を打つ.この辺りまで来ると,歴史は繰り返され,平安宮中の閉鎖性が前面に出るだけで,ドラマティックな新規性は感じられない.
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浮舟さんの登場。
主役が中の君。後半になり浮舟が登場し、物語は佳境に。 -
《目次》
・「早蕨」
・「宿木」
・「東屋」