ガール (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062762434

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  • 癖の強い40代の男性と一緒に仕事をしていた時、全然うまくやれなくて、その当時60代だった女性の上司に相談したら「ダメよ、男の人は立てなくっちゃ」と、言われたのだ。
    つまり、彼女の中では、男の人を立てなかったわたしが悪いということだ。
    このことで、しばらくもやもやしていた。
    酒量、同僚とする愚痴の量がどんどん増えていった。
    でも、未だに思う。この時、周りがみんなわたしの愚痴を聞いていてよかった。
    同じような出来事が頻発し、関係機関からも総スカンを食らった彼女はそのポジションを引退せざるを得なくなった。また、癖の強い40代の男性にされていたことは、モラハラかつパワハラであると、周囲からの進言で理解したのである。
    そんな過去の出来事を思い出した。
    あの時、あんな環境じゃなかったら、もう少し仕事続けられてたよなぁ…であるとか、でも一方で、おかしいことをおかしいって一緒に言いながら支え合った仲間と未だに繋がってるのは、あの環境だったからだよなぁ、とも思わされる。

    人が生きていく限り、男だろうが女だろうが、働く。
    わたしはできるだけ、男女問わずフラットに働きたい。でもそれって結構難しい。いくらこっちがフラットに振る舞ったところで、相手はこっちを下に見てくることがあるからだ。
    そんな時、舐められているな、とすぐに分かる。そこで怯まずに立ち向かいたいところだけれど、わたしにはそこで、ぐ、とこらえる力がない。
    だから、この作品の中に出てくるガール達には、ものすごい勇気を貰ったのだ。
    わたしは今それなりに働きやすくさせてもらっているけれど、それは年齢故の周りの配慮なのだろう。まだまだ20代の彼ら彼女らに、気を遣わせてしまっている。だからわたしの役割は、いつもくだらないことで笑いあって話しやすい空気を作ったり、こちらから仕事の負担感を確認してみたり、心身を気にかけたり、そんなようなことをすることだ、と思っている。

    作品の中のガールたちは、本当にみんなかっこいい!
    年上の男性部下に毅然と立ち向かったり、
    マンション買えるほど稼いで、(P127)「今、自分のファースト・プライオリティがはっきりとわかった。自分を偽らないことだ。これに優先するものは何もない」と、自分の信念を持っていたり、
    ガールでいることに誇りを持って、(P176)「きっとみんな焦っているし、人生の半分はブルーだよ。既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても」と、様々な生き方を尊重できたり、
    シングルマザーなのに子どもを盾にせず働いていたり。

    この作品が定義する「ガール」。
    わたしは紛れもなく、そこを抜け出せていない。
    童顔と自由を利用して、いつまでも20代の仮面を被って生きている。
    新卒から大手企業で働く友人は、このまま結婚の機会がないのならば、マンションを買おうかと本気で悩んでいる。
    バリバリ働いていた友人も、いつもの間にか子育てに奔走している。

    最後の章「ひと回り」では、今の自分の立ち位置に気付かされる。
    P293「容子自身の気持ちを言えば、結婚で生活を変えたくなかったからだ。仕事も自由も恋愛も、ひとつとして失いたくなかった。34になった今は、ここまで来て妥協したくないのと、そろそろ結婚しないと一生独身かもしれないという不安とが半々だ。その決断が下せないから、日常に流されている」
    P302「要するに、モラトリアムだ」

    ほんとそう。誰かといるより一人でいた方がずっと楽。だけど結婚は面倒。でも一生独身!と言えるほど強くはない。歳を重ねればそれだけパートナー探しも難航する。だとするならば今しかないんじゃないか、いや、でも…
    こんなことを言っている間にどんどん歳をとっていく。

    この作品、初出が2006年で著者は男性だ。
    作品が出版された頃と今とでは、働いている女性の環境は異なっていたと思う。今となっては普通のこととなっている、女性が社会で働くということ。けれど、出版当時の平成18年(こう書くとすっごく前に感じる令和3年なう)は、女性が働くということに対して、もっと軽んじられていたのではないだろうか。この作品に背中を押してもらった女性はすごく多かっただろうし、背中を押された強さも、今とはまた違っていたのかもしれない。
    また、この圧倒的なまでの女性目線とその描写は、どこで手に入れたんだろう!というくらいのもので、解説の言葉を借りるならば「ファッション描写が秀逸」なのである。確かに、「男性作家の女子ファッション描写というのは、何というか、絶妙に外れていたのだ。はっきり言ってダサい」。
    主人公をイメージしながら読んでいく際に、ファッションというのはその主人公の輪郭をつくってくれる。例えば、ショートボブの女の子が、ミニスカートなのかワイドパンツなのかで、その輪郭は大きく変わってくる。
    あと、P279「ただ同性にはわかる。この手の女は、結構計算している。だいいち媚びたような上目遣いが気に食わない」。
    というこの、男ウケすると思っている女子のあざとさ。女性に嫌われがちな、あざとい女子の分析もまた秀逸である。
    お見事!

    結局わたしは40歳になってもガールなおばさんでいたいし、80歳になってもガールなおばあちゃんでいたいのである。
    そして、笑う時に手とか机とか隣にいる人をバンバン叩いちゃうから、これからは口元に手をあててクスクスって笑おうかなと思いました。

  • 「女は三界に家無し」という古い言葉がある
    幼い時は親に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従い、どこにも自分の意のままになる落ち着ける場所がないということだ

    女性の社会進出で女性の地位が向上しても、やはりいろんな束縛や偏見やに苦しめられるのは女性なのか
    ◯◯適齢期なんて、そもそも女性にしか使われないのでは
    結婚適齢期、出産適齢期・・・何といろんな縛りの中で女性は生きていかざるをえないのか

    しかし、ここに登場する女性たち、とても逞しく力強く
    強かに生きている
    男性に言いなりになんてなっていない
    やっちゃえ、やっちゃえ!と拍手喝采したくなった
    楽しい!おもしろい!

    『ガール』の中にこんな一節がある

    「きっとみんな焦っているし、人生の半分はブルーだよ
    既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても」

    「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる」

    『ワーキング・マザー』の中にはこんな一節も
    「女同士は合わせ鏡だ。自分が彼女だったかもしれないし、彼女が自分だったかもしれない。そう思えば、やさしくなれる」

    要は、無いものねだり、『隣の芝生は青い』
    自分が選んだ道を最善と信じて、生きていくしかないのかもしれない

    この本を読まれた男性諸氏が
    「女性は大変だね」の言葉だけで、片付けては欲しくない気がする
    男性にも責任の一端はあるような・・・

    『ヒロくん』に出てきた武田聖子の夫博樹のような、
    この前に読んだ「家族のヒミツ」の『虫歯とピアニスト』に出てきた孝明のような男性がもっともっともっと増えてくれればいいのになあと思う

    それにしても奥田英朗さん、どうしてこんなに女性心理が分かるんですか?
    面白すぎなんですけど・・・

  • 面白かったー!
    なんでこんなに女性視点でも上手に描けるのか、すごすぎるわぁ。
    膝がキレイだと褒めるだとか、ファッション的なところも女性をよく分かってる。しぐさとかも。もちろん内面も。
    帯にもあったけど「きっとみんな焦ってるし、人生の半分はブルーだよ。既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても。」これもすっごい胸に刺さる。でもスッと落ちる。
    ヒロくんも理解あってかっこいいしなぁー

  •  30代でそれぞれの立場になった女性たちの5つのお話が収録されています。

    ◯ヒロくん
     そこそこの収入と気概を持つ女性が、職場での潜
     在意識に近いような男尊女卑と戦うお話。
     腹が煮えくりかえるような思いと、これ以上この
     人に話しても永遠に話のステージが合わないんだ
     ろうな、と諦観せざるを得ないやるせなさ。言い
     たいことを言ってくれた主人公と私も泣いて抱き
     あいたくなりました。ヒロくん!オアシス!ずっ
     と君はそのままでいてくれ!
     
    ◯マンション
     突然一目惚れのマンションを購入したという友人
     と、その話を聞いて俄然焦り、自分もマンション
     購入を検討する話。
     親しい友人が突然以前の発言と真逆のことをして
     嬉しそうにしていたら、女ならそれがどれだけ焦
     燥させられるかわかるはずです。『女の友は、同
     じレベルでいることで保たれている。』痛いとこ
     ろを突いてきます‥。

    ◯ガール
     派手な女子が多い職場でいつまでガールでいら
     れるのか、と38歳にしてキャピキャピする先輩
     を見て憂う話。
     今の時代、自分の好きなものを身につけようとい
     う風潮が強い一方で、それは他人からの評価に晒
     され続けています。自分が何度、これでいいと思
     ってもやっぱり周りの視線を拾ってしまう。確実
     にやってくるこの問題を、将来私はどう解決する
     のでしょうか‥。

    ◯ワーキング・マザー
     シングルマザーとして子育てと仕事を両立させた
     いものの、子育て中という権利を振りがしてしま
     うお話。
     この子育て中権利、子育て未経験でも知ってる、
     と思いました。ちやほやされるためのその権利を
     誰もが一度は使ったことがあるのではないかと思
     います。
     
    ◯ひと回り
     美しい新人の研修を担当することになり、ひと回
     り違う事を意識しつつもやきもきするお話。
     女の思惑バトルに笑えます。どれも具体的にどん
     な子がどうするのか想像できるほどです笑。上司
     のセクハラまがいな言葉の裏にこんな経緯がある
     と思えば、少ししょうがないな、と割り切れるか
     もしれません。

    どうかドラマ化してほしいです!
    登場人物たちほど強気になったり、ドラマの影響で社会の意識が急激に変化することがなくても。ドラマを観てガールはみんな一緒に恥ずかしくなったり、明日に向けて美味い酒が飲めるのではないでしょうか。

  • 働く30代女性の短編集。冒頭からぐっと掴んで、心を何処かへ飛ばしてくれる。ちょっと疲れていても、頁を開く気持ちにさせる。読後はすっきり。澱んだモヤモヤが少し晴れた気持ちに。愉しかった。

    こねくり回した表現や、押しつけがましい作者のメッセージなどを感じることなく、登場人物が自然に動いて、話す様は無理なく、そこには巧みな筆致があるからだと思う。

    特に女性たちが身に着ける衣服やアクセサリー等のとても細やかな描写によって、その女性の雰囲気や価値観の輪郭を浮きだたせる技巧に驚き。なるほど、すでに映像化されている。

    初出が2006年とのことなので、時代はもう少し変わっているかもしれないが、30代の女性たちが昇進、男女格差、結婚・出産、マンション購入、子育てとキャリアの両立、そして何よりも女性同士の内なる闘いに悩み、道を切り開いていく様子が心地よい。

    「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる」本文177頁より。

    女性作家が描く働く女性ものよりも、爽快かつリアリティを感じた。奥田さんの作品をもっと読みたい。
    旅先本にぴったりかな。

  • 三十代の働く女性を主人公にした短編集。表題作『ガール』の一説に「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、違う道があったのではと思えてくる」という言葉が出てくる。そうそう!ここ日本では、働いても家庭に入っても、子供がいてもいなくてもほかの女性と比べられていろいろ言われて、不安になることがある。でも何をしていても胸張っていこう!そう思える一冊だった。

    ちなみに、ここまで女性をうまく書ける作者、奥田英朗さんっていくつだ?とふと思ったので、そばにいた父に生まれ年を聞いたらなんと同い年だった。わお。

  • リアル!働く30代のガールたち。独身貴族、シングルマザー、などいろいろな立場のガールたち。

    強くあれ、ガール。
    いつまでもガール!
    立場は違っても、女同士は合わせ鏡。いい言葉だ…
    後書きがもよかった。

  • 良すぎ〜〜〜。

    働く女が主人公の短編が5話、全部良い。
    起承転結がはっきりしてて読みやすい。
    毎話、ラスト3ページで心臓がバクバク鳴る。
    面白い。


    あ〜〜〜
    なんで女は仕事頑張るだけじゃ褒められないんだろうね。
    仕事に精を出せば「行き遅れ」と呼ばれ、彼氏を作れば「どうせ結婚して辞めるんだろ」と囁かれる。男なら「仕事熱心」「甲斐性がある」みたいな感じなのにね。しょうもねーわ。

    どう転んでもムカつく事だらけの毎日を生き抜く女たちの話を、なんでおじさん(奥田英朗)が書けるんだよ。すごいな。

    働く女はみんな偉い。

  • 女は合わせ鏡。男前がガール

  • 面白かった〜。
    女性の、複雑な気持ちの動き。結婚、恋愛、仕事、周りと比べたり、年齢を気にしたり、女性の悩みはつきないのです!

    男性には分かるまい!と思っていましたが、奥田さんはよく理解されていてそれをすごく上手に表現してくれている…!
    文章も読みやすくてあっという間に完読しました(^^)

著者プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。近著に『罪の轍』。

「2021年 『邪魔(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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