一瞬の風になれ 第三部 -ドン- (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062764087

作品紹介・あらすじ

いよいよ始まる。最後の学年、最後の戦いが。100m、県2位の連と4位の俺。「問題児」でもある新人生も加わった。部長として短距離走者として、春高初の400mリレーでのインターハイ出場を目指す。「1本、1本、走るだけだ。全力で」。最高の走りで、最高のバトンをしよう-。白熱の完結編。

感想・レビュー・書評

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  • スポーツはどうしても才能というものが実力を左右する。天性のカンやバネ。それは追い越そうとしても追い越せない「差」だ。でも、実力はそうでも勝負の行方は、また別の要素が加わる。試合の流れ、思わぬアクシデント、そしてなによりも日頃の鍛錬。

    ひとつの大会は、たいていはもう一つ上の大会の予選を兼ねていて、それを勝ち進めば高校生ならば最後に一番大きな大会がやってくる。インターハイ。いくら同じ部のメンバーに才能のあるヤツが居ても、県内には、ブロックには、もっと才能のあるヤツがいる。うちのエースも大海に出ればちょっと強いだけの男に過ぎない。でも、何故か3年のうちに体力がついてきて、3年時に頂点の可能性が見えてくる。練習時はみんながライバルだ。部の雰囲気は良くなり、3年の試合は記憶に残る試合ができるだろう。

    エースだけじゃない。高校生から始めたのに、いつの間か6年選手を凌駕するヤツ。最後の試合に負けて泣くヤツ。いつもヘラヘラしていて、モテて、それでもそれでも部活に欠かせないヤツ。そんな様々なメンバーが、最後に記憶に残る試合をする。

    ごめんなさい。
    これは長い前振りです。
    本書のことをひと言も書いてなくて、
    実は私の高校の柔道部の思い出を書きました。
    でも書いてビックリしたのは、
    ちょっと意識はしましたが、
    ほとんど本書の内容と同じなんです。
    神谷新ニと一ノ瀬連。
    体力系努力家高校生から始めたの神谷と、
    天才肌で本来の数字が出始めた一ノ瀬。
    ニヤニヤしながら、いつも新ニと連を支えた根岸と
    ハードル準決で転倒し泣いた五島。
    問題児から次期エースに成長する鍵山。
    なんだ、同じじゃないか。

    「ハイッ」
    桃内の声。振った腕を後ろに伸ばす。全力で走りながら。バトンの感触。握った。つかんだ。しっかりつかんだ。俺の手にバトンがある。鍵山からつながってきた春高のバトンが。勝った!俺たちは俺たちのリレーをやれた。勝った。あらゆるプレッシャーに、ミスの可能性に、俺たちのあらゆる弱点に。勝ったぞ、俺たちは。(415p)

    今日は、俺の人生で、決して忘れることのない1日となるだろう。これから陸上を続けていって、いや、いずれやめてしまうさらにその先の日々にも、何かあるたびに、この日を振り返って、新たな一歩を踏み出せるに違いない。(424p)

  • 陸上大会での大トリ、リレー。
    絶対どんな場所でも、全員で盛り上がれるんですよ。そう、幼稚園の運動会でも。町内運動会でも。言わずもがな、オリンピックでも。

    この本も、最後はインターハイをかけた4継。
    4人でバトンを繋ぐリレー。段々強くなっていく部としての、チームとしての、個人個人との絆。もう私自身も、読みながら陸上部の一員になってる。それに加えて、常に苦悩してきた主人公神谷新ニの目覚ましい成長。
    これはもう涙なしには読めないでしょー!!

    この本にはきちんとモデルがいて、その人達のインタビューが巻末に載っているのですが、皆さんこの本に出てくる人のように、とてもスカッとしていて面白くていい人たちだ!本そのままだ!とっても爽やかな気持ちになれました。

    …で、読み終わってしばらくして気付いたんですけど、新ニと谷口さんの恋の行方はどうなったのかしら~(*´艸`)フフフッ♡

  • 気分爽快!

    たかが部活、されど部活。皆でつかみ取ろうとするなかで、いろんなドラマがあり、仲間の大切さを知る。自分の未熟さがもどかしく、友の存在に感謝する。

    「光る走路」 くうっーー、カッコよかったねー。
    とにかくバトンだけは、、、手汗がハンパなかった。

    一生忘れる事はない高校時代に、タイムスリップさせてくれた素敵な一冊でした。

  • “一瞬の風になった”と思いました。
    100mの決勝。10秒ちょっとの時間。
    とても躍動感のある文章に、本当にトラックで大会を観戦したように興奮して、幸福でした。

    ラストは、大会はあと1日残した状態で終わるのですが、200mの決勝を観たかった。もし続きが描かれるなら、佐藤さんは誰を勝たすのか。気になります。めちゃめちゃ。

    朝井リョウさんが言ってたラスト1行も、私は正直あと1日が描かれると思って読み進めていたので、その1行と正直思わなくて、「えっ?終わり?」と、軽くショックを受けたのですが、それを踏まえてもう一度ラスト1行を味わいました。

    気になったセリフをいくつか。

    新二を指導している三輪先生に恩師が、
    「高い目標を立ててやれ。引っ張りあげてやれ。尻を押してやれ。それが指導者だ。不可能を可能にしてやれ。夢を持て。お前が1番大きな夢を持て」

    恋愛禁止の部活内で、新二が気持ちの折り合いのつけ方に迷っていた時、同じくチームメイトが、好きな女子が大会で負けて泣いている時の立ち振る舞いを見て
    「色々な気持ちがある。色々な人へ向かう気持ちがある。相手に差し出す気持ちがある。隠して見せない気持ちがある。相手に届こうと届くまいと、人に見えようと見えまいと、思う気持ちはかけがえがない。重い。美しい。俺は俺の思いを抱えていればいい。今はそれでいい。それだけでいい。」

    400×4リレーで、「関東に行こう」と言った新二の失敗で勝ち進めなかった時
    「俺は言葉について考えていた。(略)自分の気持ちをできるだけ相手に伝えたいと思う。自分が何か言うことで、何かを変えられると信じている。(略)何か言葉を口にする前に、自分のすることをとことんまで見つめたいと思う。自分のできること、しなければならないこと。「関東に行こう」と言った俺の言葉にカケラも嘘はなかった。だけど全身全霊をかけた重い言葉にならなかった。もうこんなことはしたくない。
     人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。1人だけではできない。だけど、自分が走るその時は、まったく1人きりだ。誰も助けてくれない。助けられない。誰も替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと見つめないといけない。俺は、俺をもっと見つめないといけない。そこは言葉のない世界なんだ−−−たぶん」

    生きていく上でも引っかかるようなセリフが沢山ありました。

    特に若い子に読んで欲しい。

    良い読書体験が出来ました。読んでる間、チームメイトになってまるで一緒に陸上をしているように、成長を見守る親になったように。

  • 「かけっこしよう」もうこのセリフだけで泣きそうだ。

    母校の陸上部がモデルで遠ざけていた本書...青春を思い出す心の準備と勇気が必要だった。
    創立50周年の今年、読むのにちょうど良い機会が到来。

    押谷新ニは、兄と同じサッカーをやってきた。
    天才的なサッカーセンスの兄に、劣等感を抱き続けてきた新ニ。
    家族の希望するサッカー強豪校への進学を敢えて辞め、公立高校へ進学する。
    そして、俊足を生かし、幼馴染の連と陸上部へ入部したのだ。
    天才的なスプリンター連の走りに憧れ、切磋琢磨していく。

    新二の一人称で描かれる文体は、新鮮で高校生男子の軽やかさをよく表している。
    とにかくキラキラ眩しい★
    友情と若さと青春に溢れて、もう戻れないあの頃の自分に出会えた。
    ラストも良かったなぁ〜。みんな大好きだ♡

    母校の名前を謝辞で目にし、また胸が熱くなった。感動の青春小説に間違えはなかった!

  • 面白かった!三部作を一日一冊、三日で読んでしまった。
    自分の学生時代と重なるからか、様々な場面で共感してしまう。ちなみに私はサッカー部^_^
    陸上部に入部してから山あり谷ありで成長する主人公。でもそれを支える仲間と成長を促すライバルの存在あってこそ。
    個人競技に見えても自分だけで頑張ってるんじゃないと改めて気付かされた。日常生活も一緒ですね。
    ぜひ一度手に取っていただきたい本です。オススメ!

  • 最後最終学年。読み終わりました。
    3作品とも、とても素晴らしい作品でした。

    兄の怪我から得たもの。学年が上がるごとに成長する姿。心身ともに、これほどまで成長するのかと感動しました。
    県大会のマイルの決勝、泣けてきました。南関東の100と4継の決勝では鳥肌が立ちました。
    自分が走っているような錯覚になりましたね。その競技場にいるような感覚に。
    新二の座右の銘として「一つひとつ」というのがありました。いいですね。
    私も「一つひとつ」頑張っていこうと思います。

    今度は、駅伝物語の額賀澪さんの書いた「タスキメシ」に挑戦したいです。高校時代の作品、大学時代の作品、そして社会人と3冊が出てるようです。
    楽しみです♪

  • いやあ、よかった! 
    手に汗握るとはこのことか
    インターハイ予選の南関東大会
    応援に来た先輩たちが手縫いの春高カラーのブルーの鉢巻を手渡す場面では、涙が込み上げてきた
    そして、4継の決勝場面では、鳥肌が立った

    新二が実況中継しているかのようにレース前からレース中の心情や、様子を短い言葉で語るので、こちらまで緊張が高まり一緒に走っているかのような気になった

    欲張る、頑張る、闘魂などにとんと無縁の一ノ瀬連が欲を見せ出した
    100mだけでなく200mにも。仙波だけでなく新二をもライバルとし、負けたくないと公言
    こうなれば、春高にとって、怖いもの無しだ

    新二が連をここまで引っ張り、連が新二をここまで伸ばしたのだろう

    性格問題ありの1年の鍵山だったが、徐々に心を開き、
    メンバーの4人の絆が深まる。いや4人ではない、補欠の根岸と後藤の6人の絆
    一人ひとりの走りを4人みんなで感じる。バトンを直接つなぐのは二人だけど、いつも4人を意識する。人と人との繋がりに飽和状態なんてないのかもしれないという

    総体に行くためだけでなく、タイムを出すためだけでなく鷲谷と戦うためだけでなく、何より俺たち4人でチームを組めたことのために走りたいと誓う新二

    日本のお家芸とも言われる見事なバトンパス。
    リオオリンピックの日本代表チーム、山縣・飯塚・桐生ケンブリッジ飛鳥のリレーを思い浮かべながら読んでいた

    リレーの素晴らしさを改めて教えてもらった気がする

    久しぶりに胸が沸き立つワクワク感を楽しんだ
    文句なしの⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎!

  • どうしてリレーって早く走れるんですかね。
    バトンをもらう人の思い、ただただ一瞬でも早くバトンを渡したい思い。
    そんな単純な事ではなく、長い時間をかけて一層一層積み上げた筋肉と、何度も失敗して得た技術、そして簡単ではなかったここまでの道。様々な事が合わさって自分のレーンだけ光って見える集中力。
    ただ走っているだけなのに、知れば知るほど面白い陸上が描かれている。

  • 主人公の語り口が個人的には読みづらかったが、ストーリーは文句無しに感動出来た。
    その後、谷口さんとはどうなっているのかは気になるところ。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。1989年、「サマータイムで」月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で98年、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞を受賞。ほかの著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』日本代表リレーチームを描くノンフィクション『夏から夏へ』などがある。http://www009.upp.sonet.ne.jp/umigarasuto/

「2009年 『一瞬の風になれ 第三部 -ドン-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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